6.「剣姫(3)&森姫(2)&拳姫(2)(※各ヒロイン視点)」
<【超斬の剣姫】ソティ>
「お父さん! お母さん! 置いていかないで! うわぁぁああああああん!」
両親に捨てられた私は、孤児院で育った。
自分には価値が無いのだとずっと思っていた。
だって、お父さんもお母さんも、自分を見捨てたのだから。
お前には愛する価値が無いのだと、通告されたように感じていた。
生きていてはいけないのだと思っていた。
だから、元勇者のガイアさんとの出会いは衝撃的だった。
「てめぇには剣の才能がある。俺様が直々に鍛えてやる。感謝しやがれ」
信じられなかった。
私にも価値があるんだ。
生きていて良いのだと初めて思えた。
「がはっ!」
「立て! そんな斬撃じゃゴブリンも斬れねぇぞ!」
「……はい!」
木刀で一合打ち合っただけで吹っ飛ばされた私は、歯を食い縛り立ち上がる。
虐待だと非難する人もいたけど、私は気にしなかった。
生傷は絶えなかったが、そんなことよりも、こんな私にも価値があるのだと思えることが、堪らなく嬉しかった。
「俺様は一年しか教えられねぇんだから、その間に死ぬ気で強くなれ!」
国からの命令で、ガイアさんは弟子に対して一年しか修行をつけてあげられないらしい。
それは、相手が次期勇者であろうが、それ以外の者であろうが変わりなかった。
何故そんなことを国は命じるのだろうか?
一年以上指導すると何か困るのだろうか?
※―※―※
「今日で終わりだ。じゃあな。正直まだまだだが、ちっとは使えるようになったじゃねぇか」
「師匠! 一年間、本当にありがとうございました!」
「だからその呼び方やめろって言ってんだろうが」
一年後、ガイアさんはどこかへ去っていった。
※―※―※
その後、数年掛けて私は自己研鑽を続けて、冒険者になった
エルラ・ファラティアと共に結成した冒険者パーティの銀閃の焔という名前は、私の長剣とファラティアの炎を指している。
最年長でリーダーでもあるエルラの棍棒を示唆する何かも入れた方が良いと思うと言ったのだが、彼女は首を横に振った。
「ハッ! おしめが取れたばかりの年齢で何気遣ってんのさ? あたいがこれが良いって言ってんだ。それで良いじゃないか」
エルラってば、一体いくつなのかしら……
※―※―※
銀閃の焔結成から半年後。
F級からC級パーティへととんとん拍子で成長していた頃。
私はライ君と出会った。
正直、最初は良い印象では無かった。
だって、それまでに絡んできた男たちが、どうしようもなく軽薄で、チャラチャラしていたからだ。
すぐ口説こうとするし、身体に触ろうとするし、二人きりになろうとするし、酒で酔わせようとするし、宿屋に連れ込もうとするし、それどころか人気のない場所に連れ込もうとする奴すらいたし。
出会った当初のライ君は鼻の下を伸ばしていたから、それまで遭遇した輩と同類だと思ってしまったのだ。
しかも、ライ君は弱かった。
良いところなしで、これは直ぐに音を上げるだろうなと思った。
でも、違った。
一体どれだけ酷使したのか、信じられない程ボロボロの銅剣を持った黒髪少年は、決して諦めなかった。
「どうしてそこまで……」
いつしか私たちは、彼の異常なまでの執念に絆されていた。
「ぐはっ!」
「!」
そんなライ君は、ほどなくして戦闘時に私たちを庇い始めた。
腕を斬り落とされようが、胴体を貫かれようが、気にしない。
モンスターの一撃を食らいそうになった瞬間、私たちの瞳には彼の背中が映るのだ。
と同時に飛び散る血飛沫、悲鳴、糸が切れた操り人形のように崩れ落ちる身体に、思わず手を差し伸べたくなる気持ちをぐっと堪える。
彼の想いを無駄にしないために、私たちは歯を食い縛りながら、攻撃終わりの隙を突いてモンスターを倒す。
「そういうの、やめて」
必死に止めたが、彼は聞く耳を持たなかった。
それどころか、それまで以上に私たちを庇うようになった。
気付けば、文字通り命懸けで私たちを守ろうとするライ君の姿に、私は胸が締め付けられるようになっていた。
彼の存在は、私の中で日に日に大きくなっていった。
そして、あの日。
ブラックドラゴン戦で私たちを庇った彼は、闇炎のドラゴンブレスで四肢を焼失、臓物が外に飛び出し、まだ死んでいないのが不思議なくらいだった。
「……みんな……無事か……?」
「!」
信じられないことに、そんな状態で彼は、私たちの安否を気遣った。
「……ええ、無事よ! 貴方のおかげよ、ライ君!」
出会った当初、彼のことを弱いだなんて馬鹿にしていた自分が情けなかった。
彼は、強い。誰よりも。
弱いのは、私の方だ。
せっかくガイアさん(師匠)が私の才能を見出し、貴重な時間を使って修行をつけてくれたのに、私は仲間に守られるばかりだ。
もっと強くなりたい。
いや、なるんだ。絶対に。
そして、もう一つ心に固く誓ったことがあった。
これからは、私がライ君の力になるのだ。
命を賭してでも。
私たちのために何か不思議な力で戦ってくれているライ君を守るために。
ブラックドラゴンの闇炎のドラゴンブレスを掻き消して、まるで状態異常の如く奴の動きを封じて、私たちの攻撃力を異常に高めて必殺の一撃を可能にさせる。
そんな不思議な力を使い、身体に負荷が掛かり過ぎて、くしゃみをする度に、目・鼻・口から、血液が溢れ出す、そんな彼を守るのだ。
※―※―※
<【撃滅の森姫】エルラ>
あたいは、三十年前、国家により、勇者ガイアの冒険者パーティメンバーに選ばれた。
「ハッ! あたいを選ぶとは、国も分かってるじゃないか!」
あたいは、ハイエルフ一族の中で史上初の棍棒使いだった。
魔法に長けたエルフの中でもその寿命の長さと類稀な魔力量、それに多彩且つ強大な魔法の数々で特別視されるハイエルフにもかかわらず、魔法が一切使えなかったあたいだけど、実は弓矢すらも扱えなかった。
次第に居辛くなったあたいは、エルフの里を飛び出して、唯一の長所である恵まれた膂力を活かして王都にて冒険者登録をしたばかりだった。
まさか選ばれるだなんて!
近接戦闘に一条の活路を見出したあたいの選択は間違っていなかった!
勇者パーティメンバーに選ばれて有頂天になっていたあたいは、そんな風に考えていた。
「クソっ! 何で当たんないんだい!?」
しかし、あたいは直ぐに身の程を知ることとなった。
どれだけ棍棒を振り回しても、叩きつけても、敵に当たらないのだ。
数ヶ月経った頃には、流石のあたいも、薄々感付いていた。
「国があたいを選んだのは、腕を見込んでじゃない。むしろ、その逆だ……」
あたいが弱いから、勇者パーティに加入させたのだ。
そこから導き出される結論は一つ。
「どうやら、国王たちは、魔王を倒して欲しくないようだね……」
結局、勇者ガイアたちとパーティを組んでいる間、あたいは一度もモンスターに棍棒を当てることが出来なかった。
馬鹿にされても仕方なかったと思うが、ガイアは決してそんなことはしなかった。
「てめぇは、右斜め上から左斜め下へ攻撃する癖がある。別にそれは良いんだが、恐らく力み過ぎなんだろう。そのせいで、モンスターからずれた地点に棍棒が叩きつけられることになっている。斜めの軌道で攻撃することなんざ良くあるが、てめぇはまずは、真上から真下に叩きつけることだけ意識して練習してみろ」
あたいは必死に訓練した。
すると、少しずつ、本当にほんの少しだけだけど、改善されていった。
結局、最後まで攻撃を成功させることは出来なかったけど、当時の改善があったからこそ、その後三十年の自己研鑽により、あたいは百発百中の精度で攻撃出来るようになったのだ。
それに、ガイアはこうも言ってくれた。
「てめぇが派手に攻撃するから、モンスターがそっちに気を取られたり、ビビったり、または回避行動を取ろうとして、それが隙になって俺様たちが攻撃しやすくなる。だから、てめぇはちゃんとパーティに貢献出来てんだよ。攻撃が当たっていようがいなかろうが、関係なく、な」
それがどれだけ救いになったことか。
その後、勇者パーティは解散した。
結論から言うと、魔王討伐は出来なかった。
魔王の幹部を倒した直後に、通信魔導具を通じて一報が入ったからだ。
ガイアの許嫁が、冒険者崩れどもに殺されたと。
警護を頼んでいた彼の親友である凄腕の冒険者と共に。
「……やってくれたな……」
あの時の怒りと悲しみが滲み出たガイアの顔は、一生忘れられないだろう。
その後、あたいは冒険者として生活費を稼ぎつつ、三十年間、一人で修行し続けた。
そして、人間の少女剣士と炎の精霊の血を受け継ぐ少女魔拳士と出会い、冒険者パーティを組んだ。
最年長のあたいは、リーダーになった。
それは、今度こそパーティに貢献するという、あたいなりの覚悟だった。
自己研鑽の甲斐あって、あたいの攻撃は必ずモンスターにクリーンヒットした。仲間たちから厚い信頼を得ることが出来た。
嬉しかった。本当に嬉しかった。
気を抜くと涙ぐんでしまう程に。
だけど、それから半年後、ライと出会った際には、初心を忘れて、調子に乗ってしまっていた。
確かに、それまでチャラチャラした男どもに言い寄られてうんざりしていたのは事実だけど、そんなことだけで、あんなに冷たく接してしまうだなんて。
ライは弱い、見込みがないのだと、突き放してしまった。
あたいがどれだけお荷物でも、ガイアは一言も責めなかったのに……
ライがあたいらを命懸けで庇い始めて、あたいは動揺した。
どれだけ止めても、ライにとって仲間とは余程大切なものらしく、彼は決して行動を変えなかった。
そして、ブラックドラゴンとの一戦。
致命傷を受けてもなおあたいらを気に掛ける彼に、あたいは心を奪われた。
「ライ。これからはあたいが守るからね。この命に替えても。それと、必要ならいくらでもあたいの肉を食わせてやるからね」
※―※―※
<【炎精の拳姫】ファラティア>
「残念だったな。もっと体格に恵まれていたら良かったのにな」
ファラが周囲から何回も言われた言葉なの。
ファラは、王都にある武闘家育成で有名な道場の門下生だったの。
生まれてからずっと身体が小さかったファラは、大きくなればなるほど、周りの子たちとの格差が目立っていったの。
でも、ファラは気にしなかったの。
だって、その道場のレイガ師匠は、ファラと同じように小柄だったけど、常軌を逸する努力で強くなった人だったの!
どのくらい強くなったかって?
それはもう、三十年前に、勇者パーティメンバーに選ばれるくらいに!
あ、でも、師匠が言うには、選ばれた時はまだ弱かったみたいだけど、そこから努力を積み重ねてめちゃくちゃ強くなったみたいなの! 国は人を見る目があるの!
「師匠! ファラは、師匠に憧れて道場に入ったの! 師匠みたいになりたいの!」
「かっかっか。そっかそっか、俺っちに憧れたか。じゃあ、鍛錬に励めよ」
「うん!」
嬉しくなって、ファラは必死に努力したの。
厳しい稽古に必死に食らいついていったの。
数年後。
「大分強くなったはずなの!」
そう思っていたんだけど。
「……がはっ! ……なんで……なの……?」
ファラよりも弱かったはずの同期の子に、模擬戦で負けたの。
「ごめんね、ファラ。でも、ファラは小さいからさ。ファラの拳が届く前に、あたしの攻撃があんたに当たっちゃうんだよ」
「!」
単純で明快な理由だったの。
その子は、いつの間にかファラとは比べ物にならない程身長が伸びていたの。
武闘家にとって、リーチの差は、そのまま戦闘力の差になり得るの。
例外は、スピードで上回れた場合、もしくは膂力で凌駕出来た時、または技術で圧倒出来た時のみ。
でも、どれだけ筋トレしても、ファラの俊敏性は全然高まらなくて、力も増加しなかったの。
必死に型を練習して、組み手もして、模擬戦も行って、居残りで訓練して、家でも自主練習したけど、技術も一向に向上しなかったの。
「――ッ! それでもッ!」
ファラは諦めなかったの。
正拳突きを何千、何万、何十万回と繰り返したの。
「かっかっか。頑張ってるな。その調子だ。俺っちは見てっからよ」
師匠はそう言ってくれたけど、どれだけ鍛錬を積んでも、ファラは全く強くなれなかったの。
「……ううっ……ダメダメ! こんなことで泣いてたら、師匠に笑われるの! さぁ、さっさと筋トレの続きをやって、その後は正拳突きをするの!」
溢れる涙を拭い、ファラは訓練に没頭したの。
どれだけ積み重ねても、何も変わらず。
「まだやってんの? クスクス」
「何? ドMなの? キャハハ」
そんな風に周囲から罵倒されても、歯を食い縛って拳を突き続けたの。
そしたら、ある日。
「え?」
ファラの中の血が目覚めたの。
炎の精霊の血が。
魔法なんて使えなかったファラが、拳を炎に変えるという唯一無二のやり方で、強力な炎を飛ばせるようになったの。
正直、戸惑ったの。
じゃあ、今までの武闘家になろうとして積み重ねてきた努力は何だったの!? って。
でも、師匠の言葉で吹っ切れたの。
「かっかっか! 良いじゃないか。強さなんつーのは、人それぞれだ。努力の末に獲得した強さが思い描いていたものと違ってようが、それはお前の行動の結果に違いない。存分に使えば良い。〝魔拳士〟としてな」
「!」
ファラは、決めたの。
「師匠! 今までありがとうございました! これからは冒険者として、実戦で技を窮めていくの!」
「そっかそっか。頑張れよ! かっかっか」
師匠は、笑いながらファラの頭を撫でてくれたの。
その後、ファラはソティとエルラと出会って冒険者パーティを組んだの。
そして、ライライと運命の出会いをしたの。
命懸けでファラのことを守ってくれる。
ライライは、ファラにとって王子さまなの!
今度は、ファラがライライを守るの!
「邪魔する者は何人たりとも許さないの! 全て燃やし尽くしてやるの! それと、ライライにはファラの血を飲んでもらうの!」
※―※―※
ブラックドラゴンを倒した日の晩、俺は夢を見た。
「姉ちゃん! 姉ちゃん!! あああああああああああああああ!!」
姉が殺されるという悪夢だった。
現代日本の姉は、家に侵入した強盗によってまだ幼い俺が襲われそうになったところを、庇って、代わりに殺された。
この異世界では、モンスターに襲われそうになった俺を姉が庇って、代わりに生きたまま喰われた。
目が覚めると、まだ暗かった。
頬に手を当てる。
どうやら俺は、泣いていたらしい。
が、特に気にしなかった。
「ま、でも、ただの夢だから、そんな気にすることはないか。だって、現代日本の姉も、この異世界の姉も、変わらず元気にしてるんだから」
と、その時。
「ん?」
ブンッ、とステータスウィンドウが表示されて、俺は首を傾げた。
「ステータスウィンドウでも、誤字脱字ってあるんだな」
固有スキル欄の【ゲンジュツ】という文字が【ゲンジツ】へと変化しているのを見て、俺はそんな風に呟き、また眠りに落ちた。
※―※―※
翌朝。
俺たちは、行きつけのレストランへと向かった。
「あ、ライさん! いらっしゃいませ!」
「おはよう、ホルシィ」
ここは、以前銀閃の焔が泊まっていた宿屋に併設された店だ。
家族運営だったのだが、両親が盗賊団に殺されてしまったため、宿屋は休業した。
が、まだ幼い姉妹がレストラン経営のみを直ぐに再開。
一年経った現在。
十二歳と十歳の彼女たちの運営するこのレストランは、最初こそ両親を失ったことに対する同情でしか客が来店しなかったが、今ではその美味な料理と質の良い接客によって心を掴まれてリピートしている。
「こちらへどうぞ」
スマートに俺たちを最奥の一番落ち着くテーブルへと案内してくれた緑髪ツーサイドアップの少女が、ホルシィだ。彼女は給仕を担当している。
「みんな、いらっしゃい」
「いつも悪いね、ティジィ」
「いえいえ! あたしらも助かるよ! では、ごゆっくり」
厨房から顔を出してすぐ踵を返し、肩越しにひらひらと手を振りながら戻っていった緑髪サイドテールの少女がティジィ。料理担当だ。
本当はこの店は昼食・夕食のみで、今は仕込みの時間なのだが、無理を言って俺たちだけは朝食も食べさせてもらっている。「一組くらいなら大丈夫だよ!」と言ってくれたので、甘えているのだ。
「相変わらず美味い」
「本当に美味しいわ!」
「ハッ! 王都一なんじゃないかい?」
「ほっぺた落ちるの!」
「あはは。みんな、ありがとうね! 嬉しいよ!」
「えへへ。そうなんです! お姉ちゃんの料理は世界一なんです♪」
両親の手伝いを真剣にしていたことと、姉妹のみでの経営開始後もずっと自己研鑽を欠かさなかったことで、ティジィの料理は、多彩かつ繊細な味わいへと到達しておりで、今日も俺たちは舌鼓を打ち、満足して店を後にした。
A級ダンジョンでのブラックドラゴンとの戦闘とその顛末を報告するために冒険者ギルドに顔を出すと。
「銀閃の焔の皆さんですね。お待ちしておりました。どうぞ、ギルド長室へとお越しください」
女性職員が一人やってきて、俺たちを先導してくれた。
三年も冒険者として活動しているので、ギルド長と会ったことは勿論ある。
けど、こういうことは珍しい。
一体何の用だろう?
首を捻りながらギルド長室に入ると、立派な髭を蓄えた筋骨隆々で元凄腕冒険者である中年男性が、奥にある上等な机の向こう側に座っていた。
「おお、来たか。ダンジョンボスを倒した直後に悪いな」
あれ? ダンジョンボスを倒した?
まだ仲間以外の誰にも話していないはずだけど。
どうやって知ったんだろう?
立ち上がり、右側にある一組の高級なソファの奥側に座った彼は、俺たちに手前側のソファを勧めた。
「で、何の用だい?」
リーダーのエルラが問い掛けると、ギルド長は笑みを浮かべて言った。
「お前たちがブラックドラゴンと会敵したことと倒したことを、黙っていてくれないか?」
「!?」




