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28.漫画とラーメンが好き

アクセスありがとうございます。

現在も連載されている超有名漫画が完結と言っているシーンがあります。

この小説〝近未来SFファンタジー〟ですので、その辺はそういう設定なんだ〜くらいで読んでいただければ幸いです。

「それ漫画ですか? 今どき紙媒体なんて珍しい」

「あ〜コレ? 昔ハマったときに買ったやつ。久しぶりに昨日寝る前に読んだら止まんなくて」


 とある日の昼下がり。

 今日の死神の仕事は久しぶりに早く終わったらしい。つい先程アパートに帰ってきた彼はソファーにゴロンと仰向けになると、ぺらりぺらりと単行本をめくっていた。

 彼女はキッチンでおやつの準備をしながら死神に声を掛ける。

 

「今は電子書籍ばっかりですけど、やっぱり紙の本って良いですよねぇ⋯⋯漫画も小説も本だと〝今ここまで読んだ、あとこれだけ残ってる〟って見て直感的にわかるのがいいんですよねぇ」

「あぁ、その気持ち何かわかるな。あと伏線回収とかトリックのネタばらしのときとか、前どんなんだっけって思ったときに本のほうが読み返しやすい。電子書籍って便利なようで結構メンドイよなぁ」


 死神が読んでいるのは国民的推理漫画。恋愛ありアクションあり仲間への熱い想いあり()()()組織とのバトルあり───漫画からアニメ、映画、それにグッズと、完結した現在も年齢問わず根強いファンがいる。


「それって結局どんなラストなんですか?」

「何お前最後まで読んでねえの?」

「100巻過ぎたあたりで⋯⋯あの組織とどうなっただけが気になるというか」

「バーロ、そんなやつに教えてやるギリはねえ」

「死神さんはコアなファンなんですか?」

「ったりめえだろ。漫画もだけど、映画は全部映画館で見た」


 死神用にコーヒーと自分用にレモンティー、あとはリベンジして作った猫型クッキーとポテトチップスを盛ったお皿をソファー前のテーブルに置いて。


「まさかの死神さんがバーロキアン」

「そんな呼び方もあったな」


 死神はクククと笑って寝そべったままクッキーに手を伸ばす。お、だいぶ猫に近づいたじゃん、なんて軽口を叩こうと思っていたら。


百合子(オリジナル)が集めてたのが108巻までなんですよ───そのあと亡くなりましたから」


 クッキーを口に運ぼうとしていた死神の手が一瞬止まった。それをパクリと食べ、彼女のほうをちらりと見る。彼女は寂しそうに笑った。


「私は複製(クローン)なので、オリジナル以上のものは与えてもらえません」


 死神は溜め息をつくと起き上がり、コーヒーをひとくち飲むと、読みかけの単行本を置いて自分の部屋に入ってしまった。

 その後ろ姿を見送って。


 ───ダメだ⋯⋯ウジウジ僻み過ぎって呆れられたのかも。


 彼女もはぁ〜っと溜め息をつく。もそもそとクッキーをかじり、レモンティーでそれを飲み下していると。

 バンッと勢いよく死神の部屋へ続くドアが開いたと思ったら、大きなダンボールを抱えた死神がそれを彼女の隣にドカッと置いた。

 中身を覗いてみれば。


「コレ⋯⋯?」

「1巻から最終巻まで全部あるから、気が済むまで読め」

「え⋯⋯いいんですか?」

「いいに決まってるだろ、逆になんでダメだと思うんだよ?」


 ダンボールに入っていたのは、今死神が読み返している、そして彼女が108巻までしか読めなかった国民的推理漫画。

 彼女は109巻を探すと手に取り、まじまじとその表紙を眺めた。

 百合子が手にできなかったものを自分が手にしている。クローンでサイボーグで人造人間の彼女には、百合子(オリジナル)を越えることはないと思っていたのに。


「ありがとう、ございます」

「おうよ」


 死神は再びソファーに寝転がり、読みかけの漫画を手に取る。

 彼女もソファーを背もたれに床に座ると、109巻の表紙を恭しく撫でた。


「わぁ⋯⋯」

「表紙だけで感動できるなんてスゲーな」


 クククと笑いながら死神がパラリとページをめくる。しかし彼女にはもう彼のからかう声は届いていないようだ、表紙を開くと食い入るように紙面のコマを目で追い、飲みかけのレモンティーやお菓子の存在も忘れて没頭している。

 しばらく死神は彼女のその横顔を眺めていたが。

 彼女は頬に触れる髪が邪魔だったらしい、耳にそれをさらりと掛けると、普段髪で隠れているところに小さなホクロがあった。


 ───ホクロだなんてずいぶんと()()()()()


 クローンでサイボーグで人造人間な彼女。目に魔力を集めれば現れるウインドウには相変わらず〝Error〟の文字しかない。

 いつだったか自分の首にあるホクロをツンツンされた仕返しに───死神は手を伸ばしかけたが、あまりにも真剣に漫画を読む彼女の邪魔をしたら悪いような気がして。結局その手はテーブルの上のポテトチップスを摘み、それを口の中に放り込んだ。


 部屋の中に響くのは、2人がページをめくる音と、死神がお菓子を噛む音、そして彼女の口から時々漏れる忍び笑いと。


 ───こんな日も悪かねえな。


 気付けば太陽はかなり西に傾き、部屋を茜色に染めていた。




「面白かったぁ⋯⋯」


 彼女はうっとりした様子で溜め息をつくと、読んでいた漫画の最終巻の裏表紙を閉じ、それをテーブルの上に置いた。うーんっと伸びをすれば、首筋背中が凝り固まっているのがわかる。ラグが敷いてあるとはいえ、床にずっと座っていたお尻も痛む。

 しかしそれも気にならないくらい、心は充実していた。


「何回も同じところ読んでたもんなぁ」

「何回読んでも名作ですから!」


 ソファーに寝そべりながら今も漫画を読みクククと笑う死神に、彼女は誇らしげに胸を張った。

 読み始めた頃はまだ昼間だったが、いつのまにか部屋のカーテンが閉められ電気がついている。

 ずいぶんと長い時間読み耽ってしまったらしい。そう気付いたら、彼女のお腹がぐぅ~っと空腹を訴えた。


「すっ、すみません───すぐ夕飯の支度しますね!」


 死神にお腹の音を聞かれたかもと恥ずかしさを紛らわすかのように彼女が言えば、死神は「用意するのも大変だし食いに行こう」と言う。


「でもお肉もお野菜も買ってきてありますし」

「お前なぁ、時計見てみろよ」

「え⋯⋯え゙!?」


 呆れたように言う死神の視線の先、彼女も壁に掛けてある時計を見れば、針はいつもなら彼女が寝ている時間を示していた。

 思っていた以上に何時間も漫画に没頭していたらしい、彼女は顔色を悪くした。


「う、うそ⋯⋯ごめんなさい」

「別にこんな日があってもいいんじゃねえの?」


 死神は読みかけの漫画を閉じてテーブルに置くと、よっこいせと立ち上がった。


「そういや前に元祖◯系ラーメン食いに行くって言ってたじゃん? 駅前のところにあるだろ、そこ行こうぜ」

「え、今からですか!?」

「今から、だからだろ」


 何を言ってるんだというように、死神はさっさと出掛ける準備をしている。

 しかし元祖◯系ラーメンといえば、前回食べたとき死神に散々ニンニク臭いと言われたヤツだ。


「でも死神さん明日も仕事ですよね? その⋯⋯ニオイとか気にならないんですか?」

「あのなぁ、俺を誰だと思ってんだよ?」

「え? 斎藤さんですか?」

「ちげーよ、っていうか前にもこのやりとりやったし」


 死神ははぁ~っと溜め息をつくと頭をポリポリと掻いた。


「俺は()()()()()じゃねえ、そんなの関係ねえ」

「はい、オッパッピー? え〜でも神様たちに〝あの死神(ヒト)臭い〟って思われたりしません?」

「思われないね───だってニンニクのニオイ元から分解する方法覚えたから」

「えっ、いつの間にそんな方法を!?」

「あ? それはこの前お前が───」


 そこまで言って死神の脳裏に思い出されたのは。

 やわらかくてしっとりとした彼女のくちびるの感触。


「〜〜〜っ!!」


 顔が赤くなっていくのが自分でもわかる。死神は慌てて手で口の周りを覆ったが。


「死神さん?」


 何も知らない彼女が覗き込むように顔を寄せるからたまらない。それを振り切るようにして。


「なんでもねえよ! さっさと用意して行こうぜ」

「あ、待ってくださいよぅ」


 彼女を残し、玄関に向かう死神は耳まで真っ赤になっていた。

 しかし玄関の靴箱の上、掛けてある鏡には、そんな様子は一切映っていなかった。




 とある日の朝食後。

 死神が自室からダンボール箱を何箱かリビングに運び出していた。何やらたくさん詰め込んであり重そうだ。


「漫画ですか?」

「あぁ───もうこの漫画手放そうと思ってんだけど、なんか読みたいもんある?」

「え〜なんかもったいないような気もしますけど⋯⋯それにしてもすごい量ですね、どこに隠し持ってたんですか?」

「あ? リュックん中だけど?」

「⋯⋯え?」


 3〜4冊ならまだしも、この量はさすがにリュックは無理でしょう⋯⋯何でそんな嘘付くんだろうと思いながら、彼女はあえてそこにはツッコまないでおいた。

 ダンボールのふたを開ければ、先日読んだ推理漫画と、海賊王を目指すゴム人間の漫画、それと───


「〝死神〟だ」


 ひょんなことから死神代行をすることになった少年の漫画。

 1冊手に取りペラペラとめくりながら、彼女はクスクス笑う。


「そういえばこの主人公と死神さんって似てますよね! 何となくですけど、雰囲気というか何というか」


 漫画は袴に刀だから和風だしあと主人公15歳ですけどなどと言いながら彼女がページをめくっていると。


「死神代行に似てる、か。まぁそうかもな」

「え?」


 ボソリと呟いた死神の言葉に彼女は聞き返したが、彼は何でもねえよと言う。


「それで読みたいもんなければもう持ってっちゃうけど?」

「あ、はい⋯⋯もうこの漫画は読んだことあるものなので、大丈夫です」

「お前意外に少年漫画読んでるのな」


 クククと笑う死神に彼女もくすりと笑う。


百合子(オリジナル)が好きで屋敷にたくさん残ってたというのもありますけど⋯⋯たぶん()()()も好きなんでしょうね。まぁ趣味趣向は似せるように造られていますから」


 彼女は持っていた漫画をダンボールに戻した。


「すみません、別に僻んでるわけじゃないんですけど」


 死神が何ともいえない顔で彼女を見つめているから。居心地が悪くなって彼女は話題を変えようと、ゴム人間で有名な漫画を手に取った。


「実はこれ読んだことないんですよね、面白いですか?」

「面白い、読んでないなんて人生損してる、とにかく物語の構成がすごい、ここであの伏線回収してくるかーって感動する」

「へぇ~」


 パラパラと彼女はページをめくるが、う〜んと浮かない顔だ。


「今からこの量読む───って思うと尻込みする巻数だし⋯⋯あと絵が独特ですよね、とっつきにくいというか」

「まぁこれも軽く100巻超えてるしな、絵の好みはわからんけど。でも読めば絶対人生観変わるって」


 今日特にやることないなら騙されたと思って読んでみろよ、そう死神に言われて。

 彼女は死神がそこまで言うならと、1巻を手に取りソファーに腰掛けた。

 そして───



「人生観、変わりました」


 夕方、仕事を終えた死神がアパートに戻ってくると。

 最終巻の裏表紙を静かに閉じ、彼女はほぅ⋯⋯と吐息した。


「良かっただろ?」

「めっちゃ良かったし、めっちゃ泣きましたぁ〜」


 死神がクククと笑いながら、朝から変らない位置に座っている彼女に声を掛けると、彼女は漫画に泣かされるなんてと涙を拭うマネをしながら感想を述べている。

 それをそうかそうかと聞き流して。


「まぁ気に入ってくれたなら良かったけどよ、お前その様子だと昼メシも食ってねえんじゃね?」

「え⋯⋯え゙!?」


 彼女は今日も時計を見て驚いていた。普段ならもう夕飯の支度が終わって死神を待っている時間だ。

 彼女のお腹がぐぅ~と空腹を訴える。

 つまり死神が言った通り、朝食後から昼食もおやつも抜きでずっと漫画に没頭していたということだ。やっぱりなと死神は苦笑した。


「こんな日は元祖◯系ラーメン食いに行くって決まってんだろ?」

「いつからそんな決まりが?」

「いいじゃん、久しぶりに食ったらやっぱウマくてさ。俺あれから3回食ってる」

「あ、ズルい! いいな〜!!」

「だから今から行こうっつってんの」

「痛ぁ!?」


 ペシッと彼女にデコピン1発喰らわせて。痛がる彼女を置いて、死神はさっさと玄関に向かう。


「でも一緒に食べに行ったの1週間前ですよ、あれから3回って2日に1回食べに行ってるんですか?」

「おうよ、毎回ニンニクたっぷり。元気ハツラツ」

「オ□ナミソC! じゃあ私も今日はニンニクたっぷりにしていいですか?」

「別にそんなの俺の許可取らなくても、食いたきゃ食やいいじゃん」

「そういうことじゃなくて、私もニオイ消して欲しいってことですよ!」


 前回2人で行ったとき、1晩寝ればニンニクのニオイが消えるなら食べても良いかなと思いつつも、また死神に〝臭い〟って言われたら嫌だなぁとニンニクを抜いたのだ。ニンニク抜きのラーメンも美味しいことは美味しいが、やっぱりどこか物足りない感じがして。

 それなのに隣で死神は喜々とニンニク増々を頼み、それを美味しそうに啜っていた。

 食べ終えても初めて元祖◯系ラーメンを食べたときよりも感動の薄い彼女に対し、死神は大満足といった表情を浮かべ、そして店から出てすぐ、自分の身体に魔術を掛けていた───ニンニクのニオイを一瞬にして分解する術らしい。

 そんな魔術あるなんてズルいと憤る彼女に、死神は「別にお前の臭えニオイも消してやったのに、残念だったなぁ」とわざとらしく溜め息をついたのだ。

 だから───


「今日こそは! 私もニンニク入れて最高の1杯を味わいたいと思います!!」

「すげぇ気合だ」

「〝お前にできねえ事はおれがやる。おれにできねえ事をお前がやれ!!!〟」

「───!」


 彼女がドヤ顔で言う。それは彼女が先程まで読んでいた漫画の名言の1つ。

 戦いに負け落ち込む仲間に、己のできることを見定め突き進めと、勝敗に関わらずやるべきことをやれと、短いセリフの中に詰め込まれた熱き男たちの信頼と友情の───


「⋯⋯で、何で今そのセリフ?」

「え? だから、その⋯⋯ニオイ消しは死神さんに任せましたってことですよ!」

「じゃあ俺にできねえこと何やってくれるんだ?」

「え、えーっとぉ?」


 ここは〝家事〟と答えたいところだが、彼女よりも死神のほうが家事能力は高い。しょうがないじゃないか、ほんの数ヶ月前まで彼女は家事とは無縁の生活をしていたのだから。でも何で死神の彼が家事能力高いのかも不明だが、それはひとまず置いといて。

 じゃあ何ができるのか、彼女はむむむっと考えて。いいこと思いついたと満面の笑みになった。


「肩揉みはどうですか?」

「⋯⋯はぁ?」

「だって自分の肩って揉みにくくないですか? 私がやってあげますよ! 腰揉みでもいいですけど! ───って、痛ったぁ!?」


 再びドヤァと胸を張った彼女に、死神は呆れた顔をして再びペシッとデコピンを喰らわせた。


「何でデコピンするんですかっ、もうっ!」

「聞いた俺がバカだった。ニオイは消してやるから、食いに行く準備しろよ」

「⋯⋯はーい」


 自室に戻って行く死神の背中を見届け、彼女も出掛ける用意をする。といっても、もう食べに行くだけなら化粧はしないし、持って行くものを小さめなバッグに入れる程度なので早々に終わり、玄関で靴を履きながら、靴箱の上に掛けてある鏡で髪をササッと整える。


「あっ、デコピンされたところ赤くなってる⋯⋯死神さん容赦ないなぁ」


 鏡に映る彼女の顔、その額中央にうっすら赤い痕が残っている。怪我しているわけではないのですぐに消えるとは思うし、他人からしたら気にもとめない程度なのだが、自分から見るとすごく目立っているような気がして。

 彼女がその痕を隠そうと、何度も前髪を手櫛で整えていると。


「お前いつまでそうやってるつもりだよ?」

「うわっ、びっくりしたぁ!」


 急に声を掛けられた彼女が驚いて振り返ると、死神はもう靴を履き玄関の扉に手を掛けているところだった。


「えっ、死神さんいつの間に!? 全然気づかなかったんですけど!」

「お前がずっと前髪いじってるからじゃん───俺が容赦ないんじゃなくて、お前のデコがピンしやすいんだよ」

「どういう意味ですか!?」


 クククと笑う死神を背に、彼女はもう一度鏡を覗き込む。


「それっておデコが広いってことですか!?」

「さぁな」


 額の広さは百合子(オリジナル)も少し気にしていたことだ、もしかしたら他人からすれば、額の赤い痕より額の広さのほうが目立つのだろうか?

 彼女がより一層前髪を整えていると、死神がもう行くぞと扉をガチャリと開ける。

 彼女が覗き込む鏡の端に、扉の隙間から外の景色が見えた。


 ───あれ、なんだか違和感?


 そちらに顔を向ければ玄関の外、死神の背後に広がる街並にもう夜の気配が漂っている。


「おーい、早くしろよ!」

「あ、はーい!! ⋯⋯ま、いっか」


 死神に急かされ、彼女は慌てて外に出て鍵を掛けた。


 2人が出ていった玄関。

 靴箱の上の鏡は、現実世界をそのまま映し出していた。

お読みいただきありがとうございました。

エピソードタイトルが自分の中でしっくりきてないのですが⋯⋯

題名決めるのとかちょっと苦手かもしれません。

明日も投稿予定です。

よろしくお願いします。

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