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19.死神と彼女の長い1日①

アクセスありがとうございます。

今日から新章です。

この物語で1番盛り上がるところになっていく⋯⋯はずです。

よろしくお願いします。

「お前、水族館好きか?」

「水族館ですか⋯⋯私は行ったことはないですけど、百合子(オリジナル)は好きでしたね。男女が付き合う一歩手前の1番ドキドキしてる頃に行くデートの基本って感じがして」

「なんかそう言われると誘いにくいんだけど」

「誘ってくれてるんですか!? 行きます! 行きたいです!!」

 

 とある日の夕飯後。

 死神はソファーに座りながらスマホを片手にお茶を飲み。彼女はキッチンの流しでお皿を洗っていたが、一旦手を止めて彼の隣に座った。


「いつ行きますか? 明日ですか!?」

「食いつくなぁ、早くて今週末か来週あたりかな」


 前のめりで目をキラキラさせる彼女の頭を、死神はわしゃわしゃと撫でクククと笑う。

 彼女は気持ちよさそうに目を細めながらも、死神の持つスマホに目を向ける、そこには死神のスマホでしか見たことないアプリのロゴマークが画面に表示されていた。


「死神のお仕事なんですか?」

「まあな、俺1人で行ってきてもいいけどよ、お前ずっとデートデート言ってただろ。だからついでに連れてってやるよ」

「え、ひどいっ。デートが〝ついで〟なんですか!?」

時間対効果(タイパ)は重要なんだろ?」

「デートにタイパ求めちゃダメです!」


 ニヤリと意地悪そうに笑う死神に、彼女はブゥ〜っと膨れっ面をした。



 一緒に住んで、死神の仕事のこともだいぶ理解してきた。

 この国に住む八百万の神様たちは、死神に仕事を依頼するのにスマホの専用アプリを通してするらしい。全然ファンタジーじゃなくなったが、このアプリはこの死神が作ったという。


「コレ作ったきっかけ? だってよ〜このアプリ作る前までは酷いもんで、電話掛けてくる神様もいればファックスっていう神様もいたし、メールで送ってきても本文に仕事内容書いてある神様もいれば添付ファイルに依頼書付ける神様もいたし、依頼内容書いた手紙を郵送って神様もいた。1番驚いたのは念力で頭ん中直接話しかけてきたって神様だな。まぁ言った言わない依頼した依頼してないとか、予定が合わない、無理なスケジュール組まされるなんてトラブルもしょっちゅうあったわけ」

「なんだか神様の世界も一般企業と変わらないですね」


 そう死神に同情しつつも、スマホアプリまで作っちゃうこの人はホント何者なのだろう⋯⋯いや死神なんだけど。そもそも神様ってスマホ持ってるんだ⋯⋯そう彼女が思ったのはいつだったか。



「楽しみだなぁ水族館。あ、デート用に服買ってもいいですか!?」

「別に俺の許可取らなくても。カードの中に入ってる金の範囲内だったら好きなように使えばいいよ」


 そういえば遠出といえばジャンボタニシの駆除に行ったくらいで、あとは近場の買い物と夏祭りくらいしか出掛けてなかったか。

 世界を見てみたいと言っていた彼女に手伝うと言ったわりには、狭い世界しか見せてやれてなかったなと、死神は反省した。


「じゃあ死神さんも服買いましょうよ」

「あ? 俺はいいよ、遠慮しとく」

「えっと⋯⋯でも死神さんって、そのぉ〜ダサ───時代遅れ───古めかしい───個性的、そう、個性的な服じゃないですか。ちょっとデートに向かないというか」

「ダサくて時代遅れで古めかしくて悪かったな」


 散々な言われようだが、確かに人と交流しない生活では服なんて気にしないから、もうずっと新しい服なんて買ってないし、今どんなものが流行っているかも知らない。昔はそれなりに流行りの服を着ていたというのに。

 死神はため息をついて諦めた。


「わかったよ、テキトーに俺の分も見繕っといて」

「じゃあペアルックに───」

「絶対ヤダ」


 苦虫を潰したような顔をして、死神はよっこらせと立ち上がる。


「俺、明日朝早いから悪いけど先に風呂入るわ」

「もうお風呂洗ってあるので、栓してお湯入れるだけです」

「おう、さんきゅ」

「明日何時に起きますか? それに合わせて朝ごはん用意します」

「いや、始発の電車乗ろうと思ってる⋯⋯メシ食いたくなったらコンビニ寄るし、帰りも何時になるかわからんし。お前はゆっくり起きて先寝てればいいから」

「そうですか⋯⋯じゃあ、そうさせてもらいます」


 素直に従う彼女の頭をポンポンと撫でると、死神は風呂場へ向かった。


 たぶん明日の死神の仕事は、人間の魂を刈るほうなんだろうな、彼女はそう思った。



 彼女は彼のことを〝死神さん〟と呼んでいるが、それは彼の本名を知らないからだ。1度聞いてみたことがあるのだが、一瞬黙ったあと「俺にそんなもんねえよ」で終わってしまった。それは嘘ですよねと食い下がろうとしたが、死神が寂しそうな顔をしているのを見て、それ以上聞くのをやめた。

 だから彼女は親しみを込めて〝死神さん〟と呼ぶ。


 しかし〝死神〟とは言うが、小説や物語の中のように大鎌で人の魂をバッサバッサ刈るような死神業は少ないようだ。

 どちらかというとジャンボタニシのような───あそこまで大掛かりなのも珍しいらしいが───神様が増えすぎたなどで困っている動物や植物の駆除やその防止などがほとんど。あとは人間が無闇に造ってしまったダムなどの建造物を破壊するということもあるらしい。

 そして死神と彼女が出会うきっかけとなった西園寺研究所のような、一気に複数人の魂を刈るような仕事は、それこそ1年に1〜2回くらいということも。


 本当は人間以上に優しい心を持っている死神にとって、人の魂を刈るという行為は非常に精神的に負担が掛かるようで、以前は人数に関係なくその仕事の前後はどことなくボンヤリしていたり、思い詰めた表情をしていたりしていたが、最近はそれを隠すのが上手になっている。

 しかしそれ以上に彼女は死神を見ているのだ、なんとなく彼が落ち着いていないのなんてお見通しだ。

 だけど彼が隠そうとしているから、彼女もそれを指摘することなくそのままにしている。


「もっと頼ってくれても⋯⋯甘えてくれてもいいのに───私のことペットっていうなら、そばにいて癒やしてあげるのに」


 でもそれができるのも、あとどれだけ時間が残されているのだろうか。自分が壊れて死んだあと、あの優しい死神がまた1人で過ごしていくのかと思うと。


「私がいなくて寂しいと、思ってくれるかな」


 ───それはないよ、きっと。世話の焼ける奴がいなくなってせいせいするんじゃないかな。


 彼女に名前を教えないのも、彼女のことを〝お前〟と名前で呼んでくれないのも。

 優しくしながらも、ギリギリのところで必要以上の情を持たないようにしているのだろう。

 それでも。


「少しでも長く、死神さんのそばにいたいと思うんです」


 彼女のつぶやきは、シャワーを浴びる死神の耳には届かなかった。




 夜明け前の薄明かりの中、死神は駅に向かって歩く。

 住んでいるアパートは駅から遠いのが難点だと思っていたが、考え事をしたり無心になりたいときに、こうしてひたすら歩くというのは良いかもしれない。

 つくづく自分はこの仕事に向いてないと思う。

 今から人の魂を刈らなければならないのに、手汗も足の震えも止まらない。

 死神はため息をついた。


 始発の電車の角席を陣取り、スマホでアプリを開き、今日の仕事を確認する。

 とある宗教団体の教祖とその家族、幹部ら計7人───1つの案件として今までで1番多い人数だ。

 情報として今日の日付とターゲットの名前と肩書、年齢しか書かれていない。実行場所と時間、魂の回収方法は問わずらしい。

 全部に目を通して、再びため息をつき目を瞑る。

 もう数え切れないくらいの人間の魂を刈っているのに。何度経験しても、死んだ人間の目を見るのが怖い。

 その理由はわかっている。


『お前はこのために生まれたんだ、悪く思うな!!』

『あんたはあの子のために死んで!!』


 そう言った2人が血溜まりの中、あの捨てられた人形のような、何も映さない目で死神のことを見上げて事切れていたから。


 もう一度ため息をつく。

 アプリに溜まっている案件を順番にスワイプしていくと、水族館の依頼のページが目に留まった。


『楽しみだなぁ水族館』


 そう言った彼女の笑顔を思い出すと、こわばっていた口角が少し緩む。


「俺も⋯⋯楽しみ、かも」


 スマホをしまい車窓から外を見るとすでに太陽が地平線から昇り、あたりを照らし始めていた。


 死神の、長い1日が始まった。




 彼女が朝いつもの時間に起きたときには、すでに死神は出掛けたあとだった。

 1人なので朝食をシリアルで簡単に済ませ、洗濯物を洗濯機に入れ回す。

 テレビの情報番組を見ながら身支度を整えていると、星座占いのコーナーになった。


「そういえば私、何座になるんだろ⋯⋯」


 西園寺百合子のクローン胚から生まれた彼女は、人工子宮という人間の女性の子宮環境に似せた装置の中で胎児期を過ごし、ある程度大きくなるとそこから取り出され保育器の中で育ち、サイボーグに身体を改造された。

 生まれたときというのはいつのことをいうのか。この身体を創る細胞がこの世に産み落とされたときと考えるなら、百合子(オリジナル)と同じ誕生日ということになるのだろうか。

 そう思っているうちに百合子の星座の番がきた。


『今日のアナタはお買い物運が絶好調! 運命の服に出会える予感、迷わずGETして!!』


 テンション高めにアナウンサーが言うのを聞いて、今日の彼女の予定は決まった。

 星座占いを信じるわけではないが、水族館デートの服を買おう。ペアルックまではいかなくても、リンクコーデくらいなら死神も許してくれるかも。

 彼女の気分は上々になった。

 テレビの星座占いは続く。


『今日最下位のアナタ! ねずみ講や宗教の勧誘には注意して!! 毅然とした対応で切り抜けましょう。そんなアナタのお助けアイテムは〝胡散臭い魔法陣〟でーす!!』


「⋯⋯この占い絶対当たらないでしょ。っていうか胡散臭い魔法陣だなんて、持ってるの死神さんくらいじゃない?」


 クスクスと笑って。


 まさかこれがフラグになるなんて───このとき彼女はそんなこと思いもしなかった。




「君見るからに不幸そうだもんね〜背中に死神憑いてそうなかんじ! そんな君にはコレがお勧めだよ〜〝教祖様の御髪(おぐし)を編み込んだミサンガ〟78万!!」

「いや高いしキモチワル───あ〜ではなくて⋯⋯今日はまだ入信するとは決めてなくて。見学だけさせてほしいんだけど」

「そうなんだ〜じゃあこっちは?〝教祖様の接吻の施しを受けた壺〟96万!!」

「え、この人俺の言ったこと無視?」


 とある宗教団体の信者たちが共同で生活をしているという山間部の巨大な建物の1階、入信受付の部屋で、受付担当の男性信者に説明という名のありがたい品々の押し売りにあっている死神は、こっそりとため息をついてあたりを見渡す。


 小さな部屋に応接セット。正面には教祖様と呼ばれる中年男の大きな肖像画。

 壁に掛けられた鏡はマジックミラーなのか、それの向こう側、死神から直接姿は見えないが2人がこちらを監視しているようだ。

 死神の能力で視界に現れたウインドウには目の前の男の名前が出ているが、今回の仕事のリストには含まれていない。

 魔力をレーダーのようにして詮索範囲を広げると、現在この施設には300人程度がいるようだが、リストに載っている人間がどこにいるかまではわからなかった。


「見学はやってないけど、1日体験入信ならやってるよ。ここで実際どんなふうに生活しているか試してみたらどうかな?」

「あ、じゃあそれで」


 1日この施設にいたら、リストに載ってる教祖や幹部たちと会う機会があるだろう。できれば一同揃ったところを一気に大鎌で刈りたい。

 そんな死神の思惑などつゆ知らず、受付担当はにっこり笑った。


「1日体験料として食事代、道衣とテキスト、館内使用料で合計5万ちょうどね! 支払いは現金他各種クレジット、キャッシュレス決済が使えるよ〜」

「⋯⋯QR決済で」

「まいど〜!! この売り上げ1割は僕のお小遣いになるんだよね♪」


 相手の思惑つゆ知らずだったのは死神のほうで。

 差し出された端末にスマホをかざすとチャリーンと決済音が流れた。

 絶対成功報酬上乗せで請求したる、そう決意する死神だった。

お読みいただきありがとうございました。

明日も投稿予定です。

よろしくお願いします。

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