22. 現役アイドル心霊企画動画1
さすがにこれは気になりすぎて思わず車に乗ってしまったが、おおよその彼女らの事情は廃墟に着くまでに把握できた。
彼女たちはピンクガジェット13と呼ばれる十三人からなるアイドルグループの一員で、ここに来たのは動画サイトTOP Tubeにある公式チャンネルの動画撮影のためらしい。
彼女たちはたしかにアイドルだ。
可愛い衣装で歌って踊る、私のよく知るアイドルの活動もしている。
が、しかし。
彼女たちは『ピンクガジェット13』『ブラックギア14』『ブルーシグナル15』と呼ばれる三つのグループで同時に売り出されているアイドルグループである。
要は同僚ではあるがライバルでもある、似たようなアイドルたちが四十二人いるわけだ。
箱推ししてるファンもいるだろうが、ぶっちゃけて言えば人気が分散している。
うん。ここまでくると大体私も想像ついた。
つまり売れるために普通のアイドルがやらないような撮影や企画もやって、とにかく見てもらわなきゃいけないってことだ。
今時はテレビと同じかそれ以上に動画サイトを見ている人が多い上、テレビより規制が緩いということもあってこっちを主流としているとこも多い。
ので動画サイトで公式のアカウントを作って、そこでいろんな企画を自前でやって、地道に人気を稼いでるってことなんだろう。
『いやだとしても心霊スポットに凸するのはさすがに違うくない……?』
それで本当にファン増える……?
芸能事情に詳しくない私でも、なんかおかしいって思うよ……?
なんというか彼女たちはアイドルだけど、こういう……あれだ……芸人魂あふれるような企画というか、体当たり系企画というか……そういう企画が多いらしい。
最近のアイドルって大変なんだな……。
まぁそれでもあまりに畑が違いすぎると思うのだが、嬉しいことにというか、悲しいことにというか、たまたま夏に行った心霊企画動画が、大当たりしてしまったらしい。
本当に心霊現象らしい不可解な出来事が起きた上に、ちかちと呼ばれる女の子がなかなかにアグレッシブというか、面白いというか、愉快だったようで動画が大バズり。
それでこの勢いに乗せるべく心霊スポット凸動画を撮りに来た、という流れらしい。
「うそ……ここ、本当に入るの……?」
「入ります。一応、事前に現地確認はしてますから」
「確認されたって無理だよこんなの!!」
ホラーは絶対ダメだと言うりんこさんという子が、キレてるのか泣いてるのかわからない声で叫んだ。
見るからに怖がりなのに……アイドルってここまでしなきゃいけないのか、可哀想……。
『こんなとこまできて撮れ高なしは不憫だよね……ここは私が頑張って脅かすしかないな!! ……でも本気で脅かしにかかったらりんこさん死んでしまいそう……』
そうなんだよ。りんこさんは私と同類の気配がとてもしてる。
ちょっとした物音だけでも下手したら気絶してしまいそうだ。
でもこんな嫌な場所来て、怖い思いして頑張ったのに、何も起こらず終わってしまうことこそ可哀想というか……。
どうやったもんだろうと悩んでいる間に撮影が始まってしまった。
現在の時刻は二十二時。遅くとも三時には撤収するらしいので、現場でぐだぐだしている時間などないってことだろう。
「ピンクガジェット13の友近千夏です!」
「山戸凜子です」
「湯藤海鈴でーす」
「今日は、もう見てもらえばわかると思いますが、心霊企画第二弾! 心霊スポット探索編になります」
「はい……」
「りんこちゃん今日は、撮影始まる前どころか朝からずっとこんなテンションです……」
「りんこちゃん、ホラー引くほど苦手だもんね。ゆとちゃんはどう?」
「私もホラーは正直ダメで、怖い話なんて聞いちゃうと夜寝れなくなっちゃうんだよね。りんこちゃんほどじゃないけど、私ももう帰りたいとはちょっと思ってる」
うわぁすごいプロだ!!
アイドルだけあって元々目を引く雰囲気だったのに、話し始めた瞬間彼女たちの華やかさが倍に増した。
嫌々だったりんこさんも、カメラの前では――いや、まだ全然嫌々ではあるけど、動きも喋りもカメラを意識したものに変わってる。
最初にこの場所がどういう心霊スポットかという説明をちかちさんがしているが、この辺は今さらというか、知ってる話しかない。
身も蓋もなく言えば、謂れは何もないが幽霊の目撃情報が多く心霊スポットになっている場所だ。
オープニングを撮り終わると、七人は一息つくこともなくさっそく中へと入っていった。
「今音した! どんって!」
「どっち? 外?」
「まってちかち!! 無理無理無理!」
「特に何にもないね」
「なんでちかち迷いもせず先行くの!?」
『……う、うーん……』
怖がるりんこさんとゆとさんは、まぁホラースポットに来たら普通こうなるよね、って感じに怖がってるんだけど……ちかちさんがすごい。
アイドルなのに心霊企画でバズを叩き出したというだけのことはある。
恐怖心が死んでるのか、音がしたり、変わったものがあるとビビる二人を置いてさくさく進んで確かめようとする。
ちなみにちかちさんはちょっと背が低めで明るい茶髪をツインテにしてる、お目々が大きくて唇ぷっくりの姫かわ系アイドルだ。
そんな子が率先してガンガン進んでいく様はたしかにちょっと面白いかもしれない。
ついでに他の二人が怖がるほどちかちさんの異常な強さが際立って見えるし。
「さっきから音はするけど、写真には特に映らないね」
「映らなくていいよぉ……!」
「あと、あとどこいくの……?」
「えっと、あと有名な噂が二つあって、一つは非常階段で話し声が聞こえる。
二つ目は西側の階段から二階に上がると、奥の部屋から足のない女性の霊が這いずりながら襲いかかってくるって」
「非常階段? 階段ってどっち? 奥?」
「二階のほうが近くない?」
嫌がる二人もこれが企画動画であり、探索しないと視聴者が興ざめだというのはわかってるんだろう。
怖がりながらも進む足を止めることはない……時々後ろに走りかけるけど。
「ここまでさ、ずっとちかちが全部先に確かめてるよね……わ、私たちも行ったほうがいい……?」
そう言ってりんこさんが振り向く。
女性のスタッフさん……たぶんマネージャーさんだろう。震える声に、まぁ当然ながら無慈悲に彼女は頷いた。
「できれば」
「どっち、どっちいく……?」
「一個くらいは頑張りたいよね……二階のほうが怖そうじゃない……? で、できれば怖くないほうが良い……」
「でも最後は嫌だよ……!」
「ちかちはどっちがいい?」
「どっちでもいいよ。離れて待機してるけど、なんかあったらすぐ向かうから」
『ちかちさん頼もしい……!!』
脳みそバグるぞ、こんな姫かわいいアイドルが強い眼光で『すぐ向かう』とか戦場の兵士みたく力強く言い切るの。
悩んだ末、二人は二階の廊下を確かめることにしたらしい。
一応二階に上がるところまでは全員で行って、部屋を確かめるのは二人で行くことにしたようだ。
……うん、ちかちさん相手だと脅かせる気がしないから、出るならこの二人の前だろう。
「い、行きます……!」
「ゆとちゃん、手、手つなごう……!」
「二階の奥……なんにもない、ないよ……ないよね?」
ちかちさんとスタッフさんが見守る中、二人はカメラを持って廊下の奥へと進む。
さて、どうやって脅かそうかと考えたが、今回は噂通りに襲いかかるのはNGだ。
さすがにそこまでやったらホラー嫌いなりんこさんが死んでしまう。
ので! 今回の演出はこうだ!
二人が部屋の中に入る。
二人が出ようとしたら、私は部屋の外からちょっと覗き込む。
二人が声を掛ける前にすぐ逃げる。「え!? 今の誰スタッフ!?」と二人はなるだろう。
外に出た二人がスタッフに確認するが、誰も部屋には近寄ってないと言われる。
じゃあ今のは誰だったんだ! と現場は恐怖一色に!
悲鳴を上げるとか、いきなり目の前に現れたりとか、首を目の前で転がすとか……個人的にはもうちょっと一味足したいけど。なんなら全部足したら最高に怖くなると思うんだけど、今回は我慢だ。
「は、入るよ……」
「待って怖い怖い!」
二人のあとに続いてそっと奥の部屋へと入る。
あとは二人が出ようとドアを向いたタイミングに合わせて、気配を強めて逃げれば……
『ぇっ――』
「何にもないよね……」
「……でもちょっとここ、変じゃない……頭なんか痛くなる……」
怖がりながら、部屋の中をぐるりと見渡す二人の目の前。
懐中電灯に照らされているのに、煤のように真っ黒なままの人影が部屋の中央からこちらをじっと見つめていた。




