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23.死神と彼女の長い1日⑤

アクセスありがとうございます。

本日もよろしくお願いします。

『お願い⋯⋯目を開けて!』

『うっ───』

『気がついた!? もう大丈夫! すぐに救急車が来るわ!!』


 映画の内容が衝撃過ぎて、あの状況からどうやってこの状況になったのか憶えていないが、どうやら物語はクライマックスを迎えているらしい。

 多数の警察、マフィアの遺体が転がる中。

 全身を血で染め瀕死の状態で横たわる男に、マフィアの娘が縋りつく。その顔は涙でぐしゃぐしゃだ。

 テレビの前で彼女もティッシュ片手に抱きしめたクッションで涙と鼻水を拭いている。


 ───汚いなぁ、ティッシュで拭きなよ。


「あ、ホントだティッシュ持ってた」


 ちーんと鼻をかみ、それを足元のごみ箱にポイッと投げるが縁に阻まれ床に落ちた。しかしそれを拾って捨てることすらしないくらいに画面に釘付けになっている。


『まさか、君が⋯⋯奴の娘、だったなんて。皮肉なものだ、な』


 男は口から大量の血を吐き出しながら、指でマフィアの娘の涙を拭う。娘はその手をギュッと握って。


『君と俺は⋯⋯結ばれない、運命、だったんだ』

『そんなことない───あなたは生きるの! 生きて私と一緒に幸せになるの!!』

『⋯⋯マフィアの娘と、警察の俺が、一緒になれる、わけがない。世間が───世界が、許して、くれない』

『たとえ世間が許してくれなくても、世界を敵にまわしても、私はあなたを愛してるわ!!』

『⋯⋯俺も、君を、愛し、てる───でも、ここで、お別れだ』


 っていうかそんだけ血ぃダバダバ出てるのによくそんだけ喋れるな。冷静になればやり過ぎのコメディーのような場面だが、感情移入しまくりの彼女は気付かない。

 しかし───


『次、生まれ変わったら───必ず君を、捜し出す、よ。だから、待ってて⋯⋯約束、だ───来世で、また、逢お⋯⋯う───』


 男の手が娘の手からスルリと抜け落ち、瞳から光が失われていく。


『う、うそ⋯⋯ねぇ、起きて、起きてよ! いやぁ──────っ!!』


 がっくりと力を失った男の躰をゆさゆさと揺する。娘は男のくちびるに自分のくちびるを齧り付くように合わせると人工呼吸を試みる。次は心臓マッサージ。それを何度も繰り返す。

 しばらくすると警察の集団が乗り込んできた。娘の周りをぐるりと取り囲む。


『あちゃー、この女、マフィアのボスの一人娘っすねぇ。生き残っちゃったか』

『死んでくれたほうが手間なかったのにな』


 不穏な言葉に、娘はもうすでに動かない男の身体に縋り付く。

 次の瞬間。

 パンっと乾いた音とともに娘のこめかみに穴があき、ぶしゃっと血飛沫が舞ったところで、映画のスタッフロールとなった。


 彼女は呆然と画面に流れる文字を眺めていた。

 映画のラストが衝撃だったからではない。それの少し前─── 


「〝次、生まれ変わったら〟───〝来世でまた逢おう〟か」


 止まっていた涙が再びあふれ出す。クッションに顔をうずめた。


「いいな───来世の約束ができるって、うらやましい」


 いつだったか死神に言われたことを思い出す。


『西園寺百合子の複製(クローン)であるお前には〝魂〟ってもんがない───輪廻の中にいないお前は生まれ変わるということはない。壊れたらそこでおしまいなんだよ』


 世の中のどれくらいの人が、来世があると知っているのだろうか。知らなくても来世があると信じるだけで、心が救われるのではないか。

 しかし彼女は、自分には来世がないということを知っている。

 死んだらこの思い出は、この想いはどこへ行くのだろう。2度と死神に会えない、それを悲しく思う必要なんてないのかもしれないけど。

 夢見ることなんて不毛でしかないけれど。


「もし、生まれ変わることができたら。もう一度、出会うことができたら。そのときは死神さんに───」


 ───好きだって、伝えたいなぁ。


 せっかくキレイにお化粧してもらったのに、すでにぐしゃぐしゃになって見る影もない。

 彼女はもう気にすることなく、クッションに顔をうずめて、幼い子どものようにわんわん泣いた。

 生まれて初めて声を出して泣いた───たぶん。





「がっ、はぁっ───」


 死神の口から大量の血がボタボタと垂れ、能力で具現化していた大鎌が維持できなくなって手から消えた。

 貫通している腕が胸から抜かれると、膝から崩れ落ち、どさりと倒れる。

 なんとか即死は免れたらしい。治癒の魔法陣が大量に消費されていくのを感じながら、死神は攻撃が来た方向に顔を向けた。


「ほう、胸を貫かれてもまだ生きているとは───お主は自己再生機能付きのサイボーグか何かかの」


 普通の人間では到底手の届かない場所に、教祖の姿をした何かが立ちはだかっていた。しゅるしゅると伸びた腕が戻っていく。そして手についた死神の血をペロリと舐めるとニヤリと笑った。


「⋯⋯気色悪いことすんな。車椅子はただのパフォーマンスかよ」


 死神はよろりと立ち上がると、口に残っていた血をペッと吐き出した。手の甲で口元を拭う。


「そう言うアンタは人間でもサイボーグでもねえな。アンドロイド───ただの人形だろ。本物の教祖サマはどこ行った? アンタの後ろに隠れてる5人のどれかか?」

「ほう、何故そう思った?」

「アンタからは一切生命反応を感じない、んで衝立の向こうからは5人の人間の気配がする、それだけだ」

「ほぉ~う」


 教祖の姿をした何かはそう言うだけで、肯定も否定もしなかった。

 しかし死神だって自分の正体をあかしていない。

 じりじりとお互いに間合いを探りながら。

 先に仕掛けたのは教祖の姿をしたアンドロイドのほうだった。再び腕が物凄い速さで伸びてくる。


「〝ゴ◯ゴ◯の(ピストル)!!〟」

「相変わらず()()()だな!? いや俺も読んでたからわかるけどよ!」


 今日2回目の身体強化の魔法陣を消費しながら、その腕を躱す。手に大鎌を握り直して斬り掛かった。


「お主は大鎌か! さながらブリ◯チの誰かよのぉ!!」

「〝命を刈り奪る形をしてるだろ?〟 ───って俺まで何言ってんだ!?」


 そういえばそれも死神代行の漫画だったな。そう考えている余裕もなく。

 教祖の姿のアンドロイド───偽教祖は大鎌を足でいなし、次いで足蹴りを繰り出してくる。


「〝ゴ◯ゴ◯の鞭!!〟」

「くっそ───見せ掛けじゃなくてホントに強えのが腹立つ!!」


 死神も自ら横に跳び攻撃を受け流すが、先程までのアンドロイドとは比べ物にならないくらいに動きが速く、そして次の手が読めない。


「当たり前だのっ、そう()()ようにワシが言ったからのぉ!!」

「それはアンドロイド(あんた)か、それとも教祖(ホンモノ)の意思かっ、どっちだ!?」

「この身体も本物だのぉ!!」


 教祖は次々と技を繰り出す。とても見た目の年齢とは思えない、そして人間とは思えない動きをする。アンドロイドは人間ではないのだから当たり前といえばそうなのだが。

 しかし死神だって能力向上と身体強化を掛けているのに、互角どころか教祖に押されている。これではジリ貧、効果が切れたところで確実に負ける。

 嫌な汗をかきながらどうするか考えようとしたとき。

 視界の端で何かが動いた。


 ズガガガガガガガッ────!!


「!?!?」


 再び回転式多銃身機関銃が火を吹く。それをすんでのところで躱し、大きく後方に跳びそちらを見れば。

 死神の目が驚きで見開かれる。その様子を可笑しそうに教祖が嗤った。


「な、なんで───」

「どうしてお主はワシを()()しかいないと思っていたのかのぉ」


 教祖のアンドロイドと全く同じ姿をしたアンドロイドが2体、死神に機関銃を向けていた。


「ワシの身体がアンドロイドと気付いておったなら、この可能性も考えておくべきだったの」

「はは⋯⋯もうなりふり構ってる場合じゃねえな」


 後からどうなるかわからない。だけどここで負けたら一緒のことだと苦笑いして。

 死神は残っていた魔法陣の、能力向上と身体強化を重ね掛けした。


「ぅぐ!!」


 頭がかち割れそうに痛い。筋肉が、関節が崩壊しそうだと悲鳴を上げる。

 だけど3体の教祖のアンドロイドの攻撃が先ほどよりもゆっくりと見える。


「すぐ終わらせてやらぁ!!」


 死神は歯をぎりりと食い締め大鎌を握り直すと、弾丸の雨をくぐり抜け反撃へと打って出た。




「酷い顔⋯⋯」


 彼女は鏡に映る自分の顔を見てドン引きした。

 化粧したまま号泣して、さらにクッションで擦ってしまったのがいけなかったらしい。アイシャドーにアイライナー、マスカラがグチャグチャに落ち、腫れて小さく見えるのに真っ赤に充血して存在感を増す目。

 慌ててクレンジングして、温めたタオルと冷やしたタオルを交互に当ててみたが、それほど効果なく。

 時計を見るとそろそろ遅い時間になっていたので、目のことは諦めてお風呂に入ることにした。

 シャワーを浴びてシャンプーを手に取ろうとして。いつも自分が使っているもののとなり、死神が使っているシャンプーが目にとまった。それをボトルごと手に取ってみる。


「薬用スカルプ育毛シャンプー」


 テレビCМでもよく見るものだ、そして値段が普通のシャンプーの10倍くらいするのも知っている。

 死神も髪と頭皮を気にしているのだろうか⋯⋯〝死神〟なのに。

 鏡の前で抜け毛の心配をしている死神を想像して、彼女はくすくすと笑った。

〝死神〟のくせにやけに人間っぽい。口が悪くて面倒臭いと言うけれど、本当は面倒見良くて優しくて。

 そんなだから、好きになってしまうのだ。

 ふぅ、ひとつため息をつくと、自分の脚の付け根に刻まれた識別番号〝37−3186〟が目に入った。


「私も()()()()()じゃないけど、死神さんは人間ですらないんだよね」


 これじゃ恋愛なんて始まらないわけだ。恋愛は人間にしか備わっていない機能だと、何かで読んだことがあるような、聞いたことあるような───あったかな、そんなこと。

 とにかく〝死()〟ということは、八百万の神様の中の1人ということだ。おいそれと好きになっていい相手ではない。


「⋯⋯ちょっとだけ使わせてもらおっと」


 いつも使っているシャンプーよりも遠慮して少し量を減らし手に取ってみる。すぅーっと清涼感のある匂いがした。この匂い、死神からもよくしていたが、シャンプーの匂いだったのか。

 髪に載せて泡立てると、頭がすぅすぅ涼しくなる。


「ひゃあ〜、なんか変な感じ!?」


 慌てて洗い流すと、頭の毛穴が寒いんだか熱いんだかよくわからないが、いつものシャンプーよりスッキリしたような気がする。

 髪にタオルを巻き、次いで身体と顔を洗って湯船に入る。


 自分がクローンでサイボーグでなかったら。

 死神が〝死神〟でなかったら。

 きっと出会うことすらなかった。

 出会って一緒に暮らすことができて、そして恋心というものを知ることができた───人造人間の自分には一生縁がないものだと思っていた。


「だから、これで良かったんだ」


 ───本当に、そう思ってる?


 お風呂は好きだ。

 ゆっくりリラックスできて気持ちがいいし、流れる涙を隠してくれるから。

 深呼吸すれば、死神のシャンプーの匂いがした。


「好きです、死神さん───大好き」


 死神本人には伝えられない。

 だから、こっそりここで呟くのだ。

 この想いが破裂しないように。

 この想いは、自分だけが知っていればいいのだから。


お読みいただきありがとうございました。


映画も本当にあるものを参考にしたかったのですが、都合良く見つかるはずもなく⋯⋯私の創作です。

イメージ的には韓国映画の「シュリ」を想像しながら書いてました。


明日も投稿予定です。

よろしくお願いします。

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