27. 首がちぎれた女の子
遺憾! 遺憾の意!!
そりゃ噂話に便乗した私が悪いって言われたらそれまでだけど、襲ったりなんて絶対しないのに!!
怖がらせる気はあっても危害を加えたりなんか絶対しないからね!! その辺はちゃんと気をつけて幽霊してるよ!!
まさかの同輩だとは思いたくない同輩と出会ってしまった上、あらぬ誤解を抱かれてしまったので、私はそのままりんこさんたちに憑りついて、心霊スポットを後にすることにした。
……思いの外、心霊スポットってろくな人間来ないし、待つのも怖いし、幽霊的にもあんまりいい場所じゃなかったのもあるし。
あとさすがにこんな誤解されたとなると、撮影された動画がどうなってしまうのか気になりすぎる。
そんなわけでりんこさんたちに憑りつき早三日。
私は東京にいた。
『ここが東京! 建物がたかーい!! 人が多いー!! おおおおおおお!!』
Y県なんてド田舎とは比べ物にならない!!
いや、記憶はないが自分の故郷をディスる気はない。ないけど本気で都市としてのレベルが違いすぎる。
りんこさんたちはあくまで地方公演でY県に来ていただけで、普段活動しているのは東京になる。
なので憑いていけば、当然私も上京することになると。
『すごいな東京……! あの動画がどうなるか見届けたらちょっと観光しよう! 東京タワーと、あと東京ワンダーランドも行きたいなぁ……!』
思わずおのぼりさん丸出しでふらふら歩きたくなるところをぐっと堪える。
しかしわざわざ外を回らなくても、りんこさんたちに憑りついているだけでも十分刺激的であり、わくわくすることの連続だった。
彼女たちはアイドルだ。
テレビにだって出る正真正銘の芸能人だ。
つまり普段の彼女たちの仕事は一般人が立ち入ることのできない、芸能界だった。
『これがテレビスタジオ……! こうなってるんだぁ……』
正直、記憶がないから芸能人は誰一人顔も名前もわからない。
でもその立ち振る舞いやオーラはたしかに一般人とはぜんぜん違う。
そんな彼らを見てるだけでわくわくはするものだ。
「今日はありがとうございました!」
そう言ってちかちさんとりんこさん、それから心霊企画のときにはいなかったまゆみさんというメンバーが、目の前の男性に挨拶をする。
今日はあるトーク番組の撮影で、今度出す新曲のPRも兼ねて出演してきたところだ。
同じくゲストだった壮年の男性は、彼女たちより芸歴が上なんだろう。彼女たちの挨拶に鷹揚な態度で、にこやかに答えていたが。
一瞬、視線がこちらに泳いだと思ったら、彼の顔が僅かにこわばった。
「……そうだ。今日の収録で、動画撮影で心霊スポットに行ったって話をしていたけど」
夏だから、ということで怖い話をネタにした各ゲストのトークもあったのだが、そのときにピンクガジェットの三人が話したのが、例のちかちさんが無双してバズったという動画の話だった。
ちかちさんが淡々と「こんな事があったんですよ~」と話す横で、一緒に撮影していたらしいまゆみさんが真顔決めてたのがまた。
マジで怖かったんだろうなと、本気でちかちさん剛の者だなという気持ちが合わさって、逆にめちゃくちゃ動画が気になったっていう。
「いや、ね。テレビでも心霊番組とか昔はよくあったけど、意外とこの手の話は馬鹿にできないものだから。
お祓いとか、一度しておいた方がいいよ。特に君は一番はっきり見ただろう?」
そう言って男性が目を向けたのはちかちさんではなく、りんこさんだった。
りんこさんの顔が一瞬で青ざめる。
今日の収録で誰がその心霊スポットの撮影に行ったなんて話はしていない。
……そして三日前、撮影したばっかりの第二弾の心霊動画の話はしてもいない。そもそもまだスタッフさんが編集している段階で、第二弾を撮影したということすらピンクガジェットの面々以外は知らないはずの話だった。
「……山戸は今日話した撮影には行ってないんです」
「あれ、そうなの?」
「ただ……三日前、別の心霊スポットの撮影に行ってきたところで……」
ちかちさんが三日前に撮った廃保養所での撮影のことを説明すると、男性は納得したように「ああ」と言って息をついた。
「あの……小山田さんって、その……霊感があるん、ですか……? りんこちゃんに、なにか憑いてるんですか……!?」
聞きづらそうに、だが切羽詰まった様子でまゆみさんが言う。
彼女たちにしてみたら先輩にあたる人に、そんな霊感だのオカルトの話を真面目に聞くのは、ちょっと憚られるんだろう。
でも誰も知らないはずの三日前の撮影のことを言い当てるように、そんなことを言われては聞かないわけにもいかない。
この三日でだいぶ顔色はよくなったけど、それでもまだ引きずってるのはよくわかる。
ちなみにこの小山田さんっていう方はガチで霊感強めな方だ。幽霊の私が保証する。
夜で見えやすい時間帯だからってのもあるけど、さほど気配を強めてない私の姿を追って視線が動いていた。
「あー……あんまりこういうオカルト的な話、大っぴらにしたことないし、するもんじゃないんだけど……」
「あの! なにか、見えることが、わかることがあるなら教えていただけませんか!?」
仮にも先輩相手に詰め寄る姿は、やはり追い詰められていたのだと伝わってきた。
「僕もはっきり見えるわけじゃないんだけど……首がちぎれた女の子が、ずっと君のそばでうろうろしてるんだよ」




