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2.出会い

本日3話投稿しています。

その2話目です。(2/3)

「あ〜もう⋯⋯なんで人類ってヤツはこんなにも面倒臭いことするかねぇ」


 とある大富豪の邸宅に併設されている研究所。

 ガラス管や顕微鏡、何かちょっとグロいモノが浮かんでいる水槽に、何のためのものかわからない大型機械が所狭しと並ぶ中。

 巨大な大鎌を肩に掛け、男は今まさに魂を刈り取ったばかりの人間の死体を数える。


「ひー、ふー、みー、よー、いつ⋯⋯ん? 1人足りんな⋯⋯さっき見たときは6人いたと思ったんだけど」


 男はスマホを取り出し、アプリで今回の依頼内容を確認する。

 その指示書には5人の研究者の名前と、彼らは爆発に巻き込まれ死亡ということが書かれていた。


「やっべー、5人でよかったんだ。危うく関係ない人間の魂まで刈っちまうところだった」


 死体の上に浮かんでいるように見えるウインドウで名前を確認するが、良かったちゃんとリストと一致している───うん、無問題(モーマンタイ)

 大鎌で命を刈り取った死体は、気絶しているかのように倒れているだけで外傷は()()。刈るのは魂だけ、肉体には傷1つつかないが、一振りでその場にいる人間を始末することができる。

 指示書通りの死因にするため、これから爆発を起こそうとしていると、カタンっと何かが倒れたような音が静かな室内に響いた。


「⋯⋯誰かいるのか?」


 不自然な物音だが、人の気配はない。

 しかし先程の死体が一体足りないような違和感もあって、男は音のしたほうを順番に確認していく。そして1つの机の下を覗くと。


「ひっ───」


 青い顔をして膝を抱えるようにうずくまっている女と目が合った。彼女は男の姿を見てカタカタと震えている。


「ん? お前───何者だ?」


 20代前半くらいだろうか───彼女の正体を見極めようと男は目に魔力を集めるが、通常なら対象物の種族や固有名、年齢や状態などが見ることができるウインドウには、たった1言〝Error〟の文字が浮かんだ。

 先程死んだ人間たちは白衣を着ていたが、彼女は一目で質の良い服だとわかるものを着ている。研究者というわけではなさそうだ。


「わ、私は⋯⋯⋯⋯さ、西園寺、百合子───」

「西園寺百合子ぉ〜?」


 そこに転がっている死体の中に、同じ苗字の高齢の男がいた。

 スマホを取り出し〝西園寺百合子〟を検索すると、データベースに登録されていた彼女の経歴が表示される。

 やはり彼女はそこの男の一人娘で───


「ちょっと待て。西園寺百合子は40年前に死んでる(・・・・・・・・)ぞ」


 病死だったらしい。

 もし何かの手違いで生きていたとしても、目の前の彼女の年齢ではありえない。


「もしかして、お前は───」


 男がマジかよというように見つめれば、彼女はその視線を遮るようにギュウッと目を瞑った。

 さらに問い掛けようとしたのだが。


「ぎゃあぁああぁあぁっ!?」


 研究室の扉が開き、中の惨状を見たメイド服の女が悲鳴を上げ、その尋常ではない声に人の気配が多々近づいてくる。


「くそ、面倒臭せぇ」


 男が手をメイドの方へ向けると、そのメイドは操り人形の糸が切れたようにその場に倒れた。そして扉を閉め外に追いやると、今度は机の下で怯える彼女の腕を引き、抱き寄せた。


「あ!?」

「ちょっと()()から目ぇ瞑ってろ」

「え!?」


 男はよくわからない機械に目標を定めて手をかざす。

 その瞬間。

 地響きのような爆発とその炎が男と彼女に襲いかかってきた。


「きゃあぁああぁああああ───」


 しかし彼女の悲鳴を残し、2人の姿は唐突にその場から消えた。




「───あぁあぁっ!! ⋯⋯⋯⋯あ、あぁ?」


 炎に焼かれると思っていたが、いつまで経っても想像していたような衝撃や痛みが来ない。

 彼女が恐る恐る目を開けると、そこはベッドしか置いていないような小さな部屋だった。


「え⋯⋯え?」


 何の飾り気もない壁にはテレビが掛けられているだけ。ベッドのシーツは清潔そうだが、こんな味気のない白色なんて、病院かそれとも───


「ビジネスホテル?」


 シーツに刺繍されているロゴはCMで見たことがある。彼女がポツリと呟くと、耳の近くから「そろそろ手ぇ離してくんねえ?」と男の声がした。


「ぅひゃあ!!」


 驚いて飛び退けば、どうやら男の首に思いっきりしがみついていたらしい、男は痛てててて⋯⋯と首と肩を回しほぐしている。


「あ、あなたは⋯⋯?」

「俺? まぁ〝掃除人(スイーパー)〟ってやつだな」

「掃除人⋯⋯?」


 彼女のイメージの中の掃除人とは全然違う。

 作業着ではなく黒っぽい普通の(ただしちょっとヤンチャっぽい)若い男の人が着るようなものを着ているし(ただしちょっと古くさい)、掃除道具を持っているわけでもない。キレイにするより汚しそうな感じ。

 男の頭から足までを一通り見て、やはり掃除道具より似合うのは───あれ、この人さっきまで何か持ってたような。


「⋯⋯大鎌!!」


 そこでようやく先程のことを思い出し、彼女の顔から血の気が引いた。

 そうだ、この男が───自分以外の人間を殺した。


「あなたは、死神、ですか?」

「死神かぁ⋯⋯まぁ間違っちゃいねえな」


 怯えた表情を見せる彼女に、いいねぇそれ死神ってカッコいいじゃんと男はクククと笑った。


「おーい、ぶっ倒れるなよ、面倒臭えから。ちょっとそこ座ってな」


 死神であることを否定しなかった男───死神は、トンっと彼女の肩を押しベッドに座らせると、壁にある小さな開きを開け、手際よく備え付けのコーヒーをドリップしている。


「コーヒー飲むか?」

「あ、いえ⋯⋯⋯⋯紅茶のほうが」

「ちっ、面倒臭えなぁ」


 死神は1人分のコーヒーを準備すると、ドアから外へ出ていってしまった。

 しまった、こういうときは遠慮しておくべきだったかもしれない。しかし長年に渡って刷り込まれた思考や言動は、咄嗟に変えられないものだ。

 彼女はため息をつく───静まり返っている部屋に1人取り残されると、先程の光景がリフレインする。心臓の音がやけに大きく聞こえて。

 恐ろしくて自分で身体を抱きしめて、それでもカタカタと震えていると、思ったよりも早く死神が戻ってきた。


「ほい、コレでも飲め」

「───熱っ!?」


 彼女の頰に押し付けられたのは、缶入りのミルクティー。西()()()()()()()学生時代に好んで飲んでいた銘柄だ。


「あ、ありがとうございます」

「おうよ」


 死神は先程淹れていたコーヒーを窓際の壁に背を預けて飲んでいる。

 彼女も貰ったミルクティーを飲むことにした。


「───甘い」

「だろうな」


 ちびちび飲んでいると、その甘さと温かさで少しだけ不安な気持ちが和らいだ。

 半分ほど飲んだところで、意を決して死神に話し掛ける。


「あの、死神って───人の命を奪う、あの死神ですか?」

「その認識で間違ってないな」

「見た目は普通の人みたいですけど⋯⋯人ではないのですか?」

「まぁ()()()()()ではないな」

「そうですか⋯⋯」


 彼女は目を伏せる。

 つい先程起こったこと。

 研究室で週一回のバイタルチェックを受けようとしていたとき。いきなりこの男の人が現れたかと思ったら、大きな鎌を一振りして───彼女のまわりにいた研究者全員が、糸が切れたかのようにその場に倒れた。

 そして爆発、その炎から逃れられないと思ったら、一瞬にして全く別の場所にいる。

 普通の人間ではありえないことだ。


「じゃあ今度は俺から質問な───お前も()()()()()じゃねえな。何者だ?」


 嘘は許さない、というような鋭い眼光。


「あの大鎌は命あるものの魂を刈り取る。お前もあの場で死んでるはずだった───なのに、今こうして俺の前で生きている。それでいて俺がお前の正体を探ろうとすれば〝Error〟が出るんだよ。こんなこと初めてだ」


 その質問に彼女はふぅ〜と大きく息を吐いて。

 まっすぐに死神を見据えて、常日頃から研究室で唱えていた言葉を口にした。


「私は西園寺百合子のクローン体をベースに造られたE-37型サイボーグ実験体の人造人間、現存する唯一でコードナンバー37−3186コードネーム〝ユリコE5」




「やっぱ⋯⋯そうだよなぁ」


 死神は残りのコーヒーを一気に飲み干すと、がっくりと項垂れた。


「あぁ〜コレ報告案件だよなぁ〜ペナルティあるよなぁ〜どうしよぉ〜超めんどくせぇ〜アイツに報告とかマジでイヤなんだけどぉ〜つーかこんなのいるなんて聞いてねえし管轄外だしぃ〜───」


 ダラダラと文句を言っていると、クローンでサイボーグな人造人間───彼女が「あの⋯⋯」と申し訳なさそうに声を掛けてきた。

 死神はため息をつく。


「いやいやいやそれってマジ? 実はただのロボットでしたってオチは?」

「マジです、ロボットのオチはないです」

「じゃあなんか証拠見せてよ」

「証拠、ですか」

「人造人間だっていう⋯⋯そのコードだとか入れ墨とか入ってるもんじゃねえの? まぁそれだけ見ても素人じゃわからんのかもしれんけど」


 肩とかうなじとかそういうところに刻印がしてあるのセオリーだろ、と頭を掻きながら死神が投げやりな感じで言うと、彼女は合点いったようだ。

 ミルクティーの缶を置き、すくっと立ち上がった。


「近くで見ますか?」

「いやいいよ、そこで。ただチラッと見るだけだから」

「そうですか」


 彼女は少し恥ずかしそうにモジモジとしたのち、意を決したように1つ深呼吸すると、おもむろに履いていたスカートのウエストに手を掛け、下着ごとズルっと一気に下げた。


「うわぁああぁぁぁああ!?」


 死神は慌てて回れ右をする。耳まで真っ赤だ───純情か?


「おまっ、ばかっ───痴女か!?」

「見せろと仰ったので⋯⋯捲ったほうが良かったですか?」

「なんでだよ!?」

「脚の付け根に刻印があるので」

「なんでそんなところにあるんだよ!?」

「ビキニを着ても見えないところだからだそうです」

「もっとマシな理由じゃねえのかよ!?」

「⋯⋯見ないのですか?」

「もういいよ! 早く着ろ!!」


 そうですかと彼女は言うと、服を直す。

 その間も死神は壁に額を付け、あ〜だのう〜だの唸っている。

 しばらく死神の後頭部を彼女は見ていたが⋯⋯いつまでああやっているんだろう。缶を持ち直し、ベッドに腰を下ろし、残りのミルクティーをいただくことにした。

 それを飲み干して、まだう〜う〜言っている死神に恐る恐る声を掛ける。


「あの、思い詰めているところすみません⋯⋯あなたが死神ということは、あの研究室にいた人たちは───」

「死んだよ。不慮の爆発事故だ」


 死神ははぁ~っとため息をつくと、壁から額を離しテレビを点けた。数回チャンネルを変えると、白煙が上がる瓦礫の山が映った。


『本日午後3時頃に都内の西園寺研究所で発生した火災は、つい先程鎮火が確認されたとのことです。近所に住む方の話によりますと、ドーンという大きな爆発音がしたあと、火の手が上がったということで──────この火災により1人が意識不明の重体、12人がやけどなど重軽症。また5人と連絡が取れていないということで警察と消防は──────また、西園寺研究所は〝不老不死・死者をよみがえらせる夢の研究〟としてクローンやサイボーグの技術を医療に貢献できると──────今回の事故を受けて、各人権団体等からの批判は避けられそうにありません』


 次のニュースに話題が移ったところで、死神はテレビを消した。


「で、お前はこの〝夢の研究〟の集大成ってわけか」

「⋯⋯集大成かはわかりませんが。私が造られた目的は〝完璧な〟西園寺百合子を甦らせること。容姿はもちろん、口調や性格、思考までも西園寺百合子(オリジナル)と同じでなければ処分されますから」

「処分って」

「そのままの意味です───廃棄処分」

「⋯⋯そりゃ人権団体が黙ってないわなぁ」

「人権団体といっても色々で、クローンやサイボーグなどの人造人間にも意思があり人権が認められるっていうところもあれば、そもそも人間が人造人間を作ることが神の意に反しているというところもあります」

「なるほどねえ。でもお前が残されてるってことは、西園寺百合子の完全体ってことなんだろ?」

「私は処分されたくありませんでしたから。私の()()はE1からE6までいましたが、同期たちが処分されていくところを私は見ていました」


 彼女は手元に視線を落とす。甘くてまろやかで美味しいこのミルクティーは、発売から何十年も経っているロングセラー。


「このミルクティー、西園寺百合子(オリジナル)が大好きだったんです。だけど私はレモンティーのほうが好きで」

「そりゃレモンティー買ってこなくて悪かったな」

「E3は正直にレモンティーが好きと言って処分が決まりました」

「⋯⋯───」

「私は処分されないために、ミルクティーが好きって言ったんです。それでも結局私の百合子(オリジナル)との同調(シンクロ)率は90%を割ってしまいまして───今日のバイタルチェックを最後に処分される予定でした」


 死神は彼女から目を逸らした。

 淡々と語るにはつらい内容だろうに、しかし彼女は小さく1つため息をついただけだった。


「あなたが研究者(あの人)たちに手を下したのは⋯⋯やっぱり自然の摂理に反する研究をしていたから、ですか?」

「まぁ、十中八九そうだろうな」

「私を処分しますか?」

「まぁ、そうするしかないだろうな」

「私の動力源は原子力なので、先程のように爆発させると、このあたり一帯が焼け野原になりますけど」

「マジか、10万馬力かよ」

「さぁ⋯⋯どうでしょう」


 これはこの人造人間に揶揄われたと、死神は頭を掻いた。


「やめてくれよ。ただでさえ俺、目のあるぬいぐるみとか人形が捨てられてるの見ると気にするのに」

「そんなことでよく死神できますね?」

「うるせー」


 死神が投げやりに言うと、彼女はクスクスと笑った。その様子はなんら普通の人間と変わらない。

 一通り彼女は笑うと手に持っていた缶を床に置き、そのまま深く土下座をした。


「おいおい、何して───」

「原子力は嘘ですが、私はまだ死にたくないのです。あと長くて半年、どうか命尽きるまで、見逃していただけませんでしょうか」

「半年?」

「私は半年に1回大掛かりなメンテナンス受けなければ徐々に人工部分が機能しなくなり、やがて生命活動が停止します。前回そのメンテナンスを受けたのが2ヶ月近く前なので、最長でもおそらくそれぐらいかと」

「まぁ⋯⋯半年くらいなら。でもお前死ぬまでの間行くアテあるのか?」

「⋯⋯⋯⋯ない、です」

「マジか」

お読みいただきありがとうございます。

続きも投稿しておりますので、そちらもよろしくお願いします。

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