8.「vs盗賊団(1)」
「……行くぞ」
怒りでどうにかなりそうだった。
両親を殺されて、しかしそれでも健気に頑張っている幼い二人の姉妹を誘拐するとか、一体どれだけ外道なのだろうか。
「そうね」
「ハッ! 叩き潰してやるよ!」
「ファラたちに喧嘩を売ったことを後悔させてやるの!」
今日の昼前にダンジョンに潜ろうとした俺を止めたソティ、エルラ、ファラティアも、今回は俺と同様にその瞳に怒りを滲ませている。
俺たちは、一旦自分たちの屋敷に戻ると、馬車に乗り込んで出発した。
※―※―※
「「「………………」」」
道中、誰も喋らなかった。
指定された場所は、王都を出て、馬車で三十分ほど行った場所にある森の中にある。
手綱を握る俺の脳裏を過ぎるのは、一年前の悲劇だ。
※―※―※
ティジィとホルシィの姉妹は、宿屋を経営する両親のもとに生まれた。
王都内にある小ぢんまりとした宿屋で、一階にレストランが併設されており、料理もサービスも質が高く評判の宿だった。
俺たちはいつもその宿に泊まっていたのだが、一生懸命両親の手伝いをする幼い姉妹のことを、微笑ましく見ていたものだ。
「今度、パパとママとお姉ちゃんと一緒に旅行するんです! 今からすごく楽しみです!」
「そのためにも今は集中して働くのよ、ホルシィ」
「分かってるよ、お姉ちゃん! でも、お姉ちゃんも楽しみでしょ?」
「まぁ、そりゃあね」
幸せそうに笑みを浮かべる姉妹に、俺たちはほっこりした。
※―※―※
そんなある日。
いつもの二頭立ての幌馬車で俺たちが王都近くのダンジョンから戻ってくる途中、街道で盗賊に襲われている馬車を発見した。嫌な予感がした。
「まさか!?」
それは、姉妹の家族が乗った馬車だった。恐らく父親が御者を務めていたのだろう。
外に引き摺り出された家族の中で、子どもを庇ったのか、既に両親は胴体を斬られ、地面に転がされており、座り込んだ姉妹は、寄り添って恐怖に震えていた。
「お前ら! 何してるんだ!」
「頭! 冒険者っぽいのがきやした! 四名です!」
「ケッ! 野郎ども、やっちまえ!」
全部で十人の荒くれどもが襲い掛かってくる。
「ファラ! あいつ等の相手はあたいらに任せて、あんたは怪我人の治療を!」
「分かったの!」
俺たちは、返り討ちにしていった。
「ぶべばっ!」
「げぼっ!」
いつも通り、俺は幻影魔法を用い、ソティとエルラは長剣と棍棒で戦った。
「ぐぁっ! 目が!」
「頭! ヤバいですぜ! このままじゃ――」
「チッ! クソが! ずらかるぞ、てめぇら!」
丁度半分――五人殺したところで、残り五人には逃げられた。
怪我人の治療が先だと判断して、深追いはしなかった。
「ファラ! 治療は――」
目を伏せたファラティアは、黙って首を振る。
「!」
ハイポーションを使ったものの、手遅れだった。
「パパ……! ママ……! うわぁぁぁああああああん!」
ただひたすら泣きじゃくるホルシィと、自分も泣きたいだろうに、目に大粒の涙を浮かべながらも、「みんな……助けてくれて、本当にありがとう……」と気丈に頭を下げるティジィ。
両親を救えなかった悔しさで、俺たちは歯噛みした。
※―※―※
そんなことを思い出している間に、馬車は森に到着した。
馬車を近くの木に縄で固定して、そこからは徒歩で、更に一時間ほど歩いた。
「遅かったな。待ちくたびれたぜ」
森の中の広場で待ち構えていたのは、総勢三十人の盗賊だった。
腰に長剣を差した頭目らしき男が岩に座っており、その左に拘束されたティジィ、右にホルシィが、それぞれ違う部下らしき男からナイフを突き付けられている。
「ティジィ! ホルシィ! 無事か?」
「ライさん!」
「皆さん!」
憔悴した二人の顔が、ぱっと輝く。
「おっと、そこまでだ。そこから一歩たりとも近付くな。あと、武器を捨てろ。じゃねぇと、クソガキたちの命はねぇぞ。」
俺たちは大人しく従った。
「二人を解放しな」
予め用意した金貨の入った袋を、エルラが投げ付ける。
「分かってるじゃねぇか。だが、こんなはした金じゃ足りないな」
かなりの大金のはずなんだが、足元を見てくるなこいつ等……
「それにしても、馬鹿なガキどもだよな! 『姉を誘拐した。返して欲しくば、俺たちと一緒に来い』ってブラフをかましたら、妹がのこのこついてきやがってよ。姉は姉で、『妹を誘拐した。返して欲しくば、一人で来い』って言ったら、馬鹿正直に誰にも言わずに一人で来やがってよ。で、挙句の果てに『あたしはどうなっても良いから、妹を解放して』だとよ! 恐怖で涙浮かべながら必死に懇願してよ! んなもん、両方ともとっ捕まえるに決まってんのによ! そして、クソガキなんぞのために、こうしてのこのこやってきたお前たちも救いようのない馬鹿だよな! ギャハハハ!」
悪漢たちの嘲笑が森の中に響く。
必死に妹を助けようとする姉の姿に、胸が締め付けられる。
「ちょろい仕事だぜ。ガキを誘拐して正義面した冒険者どもを嬲り殺すだけであんな大金が手に入るんだからな。なんせ、前金だけで――っとまぁ、それは兎も角」
……大金で依頼?
富豪……いや、大きな組織?
……まさか……な……
っていうか、どっかで見たことあるな、アイツ……
「やっぱ良い女だな、お前らよ」
ソティたちを頭の天辺からつま先まで舐めるように見て、下卑た笑みを浮かべる頭目。
「このクソガキどもを助けたければ、俺の大事な仲間を五人も殺しやがったことと、何よりも俺の左目を貫いたことへの償いとして、まずは服を脱いでもらおう。治ってるはずなのに、疼きやがるんだよ」
あ!
そうだ、一年前、街道でティジィたちを襲い、両親を殺した盗賊の頭目だ!
新たに仲間を掻き集めたようだ。
マジかよ……
両親を目の前で殺すのみならず、今度はその娘たちを誘拐しやがったのか?
俺の中で、一気に殺意が膨れ上がる。
「くっ! 迂闊に動けないわ……」
神速と呼ばれるソティのスピードですら、この状況では流石に何も出来ない。
「やるしかないわね……」
「他に手はないからね……」
「仕方ないの……」
それ以外に手はないと分かっても、人前で――しかも、多数の男の前で肌を晒すことへの抵抗感から、ソティたちが鎧と服に掛けた手が止まる。
「あ? 何止まってんだ? さっさと脱げよ」
催促する頭目が、「ったく。しょうがねぇなぁ」と言うと、下卑た笑みを浮かべて、ティジィたちを見た。
「おい、ガキども」
「ヒッ!」
「妹を助けたいだろ? 姉を助けたいだろ? それなら、あの冒険者のお姉ちゃんたちに頼めよ。『お願いします、盗賊のお兄さんたちの言うことを聞いてください』ってな。そしたらお前たち姉妹だけは助けてやる」
その言葉に、暫く俯いた姉妹は、顔を上げると、意を決してそれぞれ口を開いた。
「みんな、お願い」
「お願いします」
「盗賊の人たちの言うことを――」
「「絶対に聞かないでください!」」
「!」
頭目が目を見開く。
「馬鹿なあたしでも、流石にもう分かった」
「この人たちは、ソティさんたちが服を脱ごうが脱ぐまいが、最終的には私たちのことも殺します」
「同じ死ぬなら、せめて一矢報いた上で死にたい!」
「どうか、パパとママの仇を取ってください!」
「ティジィ、ホルシィ……」
こめかみに血管を浮き立たせた頭目は、怒気を孕んだ声で命令を下した。
「ああ、そうかよ。じゃあ、望み通り殺してやる。野郎ども。殺せ」
「!」
ヤバい!
「「死ね!」」
「ティジィ! ホルシィ!」
部下二人が、姉妹に向かってナイフを振り下ろした。




