24. 「ねえ、本当に行くの……?」
「ねえ、本当に行くの……?」
「しょうがないよ、だってこないだの心霊企画がバズっちゃったんだもん。
これで第二弾撮らないのはありえないでしょ」
「そうですね。ネットの熱が冷めないうちに早く続きを撮りたいですし、スケジュールに都合がついたのが山戸さんと湯藤さんだけだったので……」
「私ホラーほんとだめなんだけど……!!」
「大丈夫ですよ。幸いというか、急ぎで許可取れたのがそんなに有名じゃないホラースポットですから。
廃墟ですが比較的きれいですし、事前に現場の確認もしましたがそんな怖い雰囲気の場所じゃなかったですし。
前回の廃旅館と比べたら本当にただの廃墟ですよ」
「比較対象が悪すぎる……」
現場に向かう車の中、マネージャーとメンバーの湯藤に凜子は半泣きで訴える。
とはいってもここまで来て行かないなんてありえないので、ほとんど愚痴だ。
近年の動画サイトの影響力と視聴者は下手したらテレビ以上で、テレビは見ないが動画は見るという若者も多い。
そのため最近の芸能活動は動画サイトでの配信も重要視されている。
凜子の所属するユニット、ピンクガジェット13も様々な動画をそれなりの頻度で投稿していた。
歌やダンスは当然として、普通のアイドルならやらないような企画動画もどんどん撮った。
大手の割におおらかな事務所と、とにかくいろんなことをやって、少しでも多くの人に見てもらう機会を作り、ファンを増やさねばならないという世知辛い事情もあってだ。
で、そんな中。
夏に合わせて行われた心霊企画、心霊系Tチューバーも訪れるようなガチ心霊スポットの探索動画。
これがまさかの大バズりをかましてしまったのである。
さすがに本業のMVを超えるほどではないが、これまで撮影してきた企画系動画の中では冗談抜きで桁一つ違った。
心霊スポットとして有名な廃旅館の探索中、誰もいない廊下を横切る黒い影がしっかり撮れてしまったのだ。
これだけでも動画的には十分な撮れ高だったが、バズった原因はそれだけではない。
これを大バズりまで持っていったのが、ピンクガジェット13で唯一ファンからさん付けで呼ばれる女、ちかちこと友近千夏である。
その企画は友近含む四人で行っており、他三人はありえない現象に悲鳴を上げ、そのときいた客室から動けなかった。
しかし友近は違った。
確認するや否や、カメラを持ち、「見てくる」と言って飛び出した。影を確認して僅か二秒の判断である。
飛び出した友近はすぐさま人影が消えた方角の廊下を映した。当然そこには何も映っておらず、彼女はそれを確かめるとすべての部屋を見て回った。
廊下に面する客室を開け閉めしては必ず音がすることを確かめ。
部屋の中の隠れられそうな場所も確認し。
廊下の隅々まで見て回り、隠されているものがないことも確認した。
そう。この友近の行動が、この映像が本当の心霊現象だという信憑性を爆上げしてしまったのである。
そうでなくてもテレビでも名前を聞くようなアイドルが、大の男でもビビるようなこの状況下で、恐怖心をどっかに忘れてきたように隅々まで調べる姿はかなりインパクトが強かった。
本物の心霊現象と思われる映像が撮れたこと。
そして幽霊らしきものを見た瞬間、確認に走った現役アイドルの様。
それが合わさって怖いし、面白いし、すごい動画だとバズりにバズってしまったのである。
となれば当然、この流れを活かそうという話になるわけだ。
すなわち、友近を主軸に置いた心霊企画第二弾である。
バズを受けて急遽決まった企画であること。
地方公演中のため、その『ついで』で撮影できる場所であること。
友近のスケジュールを第一とし、それに合わせて行ける人間であること。
それらを加味した結果。
すぐに許可が取れた心霊スポットがY県で、友近と一緒にY県に来ていて、スケジュールが空いているメンバーが一緒に行くことに決まったのだ。
つまり凜子と湯藤の二人しか行けるメンバーがいなかったのである。
「これでさぁ……見てもらえたとして、本当にファン増える……?」
「好感を持ってもらえたら、それだけでも十分だよ……。
それに心霊動画見る層と普段の私たちの動画見てくれるような層って重ならないから、当たれば大きいよ? きっと」
「効果は十分ありますよ。前回の心霊動画がバズったあと、MVの再生数の伸び率が前週より上がってます」
「待って嬉しいけど嫌な話出さないで……下手したら三回目もあるじゃん、それえ!」
「それはまぁもちろん、この動画の出来次第ではシリーズ化すらありえます」
「いきたくないーっ!」
車の中でギャン泣きする凜子をスタッフとマネージャー、そして湯藤と友近が憐れんだ目で見ていた。
何度も言うがここまで来た以上、そして結果がきちんと出ることがわかってしまった以上、引く道はないのである。
たどり着いたホラースポットは、死ぬほど暗くて不気味な山の中にある廃保養所だった。
一応昼にスタッフが事前確認はしているらしいのだが、そんな言葉では安心できないほど不気味極まりない。
この時点で凜子はもう泣きそうだった。
怖いながらに諦め混じりでやってきた湯藤も顔が引き攣っていた。
「ピンクガジェット13の友近千夏です!」
「山戸凜子です」
「湯藤海鈴でーす」
しかしそんな二人も撮影を開始すれば、いつものアイドルの顔に変わった。
「ここはもともと保養所だったらしいんですけど、どこの会社が使っていたのかとか、いつ廃墟になったのか、まったくの不明だそうです」
「やだそれ絶対なんかあったやつじゃん!」
「実はいろんな噂があって、実際に見たっていう人も大勢いるそうですが……何があるかは中に入ってからその都度説明します、とだけ言われてます」
「まってそんな都度説明するほど怖い話あるの!?」
「あるらしいです……」
入る前にそんな軽い説明のオープニングを撮って、凜子たちは館内へと入って行く。
中は廃墟としてはたしかに整然としていた。
備品や荷物の類は運び出されており、一部剥げた天井や壁、落書きがあるものの、移動に困る程荒れた様子はない。
例のバズった廃旅館と比べれば雲泥の差だった。
「ここの宴会場なんだけど、舞台の上に立つと悲鳴が聞こえてくるんだって」
「この辺?」
「ちかち躊躇ゼロじゃん!」
「どう……? なんか聞こえる……?」
「んー……ヒューみたいな音はしてる」
「え!?」
「たぶん外の風っぽい? 声は聞こえないかなぁ」
テニスコートに立つ黒い男。
温泉に出る老婆。
勝手に鳴る電話。
雰囲気こそ前回の廃旅館に比べれば怖くはない。
しかしその場その場で起こる噂を語られるたび、凜子と湯藤は悲鳴を上げ、それが怖い雰囲気を盛り上げていく。
撮影は順調だった。
しかし順調を通り越して、見どころと呼べるところがない。
加えて言うなら友近がすぐさま検証、確認を行うので、一瞬盛り上がってもすぐに怖い雰囲気が霧散してしまう。
前回の動画を見た視聴者にとっては、友近のこの躊躇のなさを期待して見る者もいるだろう。
しかしこのまま何も起こらなければ、盛り上がりどころがないまま終わってしまう。
撮影も半ばを過ぎた頃、凜子も湯藤もさすがにこのままだとだめかもしれないと思った。
ここまで怖い思いをして、ろくに再生数が伸びなかったら来ただけ損だ。
何も起こらない廃墟探索と、相変わらずずんずん進む友近に、だんだんと二人の恐怖も薄れつつあったのだろう。
「ここまでさ、ずっとちかちが全部先に確かめてるよね……わ、私たちも行ったほうがいい……?」
後から思えば。
根拠もなくいけるかもしれないと、気が大きくなってきた愚かな提案だった。




