第43話 魔人スカーレットはクレーンを動かす
クレーンを動かす! お金が底をつく前に。
「ぐわー! 羽根つきトゲ爆弾は卑怯だろー!」
「甘っちょろいことを言うんじゃないわよ! 勝った者が正義!」
レースゲームの筐体画面には、スカーレットが操作するキャラクターが一位でゴールする様子が映し出されている。
電子音が響く店内。スカーレットとソニアはゲームセンターに来ていた。
「くそー、もう一回だ!」
悔しそうに懇願するソニアだったが、スカーレットは断る。
「嫌よ。もう何回目よ、それ。いいかげん違うのにしましょう」
彼女は車のシートから降りると、次のゲームを求めて歩いて行く。
「ちょ、ちょっと待てって!」
ソニアも慌てて荷物をつかむと、前を歩くスカーレットについて行った。
数時間前。
「なあ、色々考えたんだが……」
「何よ?」
スカーレットの城で、いつもの対戦ゲームで負けたソニアが言う。
「これって私に不利じゃないか? お前の城でゲームで戦う。まさしくお前にとってはホームゲームというわけだ」
「はあ? 今更そんなこと言うわけ? 自分が弱いの棚に上げて、あたしのせいにするとはあんたも落ちたもんね」
「くっ……」
普段、ソニアは冷静で礼儀正しい。人間たちにも尊敬されていて、仕事熱心でもある。
だが、そんな彼女でも勝負事には熱くなることがある。特にスカーレットとの勝負となると、どうしても勝ちにこだわりがちだった。
さすがに自分の言い分に筋が通らないと、彼女も自覚しているのだろう。それ以上言い返してこない。
……仕方ない。ちょっとは譲歩してやるか。再戦のため真剣な顔でコントローラーを握るソニアに、スカーレットは言う。
「わかったわよ。なら、ゲームセンターで勝負するのはどう? それなら文句ないでしょ」
すると、ソニアはぱあっと表情を明るくすると、すっと立ち上がり言い放つ。
「よし、そうとなったらすぐに出かけるぞ!」
「これ、片づけてからね」
スカーレットがゲーム機を指さしながら言うと、彼女はすぐさま片づけを始めた。
「それで次は何をするんだ?」
レースゲームを終えた二人は、広いゲームセンターの中を歩いて回っていた。
ホッケー、モグラたたき、バスケットゲーム。勝負にちょうど良さそうなものはたくさんある。しかし、いまいちピンとこないスカーレットは提案する。
「別の階も見てみない?」
ソニアも了承すると、二人はエスカレーターを使い上に上がった。
二階に上がると、一階よりも店内が明るくなったような気がする。なぜだろうと思ったが、すぐに理由はわかる。フロアは明るい照明のクレーンゲームで埋め尽くされていたからだった。
「ほえー、クレーンゲームばっかりね」
スカーレットが驚いていると、ソニアが思い出したように話す。
「確かクレーンゲームは、他のゲームよりも利益が出やすいって聞いたな」
「そうなんだ。なんでかしらね?」
そこから二人は何の気なしに通路を歩いていくと、スカーレットがある筐体の前で立ち止まった。
「ん? どうした?」
「これは……、ゲームセンター限定『おもちもっち レインボーバージョン』!」
見ると、最近はやっているキャラクターの大きなぬいぐるみが、筐体の中に入っていた。
「これは絶対ゲットせねば……」
息を荒くし、興奮するスカーレット。そんな様子を冷めた様子で見ていたソニアは言う。
「こんなに大きいの取れるのか? 難しいんじゃ……」
カラフルなぬいぐるみは四~五十センチはある。初心者が簡単に取れるとは思えない。
「人には無理かもと思っても、やらないといけない時があるのよ!」
忠告を無視し、スカーレットは財布から小銭を機械に投入する。ピロンっと開始音が鳴り、操作ボタンが光り出した。
まず左に動くボタンを押し、ぬいぐるみの位置に動かす。そして、奥に進むボタンをぬいぐるみの中心めがけて移動させる。少しずれてしまったが許容範囲内だろう。ゆっくりと三本爪のアームが下がっていった。
「意外といいんじゃないか!」
「ふふん、さすがあたし!」
三本の爪がおもちもっちの胴体をしっかりと掴んだ。これはいける! 二人はそう確信した。
だが、そう簡単には事は運ばない。持ち上げようとした時、ぬいぐるみはアームからするりと抜け出し、くたっと倒れた。
「ま、まあ。少し狙いとずれてたし、初回だしね! 次行ってみよー!」
気を取り直し小銭を追加投入するスカーレットだったが、彼女の元気はそう長くは続かなかった。
挑戦が十回を過ぎた頃、スカーレットは額に冷や汗をかいていた。
「ぜ、全然取れない……」
両替機でくずしておいた財布の小銭が底をつき、再び両替するためいったんプレイを中断した。
「どうなってんのよ! 全然取れないんですけど! ズルじゃないの!」
「落ち着け! そんなあこぎな商売をするわけないだろ! ……よし、今度は私がやってみよう。考えがある」
両替を終え筐体に戻ってくると、ソニアは小銭を投入口に入れた。まず、スカーレットと同じようにアームを左に動かし、位置を合わせた。そして、奥に進ませるのだがアームは頭の位置で止まった。
「へたくそ! それじゃバランス悪くて、持ち上がらないじゃない」
スカーレットはそうわめいたが、ソニアは冷静だった。
「これでいい。見ていろ」
すると、アームはぬいぐるみの頭部をがっちりとつかみ、持ち上がる。
「持ち上がった!」
だが、つかんだ位置が悪かったのか、アームが動くとぬいぐるみは落下した。
驚いているスカーレットにソニアは解説する。
「お前のプレイを見ていて思ったんだが、このぬいぐるみは頭部の方に重心があるようだった。もしそうなら、体の中心を狙うんじゃなく、頭を狙った方がアームが安定して取れるんじゃないかと思ったんだ」
スカーレットは彼女の分析に恐れ入った。一回目の挑戦でもう少しで取れそうだったのだ。次は成功するのではないか。
「なるほど! あんた、天才じゃないの! ……ん、でもそれ、いつ気づいたのよ?」
「お前の二回目が終わった時だが?」
「それならもっと早く言いなさいよ!」
そこから数回微調整していき、ソニアは無事にぬいぐるみを獲得した。
その日の帰り道。
「それで本当にもらっていいの?」
スカーレットの手には、七色のおもちもっちが抱えられていた。
「ああ、別にいい。お前にやる」
ソニアは照れ隠しのためか、彼女の方を見ることなくそう言った。そんな様子にスカーレットは疑いの目を向けた。
「……まさか、何か裏があるんじゃ……」
「そんなのはない! しいて言うなら、今日の勝負は私の勝ちだということだ」
まだ続いていたのか。クレーンゲームに夢中ですっかり忘れていたスカーレットはあることを思い出す。
「あっ、だから攻略法を教えなかったのね! ずるいじゃない!」
彼女の必死な抗議に表情を緩ませると、勝ち誇ったようにソニアは言った。
「『勝った者が正義』そう言っていたじゃないか」




