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うらめしちゃんはうらめしい!  作者: 花山 花
存在しないおばけ屋敷の仕掛け

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6. おばけが苦手な幽霊


 うん、まぁ、そうなんじゃないかなとはちょっと思ってた。

 暗いところは怖いし、人がいないところも苦手だし、墓場とか廃墟とか正直昼でも近寄りがたい。


 でもそれは『嫌だけど頑張れば我慢できる』レベルの話だ。

 気づいたらスプラッタ幽霊になって、暗い夜の山中にある元高校に強制放置食らったおかげで、嫌でも耐性が上がったからそのレベルで済んでたわけで。


 だから、まぁ、油断してたっていうか、過剰評価してたっていうか、舐めてたっていうか。

 ……うん。


『まぁ幽霊状態に慣れた今こんな感じなんだから、生きてたときはもっとだめに決まってるよねっていう』


 生きていたときの記憶はない。

 ないが、生きていたときに見て、触れて、知っただろうものは覚えてる。


 たとえば大好きなスフレチーズケーキ。

 食べた記憶は思い出せないけれど、濃厚なチーズの味としゅわっと口で溶けるあの感覚を覚えている。

 たとえばいつも手にあった携帯電話。

 どんな機種だったか、どんなアプリを入れてたかも覚えてないのに、癖のようにポケットをまさぐっては、慣れた重さと大きさがないことに寂しさを感じる。

 たとえば大嫌いな水泳の授業。

 どんなプールで泳いだかどころか、自分が泳げるかどうかも覚えてないのに、塩素臭い水をがぶ飲みする上、蛙と一緒に泳ぐことになるから嫌いという確固たる拒絶感がある。


 覚えはなくても、それがどういったものかはしっかりばっちり覚えている。


 で。

 おばけ屋敷がどういったものか、思い浮かべようとしても妙にふわふわしている。

 おばけで脅かす怖いところ、という漠然とした認識だけで、これといった確かなイメージがまるで出てこないのだ。


 加えて怖い話やオカルト話を想像したときに、思い浮かぶ話がほとんどない。

 有名な話って何があったっけ、と思うと、お岩さんとかお菊さん、あとメリーさんや花子さんみたいな都市伝説しか出てこない。

 それか階段で足を掴む手とか、駅のホームで突き落としてくる手とか、タクシーに乗り込んでくる幽霊とか、具体的な話がない、なんかよく聞くようなという曖昧な話だけが浮かぶ。


 うん。

 まぁ薄々、わかってはいた。

 そうだろうなと、思ってる部分はあった。


『ホラー苦手で生前からそういうの徹底的に避けた生活してたんだろうなー!

 おばけとか幽霊とか心霊とか怖いって感情ばっか浮かんで他に浮かぶ知識がまるでないもん!』


 いやでもこんなスプラッタおばけに自分がなって、しかもちょっと慣れてきたとなれば、ホラー耐性できたと判断してもおかしくなくない!?

 あくまで慣れたのは自分の姿と夜一人でいることだけで、ホラー耐性自体は欠片もできてなかったっぽいけど!!


 世間一般的には、あの恐ろしいおばけ屋敷が八歳の子供が一人で行けるレベルらしい。


 あの後、中に入っていくお客さんを八組ほど見送ったが、誰も彼も女子三人組と同じように「きゃあ」とか「うわ」とか悲鳴と呼ぶのもおこがましい気の抜けた声でしか驚かず、のんびり歩いて出てくる始末。


『……これが世間では子供だまし……私が最恐の怪談になろうと思ったら、このレベルどころかこれ以上を追求する必要があるのか……』


 つまりもっともっと怖いものを知って、慣れて、落とし込み、それを超える演出を考える必要があると。


 ……生前の私が「無理くない?」って言ってる気がする。

 そしてスプラッタ幽霊の私も「そこまではちょっと……」と腰が引けている。


 今、そう思うってことは、覚えてないけど七不思議やってたときもそうだったんだろう。

 あの太陽建設の二人が私の七不思議を「落ちが弱くて怖くない」と評したのも妥当だったのかも……。


『……いや! そんなことないはず!! だって私工事中断させるような恐ろしい女子高生の幽霊って噂になったじゃん!!

 最恐の怪談になれるポテンシャルは持ってるはず! いや、絶対ある!!』


 正直、怖いの好きってわけじゃないし、むしろ嫌いだし、別に自分からそんな嫌いなものならなくてもよくない?  嫌いなものに自分から突っ込まなきゃいけないような状況でもなくない? と逃げ腰の思考がないわけじゃない。


 でも一度最恐の怪談になると誓ったのだ。

 あとなんだかんだこうして幽霊になったのだから、ここはやはりてっぺんを目指すべきと、私の心の世紀末覇者が意見している。

 幽霊と言えば怪談。

 有名な怪談といえばお岩さん、お菊さん。

 ならお岩さん、お菊さんを超える怪談となれば幽霊のてっぺんをとったと言えるだろう!


『あと目的もなくふらふらするのも、このまま成仏するのもなんか嫌だし。

 せめて一花咲かせてから死にた――いやもう死んでるから成仏したいし!』


 ぐっと拳を握りしめる。

 そうと決まればやることは一つ。


 修行だ!!


『まずはもっとホラー耐性つけるとこから!!』


 幽霊として大成する!

 すなわち最恐の怪談になるということ!

 最恐の怪談になるには、それ相応の怖い話にならなきゃいけない。

 怖い話になるには、人が怖がるものをきちんと理解して、演出しなきゃいけない。

 じゃ、当然今流行りの怖い話や、みんなが怖がる話をちゃんと知ってなきゃ話にならない。


 つまり……他の怖い話やおばけやオカルトや心霊を見聞きし、批評できるだけの精神力が必要となるってことだ!!


 よくよく考えたら川辺の道で誰も怖がってくれなかったのも、今の流行から外してしまったせいだったのかもしれない。いや、その可能性が高い!

 なんだかんだ死んでから時間経ってるだろうし、私の中にある怖い話って下手したら何十年前の流行って可能性もあるんだよね。

 あれだ、最近流行りの怪談話はパソコンから飛び出してくるのが主流で、街中や道端に立ってるのは古臭いみたいな……そんなことになってる可能性は十分ある。


 しかし今の怖い話がちょっと苦手な状態だと、見たり聞いたりしたところで、批評するまできちんと話を聞けるか怪しい。

 ので! まずは怖いものに慣れるために!


『じゃあ修行開始だ!!』


 拳を意気揚々と掲げると、私は次のお客さんに引っ付いて、ホラーハウスへと再度突入した。


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