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9.麺を喰らわば汁まで②

アクセスありがとうございます。

今日は少し短めですが、よろしくお願いします。

 アパートに入居した初日、死神が駅まで遠いと言っていたが、確かに歩きだと時間がかかる。

 途中、後ろから颯爽と自転車が追い抜かしていくのを見ながら、自転車買ってもらうのもアリかなぁと思ってしまう。


 ───ダメだよ、さすがにあと半年もないのにもったいないし、処分するのも面倒かけちゃうし、それに自転車乗ったことないじゃない。


「そうなんだけど⋯⋯練習すれば乗れるかもしれないし、買ったら死神さんも乗るかもしれないし」


 死神が必死に自転車を漕いでいる図を想像して───うん、ないなと思った。

 まぁ普段行くスーパー程度なら自転車もいらないし、こうしてたまの遠出なら歩けばいい、それができない距離ならタクシーという手もある。


 時間は少しかかったが、無事に駅へ着いた。食後の運動としてちょうど良かったと思うことにしよう。

 彼女はふぅ~っと息をついて改札の脇に立ち、そこを通り過ぎる人たちを観察する。

 特に切符を入れたりタッチしている様子はない、死神から渡されているデビットカードさえ持っていれば、あそこを通れるはずだ。前に死神と電車に乗ったときも、彼は特に何もしていなかったと思う。

 通れなくて改札がガシャンと閉まったらヤダな、恥ずかしいな⋯⋯ビクビクしながら、改札を通る。

 結局何事もなく無事通過できた。胸を撫で下ろしながらホームへ行き、2本ある線路のうち上りの電車がホームに入ってくるのを確認して。


「良かった⋯⋯今のところ順調」


 電車に揺られ、車窓から外を眺めながら。

 彼女はまた1つ、1人で出来ることが増えたと喜んだ。



「うわぁ〜、人がいっぱい」


 平日午後の早い時間だというのに、何処からこの人たちはどこから来たのだろうか。みんな学校は、会社はどうした?

 まぁ彼女だってそうなのだが。

 まだオープンしたての商業施設とはこういうものなのかと感心しながら、彼女は人の波に乗り店内を巡る。どこの店舗もオープニングセールだの開店記念フェアだのお得に買えるということで、人集りができている。

 これは百合子(オリジナル)も彼女自身も体験したことないことだ。本物のお嬢様の百合子はこんな混雑するようなセールには行かなかったし、彼女もまた然り。

 しかし人混みの中で自分の見たい店や商品を見るのは大変だが、なかなかこれは楽しいしテンション上がる。店員が側に来ないので気を使わないし、自分のペースで好き勝手商品を見ることができる。

 彼女も気になる服を何着かキープして試着室の列に並び、気に入ったものを購入していく。


「買い物って楽しぃ〜!」


 ネットの通販も楽だし種類もたくさんあるが、やはり手にとって実際に見て触って着てみるのは格別だ。そして本当に気に入ったものが買えるし、思っていたのと違ったということもない。

 彼女は今日、夏向けのプチプラなトップスとボトムスを何着か買った。ショップバッグを何個も持つのも気分が良いもんだなと誇らしく闊歩し、さて次はどの店に行ってみようかなと思っていると、館内放送で夕刻を報せるアナウンスが入った。


「もうそんな時間か⋯⋯」


 そういえばなんとなく客の流れは出口に向かっているような。

 いつもなら彼女も夕飯の支度を始める頃だが、今日はしなくていい。死神が夕飯に帰ってこないから、彼女は夕飯にラーメンを食べるから。

 放送は「このあともお買い物をお楽しみください」と言っているが、そろそろラーメンを食べに行こう。夕飯にはまだ早いが、遅くなると混むかもしれないと、彼女は今日1番の目的に移ることにした。


 飲食店街はまた別の階にあるようだ、順番にエスカレーターに乗っていると、見覚えのある屋号を掲げた店舗があった。


 ───あそこのお店、好きだったな。


 百合子(オリジナル)お気に入りのセレクトショップ。男女問わず色々なブランドの服や服飾雑貨が揃っていた。バイヤーのセンスだろうか、ブランドを越えたコーディネートが最高に良くて、大学生のときに友だちに教えてもらって以来、何度足を運んだことか。

 昔はちょっと高級志向な百貨店にしか入っていなかったが、今はこういう商業施設にも入っているのか。他の店よりも価格が高めなせいか、それとも時間帯のせいか、今の客の入りは少なそうだ。


 ───ちょっと見たいな。


「ううん⋯⋯今の私には必要ないよ。見たら欲しくなっちゃうかもしれないし」


 居候の身で衣食住すべてお金を出してもらっているのに、さすがに服1着で今日買ったものの合計を軽く超えてしまうだけの額は、気が引けてしまう。


 ───でも、あの服とか⋯⋯死神さん似合いそう。


 彼女は頭の中で、ウインドウの男女のマネキンが着ている服を死神と自分に置き換える。ペアルックとまではいかないけど、さりげなくお揃い感があって、すごく良い。あれを着てデートとか⋯⋯

 そこまで考えて、彼女は頭を横に振る。


「死神さんにとって、私はただ拾った仔犬とか仔猫とか。そんなもんだよね」


 エスカレーターは次の階に着き、もうあのショップは見えなくなった。

 死神は服にこだわりあるのかないのか───いつも黒系統の服を着ているが、どれも微妙にダサ⋯⋯うっ、ううんっ、古くさ⋯⋯もといレトロというか。

 あのショップほど高い店じゃなくても、イマドキのカッコいい服を売っている店はいっぱいあるということを、今日この商業施設に来て彼女は知った。

 いつか一緒に服を買いに行けるといいなと、彼女の中でその話は一旦終わりにして。


 そして今彼女の目の前にあるのは───


「わぁああぁ⋯⋯」


 元祖◯系ラーメン!

 店の外にまで濃厚なスープとニンニクのパンチの効いた香りが漂ってくる。

 3時のおやつを抜いた甲斐があった、彼女の胃はこのラーメンを迎え討つ覚悟が出来ている。


「まぁプリン食べたけど⋯⋯あれはお昼のデザートだったし」


 テヘヘと言い訳しつつ。

 いざっ、出陣!

 彼女が暖簾をくぐると、店員たちの「ぃらっしゃいっせー」という威勢の良い声が聞こえてくる。

 まだ夕飯時には早いというのに、満席に近い。しかし運良くカウンター席が空いていたらしく、直ぐに案内された。

 目の前では店員が茹でたての麺をまるでパフォーマンスのように湯切りし、スープから芳醇な湯気の出る丼ぶりに入れ、手際よくトッピングを載せていく。

 それを最後まで堪能してから、見てる場合じゃなかったと彼女は備え付けのタブレットを手に取る。

 味は豚骨醤油か豚骨味噌のみ、麺の硬さとニンニク、脂の量を選んで、トッピングはそれぞれ値段が付いているので自分の好きなようにカスタマイズするようだ。

 彼女は豚骨醤油を麺の硬さニンニクと脂の量は普通、味付け玉子とチャーシュー、もやし炒めをトッピングに選んだ。

 そして数分後。

 やたらガタイの良い兄ちゃんがにこやかに彼女の前にドンッと丼ぶりを置いた。


「へ〜いお待ちっ! お姉さん勇気あるね!!」

「あ、ありがとうございます───おいしそ〜!」


 こんな魅力的なものを前に、何が勇気だかわからないが。

 沸き上がる湯気を肺いっぱいに吸い込み、割り箸をパキッと割って。レンゲでスープを啜れば舌がとろけるような濃厚な旨味が口の中に広がった。

 続けて割り箸で麺を摘み、ふぅーっと息を吹きかけて一気に啜る。少し硬めの麺にスープが絡み、極上の小麦の旨さを引き立てる。味玉の中身のトロっと加減もチャーシューの脂の旨味ももやしのシャキシャキもどれも完璧だ。

 そんなことを考える暇もなく、彼女は次から次へと麺を啜り、あっという間に完食してしまった。

 でも大丈夫───なんてったって替え玉1杯、半ライス1皿、生卵1個無料だから!

 彼女は再びタッチパネルを取り替え玉を注文すると、やたらガタイの良い兄ちゃんがにこやかに「へ〜いお待ちっ!」と湯切りしたての麺を彼女の丼ぶりに投入してくれた。

 再び彼女は箸を取り、今度は席にある無料トッピング───薬味ネギと胡麻をたっぷり載せ、ひと口ずつ丁寧に啜る。

 喉越しの良いつるつるとした麺は、まるで飲み物のように胃に吸い込まれていく。ラーメンは飲み物とはよく言ったものだ⋯⋯ってそれはカレーだっけ? 薬味ネギと胡麻が加わって1杯目とはまた違ってこれまた旨い、彼女は夢中に啜った。

 そして再びあっという間に完食した彼女は、迷うことなく半ライスと生卵を注文する。三度やたらガタイの良い兄ちゃんがにこやかに「へ〜いお待ちっ!」と半ライスと生卵を届けてくれた。

 彼女はあのレポーターが言った通り半分ほどスープを飲み、丼ぶりに半ライスと生卵、たっぷりとすりおろしニンニクと薬味ネギ、胡麻も追加する。

 レンゲで生卵を軽く潰しごはんと絡めて掬い、パクっとひと口食べれば。


「〜〜〜っ!!」


 ニンニクのパンチが効いた濃厚なスープに卵のまろやかさが加わり、それをたっぷりまとったごはんのまぁ美味しいこと!! ラーメンの〆にもってこいだ。

 彼女のレンゲの勢いが止まらかい───こちらもあっという間に丼ぶりは空になった。 


「あ〜っ、食べたぁ〜!」


 さすがにお腹がパンパンだ。

 お腹をさすりながら、彼女は空になったラーメン丼ぶりを見つめる。

 今日は1日、初めてやったことばかりだった。

 1人のごはん手抜きでカップラーメンを食べたのも、1人で電車に乗ったのも、1人買い物で服を買ったのも、1人で飲食店入ってごはん食べたのも。

 こんなこと1人でできるの当たり前と言われるかもしれないが、研究所暮らしだった彼女にとっては大冒険の連続だったと言ってもいい。


「⋯⋯ごちそうさまでした」


 彼女は静かに手を合わせると会計を済ませ、アパートへの帰路についた。

 電車の中、多数の視線が彼女に向いていることも気付かずに───

お読みいただきありがとうございました。


1話あたり5000〜6000文字、10分程度で読んでいただけるように配分して書いているのですが、なかなか思うようにはいきませんね⋯⋯

こういうことも、書いていくうちに上手になっていくのでしょうか。


明日も投稿予定です。

よろしくお願いします。


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