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【ポンコツ系異世界日常コメディ!】魔人スカーレットは過労でしんどい   作者: 鳴尾リョウ


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第65話 魔人スカーレットは疑われる

 疑われる! 日頃の行いって大事……。




「スカーレット様、ちょっと良いですか?」


 スカーレットが仕事終わりに部屋で報酬の宝石を眺めていると、神妙な顔をしたじいやに話しかけられる。


「どうかした? あたしは今、お宝を愛でるのに忙しいんだけど?」


「それはすみません。でも、気になるうわさを耳にしたものですから……」


 うわさ? それはあたしに関係あるのだろうか? まあ、きっとあるんだろうけど。


 彼女の顔色をうかがいつつ、言いづらそうに彼は話した。


「何でも、最近素行が悪い魔人がいるという話です。人間たちに召喚され仕事を果たすと、無理難題をふっかけて高額の報酬をせびる悪徳魔人なんだとか」


 そんな不届き者がいるというのか! 同じ魔人として恥ずかしい。そこまで聞いて、彼が言わんとすることがわかった。つまり、自分にその不届き者を懲らしめて欲しいのだろう。


 憤慨しつつも喜んでじいやの提案に返事をしようとしたが、彼は不安そうに言葉を続けた。


「……あの、それってスカーレット様じゃないですよね?」


 あ、違ったわ。これ、あたしが疑われてるやつだ。


「違うわ! あんた、あたしを何だと思ってんのよ! こちとら『正義の魔人スカーレット』で通ってるっての!」


「いや、初耳ですけど……」


 こいつは一体今まで何を見てきたのだろう? 言うに事欠いて、あたしが悪徳魔人だと! 一生懸命魔物倒して、きちんと報酬もらって何が悪い! そりゃまあ、もうちょっとくれても良いよねと思うことはあるが、無理やりふんだくったことは一度もない、……はずだ。


「わかりました。私もスカーレット様を信じております。あなたがそんな自分勝手で強欲なことをするはずがありません! ええ、もちろん最初からわかっていましたとも!」


 うーん、そこまで言われたら自信なくなる……。というか、さっきは疑ってたじゃないか。相変わらず調子がいい執事だったが、人間たちが困っているのは本当のようだ。スカーレットは彼の話を頭の片隅に置いておくことにした。




 某国にて。


「おい、魔人の召喚はまだか!」


 城壁の上で国に迫りくる巨大な魔物に恐怖しつつ、城の兵士は若い女性の召喚士に話しかける。その傍らでもう一人の兵士が注意した。


「やめろ! そいつは新人で、いつものじいさんは足が痛くて遅れてくるみたいなんだ!」


「そんな悠長なこと言ってる場合か! もう化け物が来ちまうんだぞ!」


 二人の兵士が言い争う中、召喚士は詠唱を終え魔人を召喚する。


「出でよ、魔人シュウカイドウ!」


 描いた魔法陣は怪しい光を放ち、凝縮された魔力が弾けたかと思うと、不遜な態度をとる若い薄紫の髪をした魔人が出現した。


「召喚に応じ、参上した。俺は魔人シュウカイドウ。お前らの望みとその代価は何だ?」


 まだ少年のような魔人に期待と不安が入り混じった彼女だったが、状況は切迫しているため簡潔に答えた。


「魔人様、この国に迫る魔物を倒してください! 報酬は満足する額をお支払いします」


 すると、魔人はつまらなそうに「わかった」とだけ返事をすると、彼女たちの方も見ることなく魔物の方に向かっていく。


 魔人の力は圧倒的だった。彼は兵士たちが束になっても敵わなかった魔物を、魔法を使い一撃で倒すと傷一つなく城に戻ってきたのである。


「ありがとうございました! おかげで国は守られました!」


 城中の人間が彼に感謝をしたが、シュウカイドウはにこりともしない。そればかりか、力のない人々をさげすむような顔をして言う。


「礼はいい。それよりも早く報酬をよこせ」


 威圧的な態度の魔人に人々は恐怖を感じるが、言われた通りに報酬の宝石を持ってきた。だが、山積みの宝石を確認すると、彼は不満げにつぶやいた。


「足りないな」


「しかし、これ以上は……」


 戸惑う人々に対し、魔人は高らかに言った。


「よく聞け! お前たち人間には力がない! 魔物に襲われようとも、自衛することさえできないんだからな! それを俺が救ってやった! この程度の報酬で満足しろだと……。ふざけるな」


 魔力をほとばしらせて力を誇示する魔人に対し、城内は沈黙した。これ以上、この魔人を刺激してはならない。今まで口を閉ざして静観していた王は決断した。


「……宝物庫の貯えをすべて持ってこい」


「ですが、それでは国民の生活が……」


「わかっている。だが、あの魔物が街に入って来ていたら、国そのものがなかったかもしれん。魔人様に助けていただいたから、我々も無事だったのだ」


 王はこぶしを握り締め、国民を、そして、自分を納得させるように言う。彼の悔しそうな姿を理解した兵士たちも、それ以上抵抗することなく王の言う通りにした。


 ただ一人、魔人シュウカイドウは笑みをこぼす。自らの力で巨額の報酬を稼ぎ、人間たちを意のままにする。これこそが魔人! 頂点たる存在だ!


 そうして報酬を受け取り帰ろうとしていると、人だかりの奥から呼び止める声が聞こえた。


「ちょっと待ちなさい!」


 誰だ? 人間の分際で魔人である俺を呼び止めるやつは? 彼が声の主が現れるのを待つと、赤い髪をした小柄な魔人が兵士たちのぎちぎちの隙間からなんとか出てきた。


「……サッと道を開けてくれてもいいのに。まあいいや。あんたが悪徳魔人ね!」


「……っ、魔人スカーレットだと!」


 頂点たる存在の魔人にも格がある。その中でも『魔人ランキング』と呼ばれる格付けに名を連ねる魔人は、最上位の存在だ。戦闘能力や魔力量、技術や知識による貢献など活躍の幅は様々だが、その誰もが一流。そして、目の前の魔人スカーレットはランキング『七位』。戦闘能力だけで言えば、一、二を争う実力者とも言われている。


「まさかあんたに会えるとはな……」


「あら、悪徳魔人にも知られてるなんてね。あたしって、やっぱり人気あるのかしら? もしかしてあんた、あたしのファン?」


 図星だった。シュウカイドウはスカーレットの熱烈なファンだった。


 毎年のランキング投票には必ずスカーレットの名を書いていたし、彼女がテレビに出る時はリアルタイムで観た上で録画もバッチリだった。


 しかし、まだ若い彼は素直になれず、強がりを口にする。


「誰がファンだ、誰が! 俺は魔人ベロニカ派だ!」


「またベロニカ派! ……なんでいつもあの子ばかりなのよ」


 がっくりするスカーレットの姿に、彼は心が痛んだ。いや、本当は俺はスカーレット派だ!


 なんとなく和んだ雰囲気になった城内だったが、シュウカイドウは話を戻す。


「どうしてあんたがここにいる?」


「あたしも召喚されたのよ、足を痛めたおじいさんにね。弟子がうまく召喚できるか不安だったみたい」


 なるほど、だから魔人が二人召喚されることになったのか。彼は理解すると、本題に入った。


「それで俺に何の用だ? 魔物は俺が倒した。報酬は全て俺のものだ」


 手にした報酬の袋を見せつけるように話すと、スカーレットは首を振り否定した。


「いいえ、それは違う。多すぎなのよ。それじゃあ、国が潰れてしまう」


「魔物を倒して報酬をもらう。それだけのことだ、何が悪い?」


 彼の言葉に一瞬苦い顔をした彼女だったが、それでも説得をやめない。


「だからって、やりすぎよ。国が潰れてしまったら、結果的に魔物とやってることは同じじゃない」


「そんなことは俺に関係ない。どうしても止めたいのなら、俺を倒してみるんだな」


 思いもよらなかった機会が舞い込んできた。魔人ランキング『七位』。自分との差はどれほどか。ここで見極めてやる。


 彼がそう決意すると、大きく息を吐きスカーレットが言った。


「……わかったわよ」


 そうして一瞬だけ目に映った彼女の姿を最後に、彼は意識を失った。




「それで結局どうなったんです?」


 スカーレットが城に戻って今日あった話を話すと、じいやは話の続きを聞いてきた。


「あたしが一撃でのして、気絶させたわ。で、城の人に多い分は返して、適切な分だけ悪徳魔人と一緒に置いてきた」


「大変でしたねえ。ところで、その手に持ってる宝石は何です?」


 今回スカーレットは仕事をしていない。それなのに、彼女の手には大きなお宝。彼がわざと知らない振りして尋ねると、悪びれることなくスカーレットは答えた。


「これ? 授業料をもらったのよ。あいつにも、いい薬になったんじゃない?」


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