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16.夏祭り③

アクセスありがとうございます。

本日の投稿話後半部分の〝☆☆☆〟から〝★★★〟は、心清らかな方は読まずにスクロールしてください。

読んでいなくても、物語には何の支障も有りません。

よろしくお願いします。

「あれ、さっきの浴衣の看板なくなってる⋯⋯誰か片付けたのかな」

()()が終わったから消えただけだろ」

「?」


 街道に戻ると、そこにはまだたくさんの人が溢れていた。

 人の波に揉まれながら、2人は出店を物色していく。


「わらび餅にしようかな〜、わらび餅ならシェアしやすいと思いません?」

「だから俺いらんってば」

「雰囲気ですよ雰囲気! 食べたくならないんですか?」

「俺のこと気にせず好きなもん食べればいい」

「え〜?」


 彼女が次何かを言おうとしたとき、死神のスマホに着信があったようだ。しかし彼はちらりと画面を見ただけで、そのままポケットに入れてしまった。


「出なくていいんですか?」

「出なくていいよ、今は仕事中じゃないんだから」

「えっ、ということは仕事の電話なんですか? それって無視しちゃダメなやつですよ! さっき美容室出るときも何かメール来てましたよね、出ないにしても一言断りのメール入れておくとか───」


 彼女がチクチク言っている間にも、再び着信音が鳴る。


「ほらほら鳴ってますよ」

「あ〜もぅ確かにウゼェな」


 このまま無視し続けたら出るまで電話掛けてきそうだ。〝返信不要〟ってちゃんと文章入れたのに。

 はぁ~っとため息をついて頭を掻く。


「悪ぃ、ちょっと電話してくるから。この辺見てて」

「じゃあもうちょっと歩いたところにフリースペースあるみたいなので、そこで待ち合わせでいいですか? 何か買ったらそこ向かいますので」

「おう、じゃあそこで」


 電話をするため人混みから抜ける死神の背中を見送って、彼女は気になっていた屋台に戻ることにした。


 街道から脇にのびる路地に入れば、祭りの喧騒からは離れられる。

 死神がスマホの不在着信を知らせる画面を見ながら、折り返したくないと往生際悪くウダウダしていると、もう何度目かの着信音が鳴った。

 はぁ~っとため息をして、意を決して通話ボタンを押した。


「も───」

『ちょっと〜アナタ久しぶりじゃな〜い元気してたぁ? 全然連絡くれないんだもん、寂しかったわぁ〜あのねぇもっと仕事のことだけじゃなくてもいっぱい連絡くれていいのよぉ〜? たまには時間忘れてしゃべりたいじゃなぁい? アナタとアタシの仲でしょ〜遠慮しなくていいからぁ〜そう言えばアタシこの前さぁ───』


 死神が〝もしもし〟と言う前に、受話口からテノールの歌声のような美声だが、ねっとりとした口調に息つく暇もなく続くマシンガントークが流れてくる。

 仕事の話ではない、とりあえず自分が話したいことを一方的に口に出しているというかんじ。それをしばらく聞き流し。まだまだ続きそうだと、死神はため息をついた。


「用事ないならもう切るぞ」

『あっ、ちょっと待ちなさいよツレないわねぇ』

「仕事の内容ならさっきメールで送っただろ。もう他に言うことねえよ」

『アンタはなくてもアタシがあるかもしれないじゃない!』

「じゃあ何だよ?」

『特にないわよ!!』

「ないんかいっ」


 まったくなんなんだこの()は。

 もう何度目になるかわからないため息をつき、死神は頭を掻いた。


『まぁそんなこと言わないでよ⋯⋯ただでさえアタシ()()仲間いないんだから。孤独は心を病む原因よ? ちょっとは仲良くしましょうよ』


 そう言われると何も言えなくなる。

 ほんの数ヶ月前、彼女と会うまでは本当に孤独だった。何のための仕事なのか、もうそれを考えることもなく、ただ仕事行って終わったらビジネスホテルなどの宿泊施設に帰って、また次の仕事行って───毎日それの繰り返し。

 それが今では浮かれて祭りなんか来ている。

 この電話の相手はどうだろうか───まぁたまの電話くらいちょっとしゃべってやってもよいかと、死神は路地の壁に背を預ける。煙草でも吸おうかと思ったが、あいにくリュックの中だ、今はない。


『声を聞くかぎりは元気そうね』

「毎日過労死寸前だけどな」

『大丈夫よ、アナタちょっとやそっとじゃ()()()()から』 「もう()()()()奴に言われたくねえよ」

『言うわねぇ』


 クスクスと受話口の向こうで笑う相手も、とりあえずまだ大丈夫そうだろう。

 今は1人にしている彼女のほうが心配だ。


「悪い、次があるからまた今度な」

『あら、そうなの⋯⋯わかったわ。じゃあ()()()()()()()()()の件はやっておくわ───連絡ありがとう』


 先程とは打って変わって穏やかな口調だ。


「家が倒壊しそうだからなるべく早く頼むな」

『はいはい、じゃあまたね〜』


 切ボタンを押して通話を終わらせて。

 もうあの地縛霊の老婆は彼に任せておけばいいだろう。

 死神は街道に戻ると、彼女と待ち合わせのフリースペースへと急いだ。



「あのっ、私一緒に来てる人がいるので───」

「じゃあその子も一緒にオレらと周ろうよ! 美味しいもんおごってあげるしぃ〜お酒出してくれるイイカンジのところ行こうよ」

「いえ結構です!」

「そんな遠慮しなくていいからさぁ〜」


 混雑している休憩や飲食のフリースペースを縫うように彼女を探して。しばらくして椅子に座る彼女に、イマドキのチャラ男が3人囲むように話しかけているのを見つけた。

 彼女は大きなチョコバナナ片手に焦ったように拒否しているが、その様子も男たちには面白いらしい。


「困ってる顔も超カワイイ! 浴衣が超絶色っぽい!! オレお姉さん超タイプなんだけど〜」

「オマエめっちゃグイグイ行くなぁお姉さんめっちゃ引いてるじゃん」

「うるせーちょっと黙ってろ!」


 ギャハハハハと男たちの耳障りな笑い声に、後ろから近づいた死神のこめかみがピクリと脈を打った。

 何故だろう、彼女に自分以外の男が近づくのが無性に腹が立つ。男たちと彼女の間に割って入ると、ダンッと机に手を打ち付けた。


()()ツレに何か用?」


 引きつった笑いが不気味だ。

 しかし彼女は死神の姿にホッと安心した顔を見せた。


「なんだ⋯⋯男連れかよ」

「は? 何この男、超ダセェ」

「はぁ〜なんか一気に冷めたわ」


 男3人はそれぞれ好き勝手言いながら人混みの中消えていった。

 その後ろ姿を見送って。死神ははぁ~っとため息をつくと、彼女の隣の椅子にドカリと腰掛けた。


「あのなぁお前さぁ〜、ああゆう奴は適当にあしらうか無視すりゃいいからな? お前見た目はいいんだからちゃんと自衛しねぇといつかヒドい目にあうかも───って何照れてんだよ」

「え? え〜っと、あの⋯⋯私、見た目いいですか?」

「あぁ? そりゃ⋯⋯」


 艷やかな髪に透き通るかのようにキレイな肌、整った顔立ち。柔らかそうな胸にくびれた腰、スラリと伸びた手足─── 大富豪の娘のクローンとして、惜しむことなく磨かれたのだろう。もしかしたらサイボーグ化するときに多少いじっているのかもしれないが。


「美人、だと思うよ」


 もし彼女が普通の人間として生きていたならば、きっと周りの男が放っておかないだろう。

 非の打ち所がない男と結婚して何不自由ない暮らしをして、可愛い子どもを産んで。

 手の届かない存在だったんだろうなと、死神が考えていると。

 彼女の顔がボボボボボっと真っ赤になった。熱を持つ頬を手で抑え、激しくなる動悸をやり過ごす。


「死神さんもカッコいいですよっ!」

「さっきの奴には〝ダセェ〟って言われたけどなぁ」

「あの人たちは見る目がないんですよ!」


 クククといつものように苦笑する死神には、きっと彼女の言葉はお世辞にしか聞こえなかったのだろう。

 彼女はそれをうらめしく思う。


「本当に、死神さんはカッコいいですよ⋯⋯?」

「そりゃどうも。ところでチョコバナナ溶けてきてっぞ?」

「え? うわっ、ホントだ!? これチョコバナナのアイスなんですよ! さっきもあの人たちに話しかけられて途中から溶けたらどうしようとばっか思ってました!!」

「お前が困ってたのはそっちかよ」


 死神は苦笑しながら彼女に食べるように促す。

 彼女はチョコバナナアイスに口を近づけると、その小さな舌で溶けて垂れてきたところをペロリと舐めた。


☆☆☆


 その様子を間近で見て。


「⋯⋯なんか」


 ───エッロぃ。


 ノドまで出かけた言葉を死神はゴクリと飲み下した。

 頬を赤く染めた浴衣姿の女が、チョコバナナのアイスに横から口を寄せチュっと吸ってペロリと舐めて。


 ───いやいやちょっと待て俺、中学生か!?


 鼻と口を手で覆うが、目線は彼女の口元に吸い寄せられる。

 彼女は垂れたところを舐め終わると、次はチョコバナナの先端にパクリと食いついた。中からトロっと練乳が溢れ出す。


「あっ、やだ───先っぽから白いの出てきちゃう⋯⋯んっ、おいひぃ」

「ちょっ待てお前チョコバナナ食ってんだよな!?」

「え? 違いますよチョコバナナ()()()ですよ」


 彼女は溢れた練乳をクチュッと吸い、口角に付いてしまったそれを指で拭うと美味しそうにペロリと舐めた。

 一度思ってしまったことはなかなか打ち消すことができないらしい。

 彼女はアイスを食べているだけなのに、アイスを食べているだけなのに!


「おっきくておくちに入らないです」

「いやお前それワザとか? ワザとだよな!?」

「さっきからどうしたんですか?」

「⋯⋯⋯⋯なんでもねえよ」


 どうしても彼女の言葉が()()()()に聞こえてしまう。

 頭を掻いてどうにか彼女を視界から外して。あさっての方向を見れば、何者かからの視線を強く感じた。不審に思い目を凝らして見れば、屋台のオヤジとバチリと目が合った。

 そのオヤジが売っているものは。


「チョコバナナ⋯⋯」

「あ、死神さんもひと口食べますか? ねっとり濃くて美味しいですよ?」

「お前⋯⋯あそこのオヤジんところで買った?」

「そうです〜私にはコレがオススメって、他のよりちょっと高めだったのにお勘定オマケしてもらいましたぁ〜」


 良いオヤジさんでしたと彼女は口の周りを練乳で汚しながらニコリと笑った。

 向こうでは屋台のオヤジが死神に向けてニヤっと笑ってサムズアップしている。死神はチッと舌打ちしてオヤジから目をそらした。


「お前⋯⋯あのオヤジにハメられたんだよ」

「何をハメられたんですか?」

「なんか自分で言ったのにあっち系に聞こえるのすげ〜イヤ」

「??」


 何もわかってないだろう彼女で良かった。

 死神はため息をつくとポケットからハンカチを取り出し彼女に渡す。


「口の周り拭いとけ。もう食い終わるだろ? 行こうぜ」

「あっ、イヤですまだイッちゃダメっ」

「〜〜〜っ!!」


 結局、彼女がチョコバナナアイスを全部食べ終わるまでそのフリースペースにいたが、その間も周りからの視線が非常に気になる死神だった。


 浴衣姿の美人が持つチョコバナナってなんかエロいよねっていうだけの、山もなければオチもない話。


★★★


 彼女が食べ終わるのを待ち、再び2人は古城に向けて歩き出した。

お読みいただきありがとうございました。


はいっ、下品で申し訳ございませんでしたぁ!!


明日も投稿予定です。

よろしくお願いします。

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