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【ポンコツ系異世界日常コメディ!】魔人スカーレットは過労でしんどい   作者: 鳴尾リョウ


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第42話 魔人スカーレットは手紙を書く

 手紙を書く! 手書きのぬくもり。




『スカーレットちゃん 私は今、温泉宿でこれを書いています。のんびりと一人旅です。街とは違って静かでいいところです。やぶからタヌキの親子がひょっこりと出てきたので、絵に描いて送ります。 ベロニカ』


 スカーレットはベロニカから届いたハガキを読み、ため息を吐く。


「はぁー、いいなあ。あたしも旅に出たいわ」


 ベロニカはどちらかと言えば仕事に乗り気ではなく、プライベートを重視する方だ。それはスカーレットも同じだったが、彼女は何となく仕事を休むのが苦手だった。


「たまには休暇を取って、旅に出たらいいじゃないですか」


 じいやはそう提案するが、スカーレットはううんとうなるばかりだった。


「そうなんだけどね……。『今はその時ではない』というか」


「はあ。そうですか」


 彼はそう言うと、手紙の方に話題を移した。


「ベロニカ様、温泉に行かれてるんですね。これはタヌキですか。上手ですね」


 手紙に描かれている二匹のタヌキは、楽しそうに歩いている。きっと、彼らを見てベロニカ自身が楽しい気持ちになったのだろう。絵は描き手の鏡のようなものだ。


「あの子、意外と器用なのよ。料理とか絵とか。ぬいぐるみも作ってたわね」


 きっと彼女は何かを作りだすのが好きなのだ。自分の手で少しずつ。コツコツ積み上げていくのは、彼女の性格に合っている。不器用なスカーレットは何かを作り出せる人を尊敬していた。


「よっぽどタヌキがかわいかったんでしょ。今度はタヌキを飼い始める気なんじゃ……」


 いらぬ心配をしたところで、彼女はあることを思いつく。


「そうだ! あたしもベロニカに手紙を出そう!」


「それはいいですね。きっとお喜びになりますよ」


 じいやも賛成してくれて、スカーレットはさっそく手紙を買いに行った。



 しばらくして城に戻ってきた彼女は、ほくほくした気分で買ってきたものを取り出した。


「今どきのお店って、文房具コーナーが充実してるのね。便箋と封筒もかわいいのがいっぱいあって、選ぶのに時間かかっちゃった」


 何とかお気に入りのものを選ぶことができた。デスクにつき、いざペンを走らせようとしたが問題が発生する。


「あれ? そういえば手紙って何書けばいいんだ?」


 日常生活で手紙を書くことなんてあまりない。書いたとしても年の初めの挨拶くらいなものだ。


「盲点だったわ。出すことばっかり考えていて、書くことを考えていなかった……」


 確か『拝啓』とか書くんだっけ? というか拝啓ってなんだ。それに、終わりの方に『敬具?』と『草々?』とかつけなきゃなんだっけ?


 スカーレットは困った。手紙、難しい。


 こういう時はじいやに聞けばいい。彼を探して尋ねてみた。


「確かに手紙には色々作法がありますが、ご友人のベロニカ様に出すのであればそこまで気にされなくてもいいんじゃないですか?」


 そうかもしれない。ベロニカの手紙もいつも通りの感じだったし。


「それもそうね。じいや、ありがと」


 再び席に着いたスカーレットは、とりあえず書き始めることにした。


「ええと、『手紙届きました。ありがとう。それとやっぱり、絵上手ね。ベロニカの絵を見て、あたしもタヌキ見てみたくなりました』うん、いいんじゃない!」


 出だしはすんなり書けて、彼女は勢いづいた。しかし、便箋が半分程埋まったところで、書くことがなくなった。


「……これって全部埋めなきゃいけないのかしら? 便箋じゃなくて、ハガキにするべきだったかも」


 何となくデザインがかわいいからと選んだのが間違いだった。ハガキの方がスペースが小さいから、書く量は少なくて済んだのに。


「ぐぬぬ。でも、せっかくここまで書いたから引き返せない」


 何か書くことは……。そうだ、近況報告でいいんだ! スカーレットは最近の仕事について思い出すことにした。


「最近って、何か変わったことあったかな……。スマフォをマナーモードにして連絡に気づくの遅れて、国が滅びそうになったとか。ううん、それはいつものことね。前に倒したと思っていた強敵の魔物が実は生きていて、パワーアップしてリベンジマッチに来たとか。これもたまにあるか。うわぁー、何書けばいいのよー!」


 頭をかきむしるほど困ったスカーレットは、再びじいやのもとに向かった。


「じいやー、手紙に何書けばいいのよ!」


「ちょっと落ち着いてください。何でも好きなこと書けばいいじゃないですか」


「『何でも』が一番難しいんだって! 何かお題出して!」


 彼女の無茶ぶりにじいやは面倒そうにため息をついた。腕を組んで少し考えると、「あっ」と何か思いついたようだった。


「この間、近所に二人でお弁当持ってお花見に行ったじゃないですか。あれどうです?」


「それだ!」


 スカーレットはじいやに礼を言い、すぐさま部屋に戻って手紙を書きだした。



 数日後。


「あっ、スカーレットちゃんから手紙が届いてる!」


 旅行から帰ってきたベロニカは、家に届いている手紙を見つけた。


「この封筒かわいいなあ。なになに……」


 書き出しは自分が出した手紙に対するお礼や絵の感想が書かれている。


「絵、褒めてくれてる。荷物になるけど、色鉛筆持って行って良かった! ……タヌキって家で飼えるのかな?」


 そんなことを思いながら読み進めていくと、今度はスカーレットの近況報告が書かれていた。


『この前、じいやとお弁当を持ってお花見に行きました。外で食べるといつもよりおいしいのは、なんでかしらね。ベロニカはおにぎりの具はシャケ派? こんぶ派? あたしは何でも好きです。そろそろ書くことなくなってきたので、今回はこのへんで。また気が向いたら手紙書きます スカーレット』


 ベロニカは読み終えた便箋を折りたたみ、丁寧に封筒に戻した。すると、不意に笑みがこぼれる。


「スカーレットちゃんらしいなあ。やっぱり手書きの手紙っていいよね」


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