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5.新婚さんみたい①

アクセスありがとうございます。

本日は少々短めですが、よろしくお願いします。

「お前、結局俺のところいつまでいるつもりだよ」


 死神はビジネスホテルの部屋の窓際の壁に背を預けてコーヒーを飲みながら、彼女に問いかけた。

 彼女も死神に買ってきてもらったインスタントのレモンティーを淹れながら、しれっと答える。


「私が壊れて動かなくなるまで、ですかね」

「⋯⋯マジか」


 はぁー、死神はため息をついた。

 しかし彼女をここに連れてきたのは死神自身だ。

 半月近く前、研究所を爆破させる際、彼女のことなんて気にしなければ、そのまま爆発に巻き込んでしまえば───

 いや、たぶん。死神の性格上そんなことはできなかったと思う。

 もう一度ため息をついて頭を掻いた。腹を括るしかない。


「わかった───部屋を借りよう」

「え?」



 それからの死神の行動は早かった。

 その日のうちに不動産屋でアパートを契約し、翌日にはビジネスホテルから引っ越しとなった。


「即日入居可で家具家電付きのマンスリーアパート。2LDKでちょっと駅からは歩くけど築浅だし、ずっとホテル暮らしするよりかいいだろ。おっと、ここだな」

「わぁ───」


 住宅街にある、まだ新しさが残る小規模アパートの1室。

 玄関のドアを開ければ、シンプルながらも統一感があり心地よさそうなリビングダイニング。ベランダへ続く掃き出し窓からは、道を挟んだ向かいにある公園の木々が見える。


「すごーい、小さい部屋!」

「あのなぁ、一般庶民はこんなもんだ」


 クローンでサイボーグな人造人間の彼女だが、記憶にあるのは超が付くほどのお嬢様百合子の家───屋敷と言って過言ない、そう思ってしまうのも仕方ないのかもしれない。


「でもなんだかいいですね───新婚さんみたい!」


 ゴン───鈍い音がしたと思えば、死神が壁に頭をぶつけていた。


「え、大丈夫ですか?」

「いや、別に───個室は2つあるから1部屋ずつな」


 がちゃり、個室に繋がるドアを開ければ。

 甘めテイストの家具とファブリック、ダブルベッドに寄り添うように置かれた2つの枕。

 それを見て彼女は再び。


「なんだか───新婚さん、みたい?」


 ゴン───鈍い音がしたと思えば以下同文。


「え、ホント大丈夫ですか?」

「いや、別に───あ〜ダブルって⋯⋯あ〜カップルプランってそういう───」

「??」


 死神がしゃがんで頭を抱えて唸っているが、放っておいて良いだろうか⋯⋯


「あの、私気にしませんので一緒に寝ますか?」

「気にしろよ」

「でもこの枕カバー変わったデザインですよね⋯⋯大っきく〝YES〟って。なんで? フォーリンラブ?」


 ゴン─── 鈍い音がしたと思えば。


「あ、裏側は〝NO〟って! 否定されるの悲しいから〝YES〟にしとこ〜」

「誰だよこの部屋コーディネートしたの!!」


 まぁそんなことがありまして。

 とりあえず今日は死神はリビングのソファーで寝ることにした。


「私がソファーのほうが良くないですか?」


 日用品やら必需品、食料品を買い込み、今日の夕飯はスーパーのお惣菜となった。

 ダイニングテーブルに唐揚げやらサラダやらを並べながら彼女が申し訳なさそうに言う。


「私、居候の身ですし。お金払ってもらっているのに、私がベッド使わせてもらうのはちょっと───死神さんだってしっかり休めないだろうし」


 死ぬまで面倒見てもらうと言う割にはしおらしい。

 死神は唐揚げとサラダを自分の取り皿に盛り、いただきますと食べ始める。


「まぁぶっちゃけ俺に睡眠は必要ないんだよ。お前がホテル来てからは俺寝てなかったし───もっと言うならメシ食わなくても生きていける。そういう身体のつくりしてんだよ」

「えぇ!?」

「メシ食うのも寝るのも趣味みたいなもんだな。唐揚げはうまいから食う、サラダで口の中さっぱりさせるとまた唐揚げがうまく感じるからサラダも食う。寝るのはそうだな、働くときは働いて休むときは休む。生活にメリハリあったほうがいいだろ?」

「なんか死神さんが人間ぽいこと言ってる」

「だけど普通の人間じゃない俺には人間の三大欲求がない」

「人間の三大欲求?」

「睡眠欲、食欲、性欲」

「⋯⋯───」

「残念だったか?」

「なっ、なんのことですか!?」

「なんのことだろうな?」


 ボっと頰を赤く染めた彼女を見てクククと笑った死神は、ひょいと彼女のお皿に残っていた唐揚げに箸を刺した。


「もーらいっ」

「あっ、それ私の!」

「ここの唐揚げうまかったな、また買ってこようぜ」

「ひどーいっ!!」


 死神の口の中に消えていった唐揚げを恨めしそうに見つめながら───それでもこの意地悪そうに笑う死神が、人以上にお人好しなのを彼女は知っていた。


 一足先に食べ終わった死神は、自分が使った食器を下げキッチンの流しで洗っている。

 彼女も慌てて食べ終えると食器を流しに持っていく。


「一緒に洗うからそこ置いといて」

「洗い物くらい私しましたのに」

「お前、洗い物の経験は?」

「⋯⋯ありませんけど」


 でも知識くらいありますと、ふんすと彼女が鼻を鳴らす。


「じゃあ明日から頼むわ」

「お皿洗いだけじゃなくて、ごはんも作りますよ!」

「作ったことあるのかよ?」

「⋯⋯ありませんけど。でも知識ならあります!」


 なんか心配しかないな、死神はそう思いつつ。

 やらなくて良いと甘やかすよりは失敗してもやらせたほうが本人のためかもな───不味かったら自分食わなきゃいいんだし。


「まず初めはカレーくらいにしとけよ」

「任せてください!」


 満面の笑みの彼女を見て、こんな生活も悪くないかもな、そう思った。

 頭をわしゃわしゃと撫でてやると、彼女は気持ち良さそうに目を細めて。ふふふと笑った。


「なんだかいいですね、新婚さんみたい」

「⋯⋯まだそれ言うか」

「いいじゃないですか、私には一生できないことなんですから。言うくらい許してください」


 それが壊れるまでの期限を指しているのか、それともクローンは人権がないことを言っているのか。

 間違いないのは、この暮らしはずっとは続かないということだ。

 そう思うとなんだか寂しいような気もする。


「あの⋯⋯なんか頭から泡垂れてきたんですけど」

「悪ぃ、手ぇ泡付いたまんまだった」

「ひどーいっ!!」


 死神とクローンでサイボーグな人造人間の彼女の同棲(?)初日は、何事もなく終わった───たぶん。



 死神とクローンでサイボーグな人造人間の彼女の同棲は、今のところ上手くいっていると言っていい。

 死神のベッドは翌日には買ってすぐに届いた、即日配送素晴らしい。

 彼女が初めて料理したというカレーは市販のルウ1箱全部使い切りその後3日間カレー祭りになったのと、洗濯機に洗剤1本全部入れて部屋中泡だらけにしたのと、掃除機で勢い余って壁に穴開けたのと───etc.


「まぁ、上手くいってる───よなぁ?」


 死神は床にぶち撒けられた牛乳を拭きながらボソリと言う。


「ご、ごめんなさい⋯⋯」

「別にいいよ、取り返しのつかない失敗じゃねえんだから」


 彼女は牛乳のたっぷり染み込んでしまったキッチンマットを洗濯機に入れている。洗剤量は間違えていない。

 今日は簡単に作れるメニューその2のシチューを作っていたのだが、牛乳を使おうとしてこぼしたらしい。彼女の悲鳴が聞こえて死神がキッチンに駆けつけた頃には、すでに床には牛乳の水溜りが出来ていた。


「うぅ⋯⋯死神さんが優しすぎてツライ」

「まぁさすがに壁に穴開けたときは怒ろうかと思ったけど。だけど同じ失敗は繰り返してないだろ、仏の顔も三度まで。だから3度目までは怒らない」


 ちなみに壁の穴は死神によるDIYで目立たないよう補修されたが、このアパートを退去するときに修繕費用は請求されるだろう。


「死神なのに仏なんですね」

「はいはいバカなこと言ってないで。次からは気をつけろよ? さーてメシ食おうぜ」

「あっ、あと5分煮込むので、ちょっと待っててください」

「へいへい」


 死神はいかにも面倒臭いといったような返事をするが、食器棚から使うお皿とカトラリーを出し、彼女が作りかけだったサラダを完成させテーブルへと運んでいる。

 彼女も出来上がったばかりのシチューをお皿によそい、死神の前に出した。


「すみません、お仕事中だったのに」

「だからいいって、もうメシの時間だったし。そんじゃいただきまーす」


 彼女も自分のシチューをよそい死神の前に座り、彼がシチューを口に運ぶのをジィ〜っと見つめる。

 市販のルウを使っているのだ、分量も守ったし変なアレンジもしていない、不味く作る方が難しいとは思うが、それでも心配になる。


「ちゃんとウマいよ」

「よかった〜」


 その様子を死神に苦笑されながらも大丈夫と言われ、彼女もシチューを一口食べる。

 うん、でも普通だ。

 カレー、シチュー、肉じゃが。包丁使う練習にもなるし食材も迷わないし、まず最初のレパートリーはこれくらいでいいだろと死神に言われ、これをローテーションしているのだが、そろそろ彼女自身じゃがいもとにんじんと玉ねぎに飽きてきた。


「明日からちょっと他の料理もしてみようかと思うんですけど⋯⋯何か食べたいものありますか?」

「お前食べたいものとか作ってみたいのはないのかよ」

「私ですか?」


 彼女は記憶を手繰り寄せる。

 普段の食事は、西園寺邸に務めるシェフによる見目美しく味も素晴らしい料理と、無機質に与えられる経管栄養。

 どちらにしても研究者らに囲まれ黙々と摂取する。ただの身体を動かすためのエネルギー源としか思えなかった。

 では百合子の記憶はどうか。

 シェフによる料理を両親と会話を楽しみながら食べ、学校に行けば友達と学食をワイワイ食べる。病気で入院食になる以外は、楽しい食生活を送っていたようだ。

 そういえば亡くなる前、お見舞いに来てくれた友達が、病気が治ったらみんなでお酒飲みながらパーティーしようと言っていた。


 ───餃子パーティー、楽しみにしてたんだけどね。


「餃子パーティー?」

「餃子! いいねぇ、久しぶりにビール飲みながら食いたいかも!!」

「え?」


 独り言のつもりだったが、意外にも死神がノリノリで食い付いてきた。俺結構包むの上手いんだぜと満面の笑みの彼を見ると、今さらそんなつもりじゃなかったとは言えまい。

 彼女も釣られて笑う。


「私、作ったことないので教えてくださいね」

「おう、任せとけ」


 餃子楽しみだな〜あのビールまだ売ってるかな〜と、死神は今からゴキゲンでシチューを食べ進めている。


 ───死神さんもきっとじゃがいもとにんじんと玉ねぎに飽きてきたんだろうな。


 だけど誰かと食べるごはんは、本当に美味しい。

 それが普通のシチューだとしても。彼女にとっては最高のディナーだ。

お読みいただきありがとうございました。

明日も同じ時間に投稿予定です。

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