2. 廃校の七不思議(元)2
思いのほか幽霊というのはできることがない。
壁を通り抜けるとか、空中に浮かび上がるとかそういったことは一切できない。
あと物を動かすこともできないし、壁に手の跡を残すといった物理的なことも一切できない。
数か月にわたる試行錯誤の結果、私にできたことは二つ。
全身に力を入れて踏ん張ると人に認識されやすくなる。
人の目を避けるようにすーっと気配を消そうとすると、人から認識されにくくなる。
以上である。
しかも夜は見られやすく、昼間はまず認識されない、という特性がデフォルトでついてる。
そして認識されるか、認識されるにしてもどこまではっきり見えるのかは相手の、多分霊感の有無とかそういうのによる。
夜中に必死に力を入れて踏ん張ってるのにまったく私に気づかない人も、昼間に力入れてるわけでもないのに訝しげに私のいる方向に視線を向ける人もいた。
つまり、こういうことが起こる。
「お疲れっす」
「おー、お疲れ!」
日はすっかり沈み、山にほど近いここでは、工事現場から離れてしまえば街灯も家の明かりも何もない。
明るすぎる照明は逆に周囲の闇を際立たせ、少し歩けばあっという間に暗闇に飲まれてしまう。
だがもう何か月と過ごした場所だ。
慣れた足取りでサクサクと車に向かうが、そんな二人の後ろからありえないはずの声が響いた。
『よくも……』
地を這うような女の声。
ここにいるはずのない、若い女の声が。
「……ん?」
「どうした、新塚?」
二人のうち、若い男が足を止める。
思わず振り返れば――目の前。顔をのぞき込むようなすぐ前に。
首が千切れかけた、血塗れの女の顔があった。
『よくも馬鹿にしてくれたなあぁああぁぁぁ!!』
「おいおい、忘れ物か?」
「いや、なんか音が聞こえた気がしたんすけど……あ、あれだ。あっちの救急車っすわ」
「ああ。ここらは静かだから音が響くんだな。あんだけ遠くなのによー聞こえるわ」
「元々救急車のサイレンの音って遠くに響きやすい音らしいっすよ」
どーでもいい話をしつつ、二人は首の切れた血塗れの女を……私を無視してたったかと帰っていった。
『ああああああ本気で腹立たしい!! やり方わかんないけど祟るぞばかあ!!』
こーいうことがあるんだよなあ!!
私の踏ん張りで認識されやすくなったりされにくくしたりはできるが、見れるかどうかは最終的に相手の霊感次第。
向こうがいわゆる零感だと、物理干渉が一切できない私には何もできないわけで。
『うぐぐぐぐ……!』
しかしここですごすご諦めてたまるか! 目にもの見せない限り成仏なんて絶対しないぞ私は!!
七不思議だった記憶はないが、それでも今の自分がめちゃくちゃ怖いことは間違いない。怖くないなんて絶対言わせない!
それ認めたら目覚めた瞬間セルフ発狂した私がアホみたいじゃないか!!
『くそう……よく覚えてないけど普通、幽霊はもっといろんなことできると思うんだけどな……』
階段で足首つかまれたとか、線路で背中押されたとか、気づいたら首に絞められたあとのような手形がとか、そういう命的に怖い目に遭う怪談はわりと定番だ。
他にも車のフロントガラスの内側についた手形とか、タクシーに乗せた客が消えたと思ったらぐっしょり座席が濡れてるとか、物理的な痕跡が残る話も数多くある。
なのになんで私は姿を見せる、消すしかできないのか……。
世の幽霊はどうやってそんな物理干渉可能にしてるんだろう。
思いの強さだったら瓦百枚割れるぐらい強いと思うんだけどな。あとは幽霊やってる年数とか……でも記憶がないだけで何十年も廃校の七不思議やってたんだから、十分年数は長いはずだし……。
『……あ! そうだ!!』
もっかい七不思議になってやるのはどうだろう!?
そう、町中に怖い噂として広がって、聞いたあの二人が背筋を凍らすほどの恐ろしい怪談話に成れば、目的を達したと言えるんじゃないか!?
それならあの二人に直接認識されなくったって鼻を明かしてやったって言えるぞ!!
『よし! そうと決まれば……!!
今に見てろよ太陽建設の新塚と袴田ぁ!!』
絶ッッ対に最恐の七不思議になって怖がらせてやるんだからなあ!!




