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うらめしちゃんはうらめしい!  作者: 花山 花
存在しないおばけ屋敷の仕掛け

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5. 誰も気づかない4人目


 一度幽霊の驚かし方というものをきちんと学んでから、新たな怪談となるべく励むべきである!!

 というわけで麓の街からだいぶ離れて、私がやってきたのは同じY県にある天ヶ原ワールドパークという遊園地だ。

 ぶっちゃけ生前の記憶は欠片もないので、近場の遊園地がどこかなんて全く覚えてなかったから、ここ見つけるのにも相当難儀した。

 高速バスの案内所にある観光案内地図でやっと見つけた地元の遊園地だ。

 自分でも名前を覚えてて、行き方もわかってる有名遊園地の方がいいかなとも思ったけど、そこら辺は逆にクオリティが高すぎて勉強にならない気がして諦めた。


 この天ヶ原ワールドパークは開業四十年。まぁまぁ年季が入っている遊園地になる。

 私がいた元高校があった山の北側の裾の部分にあり、近くにはハイキングにもぴったりな高原が広がる。

 自然を利用した観光施設も周辺にはちらほらあって、高速のICも近くて割と来やすい遊園地ではあるのだけれども。


『うーん、連休とかに地元の家族連れが来たりはするけど、遠くから旅行に来たお客さんが来るかは微妙なラインの遊園地……』


 駐車場の車はそこそこ。

 園内にはお客さんの賑やかな声が響いているものの、ジェットコースターや観覧車には空席も見える。

 よくよく見ると建物や園内のスポットにもちらほら劣化が……。


 ……まぁ四十年潰れずに、お客さんがこんなに来てる遊園地!

 だめってことはなかろう!!


 昼間なため、誰にも見られることなくおばけ屋敷へと向かったのだが。


『わあ……お客さんがいない!!』


 うっそでしょ、二組しか並んでない。

 メリーゴーランドもジェットコースターも空中回転ブランコも七、八組は並んでたのに全然いない……。


 本当に大丈夫かと思ったが、そっと中を覗くと暗い通路に不気味な顔の妖精たちが薄ら赤い光でぼんやりと照らされていた。


『あ、ちゃんと怖い…… けどなんかファンタジーちっくなおばけ屋敷……いやホラーハウスって言うべき?』


 すごい不気味で怖い雰囲気はするけど、おばけが!  幽霊が! という雰囲気ではないな。

 この遊園地自体がメルヘンチックな雰囲気の建物やキャラクターで統一されてるので、おばけ屋敷も同じような雰囲気にしたんだろう。


 ……とりあえずまずはプロの驚かし方と演出を体験させてもらおう!


 見えないのを良いことにちょっと割り込みさせていただいて、次の入場者である女子三人組にくっついて中へと入る。

 たぶん暗い森をイメージしたホラーハウスなんだろう。

 通路を囲う不気味な木々の隙間からは、ギョロギョロした異様に大きな目玉の妖精や、口から飛び出すような円錐状の歯をした妖精が顔をのぞかせている。


『ひっ』

「うわこわぁ」

「逆にちょっと個性的で面白くない? あの逆さになって牙むいてる子とか」

「まこちゃんこういう不気味メルヘン好きだよね」

『え、どこが? どこが面白いの? まこちゃんさんこれのどこに好き要素が!?』


 いやいやいやおばけっぽくないなと思ったけど普通に怖いが!?

 ぎゃあぎゃあ、きぃきぃ、きゃらきゃらという喚き声や笑い声がそこかしこから聞こえてくる。

 そんな不気味な声が響く暗い森を模した通路を進むと、急に開けた場所に出た。

 たぶん絵と作り物でできた周囲の木々は、暗いこともあって夜中の森の不気味さを十分に表現している。

 そんな森の中、黒く染まった芝生の上に年季の入った切り株が一つ。

 その上には血塗れの斧と今しがた切断されましたと言わんばかりの腕が切株に爪を立てていた。


『ひぎょっ!!』

「わぁ」

「こっわ」

「意外と雰囲気あるねえ」

『まってみなさんなんでそんなにのほほんしてるの!? 眼の前に広がってるのトッピングにクッキーが刺さったチョコがけバームクーヘンじゃないよ! 血まみれの腕と斧がデコレートされた血塗れブラッディな切り株ですよ!! ねえ!!』


 その芝生と切り株部分は立入禁止らしく、木の柵っぽいフェンスで入れないよう区切られている。

 この柵にも微妙に血飛沫かかってたり、被害者の遺留品ですとばかりに布切れが結んであったりで、雰囲気あってマジで怖い。


 彼女たちはなんか変にまったりして切株を見て感想を喋っているが、早くここから逃げて先に進んでしまいたい。

 そんなことを考えたのがいけなかったのか、切株の奥。右手側。茂るような低い木々ががさりと音を立て。


《あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛》


『ぎゃああぁああああぁぁぁ!!』

「うわ!」

「きゃっ!」

「わっびっくりしたー」


 森の中から這い出てきたのは血塗れの人形だった。

 出来がいい、とは言えない。よく見ると汚れてたり、動きがぎこちなかったり、予算の無さと年季による劣化が見て取れる人形だ。

 そう。

 右目は握りこぶしほどの異様な大きさをしていて。

 頭に、頬に、手に、喉に、動物のものだろう皮膚や舌や角が縫い付けられて。

 右手は血塗れの牛のような蹄の手をしていて。

 ばらばらの髪の合間から、肉だか脳だかわからない赤黒いものが見えてて。

 遊び半分で体をばらばらにされ、こねくり回されましたと言わんばかりの姿の人形だった。


 こっっっわいだろうがッ!!


 出来の悪さと動きの悪さが怖さに拍車をかけるタイプのヤツ!!

 てかこれ見てちょっと物落としかけてびっくりしちゃったみたいな軽い反応なのおかしくないですか!! 私が死んでる間に世の女子高生に精神修行のビッグブームでも来たんですか!! なぜ!!


 背後でビビりまくり、足が若干引けてきた私に気づくわけもなく、三人はマジ信じられないことにのんびり歩みを進める。

 一分ほど順路に従って歩くと、今度は眼の前に小屋が現れた。

 森中にぽつんと建つ小さな物置のような小屋だ。

 入口は空いていて、ぎぃぎぃとドアが不気味な音を立てながら小さく動いていた。


 ……うそでしょ、順路が小屋の中に続いてる。

 野外の森を模した通路から、建物の中に入るっていうのは新鮮ですね。建物の中にある建物という特殊さが、アトラクション感を強めてくれる感じがします。

 それはそれとしてめたくそ怖いが広々歩けていたのに、急に逃げ道がないような狭い場所に押し込まれるのはすごい恐怖を煽ってくるんだが。


「うわ、これすごいねえ」

「雰囲気ある~。黒魔術っぽくて逆によくない?」

『よくないよまこちゃんさん!!』

「猟奇殺人鬼の死体解体現場って言うより、倫理観無くした闇魔道士の研究所って感じだよね」

「わかる! 黒魔術っぽいアイテムあるけど、メルヘン感が強いからカルト宗教っていうよりホラーファンタジーって感じでとても良き!」

『この腕やら脚やら並べられた作業台のどこにメルヘン要素が!? ねえまこちゃんさんそのご趣味本当に大丈夫ですか!! 猟奇系幽霊の私から見ても良き要素が見つけられないよ!!』


 小屋の中は見た目通り狭かった。

 一瞬で小屋全体を見渡してしまえるほどに。

 長机程度の作業台には腕や脚、目玉が陶器の皿に入れられて整然と並ぶ。

 壁には不気味な小動物やさっきの悍ましい妖精の干からびた死体が、薬草と一緒に吊るされている。

 反対側の壁には恐ろしげな化物の彫像が飾られており、その手前に捧げるように置かれた何に使うのか良くわからない道具。

 さらに順路から外れた奥。土間らしき場所には瓶が置かれていて、その口からは人の足らしきものが突き出ている。

 そしてそのすぐ横に置かれた作業台には、作成中と言わんばかりの目が、手が、歯が、人のそれと入れ替えられた巨大なトンボの死骸が乗せられていた。


『ぅえ……ひぅ、うぅうぅぅ……』


 わからない。普通に怖いばっかでメルヘン要素なんて米粒一個も見つけられないんだが!!

 奥の人間移植トンボなんて怖いし気持ち悪いしでかいしで、ホラーは大丈夫だったとしても昆虫ダメな人は発狂するおぞましさなのに!


 順路は小屋奥の裏口へと続いてるので、恐る恐る奥へ足を進め――


 バンッ


『ぎゃあぁぁああああぁぁぁ!!』

「わっ」

「きゃっ」

「うわっ」


 裏口まであとちょっとの、壊れかかった雨戸。

 その前を通りかかった瞬間に、黒いローブを被ったゾンビのような化物が、思いっきり雨戸に体をぶつけてこちらを覗きこんできた。


 犯人じゃん! 明らかにこんなことした犯人じゃん!! しかもこっち見てんじゃん!!


 ゾンビが出た瞬間ダッシュで三人追い越して小屋を飛び出る。

 女子三人組は相変わらずちょっとビクッとしただけで、焦りもせず歩いて出てきた。マジで信じられない。


 裏口から出ると変わらず暗い森の中だったが、先ほどまでより明らかに暗く鬱蒼とした雰囲気だった。

 小屋に入るまでの道が表なら、こっちは間違いなく裏道。

 ただぎゃあぎゃあきぃきぃという、不気味な声はもうしていない。

 代わりにむき出しの土を模した床は血がいたるところに染み付き、周囲の木々には先程まで声を上げていただろう不気味な妖精たちが磔にされていた。

 それだけではない。

 まるで果実のように葉の間から覗く目玉。

 蔦のように木々に絡まる髪の毛。

 枝のように垂れ下がる手足。

 幹には樹液のように垂れる赤黒い血。

 通路に密集するように並ぶ木がだいたい全部そんな感じである。


『おごおぉぉぁ……』

「待って奥の井戸ヤバくない?」

『おくのいど!?』


 この雰囲気クソやばばな森の中で井戸!!

 言われて目を向けた先には、たしかに井戸があった。

 いや、元々は井戸だったと言うべきかもしれない。

 井戸からはみ出した足。手。頭。あふれ、こぼれた人の残骸が井戸周りを埋めるほど散らばっていた。

 井戸じゃない。廃棄場だ、これ。


『むりむりむりむりむりまってなぜそんな良く見ようとするの!!』

「ひえー、こっわ」

『うそつけ全然怖がってないじゃん!!』

「よく見るとさっきより木が黒かったりねじれてたり変形してるの多いね。作り込みを感じる」

『なにをそんなまじまじ観察してるのまこちゃんさん!! 絶対ここ感心する場面では――ッ!?』


 ぎゃいぎゃい騒いでいたら、不意に井戸の上がもぞりと動いた。

 井戸から出ていた頭の一つが、いや。


《あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛》

「ぎゃああぁぁあああぁぁぁ!!」


 芋虫の体に人の頭と手をくっつけた人形が、這いずるようにこちらへ動いた。


 無理ッ! これは無理ッッ!!


 首が揺れるのも地面を蹴る度足がかっくんかっくん折れるのも気にせず、一気にダッシュで逃げた。

 涙で少し歪んだ視界の端に、木々の間からナイフやノコギリ、ハサミなどの凶器を持った不気味な妖精たちが虎視眈々とこちらを見ているのが映り、走る足になお力が入る。


 もうだいぶ出口近くまで来ていたらしい。

 ほんの十数秒で明るい音楽と光に溢れた外へとたどり着き、そのまま地面にへたり込んだ。


 舐めてた……遊園地のおばけ屋敷だって舐めてた……普通に怖いわ!!

 遊園地のおばけ屋敷ってもっとこう、もっとこう……!


『あれ……』


 恐怖半分と八つ当たり気味な怒り半分、遊園地のおばけ屋敷はこうあるべき! と思い浮かべようとして、そのイメージが全然沸かなかった。


 え、普通の遊園地のおばけ屋敷ってどんなのだ?

 ……待って。そういえばおばけ屋敷をきちんと思い浮かべようとすると、なんかこう、イメージできるものがない……?

 おばけで脅かす場所ってぐらいで絵面が出てこない……あと文化祭の定番で段ボールいっぱい使うよなって変な認識しか……あれ……?


「思ったより雰囲気良かったねー!」

「たしかにこの雰囲気は他のおばけ屋敷じゃないよね。ファンタジー系ホラーなんてやってるとこあんまないし」

「うーん、でも雰囲気好きだからこそ、もう少し本格的に作り込んでくれたらって思っちゃうな。

 『曰く憑き』や『アンデッドホテル』みたいな本格ホラーハウスとまでは言わないから」

「ホラーハウスメインの遊園地じゃないから仕方ないんじゃない?」

「まぁここ家族向け遊園地だしね。子供が一人で入れるレベルって考えたら、これくらいが限度じゃないかな」

『は……?』


 遅れて出てきた女子三人組のその会話に、思わず固まった。


 待って。

 待って待って。

 作りが甘い? 本格的じゃない? 子供一人?


 入口の、入場者の注意書きを見る。

 たしかにそこには『七歳以下のお子様は保護者の方と一緒にご入場ください』とあった。

 つまり……八歳の子供なら一人で入って大丈夫と判断されるレベル……? これが……?


 おばけ屋敷のことをろくに思い浮かべることができないと思い至ってから、もしかしてと思っていたが。

 生前の記憶がないから、そのせいかもと思いたかったけど。

 もしかしてもしかしなくても……。


『……私のホラーレベル、もしかして世間一般よりもはるかに低い……?』






「でも最後の井戸のところの悲鳴はタイミングと言い、めちゃくちゃ怖かったね」

「ええ? あれ、最初のキメラっぽい人形と同じでめっちゃ録音じゃなかった? 動きと声の強弱も全然合ってなかったし」

「違う違う! あの井戸の芋虫っぽいのの声じゃなくて、そのあとの後ろから聞こえた女の子の悲鳴!」

「悲鳴……? そんなの聞こえた?」

「ううん」

「うそぉ! けっこうな大声だったし、ホント真後ろくらいからしてさ! 普通に人の声にしか聞こえなかったし、誰もいないはずのすぐ後ろから悲鳴がしてめちゃくちゃ怖かったんだけど!」

『あっ』


 やべっ。


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