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うらめしちゃんはうらめしい!  作者: 花山 花
廃校の七不思議(元)

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1. 廃校の七不思議(元)1


 気がついたら記憶がなかった。

 それはいい。そういう人もいるだろう。

 気がついたら知らない廃墟にいた。

 よくないが、それもいい。犯罪に巻き込まれた気配しかしないが、ありえないではない。

 気がついたら首が折れていた。縦軸で270度回るくらい折れていた。

 アウト。

 しかも痛くない。

 ツーアウト。

 とどめ、後でわかったことだが私の姿は基本人に見えない。しかも物に触れない。声も聞こえない。昼になると姿が薄れることがある。


 スリーアウト通り越して命が場外ホームラン!!


 完全に幽霊だった。

 不幸中の幸いなのは生前の記憶がなかったことだ。辛さがあまりない。

 記憶があったら発狂してただろう。覚えているのはせいぜい知識的な記憶と、学生だったというおぼろげな認識だけだ。

 もとから幽霊だったかな~レベルで生きてる記憶がないので、死んでいるが平然としていられる。

 が、記憶がないからこそどうしていいかわからない。


『うーん、どうしたらいいんだろうなー』


 大袈裟にため息をつけば、ちぎれかけた首がぐらりと落ちかけた。

 別に痛くはないが、視界がぶれるのでこの取れかけた首は本当にいただけない。きちんと取れてた方がなんぼかマシだった。

 ぐらついた首を直しながら見上げるのは、完成目前の立派な総合スポーツ県立うんたら、という元の高校よりも大きくて立派な建物だ。

 私が正気に戻ったときにはまだ土台程度しかなかったのに、あっという間だった。


「しかし一時はどうなるかと思いましたよ」

「幽霊が出たなんて話だけでもあれだが、まさかお偉いさんがあんな真に受けて霊能力者なんてもんまで連れてくるとは思わんかったよ」

「そっすねえ。わざわざ偉い神主さん呼んでお祓いまでしましたし」

「ま、あれ以降何事もなく終わりそうなんだ。いっそお祓いのおかげかもな! はっはっはっ!」

『ごめんなさいね、迷惑かけて! 私も起きたばっかは状況よくわかってなかったからねー!

 でもって霊能力者さんも神主さんもなんの関係もないからね!』


 私の目の前を雑談しながら歩いていく工事の兄ちゃんにそう叫ぶ。

 が、いつものように彼らは私の声には気づかず通り過ぎて行った。

 当然といえば当然で。

 昼間である今、幽霊の私の姿を見れる人はいないからだ。


 気づいた直後、私はそれはもう混乱の極みだった。

 半更地と化した見知らぬ廃墟で、半透明な虐殺死体そのものの姿で、一人取り残されていたのだから。

 意味が分からなかった。

 しかも私がどこにいるのか、何をしていたのか、そもそも誰なのか一切思い出せなかった。

 おまけに自分の見た目がまたアレだった。

 七割方寸断済みの首に、セーラー服の合間からしたたる血と臓物。スカートから伸びる右足は向いてはいけない方向に向いている。

 この状況で正気を保てる人間はまずいないと思う。


 それからの私の状態というか、行動というか、奇行は割愛する。

 正直、正気保ってられなくて混乱して喚きまわった結果が、さっきの兄ちゃんたちが言っていた幽霊話につながるわけで……。

 僅か二週間足らずで『首が千切れた女生徒の幽霊が、学校が壊されたことで恨み出てきた』という噂が工事スタッフ全員に知れ渡った事実で、私がどれだけ錯乱状態だったかおおよそ察せると思う。


 気付いてから半月かけて落ち着き、辺りの人から情報収集という至極当たり前のことにやっと気づいて。

 さらに一か月かけてようやっと幽霊であることと漠然としたルールを覚え。

 麓の街まで下りて数ヵ月えっちらおっちら虱潰しに回り、やっと現状をおおよそ理解して、こうして元居た場所に戻ってきたのだ。

 どうも私が離れてる間に霊能力者に見てもらったり、神主さんを呼んでお祓いをしてもらったらしいが、ぶっちゃけその間私はここにいなかったので何一つ関係ない。


「でも正直幽霊より、無断で工事現場に入り込んでくる連中のほうが困りましたよ」

「ああ、あれなぁ。立ち入り禁止の看板立ててるってのに、肝試しだか何だか知らんが物壊すわ現場荒らすわ、たまったもんじゃねえよ。

 警察呼んでも悪びれもしねえんだから」

「肝試しじゃなくて動画撮影じゃないですか。最近問題になってるらしいっすよ、勝手に私有地に入り込んで撮影するTチューバー。

 一番最初に警察に突き出したやつが、壊される前にネットで有名なホラースポット撮りに来たとかなんとか言ってたらしいですし」

「あー、ここにあった高校、何十年も放置されてたからなぁ。しかもこんな山よりの場所だろ?

 だいぶおどろおどろしい雰囲気で、俺が高校ぐらいのときから怪談が山ほどあったんだわ」

「え、そうだったんすか?」

「おお。いじめで死んだ男子生徒が毎晩屋上から飛び降りてるとか、夜中に三階の一番左の教室に行くと教壇の上に生首が乗っているとか。

 気づいたら増えたり減ったりしてたなぁ」

「へー」

『へえー』


 工事の兄ちゃんたちや地元の皆さんに憑いて回って調べたが、そこまではわかんなかった。

 何せ情報収集って言っても、幽霊だと盗み聞きしかできないからね!

 それでも工事現場では若干騒ぎだったのもあって、ここが生徒減少で廃校になったことと、肝試しによく使われていたことぐらいは知ることができたけど。


「現場に出たっていう女生徒の幽霊騒動も、俺が学生の時にあった七不思議を元にして、誰かが悪ふざけしたんじゃねえかと思ってるよ」

「七不思議なんてあったんですか!」

『なにそれ私聞いてないんですが!?』

「おお。さっきの教壇の上の生首もその一つだぞ。女生徒の話はあれだ。

 昔、ある女生徒が、部活だったか生徒会の仕事だかで、こっそり夜遅くまで学校に残ってたんだが、その日の晩に地震が起きた。倒れてきた本棚に足を潰されて動けなくなってしまったが、学校には誰もいないことになっているから助けなんてこない。そのうち再度大きな揺れが起きて天井から照明器具が落下し、女生徒は首が切れて死んでしまったんだ。

 で、新月の夜にくると三階の一室に明かりがついてて、その教室の前を通ると中から轟音と女生徒の助けを求める声がするっていう話があったんだわ」

『私じゃん!!』


 足つぶれてる! 首ちぎれてる! 私だ!!

 これは間違いなく私の話!!

 そうか、覚えてないけど私はここの高校の七不思議だったのか……!!


「……え、それでおしまいですか? 教室の中に入ると女生徒の代わりに首が切断されるとか、落ちないんです?」

「ないなぁ。まぁさっきの七不思議の教壇の生首だって落ちなんてないしよ。七不思議なんてそんなもんだろ。

 それに七不思議っていうが、実際には十……いや、もっとだな。十五、六は七不思議だっていう怪談があったからな。

 この女生徒の話は流行らなくて、俺が高校卒業するころには消えてった七不思議だ」


 は?


「あー、まぁ確かにふんわりした話であんま怖くはないっすね」

「だろ?」


 はあ?


「それにこの辺りで学校まで壊れるような大地震つったら津佐地震と万久良地震だが……ここ元は男子校でなぁ、共学になったのは津佐地震のあとだし、万久良地震の時にはもう廃校になってるんだわ」

「あ、じゃあ完全に作り話なんすね」

「そうそう。知ってりゃすぐ嘘だってわかるから、それもあってすぐ消えたんじゃねえかな」


 いるが!?

 首切れて足がつぶれた女生徒ここにいますが!! 

 どんな死に方したか覚えてないけど、これ地震のくだり後で勝手につけられた気がする……!

 だって足は押しつぶされたっていうより、強い衝撃が加わって骨が折れて飛び出たって感じだし、首は落下してきた照明で切れたは無理があるもん! 七割寸断済みだぞ!!


「現場で流れてた噂も怖くなかったっていうか、聞くだけで作り話っぽかったろ? 元の話がそうだったからだと思うわ」

「あー、確かに。なんかその話聞くと、あの動画撮影しに来てた連中の仕業な気がしますね」


 はああああああああ!?

 怖くない!? 作り話!?

 んなわけないだろ怖いわ!! 最初に気が付いたとき自分の姿見て恐怖のあまりガチ泣きしたんだぞ私!!

 一〇〇%事実ですけど!? 本当にあった怖い話ですけど!!

 お前らのすぐ横にその幽霊立ってますが!!


『ふざけんなこんなコケにされて黙ってると思ったら大間違いだぞ!!』


 未練も覚えてないし、もう死んでるんだし、大人しくお坊さんの枕元にでも立って成仏させてくれるよう頼もうかと思ったけど止めた!!

 新しい総合スポーツなんちゃらが完成する前に絶対! 絶対!! 一泡吹かせてやるッ!!


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