第63話 魔人スカーレットは小物を買っちゃう
小物を買っちゃう! 欲しい気持ちに抗えない!
「うーん、いい!」
相変わらずガチャガチャにハマっているスカーレットは、せっせと本日の戦利品を棚に並べながらニヤニヤと笑う。
「……また買ったんですか?」
いつの間にか横に立っていたじいやは、呆れた顔でそう聞いた。
「いいじゃないのよ! 趣味なんだから!」
「はあ、別にいいんですけど。ですが、ちょっと並べ過ぎでは?」
彼は小物がこれでもかと置かれている棚を見つめながら、再び彼女に尋ねた。少し前まではゆとりがあったスペースも、今ではぎっちぎちにフィギュアやアクリルスタンドなどが置かれている。
「……まだ寄せたら置けるからだいじょぶだいじょぶ。それに小物はちっちゃくて安いから、お財布にも優しいし……」
嘘だった。明らかに買い過ぎだし、いくら安いといっても積み重なるとかなりの出費にもなる。もちろんそれくらいスカーレットにもわかっていたし、少しは反省もしている。だから、あまり責めるように見つめないでほしい。
「わかりました。じゃあもう私からは何も言いません。でも、おこづかいの前借りと増額は期待しないように」
「ごめんごめん! ちょっとは反省してるのよ、あたしだって! でもね、しょうがないのよ。買っちゃうのよ……」
そうなのだ。買っちゃうのだ。たまたま入ったお店に良さげな小物があったら、ついつい手に取ってしまう。そうして見ているうちに、いつのまにやら吸い込まれるようにレジに向かっている。この衝動には抗えない。
「気持ちはわかりますけど……。それなら今度欲しいものがあった時は、なんとか我慢していったん城に戻ってきてください。それで、一日経ってもまだ欲しいなら買っても良いですから」
じいやは妥協案を提示したが、彼女ははっきりとした返事はできなかった。彼の言っていることは、この前のアンガーマネジメントの話と同じである。つまり、『そもそもそんな風に我慢ができるなら悩んでいない』ということなのだ。なので、今度欲しいものがある時にいったん我慢するなんてできるのか、いやできない。そう断言できる。
それでも反論しようものならおこづかいを減らされる恐れもあるので、彼女は一応「努力します」とだけ答えた。
翌日、スカーレットは買い物に来ていた。早めに仕事が終わり、最近の恒例となっている百均巡りをするためだ。
百均はいい。何せ、お店にあるものがほとんど小銭で買える。それだけで消費者の味方であるのに品質も素晴らしいというのだから、もはやパラダイスと言って差し支えない。
心躍らせ商品棚を眺めていると、彼女の琴線に触れる品物があるのを発見する。
「な、なによこれ……」
そこには大量のミニチュアが置かれていた。それらはドールハウスに飾ることができるくらいの大きさで、ほとんどは数センチといった小さなものだった。
「こんなの良すぎるじゃない! ミニチュアは意外と高いのよ。昔持ってたやつだって、これの倍以上はしたのに……。確かにクオリティの差はあるかもしれない。でも、それを考慮してもこのクオリティのものが百均にあるなんて……。百均侮りがたし。企業努力万歳!」
彼女は興奮のあまりぼそぼそ早口でそうつぶやくと、片っ端からミニチュアを見ていった。
「このふすま、このサイズでこの再現度……。どうやって採算を取ってるの? そうか! これは二枚ではなく一枚だけで販売することで、価格を下げることに成功しているのね! それに、ふすまは二枚で一組。一枚買ったら、もう一枚も買いたくなるから企業側にもメリットがある!」
これは、欲しいぞ! ついでにミニチュアの畳と組み合わせて、家にある『おもちもっち』フィギュアと写真を撮りたい!
そうしてかごの中に入れようとしたところで、じいやとの約束を思い出す。
「ぐぬぬ、でも我慢するように言われてるしなあ……」
スカーレットは葛藤した。彼が言っていた通り、衝動買いばかりするのは良くない。百均はついつい安いので調子に乗って買い過ぎてしまう。そして、城に帰ったらやっぱりいらなかったということもザラだ。そう思い直し、なんとか商品棚にふすまを戻す。
いや、待てよ。確かにいらなかったこともあるが、買ってよかったこともある。それに、ここで買わずに後になって欲しくなったとしても、商品があるとは限らない。『今度買えばいい』の『今度』は大概の場合やってこないからだ。
商品を持ったままその場に立ち尽くし、十分以上自問自答すると、スカーレットは今回はいったん買わずに帰ることにした。
「ただいまぁ……」
城に帰ってきたスカーレットの気持ちは晴れなかった。買いたい気持ちを抑え、じいやとの約束を守ったというのに……。この満たされない感じは何なのだろう?
「おかえりなさいませ、スカーレット様。なんかぐったりしてません?」
「じいや、あたしは自分の欲に勝ったのよ」
彼女が力なくそう言うと、じいやは興味なさそうに返事をして自分の話に持っていった。
「そんなことよりもスカーレット様! これ、見てくださいよ!」
うきうきした顔で手にしていたものを見せつけてくる。それはニャンダーロボのプラモデルで、何か装備の様なものが取りつけられていた。
「百均に行ったら、ミニチュアのロケットランチャーが売ってたんです! これはニャンダーロボに取り付けたらカッコ良くなるぞと試してみたら、この通り! いやはや、最近の百均は素晴らしいですね」
楽しそうに話す彼の姿を見ると、スカーレットは崩れ落ちた。
「えっ、どうしたんですか? おなか痛いんですか?」
「ちがうわ! くぅー、あたしも我慢せずに買ってこれば良かったぁ……」
あまりの落ち込みっぷりにさすがのじいやも困惑した。彼女から詳しく話を聞くと「今回だけですよ」と言って、ミニチュアを買ってきてもいいと許可を出す。
すると、元気を取り戻したスカーレットは、帰ってきたばかりの足ですぐさま瞬間移動して店に向かった。そうして袋を戦利品でパンパンにして帰ってきた彼女は、幸せいっぱいの顔をするのだった。




