26.長い1日の翌日
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めちゃくちゃ嬉しいです!!
今日はやっと書けたムフフな回です。
よろしくお願いします。
『あんたは出来損ないなんだから、せめてお兄ちゃんのジャマだけはしないで!』
物心ついた頃、自分を産んだはずの母親からそう言われた。〝デキソコナイ〟の意味はわからなかったが、母親の表情を見て、兄と比べて自分は愛されていないということを何となく悟った。
『お前さえ生まれてこなければ! こんなことにならなかったのに!!』
物事の分別がつくようになった頃、酒浸りの父親からそう言われた。いやいや自分関係ないし、こうなったのはアンタ自身のせいだろと、すっかり冷めてしまった心でそう思った。
不遇な幼少期をなんとか乗り越え、少年期。
家の中に自分の居場所はなく、仲良くしていた友達の家を渡り歩いていたが、その日は生憎誰の家にも行けなくて。仕方なく帰った家にはもちろん自分の食べるものなど用意されていなかった。
どうしようもなく腹が減ったので、こっそりと冷蔵庫にあったごはんと残り物のおかずを食べていたのだが。
父親に勝手に食ってんじゃねぇとボコボコに暴行され、母親には床が血で汚れたじゃないかと水をぶっ掛けられた。
そしてまだ肌寒さの残る季節、夜空の下。古いアパートのベランダに引きずり出されて。
出血と寒さに震え、人生で初めて死を覚悟した。
───死神さん、寒いですか?
寒い、寒いよ⋯⋯俺、死ぬのかな。
───大丈夫、私がいます! 死神さんは死にません!!
ふわりと身体が暖かくなる。
やわらかいぬくもり、いいにおいで心地良い。
ずっと昔、それこそ物心つく前は確かに両親から貰えていたはずなのに。
いつから自分だけ与えられなくなったんだろう。
もっと欲しくて、手繰り寄せる。
気持ち良くて離れがたい。
───あ、あのっ、死神さん?
はぁ⋯⋯ホント、気持ちいな。
───あっ、ちょっと、それ以上は⋯⋯
なんだよ、もう少しだけいいじゃねえか。
「あんっ、ちょ⋯⋯⋯死神さんっ!」
その声───オスの本能にクる声だな。
「ホントに、あ、んぁ! ひぁん!!」
「だからなんなんだよその声───」
ばっと目を開ければ、一面に肌色が広がっていた。
2つの隆起した山の、その谷間。
死神はそこに顔を埋めていた。
「あ⋯⋯? ナニコレ」
「はうっ!?」
手でその柔らかな山を揉む。
この感触。
たぶん、おそらく。最後に触ったのは40年くらい前。お互いパートナーがいないならと、惰性でホテルに行った女とチョメチョメ───
「はぁ!?」
急に覚醒して顔を上げてみれば。
クローンでサイボーグな彼女が目を固く瞑り、顔から耳まで真っ赤に染め、両手で口を抑えながら必死に声が出るのを堪えていた。
徐々に周りが見えてくる。
アパートの死神の部屋、ベッドの中。死神は横たわる彼女の上に覆いかぶさっていた。
「えっ、ちょっ、まっ───はぁ!? 俺ってお前に何かした!?」
「現在進行形でおっぱい握ってらっしゃいます!!」
彼女の顔から視線を下げると。
死神の手は今も、彼女の胸をキャミソールの上からがっちりと鷲掴みにしていた。肌触りの良い薄い布地越しに、ぷっくりとした頂を手のひらに感じる。
「っ〜〜〜!?!?!?」
驚いた死神がガバっと起き上がり後退ると、被っていた掛け布団がベッドの下に落ちた。
「ひゃあ!?」
覆うものがなくなった彼女も慌てて起き上がり、腕と脚で自身を隠すようにベッドの上に座る。乱れたキャミソールと、それと同じレースのショーツがちらりと見えた。
その扇情的な姿に、死神は思わずゴクリと喉を鳴らした。目を逸らさなければいけないのに、どうしてもそれが出来ない。
しかしそれは彼女も同じようで、死神の一点を見つめたまま固まり、赤かった顔が更に蒸気が噴き出そうなくらいになっている。
その視線は死神の中心から少し下。
死神もそろそろと自分の身体に目を移して───
「俺全裸ぁ〜〜〜っ!?」
生まれたままの姿だった。
慌てて下に落ちた掛け布団を引っ張り上げ、1枚で彼女とあっちとこっちで身体を隠す。
「えっ、ちょっ、まっ、はぁ!? なんっ、こんっ、なんっ、おまっ、ここっ───」
気が動転しすぎて言葉が出てこない、死神の顔も真っ赤だ。
「死神さんは〝えっ、ちょっと待てよ、はぁ!? 何でこんなことになってんだ!? お前なんでここにいるんだよ!?〟と言いたいんですよね?」
彼女に言葉を代弁され、コクコクと頷く。
彼女は何度も深呼吸をして息を整えて、まだ顔は赤いままだが、ポツポツと話し出した。
「死神さん、ずっと寝てたんですけど〝寒い寒い〟って繰り返し言ってて───暖房つけたり湯たんぽ入れたりしたんですけどそれでも⋯⋯それで冬山で遭難したときは素肌で抱き合うといいって話を思い出しまして。やってみたら死神さん落ち着かれたのでそのまま一緒に───」
「いや、うん、すっごいありがたいことだし申し訳ない思いでいっぱいなんだけど。お前が下着姿なのはがんばって理解したけど。でも何で俺なんも着てないの?」
自分で脱いだ記憶はない。たまに寝るときは全裸ですという人もいるが、死神は部屋着で寝る派だ。
やはり全裸ということは、彼女のあれをこうしてどうしてしまったのか!?
死神は掛け布団に顔を埋めながら、混乱する頭をなんとか鎮めようとしていると。
「死神さん⋯⋯憶えてないですか?」
彼女のその口調に照れている様子はない。どちらかといえば呆然としているような。
それを不思議に思い、彼女の赤から一転して色をなくした顔、そしてその視線の先に目を向ける。
そこにあったのは。
床にはまだ拭ききれていない血溜まりと、血塗れで多数の穴と刃物で裂かれた跡がある死神の服。それに血で染まったバスタオルやその他いろいろ、慌てていたことが手に取ってわかるものが多々残されていた。
「ごめんなさい⋯⋯死神さんが起きるまでには片付けたかったんですけど」
そこでようやく、自分の身に何があったか死神は思い出した。ぼりぼりと頭を掻く。
「いや、俺のほうこそ悪かった───あ〜、びっくりしただろ。あんなボロボロで帰ってきたらドン引くわなぁ」
彼女は目を伏せた。
びっくりしたドン引きしたどころではない。死神は死んでいたのだから。
彼女は掛け布団でこっそり浮かんだ涙を拭いた───死神に余計な心配はさせたくない。
よくわからない存在との契約も。
死神に聞けば何かわかるかもしれないが、だからといってどうにかなるとは思わない。
それに自分の身体や命を引き換えにしたと言ったら、この優しい死神は責任を感じてしまうと思うから。
だから今は───
「あ、あのっ、死神さん!」
死神は何と言い訳しようか考えているようだ。
しかし彼女はもうそんなこと聞かなくてもいい。死神がこうして目の前にいてくれるのだから。
彼女は掛け布団をぎゅっと握りしめ、目に涙を浮かべながらへにゃりと笑った。
「おかえりなさい───死神さん」
〝おかえりなさい〟
彼女にそう言われて。
そうだ、これを聞くために。
「⋯⋯ただいま」
これを言うために。
2人で悪夢のような夜を越えたのだ。
「ただいま」
「おかえりなさい、死神さん」
☆おまけ☆
「なぁ、お前⋯⋯俺の、見た?」
「え? いや、その⋯⋯見てませんよっ、毛の生えたゾウさんなんて全然思ってませんから!」
「ガッツリ見てんじゃねえか!!」
お読みいただきありがとうございました。
こういう話、また書きたいな〜と思いつつ。
明日からは2人の日常に戻ります。
よろしくお願いします。




