第57話 魔人スカーレットはダウザー
ダウジングする! 出るか、お宝!
「スカーレット様、何やってるんですか?」
じいやはスカーレットが部屋にいないのでどこに行ったのかと探していると、庭をうろうろしている彼女を見つけた。
「何って、ダウジングですけど?」
「いえ、そうではなくて。なぜダウジングをしているんですか?」
休日の昼下がり。若い女性がL字型の棒を持って庭をうろうろしているのは尋常ではない。
「この前テレビでやってたのよ。昔の人って、こんな風に水脈とか鉱脈とかを探したんだって。だから、あたしもできるかなと思ってダウジング一式を買ったの」
そう話すスカーレットの足元を見ると、小さなコインが落ちていた。どうやら自分のダウジングで反応するかどうかを試していたようだ。しかし、彼女の顔色はさえない。
「でもさあ、あんまり上手くいかないのよ。金属に反応したら、この棒が外側にニョーンって感じで開くみたいなんだけど……」
じいやに見せるため、スカーレットは二本の棒をまっすぐに構えてコインの方に向ける。だが、棒はちっとも動かずに沈黙したままだ。
「そう簡単にはできないんじゃないですか? 熟練の技が必要なのかもしれませんし」
テレビで見たからといって、誰でもできるわけではないだろう。もしもそんなことができたら、ダウジング専門で食っていける。それでも彼女は納得できないようで悔しそうに言った。
「せっかく通販で買ったのに! 意外と値段したのに!」
地面に膝を突きごねるスカーレットをどうなだめようかと考えていると、じいやはコインのそばにある小さな袋のことが気になった。
「あの、その袋は何が入ってるんですか?」
「ああ、それ? それもダウジング用に買ったの」
彼は袋を手に取り、中身を確認する。すると、チェーンにつながれている円錐形をした宝石が入っていた。
「『ペンデュラム』って言ってね、いわゆる振り子よ。それを地面に向かって垂らして、宝石が振れる動きでダウジングするみたい」
スカーレットの説明を聞いたじいやは「ふむ」と考え込むと、一つ思いついたことを話す。
「もしかしたら、いけるかもしれません……」
「いけるって、ダウジングのこと?」
「はい。宝石は魔力に反応する性質があるんです。なので、スカーレット様の魔力と宝石がうまい具合にかみ合えば、あるいは……」
彼の話したことは、がっかりしていたスカーレットを復活させるには充分だった。地べたにはいつくばっていた彼女はみるみる元気を取り戻し、立ち上がって言う。
「やっぱりあたしにはダウザーの才能があったのね! おっしゃあ、そうと決まればさっそくお宝を探しに行くわよ!」
あくまでも可能性の話で、上手くいく保証もない。それに正直めんどくさい。それでも、これも仕事の内だ。じいやはほったらかしになったL字の棒を回収しつつ、主人の言うことに従うことにした。
二人は車に乗ってお宝探しに向いていそうな場所を探した。山や川、廃墟など色々と行ってみるがしっくりこない。そうして最終的にはスカーレットの意向で海に行くこととなった。
「青い空、白い雲。そして、広大な砂浜。いい!」
「いや、何でこの暑いのに海なんですか。もっと涼しい場所で探しましょうよ」
「何じいさんみたいなこと言ってんの! これだけ広い砂浜なら、宝箱が埋まっててもおかしくないでしょう?」
そうかなあ? ……そうなのかもしれない。彼はうだるような暑さのため、頭がぼんやりとしていた。せめて、日傘を持ってくるべきだったと後悔する。
「わかりましたよ。水筒は持ってきたので、適度に飲んでくださいね」
「了解了解! じゃあ、ダウジング始めるわ!」
太陽光を反射して真っ白に光っている砂浜に、ペンデュラムを垂らす。……反応はない。おかしいなと彼女はゆらゆらと前後左右に振ってみるが、すぐに動きを止めてしまう。
「全然反応しないんだけど?」
「……魔力を込めるんです。そうしたらきっと、何かしらあるかと……」
「なんかアバウトね、って、じいやふらふらしてない?」
ペンデュラムから彼の方に視線を向けると、いつもの年齢を感じさせないしゃんとした姿と異なりぐったりしていた。
「すみません、あちこち運転して少し疲れたようです。木陰に入って、休んでもいいですか?」
「それはもちろんだけど……。いったん、城に帰る?」
じいや一人くらいなら、自分と共に瞬間移動で城に戻れる。車はまた今度取りにくればいい。だが、彼は主人の提案を辞退した。
「大丈夫です。横になればすぐに回復すると思うので……」
そう言うと、彼は自分の分の水筒を持ち浜辺から離れた木陰に向かった。じいや自身が大丈夫と言うなら問題はないのだろうけど……。スカーレットは歩いていく背中に叫んだ。
「体調が戻らなそうならすぐに言うのよー!」
彼は振り返って軽く手を振ると、再び歩いて行った。
……こうしちゃあいられない。すぐに成果を出さなくては。そうじゃないと、じいやが気にして自分だけで帰ろうとはしないだろう。
スカーレットはペンデュラムを握り締め、言われた通りに魔力を込める。すると、宝石はじんわりと光をまとった。じいやの言った通りだ、これならいける!
そこから彼女は、ペンデュラムが指し示す先の地面を掘りまくった。だが、出てくるのは瓶の王冠。鉄パイプ。謎のコイン。車の部品などガラクタとしか思えない代物ばかりだった。
一時間程経過し、スカーレットは成果がないことに焦りを感じていた。このままではいけない。他に方法はないのか?
そこで閃く。そうだ、込める魔力を大きくすればいいのではないか! そうしたら大物が見つかるかもしれない。
再びペンデュラムを握り締め、ありったけの魔力を込める。先ほどまでの光り方と異なり、宝石は煌々と輝きを放ち出した。そして、スカーレットの体を引っ張るくらいの力で海岸線の方を指し示すと、魔力を抑えきれなくなったのか宝石は弾け飛んだ。
「えっ、壊れた! さすがに耐えきれなかったかあ……。最後も変な方指してたし、ここらが潮時かな」
壊れたかけらを拾い集めながらそう考えていると、じいやが砂浜を歩いてきた。
「スカーレット様、何か見つかりました?」
「ダメじゃない、じいや! 休んでなきゃ!」
心配してそう言うと、彼はけろっとした様子で答える。
「もう治りましたよ。じいさん扱いしないでください」
回復をアピールしたいのか、じいやはシャカシャカと腕を振りつつ足踏みして見せる。顔色も良くなっているし、本当に体調は戻ったようだ。さすが魔人。
「何よ、じいさんのくせに! でも、良かった。運転はできそう?」
「はい。ですが、もうよろしいのですか?」
彼は壊れたペンデュラムを目にすると、一応持ってきておいたL字型のダウジングロッドを彼女に差し出した。スカーレットは首を横に振り、受け取ることなく悟ったように答える。
「いいのよ。あたしにダウザーの才能はなかったってことよ」
じいやは「はあ」とだけ答えると、お宝は諦め二人で車に乗って城に帰ることになった。
結論から言って、スカーレットにはダウザーの才能があった。
弾ける寸前ペンデュラムが指し示した方向の海底から、高度な文明を築いた古代都市が発見されることになったからだ。
しかし、その事実にスカーレットは気づくことはなかった。なぜなら、それは数カ月は後の出来事であり、その頃には熱しやすく冷めやすい彼女は、ダウジングへの興味がとうに失われていたからである。




