25.死神と彼女の長い1日⑦
アクセスありがとうございます。
今日の投稿は短いですが、よろしくお願いします。
「今日は帰ってこれそうにないのかな」
お風呂を出て、肌のお手入れと髪を乾かし。
彼女はリビングのソファーで膝を抱きながら死神が帰ってくるのを待っていたのだが。
時計を見て昨日の夜に言われた通り先に寝たほうが良いかな、そう思い始めた頃。どさっと何かが落ちるような音が死神の部屋から聞こえた。
「あ、死神さん帰ってきた!」
嬉しくて死神の部屋に続くドアを見つめてしまう。
いつもならしばらくするとリビングに入ってくるのだが。
「あれ⋯⋯気のせいだったかな?」
いつまで経ってもドアが開く気配がない。
気のせいにしてははっきり聞こえたような。何か荷崩れでもしたのかなと、彼女はドアに近づきノックする。
「死神さん? 帰ってらっしゃいましたか?」
返事はない。
だけど何故だか開けたほうがよい気がして、彼女はそろりとドアを開けた。
「まっ◯ろく◯すけさん⋯⋯いませんかぁ?」
そういえば死神もいつも真っ黒な服着てるなと、くすりと笑う。今日買った服は気に入ってくれるだろうか。死神のテイストではないが、きっと似合う───と思う。
部屋の中は窓からの外の明かりでぼんやりとしか見えないが、明確なのは鼻を突く、鉄の臭い。
「⋯⋯死神さん?」
急に心臓が煩く鳴りはじめる。
不安に駆られつつ電気を点けると、そこに広がっていたのは。
壁の大きな転移の魔法陣の前。
真っ赤な水たまりの中の、黒い塊───
「死神さん!?」
お気に入りの部屋着に血が付くのも構わず駆け寄ると、彼女はうつ伏せに倒れていた死神を抱き起こす。
ヒュッと吸った息の吐き方がわからない。
血塗れの死神の身体には無数の穴のような傷があり、そこから今もダラダラと血が流れている。
「死神さんっ、死神さん!」
必死に呼びかけるが、死神はピクリとも動かない。それとは反対に、彼女の身体は恐怖でガクガクと震える。
「きゅ、救急車───ダメ、そんなんじゃ助からない」
ふと顔を上げると大きな転移の魔法陣が目に入った。
「魔法陣───治癒! 治癒の魔法陣!!」
死神をその場に寝かせ、以前に見せてもらった治癒の魔法陣を探す。見た目によらず真面目な死神は、きれいにファイルに挟んでストックしていた。
それを全部掴み、死神の身体の上に乗せる。
「お願い魔法陣! 死神さんの怪我を治して!!」
しかし魔法陣を描いた紙は死神の血を吸うだけで、治癒が発動している気配はない。
彼女の目からボロボロと涙がこぼれた。
「どうして、どうして光らないの!?」
彼女は死神の顔にべっとり纏わりつく血を手で拭って───彼が呼吸をしていないことに気付いた。
「う、うそ⋯⋯」
死神の顔から手を離し、恐る恐る彼の胸に耳を寄せる。
胸板の硬さ、ぬるりと生温かい血の感触はあるのに、今いちばん聞きたい死神の鼓動が聞こえない。
すでに死んでいるから、治癒できない───?
「やだやだ死神さんっ、死んじゃダメ! 死神さん!!」
死神の身体を揺すり必死になって呼ぶが反応はなく、時間だけが虚しく過ぎていく。
「お願い⋯⋯起きてぇ死神さん」
彼女は死神の胸に突っ伏し泣きじゃくる。
当然のことのように自分が先に死に、死神に看取ってもらうものだと思っていた。
自分が死ぬまで、死神と幸せな時間を過ごせると思っていた。
「死神が死んじゃうなんて、そんなことある?」
死神だから、神様だから、不死身なんだと思ってた。
一緒に暮らしていてずいぶん人間っぽいとは思っていた───食事をすればトイレにも行くし、お風呂にも入る、たまにヒゲも剃っていた。
だけどこんなところまで、人間っぽくなくても。
「神様⋯⋯この国に住まう八百万の神様。どなたか、私の願いを聞いてくれませんか? 私の身体を西園寺のライバル研究者に差し出せば、かなりの金額になります。全部お納めしますので、どうか死神さんの命を返してくれませんか? お願い、お願いします」
死神の胸に頬を乗せ、彼女は懇願する。
クローンでサイボーグな人造人間の願いでも、八百万も神様がいるのなら、誰か1人くらい叶えてくれる風変わりな神様がいるかもしれない。
「私には魂がないらしいですが、こんな私のでいいなら残りの寿命も差し上げますから」
今日はいっぱい泣いたのに、まだ涙は流れ出て。
心臓が押し潰されそうに痛い。
声を上げて泣いていると。
〝ははっ、君も面白いねぇ! その言葉、しっかり憶えておくんだよ?〟
彼女の頭に直接声が響いた。若いのか年老いているのか、男なのか女なのかもわからない。不思議な声。
「誰!?」
彼女はその声に驚いて身体を起こした。しかし姿は見えない。そこに存在するかも曖昧だ。
〝君の願いを叶えてあげるよ〜。この男にも呆れたけど君も大概だよね。うん、珠玉のラブストーリーってかんじ〟
「ホントに───ホントに死神さんを返してくれるんですね!?」
どこにいるかもわからない相手に向かって、彼女は声を張り上げる。今は悪魔でもいい、死神を返してくれるなら何でもするつもりだ。
〝悪魔じゃないから安心して〜。だけどボクができるのは枯渇してる神通力───この男は魔力って言ってるかな、それを少しあげるだけ。命を吹き込めるのは命あるものだけだよ〟
「命を⋯⋯吹き込む?」
〝そう、じゃあがんばって。ボクを楽しませてよ───ただし、契約はしっかり守ってね?〟
その言葉を最後に、頭の中で響く声は途絶えた。
聞きたいことはあったのに。契約とは何なのか。
でも今は───
「命を吹き込むってどういうこと?」
未だに治癒の魔法陣は発動していない。
あとは自分が何かをするだけなのに。
命あるものが吹き込めるもの。
「吹き込む⋯⋯人工呼吸!!」
死神の顔に自分の顔を寄せる。1回大きく深呼吸をして。
「ごめんなさい、死神さん⋯⋯後から怒ってもいいので、許してくださいね」
涙を袖で拭き、思い切り息を吸い、死神のくちびるに食らいつく。想像していたより柔らかくて───血の味がするそこに、息を、命を吹き込む。
それを繰り返したあとは心臓マッサージ。手の皮が剥けても構わずやり続けた。
「お願い死神さんっ、戻ってきて! 水族館連れてってくれるって約束守ってください!!」
何度も息を吹き込み、心臓マッサージを繰り返して。酸欠で頭の中に靄がかかり、手から血が滲み始めた頃。
死神の腹部の上に置いていた治癒の魔法陣が一斉に光が灯り始め、次々と紙が消えると同時に徐々に彼の傷が治っていく。
そして───
「がふっ、はぁ───っ」
「死神さん!!」
死神の身体がビクリと跳ね、眉間には苦しそうに皺が寄り、はぁはぁと粗い息を繰り返している。
「死神さんっ、死神さん!?」
しばらくその状態が続いたが、やがて呼吸が穏やかになると眉間からも力が抜けた。すぅすぅと寝息のような音が聞こえる。身体中にあった傷も全て塞がっているようだ。
まだ意識が戻っていないので手放しで喜ぶことはできないが、とりあえず山場は越えたと思って良いだろう。
「よかった⋯⋯よかった、本当に───」
一体今日はどれだけの涙を流したのか。だけどこれは安堵の涙。
血溜まりの中。彼女は死神の胸に頬を乗せ、その流れ出る涙を彼の服に移した。
時計が静かに日付が変わったことを知らせていた。
お読みいただきありがとうございました。
今日の投稿で、長い1日篇終了です。
盛り上がるはずだったし、戦闘シーンもがんばって書いてはみたのですが。
う〜ん⋯⋯難しいですね。
明日も投稿予定です。
久しぶりにちょっとムフフな展開(言い方が古い)になると思います。
よろしくお願いします。




