21.「決戦」
闇の精霊の出現により太陽が隠れ、夜が訪れた。
「グオオオオオオオオッ!」
まるでブラックホールのように大量のモンスターの死骸を次々と吸い込んでいき、大空を飛ぶ鳥たちも、雲すらも吸い込んでいく闇の精霊。
このままだとマズい!
でも、どうしたら……!?
「何もかも吸い込んじゃうつもり!?」
「ハッ! 洒落になんないね……」
何もかも?
……もしかしたら……!
「『ファントム』」
幻影魔法発動。
「これは!?」
「ハッ! 何故か分かるよ。今なら、炎を飛ばせるってね」
ソティとエルラがその手に掲げる炎剣と炎棍棒の炎が膨れ上がる。
「すごいの! 魔力が溢れてくるの!」
と同時に、ファラティアの身体が光り輝く。
「みんな、アイツに、ありったけの炎を飛ばしてくれ!」
俺の声に、仲間たちが頷く。
「やああああ! 『ライ君のためなら内臓全部売ってお金稼ぐわファイアあああああ!』」
「おらあああ! 『ライにあたいの肉を食べさせて永遠に一緒になるフレイムうううううう!』」
「たああああ! 『身体に噛み付いてもらってライライにファラの血を直接飲んでもらうのブレイズうううううううう!』」
「いや、みんなヤンデレっぽい必殺技名やめてね!? あと、ファラ! お前はさっき、『無限猛炎』っていうちゃんとした技名叫んでたろうが! それと、百歩譲って血を飲むにしても、女の身体に噛み付いたりはしねぇよ! いや、男でもしないけどな!」
炎剣・炎棍棒・そして炎と化した全身からそれぞれ大量の炎を飛ばす三人。
「グオオオオオオオオッ!」
この広大な荒野ですら燃やし尽くせる程の猛炎だが、闇の精霊は余裕といった感じでそれら全てを吸い込んでいく。
「まだまだああああ!」
「ハッ! ここからが本番さ!」
「ファラの愛はこんなもんじゃないの!」
仲間たちは吸い込まれないように踏ん張り、歯を食い縛りながら炎を飛ばし続ける。
けど、それでもまだ足りない!
それなら!
「『ファントム』」
俺は、闇の精霊が体内に吸い込んだ炎の量を、格段に増加させる。
百倍、千倍、一万倍、十万倍、百万倍、一千万倍。
一億倍、十億倍、百億倍、千億倍。
一兆倍。十兆倍。百兆倍。そして――
「千兆、倍! だああああああああああああ!!!」
「グギャアアアアッ!?」
苦し気な呻き声と共に、闇の精霊の体内から炎が噴き出す。
「グオオッ!」
彼は、何かを外に排出した。
恐らく本体だ!
「『ファントム』」
力の大部分を失い地面に転がる人型の闇を、再び膨張しないようにと、俺は幻影魔法で押さえこんだ。
と同時に、最初の巨大な闇の方は、炎と共に霧散する。
膝をつく闇の精霊。
「……闇の精霊だな?」
歩み寄る俺に、闇の身体を持つ彼はふらりと立ち上がった。
端整な顔立ちの青年は、僕に頭を下げる。
「ありがとう。助かったよ、少年」
顔を上げたと同時に、闇の精霊は俯き、虚ろな目で早口で呟き始めた。
「それにしても僕は何でこんなにダメダメなんだろうかいつだって僕はみんなに迷惑を掛けることしか出来ない何でこんな僕が精霊として生まれて来てしまったんだろう他の誰かならもっと上手く出来ただろうに僕は精霊失格だ」
ちょっ!
闇が膨れ上がってる! また暴走しそうになってるって!
「ストップ!」
俺は彼の顔をガシッと掴むと、その両目を真っすぐ見詰めた。
「自信持て! お前は立派な精霊だ! 俺が使った魔法は、相手にそう思わせるだけで、実体を持たない。単なる補助なんだよ! にもかかわらず、お前はちゃんと元に戻った! お前の力だ! だから自信持って良いんだよ!」
「!」
目を見張る闇の精霊。
「ありがとう……そんな風に言ってもらえるだなんて……。ちょっとだけ自信が持てたよ。こんな僕でも生きていて良いんだって思えた」
いや、どんだけネガティブなんだよ!
「それにしても、君……すごく優しいよね。それに、格好良い……」
ん?
気のせいだろうか。
彼の視線が、熱を帯びているような……
「ライ。君のこと、好きになっちゃいそう……」
気のせいじゃなかった!
そこに、ソティたちが電光石火の速さで反応する。
「それはダメ!」
「ハッ! 流石にそれは看過できないねぇ」
「ライライはファラの王子さまなの!」
闇の精霊は、小首を傾げると、「ああ、この見た目だからか」と、はたと手を打つ。
「心配しないで。僕ら精霊は本来性別なんか無いからね。ほら、この通り。これなら、僕がライのことを好きになっても良いかな?」
闇の精霊が、絶世の美女へと姿を変えた。
「「「もっとダメえええええ!!!」」」
ソティたち三人の絶叫が荒野に響いた。
※―※―※
「またね。僕の大好きなライ」
その後、闇の精霊は胸の前で小さく手を振りながら微笑み、姿を消した。
絶世の美女の姿のままで。
俺に対する闇の精霊の好意に対して、ソティたちはずっと渋っていたが、
「そうかそうだよね僕なんかがライのことを好きになったら迷惑だよねうん分かってた分かってたよじゃあこの恋心は僕の胸中だけにしまっておくね一生僕は君への想いを隠しながらひっそりと誰にも気付かれずに生きていくから」
と、またもや彼――否、彼女の闇が膨張し始めたので、渋々許可したのだ。
「妾が頼むまでもなく、闇の精霊を救ってくれるとはのう。感謝するのじゃ」
そこに、炎の精霊が現れた。
「お祖母ちゃん!」
「ああ! 可愛い可愛い我が孫娘よ!」
早速ファラティアを抱き締める炎の精霊。
二人とも身体が炎だから、炎と炎が絡み合う幻想的な光景が繰り広げられる。
あ。とか思ってたら、ファラティアが元の姿に戻った。
「ずっと見てたのか?」
俺の問いに、ファラティアの頭を撫でながら、炎の精霊が首肯する。
「そうじゃ。そろそろじゃろうか、と思ってのう」
「そろそろ? 俺たちが闇の精霊を押さえこんで元に戻すのがってことか?」
と、その時。
あ……れ……?
身体がふらついた俺は。
「ぶえええええっくしょんッ!」
盛大にくしゃみをした後、周囲に大量の唾を撒き散らし、倒れた。




