第54話 魔人スカーレットは幻の鳥を追う
幻の鳥を追う! 絶対に見つけたい!
ある日のリビング。
「はっはっは! やっぱりホワエナガはかわいらしいねえ! おっと、もうこんな時間だ! それでは今日はこの辺で! お送りしたのは『親切なマイティ』こと、マイティ・カールでした!」
今日もナイスガイだったマイティのテレビ番組を見終えると、うっとりした様子でスカーレットはつぶやく。
「ああ、やっぱりかわいいわね、ホワエナガ。実際に見てみたいわ」
ホワエナガは雪国のみで見られる小型の白い鳥だ。大きさはしっぽの先まで含めても十四センチほどで、ほわほわしている羽毛に覆われておりその愛らしさから『白い妖精』とも呼ばれている。
「ですが雪国であんな小さい白い鳥を見つけるなんて、ほとんど奇跡みたいな確率じゃないですか?」
一緒にテレビを見ていたじいやは夢のない正論を突き付けてくる。
「そりゃあ難しいのはわかるわ。でもあんなにかわいいのよ! 見てみたいと思うのは当然でしょ!」
「まあ、そうですけど。でも雪国ですよ。寒いし、遠いし、見つかるかもわからないのに行くのは大変ですよ」
確かにじいやの言う通りではある。だが私は魔人スカーレット。ちょっとくらいの不可能なら可能にできるのだ!
「何のために私が瞬間移動できると思ってるのよ。ホワエナガを探すためでしょう!」
「いや、違いますよ。人間たちを魔物から助けるためでしょう?」
うん、それはそう。しかし、一度決めたことを簡単に取りやめる彼女ではなかった。
「ちょっくら雪国まで行って来るわ。あの辺なら前に行ったことあるし」
そう言うや否や、スカーレットはリビングから消えてしまった。
「大丈夫かな? 風邪とか引かないといいけど……」
一人残されたじいやは、リビングでテレビを見ながらくつろぐことにした。
瞬間移動したスカーレットは以前召喚された街にやってきていた。時折吹く風は冷ややかで、思わず鼻をすする。
「……ちょっと肌寒いわね。でも、真冬ってわけじゃないから、これくらいなら我慢できそう」
季節は春を過ぎ、夏に向かおうとしている。だが、ホワエナガがいるこの地域は、年間通してもそこまで気温が高くならず、彼らにとっては好都合なのだろう。
「まずは聞き込みね。地元の人なら詳しいはず……」
そこから彼女は人々から、ホワエナガの情報を集めた。
あそこの林の中で見かけた、冬ではないから葉っぱに隠れていて見つけづらい、かわいい、ただひたすらかわいい、刺激しないように遠くから見ることなどなど。
聞き込みの結果、比較的観察されている場所が判明したので、店で双眼鏡を買いスカーレットは移動した。
林の中で双眼鏡を構えてホワエナガを待つ。ここからは長期戦だ。覚悟を決めながら、レンズ越しに辺りを見回す。
本来この林は冬の間は木々の葉も落ち、ホワエナガを見つけやすいとのことだった。しかし、今の林は植物たちも生命力があり、生い茂っている。
「確かに葉っぱがいっぱいで見つけにくいかも」
そこから数時間、彼女はねばった。肌寒さに体を震わせながらも、どうしてもホワエナガのほわほわした姿が見たい、その一心で探し続けた。だが、日も傾き始め辺りが暗くなってくる。住人たちの話では夜に見つけるのは困難ということだったので、今日は諦めて日を改めることとした。
城に戻ると、じいやが温かい紅茶を用意してくれた。冷えた体に紅茶を流し込むと、じんわりと体温を取り戻せた気がする。
「どうでした? ホワエナガ、見つかりました?」
「ううん、ダメね。やっぱりすぐには見つからないわ」
彼は「そうですか」と答えると、追加の紅茶を注いでくれる。きっと、自分の体が冷え切っているだろうと思って、気を遣ってくれているのだ。いつもは仕事をサボってばかりなのに、こういう時は執事力を発揮する。
「でも諦めるのはまだ早いわ! 見つかるまで通うつもり!」
温かい飲み物は元気を回復させてくれる。自分に活を入れるようにそう宣言し、ホワエナガ探し一日目を終えた。
そこから彼女は雪国の林に通い続けた。
一度行ってしまえば、瞬間移動でひとっ飛びだ。もちろん魔力の消費は大きいので体力がある日しか向かえないが、それでも時間を作って雨の日も風の日もホワエナガを探した。
そうして何度目かのトライでついにそれらしい鳥を見つける。
慣れた手つきで双眼鏡をのぞいていると、葉っぱの間に見える木の枝にとまった小さな鳥を発見した。
「あれはもしや!」
大きさや白い羽毛は確かにホワエナガの特徴に似ている。ついに本物を見つけた! 興奮でドキドキする胸を鎮めつつ、彼女はその鳥をじっくりと観察した。だが、あることに気づく。
「……羽の色が違う?」
ホワエナガは『白い妖精』と評されるほど羽毛の色は真っ白である。しかし、今木にとまっている鳥は羽に茶色が混じっており、体もほわほわというよりはシュッとした感じだった。
「くっ、別人、いや別鳥か……」
ようやく本物を見つけたという興奮を味わった後に、この仕打ちはきつい。スカーレットはそっと双眼鏡を持つ手を下ろした。……お城に帰ろう。やはりホワエナガは幻の鳥だったんだ。
すっかり元気を失ったスカーレットは、そのまま城に帰ることにした。
「おや、スカーレット様。今日は早いですね?」
出迎えたじいやがそう尋ねてきた。
「うん、ちょっとね……」
かろうじてそれだけ言ったが、察しがいい彼は穏やかな口調で聞いてきた。
「……何かあったんですね?」
その言葉に我慢していた感情が爆発した。今まで費やした時間、寒い中我慢して鳥を探したことなどを思い出し頭がいっぱいになる。それでも見つけられなかった初日から今日までの出来事をまとめてじいやにぶつけた。
最後まで静かに話を聞くと、彼ははっきりとした口調で言った。
「スカーレット様、あなたはホワエナガに出会っていますよ」
「えっ?」
出会っている? ホワエナガと? そんなはずはない。
「今日見た鳥こそがホワエナガだったのです」
じいやは詳しく説明してくれた。ホワエナガはほわほわした白い鳥だが、それは冬毛の場合であること。夏毛は白い羽に茶色が混じり、体もスリムになること。彼はそれらの情報から、スカーレットが今日見た鳥こそが本物のホワエナガだと結論付けた。
「あたし、ホワエナガを見つけてたんだ……」
自分の行動が無駄ではなかったことに嬉しさを感じる反面、すぐに双眼鏡を下ろした後悔も生まれる。
「くそー、せっかく見つけたのに! もっとじっくり見ればよかった!」
すると、奥からじいやが何かを持ってきた。
「これならじっくり見られますよ」
彼の手にはホワエナガの実寸大ぬいぐるみがあった。おそらく見つけることは難しいと思って、代わりに用意しておいたのだろう。
「……こういう時だけは気が利くんだから」
彼女はあえてぶっきらぼうに言いつつ受け取ると、ぬいぐるみのほわほわの質感を確かめるのだった。




