第46話 魔人スカーレットはカードを集める
カードを集める! コレクター魂!
「……結構集まったわね」
ファイルの中に収められたたくさんのカードを眺めながらスカーレットは言う。
「おや、なんですかそれ?」
彼女の部屋に入ってきたじいやが興味を持ったのか尋ねてきた。
「だからノック……、まあいいか。これはね、ご当地キャラクターカードよ!」
ご当地キャラクター。元々観光の広報目的で生み出されたキャラクターだったが、それぞれのキャラクターの魅力によって一部には熱狂的なファンもいるという。そのキャラクターが描かれた無料で配られているカードがあるとのこと。スカーレットも旅行に行った時、観光案内所でもらっていた。
「いつの間にそんなに集めてたんですか」
「実は少しだけ持ってたんだけど、この前の旅行で熱が戻ってきちゃって。最近、仕事の合間に瞬間移動して、前に行ったことある場所でもらってるのよ」
「……ちゃんと仕事してくださいよ」
じいやはあきれたが、彼女が何かにハマるのはいつものことだ。仕事に支障をきたさないのであれば、とやかく言う必要はない。
「集めるのはいいですけど、あまり熱中しすぎないように」
「わかってるって」
いったん話はそこで終わったが、スカーレットはドンドンとカード集めにのめり込んでいくこととなる。
「……ふふ、今日は四枚も手に入れたわ」
外から戻ってきて、疲れた様子でそう語るスカーレット。そんな様子を心配し、じいやが聞いた。
「最近、休みになると毎日出かけていきますが、お疲れのようですし城でゆっくりされた方がいいんじゃないですか?」
それでもカード集めに取りつかれた彼女は首を横に振る。
「だめよ! ご当地キャラクターカードは千種類以上! コンプリートにはまだまだなのよ!」
これはまずい。カードを集める楽しさよりも、コンプリートしなければという義務感にさいなまれている。何とか説得しなければ……。
「ですが、カードは逃げませんし……」
「甘いわ! じいやはマニアのコレクター魂をわかってない! たとえお金がかかろうと、たとえ時間がかかろうと、欲しいキャラクターのカードのためならどこへでも。在庫がなくなる前に行かないと狩りつくされてしまう!」
そうかなあ? さすがに偏見が過ぎるのでは?
何かいい案はないのか。じいやは頭をひねると、すぐに名案が浮かぶ。
「あっ、それならスマフォのフリマアプリで手に入れればいいじゃないですか! それなら交通費もかからず、簡単に各地のカードが手に入りますよ!」
その言葉がスカーレットの逆鱗に触れる。
「はいダメ―! 一番嫌われるやつー! 『フリマアプリで手に入れる』? ご当地キャラクターカードは転売禁止なの! なぜならフリマアプリに目を付けたハイエナたちが、無料を良いことにカードを狩りつくし、純粋にカードが欲しい人の手に行き渡らなくなってしまったから! おわかり!」
怖い怖い! 目を血走らせながら、早口でまくしたてないでほしい。
「わかりましたから、そんなににらみつけないでください! とりあえず、晩ごはんにしましょう」
何とか興奮する彼女を落ち着かせ、二人はテーブルに向かった。
「全く、じいやはコレクター魂をわかっちゃいないわ」
部屋に戻り、スマフォを見ながらスカーレットはつぶやく。フリマアプリで買うだなんて、言語道断。自分の足で獲得してこそ意味があるのだ。
「ホント、許せないわ悪徳転売ヤーは。……まだ、売ってるのかしら?」
買うつもりはもちろんないが、現在の状況が気になる。スカーレットはスマフォを操作し、フリマアプリを開いた。
「どれどれ……、な、なにー! こんなにいっぱいあるの!」
画面には膨大な数のご当地キャラクターカードが売られていた。無料でもらえるカードが、一枚五百円から千円ほどで売られており、かなりの数が取引成立している。
「くっ、悔しいけど絶妙な値段設定ね……。交通費を考えたら確かに安いし、むしろ一気に集められる分、効率的とも言える」
侮りがたし、転売ヤー。皮肉なことに、彼らこそカードの『価値』を真に理解しているのかもしれない……。
「ああ、これは持ってない……。これも、これも……」
画面をスクロールする手が止まらない。まだ手に入れていない大量のカードが、すぐ手が届くところに並べられている。
正直、欲しい。ポチりたい。スカーレットの心は大いに揺れた。
これだけの枚数を集めるのに、どれだけの時間と労力がかかるだろう。アプリからではお金がかかるが、それは現地に向かうのも同じこと。それならいっそ、まとめ買いしても……。
悪魔のささやきに耳を傾け、スカーレットは商品の入札ボタンを押そうとする。だが、指先が触れる寸前で先日の記憶を思い出す。あれは神社の帰りだった……。
「スカーレット様、もう電車来ますよ! って、なんですかそれ?」
「ご当地キャラクターカードよ! たまたまそこの観光案内所にあるの気がついてもらったのよ」
それには現地出身のデザイナーが製作したキャラクターが描かれていた。
「そうなんですか。でも、いります、それ?」
じいやは全く興味なさそうだった。しかし、自分は違った。
「いるのよ。だって、これも思い出でしょ!」
そうだ、『思い出』だ。もらったカードには、その場所の思い出がセットになっている。だが、フリマアプリで購入したものにはそれがない。
スカーレットはそっとアプリを閉じた。大切なことを見失うところだった。
デスクに置いてあったカードファイルを開くと、丁寧に収められたカードがびっしり。その一枚一枚にその土地の思い出が込められている。彼女はしばし、それらをゆっくりと眺めていた。
数日後。
「じいや、コンビニであのお菓子買っといてくれた?」
仕事帰りに、頼んでおいたカード付きのお菓子について尋ねるスカーレット。最近はご当地キャラクターカードから、そちらに興味が移っていた。
「すみません、買うの忘れてました」
「はぁー? だからあれほど言ったじゃない! くっ、疲れてるけど買いに行くか!」
彼女は再びドアを出ると、近所の店に走って行く。
「急がなければ! カードがなくなるその前に!」
そんな様子を冷静に見ていたじいやは思う。
「コレクターって、大変だなあ」




