14.「S級殺しの正体」
「じゃあな。せいぜい死なねぇようにな」
「師匠! ありがとうございました!」
ソティがガイアと握手を交わす。
「そうそう。エルラ。一応てめぇにだけは伝えておいてやる」
去り際、そう言った彼は、エルラに何かを耳打ちした。
目を見開くエルラ。
「じゃあな」
去り行く後姿を見送った。
……って、え?
荒野のど真ん中なのに!?
徒歩で帰るの!?
……元勇者、恐るべし……!
「あいつは、家族と許嫁を人質に取られていたのさ。国家にね」
「!」
唐突にエルラが告げる事実に、俺は耳を疑った。
「魔王討伐をするな、魔王軍の幹部も殺すなと国に警告されていたが、あいつは言うことを聞かなかった。許嫁の警護を親友に頼んで、自分は魔王討伐の旅を続けた。魔王軍幹部を倒した直後、あいつの許嫁は殺された。親友と共にね」
エルラが言うには、国は、魔王がいてくれるお陰で、国民に重税を課すことが出来た。魔王と戦うためには大金が必要なのだ、という大義名分によって。
また、汚職や不祥事など内政の不満から目を背けさせるための手段として、魔王軍という分かりやすい外部の敵はこれ以上ない程に適任だった。
実際、それによって、国に対する暴動やクーデターを防いできたらしい。
否、実際には国に対する不満が限界に近付き、反乱が起こりそうになったことも何度かあったようだ。
しかしその度に、ちょうどタイミング良く魔王軍が街を襲い、それどころでは無くなり、そこに国軍が駆け付けて助ける、ということが繰り返されてきたようだ。
「許嫁を暗殺された後、あいつは歯を食い縛り、憤怒を必死に抑え込んで、国家の脅しに屈した。全ては、あいつの家族――両親のためだった」
「だが」と、エルラが言葉を継ぐ。
「あれから三十年が経ち、その両親が老衰で死んだらしい」
「!」
それって、国家がガイアさんに対して持っていた切り札が無くなったってことじゃないか! 復讐を防ぐための唯一のカードが!
「じゃあ、これから王都に戻ったガイアさんは、まさか――」
俺が言わんとすることに気付き、仲間たちが言葉を無くす。
「師匠……」
エルラが、「あたいらは余計なことを考えず、魔王討伐に集中しよう」と、静かに、しかし決意を新たに言葉を紡ぎ、俺たちは頷いた。
※―※―※
その後、いつもの四人になった俺たちは、ディアルーズ帝国への旅を続けた。
俺が御者を行い、俺の膝の上にはファラティア、左にはソティ、そして右にエルラが座っている。
エルラ曰く、現勇者は二十歳で、ガイアさんとは違い、最初から国に従っているらしい。というか、脅す必要もない程に、彼は首脳たちと馬が合うとのことだ。
彼は基本的にディアルーズ帝国帝都を拠点としているとのことだ。
「って、え? 国家ぐるみの陰謀って言うから、うちのシュルデバーグ王国だけかと思ったら、他国もなのか?」
「ああ。ディアルーズ帝国も、ローゼヴァウス皇国もさ。ルティレマノ王国だけは違うみたいだけどね」
我が国と東国と南国、三ヶ国ぐるみだなんて!
南東の隣国であり、三ヶ国に囲まれているルティレマノ王国だけは例外で良かった。あそこは、国王も王女も高潔だって噂だしな。
あの国は、炎の精霊を始めとする精霊たちが住む大森林があることもあって、特別視されがちだけど、そもそも王族たちの人間性が全然違うんだな。
「それにしても、モンスターを庇うどころか、利用するだなんて……王族――どころか、人間の風上にも置けないな。まぁ、もしかしたら既に数百年前からこんなことがずっと起こり続けてきた、とかかもしれないから、今更なのかもしれないけど」
遣る瀬無い思いで俺がポツリと呟くと、仲間たちが目をパチクリさせた。
「何言ってるの、ライ君?」
「へ?」
「ハッ! 数百年前にはまだモンスターはいなかったってことさ」
「え? そうなの!?」
「モンスターが出現し始めたのは、六十年前からなの」
「!?」
そんな最近!?
「何がきっかけだったんだ!?」
「さぁ……よく分からないけど、闇の精霊が自身の力を制御し切れずに暴走したのが百年前で、それが関係しているって言う専門家もいるわ。ちなみに、闇の精霊はそんな自分自身にショックを受けて、それ以来ずっと、巨大な岩山の中に閉じこもっているみたい。他者を傷付けないようにって。優しいわよね」
いや、だとしても、それは百年前だろ?
六十年前だと、四十年もタイムラグがある。
一体何が……!?
思考を重ねつつ、走り続けていると。
「!」
道のど真ん中に突如全身ローブ且つフードで顔を隠した人物が出現。
慌てて手綱を引いて、ウマ子とウマ美に止まってもらう。
「この雰囲気……S級殺し!?」
「先手必勝なの! たああああ!」
俺の膝を蹴ってファラティアが跳躍、空中に舞い上がると同時に、炎に変化させた拳で殴打を繰り返し、幾多の火炎を飛ばす。
「ふん」
S級殺しがその場で腰を落とし、連続で正拳突きを繰り出すと、衝撃波が生じ、ファラティアの炎を全て掻き消した。
「……嘘……なの……!」
「今のは……!」
ファラティアが目を見開きながら地面に着地、エルラも思わず声を上げる。
全員御者台から飛び降りた後、エルラは確信を持って訊ねた。
「そんなことが出来るのはこの世に一人しかいない。あんたなんだろ、レイガ?」
深く息を吐いたS級殺しは、フードを上げた。
「かっかっか! 見破られちまうとはなっ。俺っちとしたことが」
「まさかとは思ったけど……本当に師匠なの……!」
その下から現れたのは、元勇者パーティメンバーでありファラティアの師だった。




