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【ポンコツ系異世界日常コメディ!】魔人スカーレットは過労でしんどい   作者: 鳴尾リョウ


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第47話 魔人スカーレットは牢屋に入れられる

 牢屋に入れられる! いったい何したっていうんだ!




 スカーレットは投獄された。


「はあー、何でこんなことに……」


 ひんやりした牢屋の床に寝転がりながら、さっき起こったことを彼女は思い返した。



 いつものように召喚に応じ、街を襲う魔物を倒したスカーレット。今日の敵はちょっと強かったし、報酬もたんまりもらえるだろう。そんな風に考えていると、街の兵士が彼女に駆け寄り言った。


「本当にありがとうございます、スカーレット様! 今回の報酬は、国王が直々にお渡ししたいそうです」


 国王が直々に。なるほど、これはとんでもないものをもらえるのでは?


 魔力を使い疲れていたが、これからもらえる報酬への期待からか兵士について行く彼女の足取りは軽かった。


 城に着き、国王の前に通される。自分の城ほどではないが、まあまあ良い城だ。王様の服も装飾がいっぱいで豪華だし。


「お前が魔人スカーレットか。凶暴な魔物を倒したそうだな、褒めて遣わす」


 ……なんか偉そうだな。あたし、魔人なんですけど。あんたの国、すぐ滅ぼせるんですけど。スカーレットは心の中で毒づくが、まだ報酬をもらっていない。ここは大人になり聞き流す。


「国王様! この方は魔人スカーレット様ですぞ! 無礼な態度はおやめください!」


 隣の老人が慌てて国王をいさめる。おそらくは執事か宰相といったところか。


「ふん、わかっておる。かの有名な魔人がどんなものか気になっていたが、こんなちっさいのだと思わなくてな……。どうせなら『氷の女王』と評される、魔人ベロニカと会ってみたかったものだ」


 この国王、ある意味すごいな。この短時間であたしの地雷をこうも踏みまくるとは……。かろうじて笑顔を守り抜き、彼女は言った。


「……あの、そろそろ約束の報酬をいただけませんか?」


 王はつまらなさそうに兵士に何かを指示した。しばらくすると兵士がなにやら慎重な様子で台車を運んできた。台車の上には大きな布が被せられており、中身が見えない。


 あそこに貴重なお宝が! 今までの怒りも忘れ、スカーレットは期待に胸を躍らせる。


「それ、持っていけ。とっておきの作品だ!」


 被せられていた布が取り払われると、そこには奇妙なデザインのつぼが置かれていた。


 つぼかあ。確かに高名な作家の作品であれば、かなりの価値があるものもある。だが、あいにく自分は芸術のセンスはあまりない。目の前の品がどれだけ優れているか、ぱっと見では理解できなかった。


「……不勉強ですみません。少し聞きたいのですが、このつぼは誰か有名な作家のものなのですか?」


 普通のつぼでないのは何となく感じる。実用性を排除した、「芸術品」としての誇りのようなものを。だが色使いも独特で主張が激しく、このつぼが人であったなら仲良くできそうにない。


 彼女の質問に、自信たっぷりの様子で王は答えた。


「いや、私が作った」


「いらねえー!」


 つい本音が出てしまった。言われてみれば、そんな感じがする。作品には作家の個性が反映されるというが、全くその通りであった。


 しかしスカーレットの言葉を聞いた国王は、顔を真っ赤にして激怒する。


「私が魂を込めて作った作品をいらないだと! 無礼にも程がある! おい衛兵ども、こいつを牢につないでおけ!」


 彼の命令に周囲の人間たちはざわめいた。魔人様を牢屋に? そんなことして大丈夫なのか? 兵士たちは顔を見合わせ、戸惑っている。


「国王様! さすがにそれは度が過ぎます! 取り消して謝罪してください!」


 老人が国王に進言するが、聞く耳を持たない。


「ええい、黙れ。王の命に逆らうのか! 衛兵、早くしろ!」


 兵士たちも王の命には逆らえない。気が進まない様子であったが、スカーレットを取り囲み牢屋に連れて行った。



「……壁の染み数えるのも、そろそろ飽きたわね」


 もう一時間くらいかな。大人しく牢屋に連れられてから、結構経ったと思うけど……。


 鉄格子の外には見張りの兵士が一人。彼も魔人の監視など嫌だろうに、忠実に責務を果たしている。


「すみません、まだ出られないんですか?」


「申し訳ありません、スカーレット様。おそらく、もう少しのはずです。あっ、話していれば来られました!」


 すると、階段を下りて先ほどの老人がやってきた。


「誠に申し訳ございません、スカーレット様。この度は国王がとんだ無礼を……」


 彼は兵士に牢屋の鍵を開けるように指示すると、下がる様に命じた。


 鉄格子を抜け牢屋で二人きりになると、老人はスカーレットに見張り用のイスを勧めた。彼女が腰掛けると、彼は静かに語り出した。


「私はこの国の政治を行う宰相をしています。先代の頃から仕え、現国王のことも赤子の頃から見ておりました。彼は王としての能力は長けているのですが、なにぶん気難しく……。私も兵士たちも頭を抱えております……」


 偉い人も偉い人で大変なんだなあ。でも、あたしには関係ないんだけど……。


「……それで、私はもうここを出ても構わないんですか? 報酬さえもらえれば、先ほどのことは水に流しますが」


 彼は再び謝罪し感謝の言葉を述べたが、まだ何か言いたげだった。「どうかしましたか?」スカーレットが尋ねると、宰相は少し迷った様子だったがやがて口を開いた。


「……実は国王がスカーレット様に謝罪したいと申しているのです。もちろん、スカーレット様がお許しになるのであればですが」


 あの国王とまた話すのか……。スカーレットは気が重かったが、謝罪したいとの申し入れならば断わることもないだろう。


「……わかりました。行きます」


 老人は安堵したように表情を緩め、彼女と共に王の元へ向かった。



「……先ほどの無礼、謝罪する」


 再び姿を見せた王は冷静になったようで、今度は話ができそうだった。


「約束の報酬を用意した。迷惑をかけた代わりと言っては何だが、宝物庫よりえりすぐりの品を持ってこさせた」


 見ると、王の傍らには輝きを放つ金銀財宝が大きな袋ぎっしりに詰め込まれていた。いくら強い魔物を倒したからと言って、明らかにもらいすぎだ。


「ありがとうございます。では……」


 遠慮を知らないスカーレットは、山賊のように袋を担いで去ろうとした。大漁大漁! 報酬諦めてこの城ぶっ壊してやろうかと思ったけど、我慢して良かったー!

 

 ルンルン気分だった彼女は、そこでふと気になった。


「なぜ報酬がつぼだったんです?」


 この国王は見るからに見栄っ張りである。それならば自分の国の豊かさを自慢するため、報酬にはそれ相応の財宝を渡すのではないだろうか。


 彼女の言葉に、王はぐっと言葉を詰まらせる。だが、はぁと息を吐くと、自嘲気味に話し出した。


「私は元々芸術家になりたかった。しかし、一国の王が責任を放棄することなどできん。嫌々ながらも私は夢を諦め、国を守ることを選んだ。それでも、何かを作ることはやめなかった。創作者としての火は消したくなかったのだ! ……お前に譲ろうとしていたのは、私が作った中でも最高の作品だ。たとえ誰かに、ガラクタと言われようとな……」


 そこまで一気に言葉を紡ぐと、自信に満ち溢れた様子だった国王の姿はひどく小さくなったように感じた。きっと、今まで彼の作品は本当の意味で評価されることはなかったのだろう。それを誰より彼が理解していたのだ。


 スカーレットは担いでいた財宝の袋をドサッと床に下ろした。そして言う。


「……やっぱりこれじゃ不足ですね」


 彼女の言葉に周囲の全員が肝を冷やした。これ以上、国の宝は用意できない。魔人が納得しないとなると、どんな無理な要求を飲まされるかわからない。人々は固唾を呑んで、スカーレットの次の言葉を待った。


 神妙な顔をしていた彼女だったが、すぐにニッと笑い告げる。


「ああそういえば、良さそうなつぼありましたね。代わりにあれ、持ってきてくれませんか?」

 


「で、この変なつぼをもらってきたということですか」


 じいやは城に帰ってきたスカーレットからつぼを受け取ると、顔をしかめた。


「いいじゃないのよ! ちゃんとそれ、飾っておいてね」


 そう言い残し、彼女は部屋に戻っていった。


「……人使い荒いんだから」


 困った顔をしながらも、彼は丁寧に作品を台に飾った。こうしてスカーレットの城に、大切なコレクションがまた一つ増えることになったのである。


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