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【ポンコツ系異世界日常コメディ!】魔人スカーレットは過労でしんどい   作者: 鳴尾リョウ


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第50話 魔人スカーレットはスカーレットちゃん人形

 ぬいぐるみになる! これぞぬい活?




「おや、何ですそれ?」


 じいやはスカーレットと城に来ていたベロニカに声をかける。なにやら二人は興奮している様子だった。


「ああ、じいや! 見てこれ、すごいでしょ!」


 彼女の手元を見ると、布で作った人形のようなものを持っている。そして、それは彼の主の姿にとても似ていた。


「どうよ! ベロニカに頼んで作ってもらった『スカーレットちゃん人形』よ!」


 赤く長い髪。いつも仕事に着ていく服。魔人の象徴である長い角も、その人形には表現されていた。


「そうなんです。私、最近ぬいぐるみ作りが趣味で、前にスカーレットちゃんに話したら『あたしのぬいぐるみってできる?』って頼まれて……。それがついに完成して持ってきたんです!」


 控えめなベロニカも、自分の趣味の話をする時は楽しそうだ。正直、ぬいぐるみのクオリティはそこまででもない。だが、スカーレットを喜ばせようと一生懸命作ったであろうことは、にこやかなぬいぐるみの表情を見ればわかる。


「へえ、よくできてますね!」


「でしょ!」


 スカーレットも嬉しそうだ。思いのこもった作品は、きっと伝わるのだろう。


 そうしてぬいぐるみのふにふにした体を愛でた後、スカーレットは言った。


「なんだか愛着湧いちゃったわね。まるで、ぬいぐるみに魂があるみたいな気になってきたわ」


「魂ですか……。そうだ!」


 何かを閃いたじいやは急いで部屋から出て行きすぐに戻ってくると、ドライヤーのような機械を持っていた。


「……なによそれ? ドライヤー?」


「違いますよ。これは私が作った、魔力を吸い取って移し替える機械です」


「はぁ」


 何だか難しそうな仕組みを聞かされたスカーレットとベロニカだったが、つまりはこういうことらしい。『吸い取った魔力を、別のものに移すことができる』


「だからなんなのよ。別にいらないけど」


 すると、じいやはため息を吐き、彼女に言い返した。


「わかってないですね。普通に魔力を込めるだけなら、スカーレット様でも可能でしょう。しかしこれは、魔力を吸い取った者の人格をも物に移すことができる。つまり、意志を持ったコピーを作ることができるのです!」


「なんだって!」


 自分の人格を持ったコピー。そんなものができたなら……。できたなら、何だ?


「そのぬいぐるみを動かせます!」


「なんだって!」


 このかわいいぬいぐるみを動かせるのか! やろうやろう、ぜひやろう!


「さすがじいやね! とんでもないことを、いとも簡単にやってのけるわ! よっ、万能の天才!」


「いやあ、それほどでもありますけどね」


 調子に乗る二人だったが、「あのう」とベロニカが不安そうに聞く。


「魔力を吸い取るって危なくない? もしも何かあったら……」


 友達が危険なことに手を出しそうだったので、彼女は反対した。だが、効く耳持たない主人とその執事は能天気だった。


「へーき、へーき。大丈夫だって!」


「まあ、私が作ってますし、変なことにはならないでしょう」


 ベロニカは不安だったが、それでも最後には二人の意見に賛成した。


「それじゃあ行きますよ! スイッチオン!」


 じいやは機械をスカーレットに向け、魔力の吸引スイッチを押した。ズオーという音を立てながら、彼女から魔力を吸い取っていく。


「おお、何だかみるみる力が抜けていくわ!」


「上手くいっているみたいですね! 念のため、もうちょっと吸っておきますか」


 そして、彼はしばらく作業を続けた。もう十分だろうというところでスイッチを切り、今度は機械をぬいぐるみに向けて魔力を吐き出す。


「行っけぇー!」


 スカーレットの強大な魔力がぬいぐるみに注ぎ込まれる。機械に充填されていた魔力を全て入れると、じいやはスイッチを切った。


「どうだ?」


 テーブルに横たえられているぬいぐるみはピクリともしない。


「……失敗なのか?」


 諦めきれず様子をうかがっていると、むくっとぬいぐるみが自分の力で立ち上がった。


「……うん、上手くいったの? うわあ、じいや、でか!」


 やったー! 成功だー! ぬいぐるみのスカーレットとじいやは感激し喜ぶ。ベロニカもほっとして、意識を失っている本物のスカーレットを揺さぶって声をかけた。


「スカーレットちゃん、上手くいったみたいだよ! ……スカーレットちゃん?」


 しかし、どれだけ揺さぶっても彼女は起きることはなかった。まるで人形のように静かにそこにあるだけだったのだ。


 必死なベロニカの様子に、浮かれていた二人もようやく危機感を覚え始めた。


 じいやが本物スカーレットの容態を確認する。息はしているようだが、目覚める気配はない。気持ちを落ち着かせるため深く息をつき、彼は事態をこう結論付けた。


「魔力吸い過ぎて、魂ごとぬいぐるみに移っちゃったみたいです……」



 沈黙する場を和ませるため、「てへっ」とおどけたじいやだったが、スカーレットもベロニカも笑わなかった。


「……やってくれたな。やってくれたなぁー! どうすんのよ? あたし、一生ぬいぐるみなの? なんとかしろー!」


「そうですよ! これじゃあ、スカーレットちゃんがあまりにもかわいすぎます! いや、かわいそうすぎます!」


 取り乱す二人を、じいやはまあまあと落ち着かせ言った。


「……方法ならあります。さっきと逆のことをすれば良いのです」


 今度はぬいぐるみから魔力を吸い取り、本物スカーレットに移し返す。そうすれば、元通りになるはずだと。


「それならさっさと戻しなさいー!」


 人形のにこやかな表情で怒り散らかすスカーレットの意見を、じいやは首を振って否定した。


「……できません」


「何でよ!」


「充電が切れてしまったからです」


 彼は機械のスイッチを押した。カチッと鳴るばかりで何の反応もない。確かに充電が切れているようだ。


「……おそらく一時間はかかるでしょう。その間はどうか我慢してください」


 そう言い残し、彼はすたこら自室に充電に向かった。……逃げたな。


 部屋に残されたスカーレット(人形)とベロニカは、唐突に起こった出来事に気が抜けてしまう。とりあえず、スカーレット(本体)をソファに座らせ、冷静に努めた。


「……あのマッドサイエンティスト、元に戻ったらただじゃおかない」


「でも、何とかなりそうじゃない。一時間くらいって言ってたから、気長に待とうよ」


 ……意外とすぐ順応するんだよなあ。スカーレットはマイペースな友人を見ながら思う。


「ところでスカーレットちゃん、ちょっとお願いがあるんだけど?」


 もじもじしながら指を触り、ベロニカは思い切って切り出した。


「あの、持ってみてもいい? なんか小人みたいでかわいくて……」


 この非常時になんと能天気な! こやつ、意外と大物だな!


 とはいえ、元に戻るまで時間はある。わざわざぬいぐるみを作ってもらった借りもあるし、しぶしぶながらスカーレットは許可した。


「しゃあない、いいわよ」


「やったー!」


 今日一の笑顔で彼女は喜んだ。友人がとんでもないことになっているのに、ここまで嬉しそうなのは考え物だが……。


「それでは失礼して……」


 ベロニカはスカーレットをおそるおそる手に取ると、顔の辺りをふにふにと触った。


「……どうよ? 本当にぬいぐるみでしょ」


「うわぁー、本当にぬいぐるみなんだー! えっと、立ち上がったりできる?」


 スカーレットが「こう?」とベロニカが両手を合わせたところに立つと、さらに彼女は感情を爆発させる。


「うわぁー、スカーレットちゃんが立ったー!」


 あんたが言ったんでしょ。そうして、次から次へと繰り出されるお願いに付き合っているうちに、一時間はあっという間に過ぎた。



「じゃあ次は、このぬいぐるみと一緒に写真を……」


 かばんから出される大量のぬいぐるみとの写真を撮ったスカーレットは、かなり疲れていた。


「あの、ちょっと休憩……」


 そこで勢いよくじいやが部屋に駆け込んでくる。


「充電できましたぞー! さあ、さっそくスカーレット様を元に戻しましょう!」


 彼が戻ってくると、テーブルの上にはたくさんのぬいぐるみが並べられていた。今この時まで撮影会でも行われていたような状況を見て、じいやは聞いた。


「……やっぱり、もうちょっと待ちましょうか?」


「早く戻せ!」


 スカーレットがそう言うと、彼はすぐさま機械を使って元に戻した。自分の体の感触を確かめ安堵する彼女だったが、ベロニカの方はというと少しだけ名残惜しそうにしているのだった。


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