第44話 魔人スカーレットは二択で迷う
二択で迷う! 赤か青か……。
「それでは今日はこの辺で! いつでも挑戦者をお待ちしております! お送りしたのは『親切なマイティ』こと、マイティ・カールでした!」
番組が終わると、スカーレットはリモコンで赤外線を送りテレビの電源を切った。
「はぁー」
「どうしたんですか、スカーレット様? ため息なんて吐いて?」
じいやは有能な執事である。いかに面倒だったとしても主人をおもんぱかり、質問することくらいはする。
「今テレビでクイズ番組見てたらさあ。豪華賞品として海外旅行がもらえるってやつだったのよ。それで、ビンゴ大会で当てられなかったの思い出しちゃって……」
彼は瞬時に把握する。この間、スカーレットはビンゴ大会で一番先にビンゴしたにも関わらず、思っていたのと違う賞品を与えられたのだった。……まだ根に持っていたのか。
「あれはあれで、いい思い出になったんじゃないですか?」
だが、彼女は文句を言う。
「でもさあ。旅行、行きたかったじゃない。はぁー」
ソファに溶けるように伏す彼女の姿を、じいやはあきれながら見ていた。だめだ、これはまた「やる気ゼロモード」だ。週明けまでこれが続くと、ボーっとしていて街が滅ぶ可能性がある。何とかしなければ……。
「わかりました。さっきの番組に出て、二人で優勝しましょう!」
「えっ、どうしたの急に? 確かに一般から出場できるけど、相当ハードル高いわよ」
珍しく彼女はあまり乗り気ではなさそうだった。だが、それには理由がある。
例の番組は出場するのに予選があった。抽選で選ばれた十数組が二人一組で戦い、最終的に三組が本戦出場となる。問題はあらゆるジャンルから出題され、難易度が高いことで有名であった。予選突破すら難関で、何度もクイズ自慢たちが涙を飲む結果になっている。
「おやおや、スカーレット様らしくない。自信ないんですか?」
じいやのあおるような言い方に、スカーレットの目に真っ赤な火がついた。ソファから身を起こし、彼ににじり寄り言った。
「言ってくれるじゃない! おっしゃあ、やったらあ! しばらくはクイズの特訓よ!」
彼女の気合十分な様子を見て、じいやはほっとする。
「良かった。これでしばらくは仕事も大丈夫だろ」
そこから無事に抽選が当たった二人は、一か月後に控えた予選まで必死に知識を吸収した。
元々博識なじいやはさらに力をつけ、勉強が嫌いなスカーレットもそれなりにがんばった。スカーレットは得意分野のマンガやアニメ、ゲームなどのサブカルチャー担当。じいやはそれ以外全部といったかなり偏った配分だったが、結果的にその戦略は上手くいくこととなる。
予選は広い会議室で行われた。抽選に通った何組かが集まり、問題を解いた数が多い順で本戦出場が決まる。今日全ての出場者がいるわけではないらしく、結果は後日発表となった。スカーレットとじいやは手ごたえがあり、ほぼ全ての問題に正解できた。
そして数日後、結果が届く。
合格。そうして二人は念願の本戦出場となった。
本戦当日。
「ついにここまで来たわね」
挑戦者席に座ったスカーレットとじいやは、照明がまぶしいくらいたかれているスタジオに緊張していた。収録とはいえ、観客もたくさん入っている。
「ええ。……ん、スカーレット様、今日は髪飾りなんて着けているんですね」
彼が赤い髪飾りを指さすと、ふふんと鼻を鳴らしてスカーレットは答えた。
「今日のラッキーカラーよ。赤い髪のあたしが赤い髪飾りを着ける。ダブルラッキーってことよ!」
何でそんなに自信満々なんだろうとじいやは思うが、口には出さない。
「そうですか。あっ、見てください! マイティですよ!」
出入り口から入ってきた金髪の大男。スマイルが似合うナイスガイ。マイティ本人が登場した。
二人が有名人を見て舞い上がっていると、なんとマイティがこちらを見て声をかけてくれた。
「やあ、かわいい髪飾りだね! お二人さん、気分はどうだい!」
もじもじする二人。何とか「緊張しているけど、がんばります」とだけ伝えると、彼は白い歯を輝かせはつらつとした声を響かせた。
「オーケー! なあに、赤っ恥かいても心配ないさ! だってこの僕、『親切なマイティ』がいるからね!」
そう言ってマイティは片手を上げ、他の出演者にも声をかけると司会者席に向かった。
「か、かっこええ……」
感動する二人。やはり、スーパースターは違う。おかげで緊張が少しほぐれた。
「そろそろ本番でーす!」
スタッフが開始の合図をとる。静まり返るスタジオ。備え付けられた砲台のようなカメラは、出演者たちに狙いをつける。十秒前、……三、二、一。
収録が始まった。
マイティの小気味よいトークから始まり、三組の出場者を紹介した。スカーレットとじいやはぺこりと頭を下げ、準備が整うと最初の問題が読み上げられた。
「問題 FPSやTPSと呼ばれるシューティングゲームにおいて使われる、『目標』『狙う』といった意味の言葉は何?」
知っている! すかさずスカーレットはボタンを押した。
「エイム!」
ピンポーン! 正解の音が響いた。
「やったー!」
飛び跳ねて喜ぶ彼女は隣のじいやの方を向く。落ち着いた表情をしているが、内心興奮しているのが丸わかりだった。「グッド」と指を立て、スカーレットの正解をたたえた。
「スカーレット&じいやチーム、幸先のいい滑り出しだね! でも、その喜びようは優勝した時まで取っておこうな!」
観客を沸かすマイティのジョークに顔を赤らめるスカーレットだったが、その言葉で冷静になることができた。まだまだここからだ!
最初の問題を取ることができた二人は、勢いに乗り次々と正解を重ねる。「三十八万四千四百キロメートル」「メタバース」「光線」「八千年前」二人の得意分野がぴたりとはまり、そして……、
「優勝は、スカーレット&じいやチーム!」
スカーレットとじいやは優勝した。
「やったー!」
彼女たちの健闘をスタジオ中の人たちが拍手でたたえた。スカーレットはうれしい反面、少し照れくさくもあり、頭をかきながらぺこぺこしている。
「やりましたね、スカーレット様!」
「ええ。でも、まだよ。最後のボーナス問題が残ってる」
そう話していると、スタジオの奥から何かが台車で運ばれてくる。それらは七つの箱で、赤、橙、黄、緑、水色、青、紫とそれぞれ色がつけられていた。
「さあ、優勝チームには豪華海外旅行に行ける問題を解いてもらう。と言っても、運任せなんだけどね!」
今回の最後の問題は七つの箱から一つ選び、どれに当たりが入っているかを当てるものだった。前は『箱の中身は何だろな?』だったか。
「当たりは七分の一。分が悪いですね……」
「豪華旅行は簡単にはくれないってわけね……」
スカーレットは並べられた箱を見回す。色がついているだけで中身は見えない。ヒントもない。それなら、
「赤い箱を選ぶわ!」
スカーレットは髪飾りにそっと触れる。今日のラッキーカラーは「赤」。ここまで勝ち上がって来れたのだ、間違いはない!
じいやも同意し、彼女の言葉を聞いたマイティは言う。
「オーケー! それじゃあ、スタッフの皆さんお願いします!」
すると、数人のスタッフが箱を次々に開け始めた。一つ、二つと開けていき、残るはスカーレットの選んだ「赤」と選ばれなかった最後の一つの「青」だけとなった。
「残った……」
ひとまず自分の選択にほっとしたスカーレットだったが、そこで疑問が生じる。なぜ、二つ残した?
彼女の疑問を感じ取ったように、マイティは不敵な笑みを浮かべながら告げる。
「答えを知っているスタッフさんたちが箱を開けてくれたおかげで、残りの箱はたった二つ。ここで『親切なマイティ』チャーンス! 今なら選んだ箱を、変えてもオーケー!」
箱を変えてもいい? 何で? それって意味あるのか?
悩むスカーレットに、今まで黙っていたじいやが声をかける。
「スカーレット様、私が間違っていました。これは『確率』の問題です」
どういうことだ? 七つの箱から一つ選ぶ。それなら選んだ箱を変えたところで、確率は同じ『七分の一』のはずだ。
彼女は自分の考えをじいやに話すと、彼は首を振って否定した。
「いいえ。確かにスカーレット様が選んだ箱に当たりがある確率は『七分の一』です。しかし、当たりを知っているスタッフが、選ばなかった六つの箱のうち五つの箱を開けました。ここで残りの青の箱に選択を変えると、七つの箱のうち六つ開けるのと同じになります。つまり、箱を変えると当たりの確率は『七分の六』になるのです」
む、難しい……。よくわからないけど簡単に言うと……。
「変えた方が良いってことね」
じいやは静かにうなずいた。しかし、こうも付け加える。
「ですが、私はスカーレット様を信じています。どちらを選んでも後悔しません」
もー、こんな時に限って急に執事振るんだから! 余計悩むわ!
じいやの話した内容は理に適っているように思う。ただ、引っかかることが一つある。
『親切なマイティ』がどれが当たりか知っているかどうかだ。
彼が当たりを知らず、本当に親切な場合は問題ない。青に変えるのが正解だろう。だが、もしも彼が『意地悪』だったなら……。
頭を抱えるスカーレット。どうしよう、全然決められない!
「さあ、スカーレットさん! 赤か青か! お答えをどうぞ!」
あー、もう! こっちだ!
スカーレットは選んだ箱を指さした。
「結局、正解は『青』でしたね」
肩を落として歩くスカーレットの背中に向かって、じいやは話しかける。
「ふん、どうせ赤から変えなかったの怒ってるんでしょ……」
答えを急かされた時、頭を抱えた彼女は髪飾りに触れた。ラッキーカラーの赤い髪飾り。動揺した脳裏にそのことがよぎり、とっさに赤い箱を指さしたのだった。
それに『親切なマイティ』は当たりの箱を知らなかったそうだ。収録後、どうしても聞きたかった彼女は、直接彼の元に走った。必死な様子に面食らっていたが、興奮するスカーレットを落ち着かせ白い歯を見せながら言った。
「当たりを引けなかったのは残念だけど、君の気持ちはよくわかる。だって、君には鮮やかな『赤』がぴったりだからね!」
マイティは心の底からナイスガイであった。
「はあー、豪華旅行はお預けかあ」
とても楽しみにしていたのだな。じいやはしょんぼりする彼女を元気づけるため提案する。
「こういう時は、甘いものでも買って帰りましょうか」
「……ケーキでもいい?」
「いいですよ」
「……二個でも?」
いつもの元気が戻るなら安いものだ。じいやが「特別ですよ」と答えると、彼女はあっさりといつもの調子に戻った。
「それじゃあレッツゴー!」
そうしてケーキ屋を後にしたじいやの手には、赤いイチゴが乗ったショートケーキを収めた箱が握られていた。




