20. 足のない女の霊(偽)
山奥にある廃保養所。
廃墟になった理由や使っていた会社の情報に関しては謎だけど、特に悪い噂があったとも聞かない。
ただ不気味で、幽霊が出てもおかしくない雰囲気は十分にある。そんな場所だった。
「……ここか?」
「うわ……やばくね?」
『やばいよ。私もちょっと館内と周り回っただけだけど、雰囲気だけで気が狂いそうなほど怖かったもん』
昼に見て回る分には怖いほど静まった廃墟ってだけ……いや、それでも十分怖いけど、夜になるともっと怖い。本能的に恐怖を感じる。
ここで一人で待ち続けるのは無理だな、やっぱ。
「これ、どっからいくの?」
「とりあえずこっちの奥の方。テニスコートがあった場所に黒い男が佇んでるって噂がある」
『あー。その話水谷くんと見た動画でも言ってたけど、でもあそこ誰もいないんだよね。脅かしてあげたいけど、さすがに黒い大男の噂で私が出てくるのもおかしいだろうし』
というか、動画で見た怖い噂の場所は昼間に回ってみたけど、先住民と思われる幽霊は見当たらなかった。
だからここに住み着いてる幽霊はいない……はず。
まぁ実は幽霊になっても霊感がないと幽霊見えないとか、普段は姿を消してて突然出てくる、なんてこともありえないではないので、絶対いないとは断言できないけど。
三人は懐中電灯片手に恐る恐る建物裏へと周り、噂のテニスコートを見つけるとそれぞれ怖がりながらもスマホでぱしゃぱしゃと写真を撮っていた。
ある程度撮ったところで裏へと回り、露天風呂があった場所から建物の中へと入る。
『あー、やっぱ許可もらってないんだ』
動画の人は鍵をもらって正面から入っていた。つまり許可取らず中に入るにはこの窓が壊れた温泉が唯一の入口だ。
まぁどう見てもノリと勢いで肝試しに来たようなこの男子大学生らが、そこまできちんと手続きしてやってきてるとは思ってなかったけど。
『悪いことしてるんだから怖い目にあったってしょうがないよね、うん!』
おばけ屋敷で鍛えた脅し力で、もう勝手に入って肝試しなんてしませんっていうぐらい脅かしてやるぞ!
なお幽霊は法律に縛られないから私が勝手に入るのはいいものとする!
まぁ実際、物を動かすことも触ることもできないのは相変わらずなので、入ったところで埃一つ動かせないし、影響もないからいいだろう。
「いま、そっちなんか音しなかったか?」
「家鳴りみたいなの聞こえた気がするけど……山奥だからな、ここ。動物はいっぱいいるだろうし……」
「ガラス散らばってっから、それもあるんじゃね」
ガラスが割れ、枯れ葉で埋まった浴場内は、歩くたびに派手な音がするので意外と大きな音が響く。幽霊の自分ではわからなかったけど、これはちょっとびくっとくるかもしれない。
浴場を出れば、壁や床、ところによっては天井が剥がれた廊下だ。
怖がりながらも、意外と三人はサクサク進んでいく。
……なんか、頻繁にこんなことしてるんだろうなってのがわかる動きだな。
窓は昼でも生い茂った木々に囲まれ、不気味な薄暗さだったが、夜に見るとさらに怖い。
窓すぐそばの草木が揺れ動き、懐中電灯の光を反射するため、外でなにか蠢いているように見える。
そんな不気味で、ぼろぼろの廊下を抜けるとロビー。
壁は落書きだらけで、かつてフロントだった受付は倒れ、崩壊した椅子の木片や布地が辺りに散らばっていた。
「廃墟だけどけっこうきれいだな、ここ」
『え!? 落ちた天井や壁とか家具がぶっ壊れてあちこち転がってるじゃん! 壁も落書きだらけだし!!』
「残留物ほとんどなくないか? 持ち出せるもんはきちんと撤去して出てってるよな」
「前に行ったペンション跡に比べると、人のいた形跡なくてあんま怖くねえかも」
『うそでしょ? これで? 人の心残ってる? どっかのホラースポットに捨ててきてない!?』
怖いよ! どう考えても怖いよ!!
人が生活するための建物が、こんだけぼろぼろになってるだけでも十分怖いでしょ!!
さくさくと進む三人に戦慄を覚えながら付いていくと、彼らはロビーを抜けた奥、ホールのような大きな部屋で立ち止まった。
あ、ここも動画で見たぞ。
たしかここも噂話がある場所の一つだ。
「ここだ。一階奥の宴会ホール。ここの舞台の上に立つと悲鳴が聞こえてくるって」
「……聞こえる?」
「なんもないよな」
「ちょっと動画で撮ってみるか」
『うーん、でもここも誰もいないんだよね。というか昼にぐるって見たけど、そもそもこの建物には誰もいなかったし。
昼に鹿とかキョン見かけたから、その鳴き声のような気がする』
動物の鳴き声って人間の声に似てるやつがわりといるんだよね。
鹿とかもろに『きゃああああ』っていう甲高い女性の悲鳴だし、キョンは悲鳴と金属音の中間くらいの『ぎゃああああ』っていう悲鳴。熊はおっさんが『おーい』って言ってるような声だ。
幽霊の私が言うことじゃないが、世の怪談の半分以上は動物のせいだと思ってる。
こんなに色々回ってご同輩に一回も会えたことがないってなると、幽霊の存在そのものが希少な可能性高いし。
「どうする? 一階このまま全部回ってみる? この感じだと何もなさそうだけど」
「せっかく来たんだし、見るだけ見てこうぜ」
「よし。最後に一番やばいっていう二階だな」
『おっ、じゃあ私も心の準備しとこ』
この廃保養所で一番やばいと言われる三つ目の噂。
ここの二階は宿泊部屋になっており、ホテルのように左右にズラッと部屋が並ぶ廊下につながっている。
西側と東側にある階段から上がれるのだが、西側から二階に上がると、東側……一番奥の部屋から足の無い女性の霊が叫び声を上げながら襲い掛かってきて、捕まると両足をねじ切られるとか、後日事故に遭って足を切断することになった、なんて噂がある。
この噂話に則り、三人が二階に上がりそうになったら先に上がって廊下奥に待機。
さすがに足があるのは誤魔化せないので、姿を見せた瞬間に叫び声をあげながらダッシュで駆け寄ることで勢いで誤魔化すことにする!
その場の仕掛けや噂話を利用して脅かす……おばけ屋敷で学んだ効率良く恐怖を与える方法である。
足があるなら全然元の噂と違うじゃんとか、オリジナリティがないとか、他所様の怖い話に乗っかってるだけと言われてしまえば否定できないんだけど……。
まだ修行の身で、これは私がちゃんとした怪談になるための事前練習だから大目に見て欲しい。
幽霊なんていないから当然なんだけど、何も起こらない一階に三人はやや気の抜けた、というより期待外れだったという態度を隠そうともしないで、だらだらと二階に向かう。
そんな態度が取れるのもここまでだ!
『よし! 行くぞ!』
急いで先に階段を登り、奥の部屋の前に立つ。
噂に忠実に脅すなら奥の部屋から出ていくべきなんだろうけど、そこまでこだわらなくてもいいだろう。部屋の中だとタイミング計りづらいし。
まぁ首と足の折れた女が大声で叫びながらダッシュしてきたら十分怖いし大丈夫大丈夫!
「西ってこっち?」
「えっと、うんこっちだ。階段上がってすぐが廊下のはず……」
下の方から三人の話す声がかすかに聞こえ、懐中電灯の明かりが少しずつ強まりながら登ってきた。
よし、三人が登り切る前に力を入れて踏ん張って……こっちに懐中電灯を当てたと同時に――走る!
「うおおおおおおおおおお!!」
懐中電灯に照らされた、ちぎれた首を揺らしながら叫び声を上げて走る噂通りの女と鉢合わせた彼らは――ため息を吐いた。
「……うーん、なんもねーな」
「写真だけ撮っとくか」
「おう」
「もおおおおおおおお!! だから! なんで!! こういうやつに限って零感なの!!」
力いっぱい地団駄踏むのに三人はまるで気づかない。
パワーアップしたはずなのに!! 三人いれば確率的に一人は見えてしかるべきでしょ!!
なんでやっぱりこうなるの!!




