17.夏祭り④
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2人は街道を古城に向かって歩く。
彼女の手にはカスタードと生クリームとフルーツたっぷりのクレープが握られている。その前はわたあめ、さらに前はわらび餅。
わたあめとわらび餅をひと口ずつもらった死神は、もう激甘そうなクレープを見ただけで胸焼けしそうだった。
「クレープ美味しいのに」
「いやもう俺甘いのいらんわ⋯⋯たませんとかはしまきとかなら食えるかな」
「両方とも知らないですね、何ですかそれ」
「え、知らんの? 焼いたたまごにソースとマヨネーズかけてでっかいせんべいで挟んだのが〝たません〟。お好み焼きを箸に巻いたようなヤツが〝はしまき〟。そういや両方とも今日見てねえな。屋台の定番じゃねえのか、ウマいんだけどなぁ」
「へぇ〜美味しそう、食べてみたいです!」
「機会があったらな〜」
ほんの一瞬、彼女の顔がこわばったのを、その言葉を深く考えずに言った死神は気付かなかった。
古城に着いたときにはお腹が苦しかった。
浴衣の帯で締めているから───も、あるかもしれないが、クレープの次はりんごあめを食べたから。
「りんごあめの中身がホントにりんごだったなんて知りませんでした」
「いやだから〝りんごあめ〟っていってんじゃん」
「りんごの形した何かだと思ってたんですよ〜ふわふわのマシュマロとかクリームとか」
「まぁそういうやつもあるけどな」
「持った瞬間〝重ッ!?〟てなりました」
「でも全部食ってんの。すげーわお前の胃。普通の女子ならりんご1個食ったら腹パンパンだろ」
「スイーツは別腹って知らないんですか?」
「別腹の容量がハンパねえな」
古城の前の特設ステージの前には人集りができている。人をかき分けなんとか2人分のスペースを確保して。
「そんでこの集まり何やるんだろうな?」
「知らずに来たんですか?」
「お前知ってるんかよ?」
「パンフレット見ればわかりますよ!」
「知らねえんじゃん」
やれやれと死神がポケットからパンフレットを出す。それによると、この古城を築いた歴史上の人物が主役の時代劇が始まるらしい。
「俺結構この武将好きだったな。戦が強かったってのもあるけど、頭の良い奴でさ。政策とか今でも通じるもんがあるんだよな〜」
いきなり死神の歴史うんちくが始まった。
その武将がした政策、実際の効果、人々の暮らしの様子。
彼女はふんふんとその話を聞いていたが、死神の話し方がまるでその時代を見てきたかのようで─── もしかしてと思って、こそっと彼に耳打ちする。
「あの⋯⋯死神さんもしかしてその時代実際生きてらっしゃいました?」
「はぁ? んなわけあるか」
「えっ、そうなんですか?」
500年くらい前の話だ。 死神ならあり得ない話でもないのかな〜とも思ったが、そうではないらしい。
そんなことを話している間に、公演となった。
多少脚色されているがだいたい史実に基づいた構成で、死神にとってはなかなか楽しいものだった。
しかし彼女には少々難しく。
「百合子は歴史は嫌いだったようです───歴史の授業は寝ていた記憶が」
「お嬢様も居眠りするんだな。俺は結構好きだったけどな〜歴史。お前自身は授業ちゃんと受けてたのか?」
「私は学校に行ったことありませんよ。私の知識は全部百合子から受け継いだものですから」
「⋯⋯そっか」
クローンの彼女には人権もなければ教育を受けさせる義務にも当てはまらない───彼女にとっては当たり前のことだ。
「だから私がおバカなのは私の自業自得じゃなくて、百合子がおバカなせいですよ」
死神の顔に同情の色を見つけて、雰囲気が暗くならないよう彼女はニコッと笑ってみせた。
つられて死神もくすりと笑い、彼女の頭をポンポンと撫でた。
彼女は気持ちよさそうに目を細め───先程死神がいった言葉をふと思い出した。
「あ、でも歴史の授業好きだったということは死神さんは学校通ってたんですか?」
「⋯⋯ナイショ」
「え? なんで!?」
「さぁーて、そろそろ俺らも帰ろうぜ。俺明日も仕事だし」
「えっ、あ、ちょっと待ってくださいよ〜」
さっさと人混みに紛れて歩き出してしまった死神を追いかける。どうやら死神自身のことは教えてくれないらしい。
「魔法陣持ってきてないから帰りは普通に歩いて帰るからな。途中でタクシー拾えたら拾うけど、望み薄いなぁ」
死神はスマホでタクシーの配車状況を確認するが、どこも出払っているようだ。
2人は来た道をゆっくり歩きながら戻る。
途中人の波に揉まれてはぐれそうになったのを気付いた死神が、がしっと彼女の手を握って。離れないように今もその手は繋がれたまま。それだけで彼女の頬は幸せに緩む。
───タクシー、拾わないでほしいな。
タクシーに乗ってしまったら、きっとこの手は離されてしまう───そんなの寂しいじゃないかと。
好きな屋台のメニューとか、好きな歴史上の人物とか、今日のお祭りの感想とか。そんなたわいない話をするこの時間がずっと続けばいい。
それは死神も思っているのか、それとも下駄を履いている彼女の歩幅に合わせているのか。
人混みから抜け出しても2人の手は繋がれたままだった。
ゆっくりとだが確実にアパートは近付く。
ゆっくり、ゆっくり、さらにゆっくり───
「おい、どうした?」
アパートまであと10分というところで、ついに彼女の足は止まってしまった。
死神が俯く彼女の顔を覗き込むと、何やら歯を食いしばって痛みに耐えているよう。ふと足元を見れば案の定、下駄の鼻緒が擦れて血が滲んでいる。
「あ、バカお前いつから我慢してたんだ?」
彼女の足元にしゃがみ込み、下駄を脱がし傷口を見る。かなり酷く皮がめくれている、ずっと痛みに耐えながら歩いていたのだろう。
「すみません⋯⋯あともうちょっとくらい歩けるかなと思ったんですけど。紙袋から私の靴出してもらえますか?」
死神は手に持つ紙袋の中身をちらりと見る。下駄よりはマシだが、歩きやすさよりデザイン重視の靴は、普段の生活には適さないかもしれない。
そう言えば服は何着か買ったが、靴は研究所爆破したときに履いていたものだけだったな思っていると。
浴衣に靴なんて変ですけどね、まぁあとちょっとなのでと彼女が自嘲気味に笑うのを見て、死神はため息をつきしゃがんだまま彼女に背中を向けた。
「もういいよ、靴でも傷口当たると痛いだろうし。あとちょっとくらいならおぶってってやる」
「で、でも───」
「80kgくらい身体強化なくてもおんぶできるぜ?」
「76.8kgです!」
「⋯⋯そんくらい誤差だって。ホレ、早く」
「〜〜〜〜〜〜っ!!」
再び死神の背中を見つめて。 浴衣で異性の背中に抱きつく(注:おんぶ)なんて───そんな少女漫画なっ!! と、思ったが。死神の背中の誘惑には勝てず、彼女はそっと彼の首に腕を回し、背中に身体を預けた。
行きもおんぶしてもらったが、そのとき以上に浴衣でおんぶはキツい。脚をパッカーン開けなければならないし、それに伴い前の合わせ部分も全開だ。彼女の太ももが露わになっていることに、死神は気付いているだろうか。
「オ、オネガイ、シマス⋯⋯」
「よーい、しょっ───と!」
死神は立ち上がると彼女の身体を揺すり位置を直し、彼女の足からするりと下駄を取った。
「あっ、ありがとうございます───」
「あ〜やべ⋯⋯結構重い、かも」
「わぁ〜ごめんなさいっ、やっぱり降ります降ろしてください!」
「バカ暴れるなって。大丈夫だから」
ゆっくり死神は歩き出す。
行きのような目まぐるしい動きはない、歩行するときの僅かな上下運動を感じるだけ。
だから、死神の体温や筋肉の硬さがよくわかる。 ということはつまり───
───私のドキドキも死神さんに伝わってるのかな。
そう思うと居た堪れない、なるべく考えないようにするにはどうすればよいか。
死神の背中の広さを全身で感じながら、彼女はずっと疑問に思っていたことを訊いてみることにした。
「死神さん、瞬間移動できるじゃないですか。どうして今日はしなかったんですか?」
「転移な⋯⋯瞬間移動って、なんか言い方ダサいからヤダ」
クククと死神に笑われ、彼女は口を尖らせた。まぁ彼からは見えていないと思うが。
死神はよいしょと彼女の体を揺らし、おぶっている位置を直して再び歩き出す。
「俺が使う魔術ってのは万能じゃない。例えば身体強化は1回10分が限度だし、使えば使った分だけ後から反動がくる」
「反動?」
「〝身体強化〟って言ってるけど⋯⋯要は体力と筋力の前借りなんだよ。使った後はすっげー疲れたり筋肉痛になったり───行くときもお前がゲロってる間、俺ベンチで休んでただろ。あのとき俺は〝お前をおぶってパルクールしながらアパートからダッシュしてきた〟ときの何倍もの疲労を感じてたんだよ」
それで吐いてる彼女を置いて死神はさっさといなくなったのか。
あのとき薄情だなとちょっと思ってしまって申し訳なかったなと、彼女はキュッと死神の背中に抱きつく腕に力を込めた。
「〝転移〟はさらに魔力を使う。時空を無理矢理捻じ曲げてるからな、移動距離が遠いほど魔力がたくさんいるし、それに入口と出口に対になる魔法陣が必要なんだよ。どんなに魔力が残ってても、転移の魔法陣のない場所には転移できない」
「あれ、でも魔法陣なくても〝転移〟してますよね?」
パルクールしてたとき。あとは研究所で初めて死神に会ったとき───彼は何もない宙からいきなり現れた。
「短い距離は〝縮地〟だな。壁1枚とか目で見える距離くらいなら魔法陣なくても魔力練って跳べる」
「へぇ〜」
「〝へぇ〟ってお前わかってねえだろ」
「えっ、そんなこと⋯⋯あるようなないような?」
「ま、別にわからんでもいいんだけどな───こんなん普通じゃないんだし」
「⋯⋯」
クククと笑った死神の言葉に、なんとなく寂しさを感じて。彼女は死神の首筋に顔を寄せた。
「奇遇ですね⋯⋯私も普通じゃないんです」
彼女の吐息を首筋に感じ、死神の背中にゾクリと何かが走った。
暑い季節なのに、彼女とくっついているのが不快じゃない。それどころか背中に感じる2つの柔らかな───
───あ〜バカか俺、考えるな。
目を閉じれば彼女が小さな舌でペロリとチョコバナナアイスを舐める姿が思い出されて。目を瞑ったらダメだと下を見れば、彼女の血が滲む素足が見えた。それをたどると、暗い夜道なのに彼女の白い太ももがはっきりと───
「あ〜っ、お前マジ重いな! ホントに76.8kgか!?」
「ちょっと失礼ですね、そんな大声で言わないでくださいよ! 前回のメンテナンスのときは確かに76.8kgでした!!」
「そのメンテナンスってどんだけ前だよ。お前今日めっちゃ食ってたじゃん、太ったんじゃねえの〜?」
「えっ⋯⋯ちょっとそれはなきにしもあらずですけど───」
2人の住むアパートが見えてきた。
夜道に2人の楽しそうな声が響いて。
こんな生活悪くない、悪くないどころか───
───すごく、いい。
あと数ヶ月先には彼女はいなくなるのに。この生活を満喫している自分はきっとどうかしている。
彼女の重みを身体中で感じながら、死神はゆっくり歩いた。
お読みいただきありがとうございました。
投稿を始めて2週間経ちました。
自分の中で、毎日投稿することを目標にしていますが、
思っていた以上に疲れますね。
そして「なろう」でトップで活躍されてる方って、どれくらい読者がいるんだろうと見に行って、あまりの桁の違いに、嫉妬よりももう世界が違うなって思いました。
私アクセス1増えるだけでも喜んでおりますので⋯⋯弱小です。
今後も細々とがんばりますので、よろしくお願いします。
明日も投稿予定です。




