第62話 魔人スカーレットは大砲を撃ちまくる
大砲を撃ちまくる! ドンドンいこう!
「というわけで、お二人にはこれを使ってみてほしいのです。名付けて『魔砲』」
スカーレットとソニアは、今しがたじいやから渡された大きな筒を確認すると、二人で顔を見合わせる。
「使ってみてほしいったってねえ……」
「ああ、いまいち使い方もわからないし……」
手渡されたのは片手でなんとか抱えられるくらいの堅そうな筒。中には何も入っておらず、彼が言った通りの武器になるとは思えない。
二人から疑いの目を向けられ、じいやは改めて使い方の説明をした。
「お願いしますよ、せっかく作ったんですから。もう一度言いますがそれの使い方は簡単で、魔力を筒に込めると内部で弾となります。そして、『ドン』と言ったらチャージされた弾が放たれるというわけです」
「それはわかったけど、なんか怖いんですけど。暴発とかしない?」
「それもある。それに私たちに必要あるのか? 魔法が使えるんだから、わざわざ大砲なんて魔物退治に必要ないだろうし……」
彼女たちにせっかく作った発明品をバカにされ、じいやは吠えた。
「スカーレット様、ソニア様! あなた方はご自身の力を過信されています! いくらお二人が最強で最高の魔人だからといって、戦場では何があるかわかりません! 人間たちは自らの足りない力を、知恵と工夫で乗り越えてきました。それに引き換え、あなた方と言ったら……。強大な力を持っているがゆえに、知恵の結晶である武具をないがしろにして……。私は悲しいです!」
一息でそこまで言い切って、ようやく彼は両ひざに手を当てつつ息を整えた。そして「どうだ?」と二人の方をちらりと見る。すると、
「じいや、あたしたちが間違ってた。言われてみると、自分の力に慢心していたのかもしれない。目が覚めたわ!」
「私も同意見です。大砲で魔力を飛ばすことができれば、遠距離から魔物を攻撃することができるので危険も減ります。その上、魔力を凝縮した弾に変換することによって無駄な魔力の消費も抑えられ、活動の限界時間も伸ばせるかもしれない……」
とさっきまでとは打って変わって、二人とも感化されたようにそんな風に言った。
なんだかんだ言いくるめやすいんだよなあ、この二人。あまりのちょろさにじいやは口元が緩むが、ここでバレては努力が無駄になるので必死にこらえることにした。
「ありがとうございます。それでは次の召喚時に、忘れないように持って行ってくださいね」
こうしてスカーレットとソニアは、じいやの発明品の試し撃ちをすることとなった。
「で、言われるがままに持ってきたわけだけど……」
魔物討伐に二人でやってきた彼女たちだったが、目的の魔物の生息地までの道のりはそこそこ距離があり大きな大砲はかなり邪魔だった。それに担ぎながらの飛行はふらふらし、もちろん空中で撃つことなど到底できそうもない。
「すっごい邪魔よね。やっぱり置いてこれば良かったかしら?」
いまいましそうに大砲を見るスカーレットに、ソニアは諭すように言う。
「まあそう言うな。じいやさんだって良かれと思って作ってくれたんだし……」
「どうせじいやの趣味で作っただけよ。ま、一回使ってみたら満足するでしょ。……見えてきたわ」
飛んでいる彼女たちの正面に、土や岩で固められたドーム状の建物が見えてきた。住人たちの話では、少しばかり知性がある小鬼の魔物の集団ということだった。おそらく住居兼砦にしているのだろう。
二人は離れた岩陰に着陸し、様子をうかがった。ドーム付近にちらほら魔物がいるが、聞いていたよりも数が少ない。大多数は建物の中にいるはずだ。
「どうする? さすがに大勢いる中に突入するのは危険だぞ。何か罠があるかもしれないし……」
魔人の力があれば力技で解決できることがほとんどだが、慎重なソニアはそう進言する。スカーレットの方はといえば「まあ余裕でしょ」と考えていたが、なんだか考えが浅いと思われそうなので一応同意することにした。
「かもね。……よし、それじゃあこいつに活躍してもらいますか!」
ぺしっと担いできた大砲を叩き、彼女はにやりと笑った。ソニアもうなずいて了承する。そうして二人は大砲を担ぎ岩陰から出ると、ずんずんとドームに向かって歩いて向かう。
小鬼たちは想像していたよりも警戒心が強かった。突然現れた敵に対して、凶器を持ってすぐに向かってくる。叫び声には殺気がこもっており、やる気満々といった感じだ。
「来たわ! 準備は良い?」
「もちろん。遅れをとるなよ」
「誰に言ってんのよ!」
二人の魔人は大砲に魔力を込めつつ、狙いを定める。そして、先頭を走る小鬼めがけて魔力の弾を発射した。
「ドン!」「ドン!」
同時に飛んでいった砲撃の片方が小鬼に直撃する。すると、魔物は跡形もなく消え去った。
「おい! しっかりと狙え!」
「あれー、おかしいわね? まっすぐ飛んでいかない」
ソニアの放った弾とは異なり、スカーレットの弾は明後日の方向に向かって大きくそれて曲線を描き飛んでいった。
「いい加減な性格してるから、変な方向に飛んでいくんだ!」
「そんなこと言わなくってもいいじゃない! 次は当てるわ!」
不毛な言い争いの間にも、魔物たちは襲い掛かってくる。ドームから次々現れる小鬼たちをソニアは確実に仕留めていくが、なにぶん数が多い。徐々に対処できない魔物が増えていく。
「おいおい、思ったより多いぞ!」
「ドン! ドン! くそう、全然当たらない!」
「こうなったら、魔法で一掃するしか……」
武器の使用を諦め、ソニアが魔法を使おうとする。しかし、
「……発動しない! なぜだ?」
動揺する彼女に、スカーレットは自らの推測を話した。
「『罠』よ。多分、魔力の操作を難しくする装置が建物にある。じいやの大砲は魔力を凝縮して撃ち出してるから使えるけど、あたしたち自身で魔法を発動するのは難しいのかもね」
それならば魔法が使えないのも理解できる。ソニアの魔法は雷雲を呼び出し、雷で攻撃する。それには魔力の繊細なコントロールが不可欠だったからだ。いつもはいい加減なスカーレットだが、戦闘の時だけは頭がきれる。少しだけ見直していたソニアだったが、続けて彼女が言った言葉にがっかりした。
「だから、あたしが魔力の弾を当てられないのはしょうがなかったってことよ」
「……」
ううん、どうなんだろう? とにかく、二人も魔人がそろっていながら大ピンチであることは理解できた。だが、対策を考えている間にも、小鬼の群れが途切れなく向かって来る。
「魔法は使えない。頼みの大砲も、お前はノーコンで小さな敵に当たらない。まずいな」
襲い来る魔物を倒しつつ、ソニアは頭を抱える。しかし、ノーコンスカーレットは余裕の笑みを浮かべつつ答えた。
「あたしに打開できる策がある。でも、それをやっちゃうと、あとは多分使い物にならない。それでもいい?」
「今でも役に立ってないんだから、それでも構わない。やってくれ!」
辛辣な物言いには引っかかったが、スカーレットは大砲を担いで踏ん張りが効くようしゃがみ込む。そして、ありったけの魔力を筒に込めると、魔物の巣窟であるドームに向かってぶっ放した。
ドオォーン。建物はガラガラと音を立てて崩れ落ち、内部にいたであろう魔物たちはまとめてがれきで押しつぶされた。
「……無茶苦茶だな、ホントに」
「的が大きかったら当たるのよね。……はあ、ちょっと魔力を使い過ぎたみたい。残りはよろしく」
消耗した彼女はその場にへたりこむ。やり方は大雑把だったが、おかげで魔物の数は残り少ない。これなら一人でもなんとかなる。ソニアは一体一体確実に倒していき、無事に仕事は片づいたのだった。
「お疲れ様です! しっかりとカメラで見てましたよ!」
城に戻ると、じいやが興奮した様子で出迎えてくれた。自分の発明品が想像以上に活躍していたことが嬉しいのだろう。
「今日は疲れたわ。……はいこれ、ソニアの分の大砲。あの子もさすがにきつかったみたいで、直接帰ったから預かっておいたわよ。じいやによろしくだってさ」
「それはそれは。確かに今回は大変そうでしたもんね。でも、学びも多かったのではないですか?」
魔人は強大な魔力で魔法を使う。一方でそれが封じられてしまうと案外もろい。今日の経験はそのことを実感できるいい機会になったと、じいやは伝えたかった。
しかし、スカーレットの返事は予想外のものだった。
「ええ。魔法ばかりに頼ってちゃダメよね。つまり、筋肉よ。自らの肉体こそ最大の武器。魔力が使えないなら、筋力を使えばいいじゃない。そういうことよね?」
全然違うが。……まあいっか。貴重な発明品のデータが集められたので、彼はそれ以上は何も言わなかった。




