28. 幽霊講座
「足がない女の人じゃなくてですか?」
「くびの、ちぎれた」
「わ、わたし、憑りつかれてるんですか!?」
霊がいると言われて、三人の反応は三者三様だった。ちなみに上から冷静に聞くちかちさん、衝撃の見た目に顔を白くするまゆみさん、恐怖で半恐慌状態のりんこさんである。
「いや、僕もここまでしっかり見たのは久しぶりだったし、見た目がだいぶ衝撃的だったからね。
だいたい見た目が悲惨だと、死に方が悲惨ってことだからたちが悪いことが多いんだよ。
だからまぁ念のためにお祓いはしといたほうがいいんじゃないかと思ってね」
そーなんだ……ただ私は生前の記憶がないからそのパターンには当てはまらないけど……。
まぁひどい死に方して覚えてたら、恨み辛み悲しみのあまり、悪事に走ってしまうのも仕方ないのかもな……幽霊を縛るものって本人の倫理以外に何にもないし。
「あの……こんなこと小山田さんに相談するのは失礼かもしれないんですが……その、三日前に撮った動画で本当におかしなことが起きて……でもどうしたらいいかわからなくて……。
あの……幽霊が、本当に、その……人に対して危害を加えるとか……ど、どれだけありえるんでしょうか……」
本当にすがりつくように見るりんこさんに、小山田さんはちょっと困った顔で身動ぎする。
そしてしばし迷ったようなそぶりを見せた後、慎重にこう切り出した。
「僕もはっきりと見えることはそうないし、聞きかじった程度の知識と体験しかないんだけど……。
幽霊ってこう、多分だけど、いる階層が違うというか、フィルターが違うというか……あ、セル画ってわかる?」
「あ、わかります。昔のアニメの描き方で、こう、パラパラ漫画みたいに透明なフィルムに絵をいくつも描いて動かしてたんですよね」
「そう。あんな感じで現実と別のフィルムと言うか……あー……あくまで僕の感覚だよ?
幽霊っていうのはいる層が違うから見えないし、普通は干渉もできない。
けど場所によっては層が重なる場所があったり、重なりやすい時間帯がある。
人によっては見えないはずの層を見れる人がいる。
それから幽霊も無理やり層をこっちに重ねてくるようなやつもいる。
あとたぶん、幽霊同士でもいる層が違う。
だから普通は見えることはないし、こっちにちょっかいを掛けてくることもまずない。
映像にだけやたらと残るのは、カメラみたいな映す道具は、人よりもずっと干渉しやすいんじゃないかなぁって思うよ。もともとそのための道具なんだし。
それにまぁこの業界長いと嫌でもそういう話はわりと聞くしね」
『なるほど……つまりあの黒いのは元からいた可能性があると……。
つまり幽霊同士でも私がやるみたいに、見えろ!! って力込めた状態じゃないと、私にも見えないんだな。
こないだカメラに映っちゃったのは……実体化したときってたぶん、思いっきり力込めてる状態だから……つまり、映れ!! って思うと映りやすい?』
おばけ屋敷の時は、脅かしてるときもこそこそ隠れてやってる気分だったから、映ってなかったのかもしれない。
小山田さん曰く。
映像にないはずの人が映っていた。誰も喋ってないのに声が入っていた。ある話をしたときだけ、妙に映像がブレる。
映像や録音と関わりが深いこの業界では、そういったことがよくあるらしい。
そこまで前例が多いなら、たしかに幽霊としても難易度は低そうだ。
テレビなら映りたい! って自己主張してる霊も多いだろうし……これはちょっと試してみてもいいかもしれない!
「だから見えるけど、なにかされたって経験は僕にはあまりないな。
ただ……僕が見てきた幽霊って三つぐらいに分類できてね。
一つが、幽霊というより人の形をしたもやみたいなやつ。
多分幽霊と言えるほどはっきりこの世に残ってないやつで、自発的に動いたりはしないけど、まぁ悪い感情持って残ってるやつは近づくと襲おうとしてくる。
ただ生きてる人を、こう、怪我させるほど強いやつはこの手のやつでは見たことないな」
『あ! あの黒いやつ!?』
あれ幽霊じゃないんだ!? いや、幽霊だけどどっちかっていうと残留思念みたいなやつか。
見た目怖かったし、襲おうとしてたけど、じゃああれあんまり強くないやつだったんだな。
「それから生前の……普通に生きてたときの姿をしている幽霊。だいたいこの辺りはその辺歩いてるだけだったり、生きてた頃と変わらない行動していることが多くて、危害がない幽霊が多いよ。
それで三つ目が……自分が死んだときの姿をしてる幽霊」
りんこさんが息を呑んだ。
でもって自分のことなので、隣で同じように私も小山田さんの言葉を待った。
「だいたい死んだときの感情というか、激情というか、その時のままでいるから一番たちが悪くて。
死んだ時の衝撃とか混乱とか、まぁ人によっては恨みとか憎しみとか、それがずっと続いてると言うか……錯乱してるのが多いんだよね。
もちろん全部が全部じゃないよ。
見た目が悲惨でも自分の死を受け入れてるまともな霊もいるし、普通の姿をしていても……死に方はきれいだけど唐突に死んだやつや、まぁ、元々、生きてたときからまともじゃない人間だった霊もいるし……」
そこまで聞いて、もしかして、と思った。
ひょっとして私が幽霊してた記憶も生前の記憶もないのは錯乱してたからだろうか。
学校が解体されたショックで死んだときの記憶をなくして、正気に戻った……? いやそんなことある?
うーん、覚えてないからって深く考えなかったけど、記憶ないまま七不思議してて、気が付いたら正気に戻ってリスポーンしてたってのも謎すぎる。
「じゃあ……私に憑いてるのも、酷い死に方して、恨んでる霊……? 私のこと、呪ってるってことですか……!?」
「いや、うーん……」
「そんなことしてないです!!」
精一杯力んで叫ぶと、彼はちょっと目を瞬かせてこっちを見た。
「……見た目はすごいけど、こうして見るとそうでもない、かな……?
恨んでるっていうより、興味本位で憑いてきてるような」
「ないない! 呪ったりしてない! 脅かすだけのモラルとマナーのある霊です私は!!」
その言葉に全力で気配を強めて必死に頷く。
そうだよ! 別に悪気があったわけじゃないんだよ!! 今憑いてきてるのも動画がどうなるかと、りんこさんが心配だったからで!!
しかし必死に訴えるも、小山田さんは目を揉んで頭を振った。
「なんか訴えてるようだけど、僕ははっきり見聞きできるほどじゃないから……。
きちんと見える人に見てもらったほうが良い。少なくとも憑いてるのは確かだから。
あと……そういう動画を取りに行くなら、せめて見える人か詳しい人についてもらったほうが良いよ」
「わかりました……あの、ちなみに小山田さんはそういう人に心当たりありますか……?」
「うーん……見えるだけで、そういうのに関わろうと思ったことがないからな……。
この業界で見えるって言う人もいるにはいるけど……」
『あ、いるんだ』
まぁよく考えたら当たり前か。
私を見える人の割合考えたらいないほうがおかしい。
「平井田さんとかは見えること隠しもしてないし、そこそこ伝手もありそうだけど……」
「それは……無理です……」
「私たちが話しかけるのはさすがに……」
誰だかわかんないけど、たぶん相当有名な人、いわゆる大御所の芸能人なんだろう。
りんこさんたち全員が二の足を踏むように、ちょっと萎縮した。
「少なくともお祓いだけは一度行っておいたほうが良いよ。
そういうところに行って目をつけられると、色んなものが憑いてくるから。見えないだけでその子以外にもいるかもしれないしね」
「はい……」
そう言ってりんこさんたちは小山田さんに一礼し、控室を後にする。
力を込めた状態で同じように会釈したら、小山田さんがちょっと目を瞬かせたのが見えた。
部屋を出たあと、三人は神妙な表情で顔を合わせた。
「小山田さん……霊感あるんだね……」
「悪い霊じゃないかもって言ってたけど、でもやっぱり心配だよね?」
「え……どうしよう……あの、お祓いはやっぱり、行ったほうがいいん、だよね……?」
「どこか予約する?」
「どこかってどこ? 予約できるもの?」
「見てもらったほうが良いって言われても、どこでどう見てもらえば良いんだろうね……」
まぁ、普通お祓いって言っても、神社とかお寺に行ってやってもらえるものかもわからないしなぁ。供養ならともかく。
廊下の真ん中で少しばかり困ったように顔を突き合わせていたときだった。
「あ、皆さんこちらにいたんですね」
三人を探していたようでマネージャーさんが小走りに近寄ってきて、一枚の紙を見せながら平然とこう言った。
「次のTOP Tubeの動画ですが、心霊企画の第三回を撮ることに決まりましたよ」
三人が一斉に硬直した……いや、ちかちさんは違うな。硬直っていうか、これは次の戦場を言い渡された兵士の顔だな。
いやでもマジかぁ……。
「あの、待ってください! し、心霊動画は私もう無理です!! 絶対!!」
完全に半泣きだった。
まぁそりゃそうだ。さっき小山田さんにあんなこと言われたのに、また行こうと思うのはちょっと危機感が迷子過ぎる。
しかしそんなりんこさんに、マネージャーさんは安心させるように笑った。
「大丈夫ですよ。心霊企画ですが、次は心霊スポットの探索なんかじゃありませんから。
山戸さんの精神的にも探索動画は無理だというのは承知してます」
「……じゃあなにするんですか?」
まゆみさんが警戒心を隠しもしないで聞けば、マネージャーさんはにっこりと笑ってこう言った。
「有名な心霊Tチューバーの方とのコラボ動画です。
前回撮った動画を本職の方に見てもらって、現地に行った山戸さんたちの霊視とお祓いをしてもらうという企画ですよ」




