22.死神と彼女の長い1日④
アクセスありがとうございます。
ようやく山場を迎えました。
よろしくお願いします。
教団の施設。
午前中の座学で死神が座っていた席の机の裏。
こっそり貼り付けていた転移の魔法陣に光が灯り、死神の姿がそこに現れると同時に役目を終え消えた。
「転移1回につき入口と出口で2枚消費するのはキツイよな───まぁコピーするようになってからは助かってるけどさ」
そうボヤきながら死神はあたりを見渡す。
電気が消えて薄暗い講義室。
今は夕飯の時間で、教祖と幹部以外の信者は全員食堂に行っているはず。
意識をレーダーのようにして詮索すると、やはりほとんどの信者が食堂にいることがわかった。
しかし坐禅と瞑想の前に出てきた中年の男女2人とその他何人かが居るのは。
「地下ねぇ⋯⋯ますます怪しいんでねぇの」
今日の1日体験では案内されていない場所───しかもかなり地下深い位置にある。
そこに意識を集中させる。
何部屋かに分かれているようだが、全員ターゲットと見て間違いないだろう。
昼間は偽物だった教祖の本物もそこにいるはず。
死神は壁に向かって歩き壁に手を当てる、そのまま身体はするりとすり抜け廊下に出た。
とりあえず地下へと続く階段を探すが、それらしき場所はない。唯一あるのは地下への専用のエレベーターのみ。
「これって許可されてない奴がエレベーター使うと、扉開いた瞬間に機関銃で蜂の巣にされるってアレかな」
昔観たギャング映画にそんなシーンがあったのを思い出したが、結局エレベーターに乗るしか方法はなさそうだ。
死神は腹を括った。
「1人だと寂しいな」
ソファーに深く掛け、夕食後のお茶を飲みながら、彼女はポツリと呟いた。
夕飯は冷蔵庫にあったお肉と野菜を簡単に炒めて、冷凍のごはんをチンして食べた。味は悪くなかったし、片付けも1人分なのですぐ終わった。
いつもならこの時間は死神と他愛もない話をしていたり、話をしていなくても2人の間に流れる空気を感じて、それを幸せと思っていたり。
仕事で遅くなることもあるが、そんな日は朝ゆっくりと出ていってくれたり。
今日のように朝から晩まで死神に会えないというのは、意外と少ない。きっと彼は時間を調整してくれているのだろう。
───せっかくキレイにお化粧してるの、見てもらいたいのに。
百合子の記憶にはたくさん残っているが、今日はクローンである自分が初めてコスメカウンターでプロに化粧してもらった───この興奮を早く死神にも伝えたいのに。
時計を見れば、まだお風呂に入るには早い。化粧はもうしばらくこのままでいよう。
とりあえず静まり返った部屋をどうにかしたくて、彼女は手っ取り早くテレビを点けた。
チャンネルを何度か変えると、今始まったばかりの映画があったので、概要欄を読む。
数十年前に上映したもので、当時の若手人気美男美女の俳優陣を揃えた配役で大ヒット、社会現象も巻き起こした珠玉のラブストーリーらしい。
───死神さんのほうがかっこいいもん。
「服はダ───ぅんんんっ、個性的だけどね」
しかし観始めてしばらくして気付いた。死神が着ている服は、この映画が上映されていた頃の流行のようだ。そして百合子が好んで着ていた服も。
そう思うと数十年前というジェネレーションギャップを感じることなく、素直にストーリーに没頭することができた。
映画の内容はロミオとジュリエットといったところか。マフィアのボスの子として生まれた女と、そのマフィアに両親を殺され復讐のために警察なった男が、お互い身分を隠したまま愛し合ってしまったことから始まる悲劇的な恋愛。
恋愛のはず、なのだが。
「ひぃいいぃいいぃぃっ!?」
物語の佳境。
彼女はクッションを抱きしめながら、薄目で映画を観ていた。
パァーン!パァーン!!ズガガガガガガガッ!! と火器銃器が激しく撃たれると同時に、悲鳴と血飛沫を上げながら脇役や端役の人たちがバタバタと倒れていく。
珠玉のラブストーリーとは!? と叫びたくなるような、これではラブじゃなくてギャング映画だ。
主人公たちが乗っていたエレベーターの扉が開くと機関銃が火を吹き、主人公の仲間たちは成すすべもなく身体を穴だらけにされ血で染まり───
「⋯⋯妙な感じだな」
エレベーターに乗った瞬間から視線を感じるのだが、監視カメラで見られているとはまた違った重圧とでもいうのか。
死神は高速で下降していくエレベーターの中、魔法陣で自分に能力向上と身体強化を重ね掛けする。
正直、この2つは後から反動がくるから嫌いだ。自分の力以上を求めるのだから仕方ないが、脳にも身体にも影響が残るのはリスクでしかない。
徐々にエレベーターの速度が落ちてくる。
先に着くであろう場所に意識を集中させれば、7人のうち2人かの気配が忙しなく動いている。向こうは侵入者の存在に気づいているということだ。
さぁ、どう出るか。
ふぅーっと息を吐き出せば、エレベーターの籠がガコンと止まり、チンっと到着を知らせるベル鳴った。
扉が開いた、その瞬間───
ズガガガガガガガッ────!!
エレベーター内は機関銃の集中砲火を浴びた。
余す場所の無いように撃ち込まれる弾丸は、宗教団体の施設というよりは、ギャングか軍隊のよう。
しばらくして弾丸は止んだが、エレベーター内とその周囲の壁は無惨にも穴だらけな姿を晒している。
「ったく、籠の上に逃げてなきゃ今頃俺が穴だらけだったぜ!」
そう言って死神が縮地で室内に現れれば。
ゴウンゴウンと機械音が低く響く巨大な地下空間。
人の形をした何かの集団が、ぐるりと死神を壁側に囲っていた。その数、ざっと100体。最前列にいる3体は回転式多銃身機関銃を死神に向けている。
死神の顔が引きつった。
「あー、俺死ぬかも」
その声が引き金になったかのように、再び機関銃が火を吹く。
死神は後ろを向くとダンッと踏み出して壁を垂直に駆け上がる。魔力で強化された肉体は、重力を無視するように動き、目は弾丸1発1発の弾道を見切ることができた。
壁を蹴り、宙返りをしながら下にいる人の形をした何かの集団に目を向ける。無表情な顔、何も映していない目、半開きの口の集団が、死神に向かってわらわらと手を伸ばす。
能力で視界にウィンドウを出すが、生体反応は一切ない。しかし能力を使わなくても一目見て生きている人間とは違うということがわかった。
「お前らもアンドロイドか! 昼間見た教祖の廉価版ってとこだな!!」
手に魔力を込めれば大鎌が現れる。それで一気に何体かアンドロイドを物理的に薙ぎ払う。死神の腕に肉と骨を斬ったかのような衝撃と、アンドロイドの斬ったところから血飛沫のような何かがブシャーっと吹き出した。
「うげっ、こんなんまで人間に寄せるなよ!」
弾丸の雨と血飛沫を躱しながら、大鎌でアンドロイドをぶった斬っていく。
しかし斬り損ねたのか、下半身をなくした奴が腕で這いずり回っていたり、首を刎ねた奴が頭を捜していたり、真っ二つに左右に裂けた上半身を揺らしながら歩いている奴もいる。
「お前らいいかげんキモいっつーの!!」
ギャング映画がいつの間にかホラー映画になっている。
大鎌を振りながらアンドロイドの数を減らしていくが、機関銃を持っている3体になかなか近づけない。
「そもそも機関銃って生身の人間が扱える代物じゃねえだろ!! そこは寄せないのな!?」
通常、回転式多銃身機関銃は地面に設置したり戦車や装甲車に固定して使う。生身の身体では弾を撃った反動で吹っ飛ぶはず。しかし3体のアンドロイドは機関銃の反動をものともせず、死神に向かって弾丸を容赦なく撃ちまくる。
おかげで周りにいたアンドロイドもかなりの数が被弾して壊れていく───統率は取れていないようだ。
しばらくして立ち残っているアンドロイドは機関銃を持っている3体だけになった。
そして死神はここまでの銃撃で、あることに気付いた。3体を前にして立ち止まる。
すると示し合わせたかのように、銃撃がピタリと止まった。
「やっぱり⋯⋯こっちの方向には撃ってこないな。俺の後ろにお前らが守りたいもの───守らされてるものがあるんだな」
ふぅーっと息を吐き出す。能力向上と身体強化で無理をしている身体が軋みだし、嫌な汗が額からたらりと垂れた。
「まぁ、3体くらいなら何とかなるか」
死神は片手を3体に向けると魔力を練り上げる。
ボンッと爆発音がして、3体が身体の中心から弾け飛ぶ。機関銃がガシャンと床に転がり、死神以外動いているものは何もなくなった。
「はぁっ、はぁっ、はぁ───」
膝に手を置き荒い息をつく。前のめりになった頭からポタポタっと汗が床に落ちた。
こんなに疲労困憊なのに、まだターゲットの1人も魂を刈っていない。
死神の視界に出るウインドウは、アンドロイドを感知できないということがわかった、機械と同じ部類に入るのかもしれない。人造人間の彼女の〝Error〟とはまた違うらしい。
それにしても、宗教団体にこんなにもアンドロイドがいて、それが回転式多銃身機関銃をぶちかましてくるなんて、想定外過ぎる。
しかし仕事は遂行しなければならない。ウインドウで人の気配を探ると、死神の後方衝立の向こう側、5人が隠れているのかずっと動かないでそこにいる。
ふぅーっと再び息を吐き出し、呼吸を整える。
よっこらせと上半身を起こしたところで、ドンっと背中に衝撃を受けた。
「⋯⋯⋯⋯あ?」
胸辺りが妙に熱い。見れば死神の胸から血飛沫が舞い、その中心から血だらけの人の手が生えていた。
お読みいただきありがとうございました。
戦闘シーンを書くのは難しいですね、今の私にはこれが精一杯です。
明日も投稿予定です。
よろしくお願いします。




