19. 勝手に乗り込む4人目
『無理無理むりむりむり!! ふッざけるなよあんなとこいれるわけ無いでしょ!!』
山の麓。田んぼばっかりで街灯もろくにない中、目が痛いほど明るいコンビニの駐車場で全力で叫んだ。
あんなん聞いてない、いや想像できてしかるべきなのかもしれないし世の心霊スポットはこれが普通なのかもしれないけど!
けど!!
『建物も道も街灯もない!! 山奥の真っ暗な廃墟に一人でずっといるとか精神病むわ!! 幽霊だからって暗いのが怖くないわけじゃないんだぞばかぁ!!』
あんなところで! いつ来るかわからない肝試しの人間を待ち続けるとか!!
世の中の心霊スポットに滞在してる幽霊先輩たちはなんで平気なの!? 勤務年数上がったら平気になるの!? 正気無くさないと無理だと思うよだから世の怪談って怖いんだね正気じゃないから!!
『絶対私が怖いの苦手なせいじゃない!! 普通に命の危険を感じるレベルで無理!! 危機を覚える命紛失してるけど!!』
元々はある会社の保養施設で、立派な宿泊施設はもちろん、中には温泉もあり、テニスコートのようなものまであった。
しかし三十年ほど前に閉鎖。理由は不明。ついでにその会社の詳細も不明。
いまでは自然に飲まれ、無造作に伸びた草木に覆われた、かつての姿を思い浮かべることも難しいボロボロの廃墟と化していた。
『だめだ……本物の心霊スポットはとてもじゃないけど脅かす側に回れる気がしない……おばけ屋敷とわけが違う……』
おばけ屋敷は怖い場所だけど、あくまでもレジャー施設。子供だって楽しめる程度に明るく、人もたくさんいて、外はいつだって明るく賑やかで。
夜だってちょっと離れた高速の街灯ややたらある自販機のお陰で明るくて、夜の闇の中でも人の営みがいつだって隣りにあった。
でもここは違う。
真っ暗な闇に囲まれて、周りには誰もいない。誰も来ない。
月以外に明かりもない。施設の中では指先さえ見えない。
人の営みから捨てられた、人が去った後の、建物の亡骸だった。
『こんなところに住み憑く幽霊も幽霊だし、わざわざ来る人間も人間で絶対頭おかしい!! 昼間でも不気味なのに夜に入るとか気が狂ってるとしか思えない!!』
たどり着いたはいいけど、昼の時点でもうやばかった。
え、私ここで誰か来るまで待つの? ってまず思ったし、嫌な感じはしたけど、わざわざ来たからには一回ぐらいチャレンジしたいなーと思ったものの……日が暮れ始めて、明るさがすごいスピードで削られていって、生き物の気配のない闇の中に押し出されてる感にこれ無理と即下山を決めた。
『動画見たときはこれはよさそうだと思ったんだけどなぁ……』
動画の配信者さんは怖がりながらもさくさく進んでいたし、見ていて楽しかったから私も行けると思ったが、全然欠片も行ける気がしない。
『遊園地のおばけ屋敷って、住み憑くって考えたら幽霊にとって高級住宅レベルだったんだなぁ……脅かせるし、人がいっぱい来るし、いつだって明るいし、夜に過ごす場所も近くにあるし……』
まぁおばけ屋敷にずっと住み憑いちゃったら、怖さがおばけ屋敷内でまとまってしまうというか、最恐の怪談と言うには怖さに欠ける部分があるので、てっぺん目指す以上はどっかで出ていかないといけないんだろうけど。
やっと怖がりを自覚して、おばけ屋敷なら居憑けるようになったレベルの私だと、ガチのホラースポットはレベルがちょっとまだ高すぎた。
ゲームで言うなら一面から五面にいきなり飛んだレベル。ちょっとまだいける気がしない。
『まだ平気な昼間のうちに探索進めて、慣れるよう頑張ってみる……? でもな……慣れることができたとしても、だーれもいない真っ暗闇の廃墟の中、いつ来るかわからない肝試しの人間を待つのはさすがにちょっとな……』
気を紛らわせるものがない、誰一人こない場所で一人ずっと待ち続けるのはさすがに勘弁したい。
しかしおばけ屋敷はもういけないし、せっかく見つけた本物のホラースポットから離れるのも惜しい。
どうしたものか、コンビニの駐車場で悩み続けてしばらく。
意外と早くその問題解決方法が目の前にやってきた。
「なんか買ってくか?」
「帰りで良いんじゃね? 心霊スポットに飲み物とか持っていっても邪魔じゃん」
「ここ過ぎたら山中だからなんもないし、トイレだけいってくるわ」
「あ、じゃあ俺も」
『え、まってまって! もしかしてこれからあの廃墟行くとこ!?』
大学生くらいの男三人組だ。
軽いノリでやってきた彼らの会話に、ぱっと閃いた。
そうか! ここあのホラースポット近くで唯一のコンビニで休憩所だから、あそこのホラースポット行く人がよく寄る場所なんだ!!
つまりあの廃墟に行きそうな人を見かけたら、ひっついて一緒にいけばあそこで待機する必要もない!
一人で待つのは怖いけど、一緒に入るんだったらそんなに怖くないぞ!!
『こんな楽しそうに、怖い思いするためにわざわざ来てるんだもん! 思いっきり怖がらせていいんだよね!! じゃあおじゃましまーす!!』
そんな彼らに便乗して、するりと彼らの車に一緒に乗り込んだ。




