第49話 魔人スカーレットは爆破にこだわる
爆破にこだわる! 爆発は芸術だ!
仕事が終わり、城に帰ってきたスカーレット。
「ただいまー」
「おかえりなさいませ、スカーレット様」
じいやが出迎えるが、なんだか彼女は思い悩んでいるようだった。
「どうかしたんですか?」
「……ないのよ」
「ない? 何がないんですか?」
すると、スカーレットは目を見開き、彼に訴えるように言い放った。
「爆発が、美しくないのよ!」
まーた、よくわかんないこと言い始めた。じいやは早くも面倒になってきたが、自分は執事。立場はわきまえているので、一応聞いた。
「……えーと、どういうことですか?」
スカーレットの言い分はこうだ。いつも自分は魔物にとどめを刺す時に、派手な魔法で爆破を起こす。かっこいい詠唱に大きな爆破。街の住人達はいつも彼女に感謝してくれるが、何だか最近は反応が淡白になってきているのだとか。
「そんなことないですよ」
「あるのよ! それもこれも魔法による爆破に慣れてきているせいなんだわ! くっ、あたしとしたことが、エンタメ性をおろそかにしていたとは……」
魔物討伐にエンタメ性はいらないと思うが……。じいやは正論を胸の内に収め、彼女に尋ねる。
「それじゃあ、どうするんですか?」
すると、その言葉を待ってましたとばかりにスカーレットは宣言する。
「今度の休みに、かっこいい爆破の研究をします! もちろん、じいやもやるのよ!」
ええー、やだなあ。何なんだ、かっこいい爆破の研究って。しかし、忠実なる執事である彼は答えた。
「かしこまりました、スカーレット様」
そして休日。
「よーし、ここなら爆破の研究にちょうどいいわね!」
二人がやってきたのは、周囲に草も生えない不毛の大地。生命が芽吹かないその場所には、めったなことでは人間たちも寄り付かない。
「……この場所は!」
「いいでしょ、ここ。前にたまたま見つけてね。何でも、かつて二人の伝説の魔人が争ったとされている場所なんだとか……。魔法の研究にはぴったりじゃない?」
「ほほう」
「……何でじいやが得意げなのよ?」
じいやはかつてここで繰り広げた戦いを思い出していた。まだ若かりし頃、スカーレットの父、ヴァーミリオンとの死闘の日々を。スカーレットにも前に話したが、彼女はすっかり忘れているようだった。
「……まあいいわ。じゃあ、さっそく始めましょうか」
スカーレットはそう言うと、上空に高く舞い上がった。
「じゃあ、いつも通りやるから見てて!」
じいやが頭上で丸を作ると、彼女は詠唱に入った。そして、
「インフェルノ!」
巨大な火球を大地に向かって振り下ろす。そして、それが地面に接すると同時に、耳を覆いたくなるような轟音響かせ爆発する。
「どう? いい感じ?」
地上に戻ってきたスカーレットはじいやに尋ねた。彼は腕を組みながら、少し頭をひねるとこう言った。
「そうですねえ……。しいて言うなら、爆発の音が大きいので見ている人たちはびっくりするのかも……。もうちょっと、パワーをセーブしてやってみたらどうですか?」
「なるほど! さすがじいや、着眼点が違うわ!」
彼女も納得し、再び空に舞い上がる。何度か魔力を調整し、ちょうどいい感じの爆発を起こせるようになる。
「そこそこ大きな音に、見た目の派手さも損なわれてない。いい!」
成果に満足するスカーレットだったが、じいやはううんと唸り、納得していないようだった。
「どうしたのよ? じいやのおかげで良い感じになったのに」
「……いや、まだです。まだ何かが足りない。……そうか、爆破の色がワンパターンなんだ! スカーレット様、色って変えられますか!」
最初は嫌々付き合っていた彼も、試行錯誤するうちにこだわりを強めていた。そんな彼に当てられたのか、スカーレットもやる気のスイッチが入る。
「色、変えられるわ! ええと、魔力を込めるときにちょちょいっと工夫すれば……。……できた!」
手のひらサイズの炎を作り出すと、それは普段の赤色とは違い青っぽい色になっていた。
「さすがです、スカーレット様! これは名付けて『ブルーファイア』と名付けましょう!」
「『ブルーファイア』か……。いい!」
キャッキャと手を取り合い喜ぶ二人。そこからは青だけでなく、黄色や緑、紫といった様々な色の炎を作り出し試していった。
「じゃあじゃあ、次はこんなのどう? 黒と緑の炎だから、『チョコミント』! みたいな!」
「いいですねえ! それなら黄色と紫で『大学いも』とかはどうですか?」
「うーん、おいしそう!」
そんな感じで小さな炎でしばらく遊び、いざ大きな火球を作ってみる。
「……やっぱり大きな魔法になると、調整が難しい……。一色が限界か」
スカーレットは集中して青い火球を作り、地面に向かって放つ。すると爆破を起こし、きれいな青色の余韻が残った。
「うん、いい感じね! 今度魔物退治がある時は、これでいってみよう!」
納得する爆破が完成し、スカーレットとじいやは満足して城に帰った。
そして、週明けになり彼女はさっそく研究の成果を試そうと思っていた。
「スカーレット様、街に巨大な魔物が近づいております! お助けください!」
召喚されて早々、街の住人たちが必死に訴えてくる。スカーレットは「任せてください」と魔物の位置を聞くと、文字通りすぐさま飛んでいった。
人間たちが困っている。すぐにでも助けてあげなければ!
仕事には真面目に取り組む彼女はそのことで頭がいっぱいだった。空から魔物の姿を確認すると、さっそく詠唱に入る。
「深淵にて燃え上がる呪詛の炎。いまひとたび出でて、焦土と化せ。インフェルノ!」
彼女が強大な魔力を振るうと、魔物は跡形もなく消え去る。これで一件落着だ。
街に戻り住人たちに笑顔で感謝されると、一仕事終えた充実感があった。ああ、このために働いているんだなあ。それでもしっかり報酬はいただき、城に帰った。
「……というわけで、みんなあたしに感謝してたのよ」
最後まで黙ってスカーレットの話を聞いていたじいやは、とうとうこらえきれなくなり言う。
「……結局、いつも通りの魔法で倒したんですね。……はあ、この間の爆破の研究は何だったんですか」
「ごめんて」
がっかりしている彼の肩にポンと手を置き、「でもね」とスカーレットは言う。
「誰かを助ける時に、細かいこと言ってられないでしょ?」
……それがわかっているなら、普通に仕事をしてほしい。そう思ったが、有能な執事は口には出さず主人に同意した。




