第66話 魔人スカーレットはマジックを披露する
マジックを披露する! 種も仕掛けも……。
「ここをこうして……。ダメだあ、うまくできない!」
本を広げつつ、手元で何かをこねくり回すスカーレット。ノックと共に部屋に入ってきたじいやは尋ねる
「何してるんですか?」
「ああこれ? マジックですけど何か?」
持っていた色付きのハンカチと作り物の花を見せて彼女は答えた。テーブルの本にも『誰でもできるマジック!』と書かれている。
「ほほう、マジック! 新しい趣味ですか?」
「そうなのよ。テレビでマジックの番組をやってて、あたしにもできるかなって」
すぐに影響されるんだよなあ。毎度毎度、興味を持ったらとりあえずやってみる。大概はものにならずに終わるが、新しいことに挑戦するのはいいことだ。
彼がそう考えていると、スカーレットは難しい顔を作った。
「でもねえ……。全然できないし、やっぱりやめちゃおうかな」
明らかにやる気が失われてしまっている彼女に、じいやは励ましの言葉を送る。
「せっかく始めたんですから、もう少しやってみましょうよ。何だったら、私が教えますから」
それでも「ううん」と悩むスカーレットの姿に、彼は提案する。
「わかりました! 試しに私のマジック見てください」
実際に見せると気持ちも変わるかもしれない。スカーレットに拒否される前に、急いで部屋に道具を取りに行く。
持ってきたのはトランプだった。この間二人で遊んだ、ごくごく普通の。
「トランプを選ぶとは、オーソドックスなチョイスね。さぞ自分の腕前に自信があるとみたわ!」
基本的なものほど実力が問われる。料理に関して言うなら、洋食屋のオムレツ、寿司屋のかっぱ巻き、インド料理なら……多分カレー。とにかく、トランプを選んだということは自信の表れなのだろう。
深読みするスカーレットだったが、その予想は外れる。
「いえ、この前二人で神経衰弱した時、片付けるの忘れててその辺にあったので」
「……」
全然違った。自信満々に言ったから少し恥ずかしくて、彼女はごまかすように言う。
「おっしゃあ、見せてもらおうじゃないの! じいやの実力を!」
「わかりました。では、この中から一枚カードを選んでください」
箱からカードの束を取り出し、そのまま差し出す。ランダムに一枚を取り出し、彼に見えないように数字を確認した。『ダイヤの七』
「確認しました?」
「うん。……あっ、ちょっと待って!」
こういうのは大体何か細工が施されているものだ。切れ込みや書き込み、一枚ごとに判別できるような何かが仕込まれていたりする。小賢しいじいやのことだ、何か潜ませているに違いない。
裏表じっくり見まわし、表面に何か塗っているかどうかも確認するが特に何もない。本当にただのトランプみたいだった。
「……なるほどね。オーケー、カードを返すわ」
「それでは、このカードを束の中に入れます。そして軽く切る。スカーレット様、一番上のカードをめくってください」
これは、テレビで観たことあるぞ! カードをめくると、さっき自分が引いたやつが出るやつだ! ドキドキしながら一番上のカードをめくる。すると、
「『ダイヤの七』です」
ドヤ顔で言うじいや。本当に出た。目の前で見ていたというのに、全くわからなかった。
「すごー! え、これってどうやるの? あたしもやりたいー」
肩をひっつかんで前後にグイグイ揺らし頼み込むが、ドヤ顔を崩さずに彼はきっぱりと言った。
「これは『アンビシャスカード』というものですが、スカーレット様にはまだ難しいかと」
「はあー! あんた、あたしをなめてんの!」
「なめてませんよ。しかし、順序があります。まずは簡単なものからやっていきましょう」
始めは納得できなかった彼女だったが、最終的には納得した。それから、二人のマジック特訓が開始される。
「今日のマジック楽しみだねー」
「そうだな。あいつにうまくできるかは疑問だが……」
スカーレットから城に呼ばれたベロニカとソニア。何やら最近ハマっているマジックを見せてくれるといったことである。
「大丈夫だよ! 練習してるって言ってたし」
あくまでも彼女のマジックの成功を信じている様子のベロニカに、ソニアもそれ以上は何も言わず同意する。
二人は入り口で城のチャイムを押すと、いつものようにじいやが応答した。
「いらっしゃいませ、ベロニカ様、ソニア様。どうぞ中に」
彼のあとをついて行くと、明かりが消えている部屋に案内される。カーテンも閉め切られ、真っ暗で何も見えない。
「あの、じいやさん? これは一体?」
ソニアがそう尋ねた瞬間、突然前方のステージに照明がたかれる。
「『ようこそ! 魔人スカーレットのドキドキマジックショーへ!』」
いまだ姿が見えないスカーレットの声が部屋に反響する。彼女たちは辺りを見回すがどこにもいない。どうやら録音のようだ。
「スカーレットちゃん、どこなの?」
「もったいぶらずに、さっさと出てこい!」
二人の言葉が届いたのか、怪しげなメロディーが室内にかかる。マジックショーでの定番の曲だ。そして、たっぷりと曲が流れたところで、誰もいない舞台にスモークと共にスカーレットが出現した。
「はいー!」
両手を広げ、瞬間移動のマジックをアピールするスカーレット。ソニアは呆れたが、隣でベロニカは拍手して喜んでいる。
「ようこそ! 魔人スカーレットのドキドキマジックショーへ!」
その文言、気に入ってるのか? 一言一句録音と同じ言葉を言うスカーレットに、ソニアは先を促す。
「それは録音で聞いた。さっさと次のやつを見せろ」
辛辣な物言いにぐっとひるんだマジシャンスカーレットだったが、プロ意識で何とか耐えた。
「えー、せっかちなお客さんがいるようですから、次のマジックとしゃれこみましょう。じいや、あれ持ってきて!」
言い方は腹立つが、次のマジックの準備が始まった。彼がガラガラと押してきたテーブルの上には、スプーンが数種類用意されている。
「お次のマジックはスプーン曲げです! ここにあるのは何の変哲もないただのスプーン。ですが、このように私が念じると……」
スカーレットは目をつむり、手にしたスプーンに念を込める。そして、「ふん!」と言ったかと思うと、先端のすくう部分を手でぐにゃりと曲げた。
「ま、曲がった!」
「はいー!」
驚くベロニカと自慢げなスカーレット。そんな二人をソニアは冷めた様子で見ていた。これは、何を見せられているのだろうか……。
「それでは宴もたけなわではございますが、次が最後のマジックとなります! じいや、今度はあれ持ってきて!」
早いな! まだ二つしか見てないが! 心の中で突っ込みながらも、ここまできたら最後まで付き合おう。ソニアは準備のためにせこせこ動くじいやを見つめながら思った。
今度持ってきたのは魔法の杖のようなものだった。スカーレットはそれをこちらに見せつけると、うさんくさい態度で語り出す。
「ふっふっふ。実は私はマジシャンではなかったのです。マジシャンとは仮の姿、本当は正真正銘『魔法使い』だったのです!」
「な、なんだってー!」
うーん、今までスカーレットが悪いと思ってたけど、これ、ベロニカも悪いような……。いちいち彼女の悪ノリに乗っかるから、スカーレットがつけあがるのでは? ソニアは思ったが、もう考えるのはよした。
「次の魔法は危険なものです。お客さんたちは少し下がってください」
舞台から二人を遠ざけ、スカーレットは何やらぶつぶつ唱えだした。もしかしたら、これは……。
「やめろ、スカーレット! 城を吹っ飛ばす気か!」
慌てて止めようとするが、もう遅かった。ソニアが引き留める前に詠唱は終わる。
「インフェルノ!」
爆発する! ベロニカとソニアはその場に伏せたが、何も起こらない。
「……あれ?」
ゆっくりと立ち上がり二人が舞台を見ると、杖を掲げたスカーレットが小さな炎を空中に浮かべているだけだった。
「どしたの? ……もしかして、やりすぎた?」
その後、気まずそうにしているマジシャンと、それを止めなかった執事はあとでこっぴどくソニアに怒られることとなった。
マジックショーの帰り道、ベロニカとソニアは話した。
「……結局、全部マジックじゃなくて、いつもあいつがやってることだったな」
瞬間移動、力技のスプーン曲げ、魔法の炎。それらは全てスカーレットの得意なことだった。
「まあまあ。でも、マジック練習してたのは本当みたいだよ。あんまりうまくならなかったみたいだけど……」
「へえ。だからいつもの力でごまかそうとしたのか」
ソニアはそんな風に言ったが、ベロニカはそれを否定する。
「違うんじゃないかなあ。マジックはできなくても、『マジックに見せる』ことはできる。大事なのは見せ方だって、練習して気づいたのかも」
うさんくさいマジックを見ながら、そんなことを考えていたのか……。だからベロニカは大げさに反応して見せていたのだろう。スカーレットの練習を無駄にしないために。
「……さすがはベロニカだな。長年スカーレットの友人をやってるだけある」
「そんな大層なものじゃないよ。それにソニアちゃんがいないと、スカーレットちゃん調子に乗っちゃうでしょ。私が言っても全然聞かないし」
「……確かにな」
案外、私たちはいい組み合わせなのかもしれない。そう思えた帰り道だった。




