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「教えて差し上げますわ」

感想・評価・ブックマーク有難うございます。

「あらフレンさん、偶然ですわね」

「これはアトーデ様、偶然ですね。お久しぶりです」


 考えに耽っている間に待ち人が来た。私が待っていたのは悪役令嬢のアトーデ様。今日この四阿で「偶然会う」約束をしていたのだ。


 今日のアトーデ様はちゃんと上から下まで着古された服とくたびれた靴で庶民の恰好になっている。でも綺麗な長い髪はそのままだし肌はつやつや、なにより扇子を持っているのでやっぱりどこかチグハグだ。


「早速ですがそれが例の木ですのね。見せていただいても宜しいかしら」

 言うが早いか植木鉢に突撃するアトーデ様。子供のように目をキラキラさせている。

 後ろに控えていた護衛のユーミ様ともう一人が苦笑している所を見るとこれが平常運転なのかもしれない。


 そう、ここに鉢植えを持ってきているのだ。植わっているのはもちろん例の廃村に居た謎の存在に託された木だ。

 元々エーコ領に残してあったんだけどトニーに無理を言って持ってきてもらったのだ。往復40日。手紙の運搬とかもあったから鉢植えの為だけって訳ではなかったんだけど、余計な苦労を掛けてしまった。一応領で三日間の休暇が与えられたから本人は「予定外に妻と娘に会えたから十分っす」と言っていたけど、私の気が済まなかったので秘蔵のたけ○ことパウンドケーキ(プレーン)を上げた。

 因みに奥さんのスージーは一年半前に女の子を生んでいる。名前はニーナ。もう歩けるようになったんだけど、その分どこに行っちゃうか分からないから大変なんだそうだ。


 話を戻すと、もともと私は王太子や悪役令嬢には近づかないつもりだった。余計な騒動に巻き込まれないようにだ。

 でもオーレイが仕掛けてきた。どうやら無関係ではいられないらしい。今回は上手く凌いだけど次も大丈夫だとは限らない。オーレイは多分もうしてこないと思うけどまだ向こうには王太子がいるのだ。

 今回オーレイの狙いはエーコ家と悪役令嬢だった。エーコ家が狙われるのは分かる。敵対派閥の中でも目障りな家だろうからね。でも何故悪役令嬢が狙われたのか。本当に王太子との婚約破棄が目的なのだろうか。

 今後のためにも悪役令嬢、いやアトーデ様がどんな人なのかを知っておきたい。

 そのためにもう一度会おうと思ったのだ。前会ったときは思いっきり色眼鏡で見て壁を作っていた自覚があるのでやり直しだ。


 お姉様経由でアトーデ様に「例の木を見ませんか」と持ち掛けたところ光の速さで食いついてきた。新学期に備えて既に学園の寮に帰っていたのに、これを見るためだけに王都に戻ってきたのだ。といっても学園から王都までは半日しかかからないんだけど。


「庭師に手入れさせてはいないんですのね」

 しゃがみこんでまじまじと鉢植えを見ながらアトーデ様が言ってきた。


「はい、特別な由来のある木ですから枝を剪定してしまっていいものかどうか迷いまして、結局そのままにしてあります」


 この木は常緑の針葉樹。大きめの植木鉢に移したおかげで高さは腰位まで伸びたんだけど、枝がそれ以上に横にわさわさと伸びてきて妙にこんもりしたシルエットになってしまったのだ。

 うちの庭師が言うには余計な枝を切った方がよく育つし形も綺麗になるらしいのだけど、でもこの木、薄っすらと魂を宿しているから下手にいじりたくないんだよね。

 昨日リースに木を視てもらったんだけど「人の魂かも知れないけど弱すぎてよく分からないわ」と言っていた。木が育てば魂も強くはっきりしてくるんだろうか。とはいえ「リョーザンの地」に植えてほしいと頼まれているからこれ以上育たれても困るんだよね。運びにくくなってしまうから。


「成程、分かりますわ。ガンネー様が宿っているかもしれないのですものね」

「そうなんです。ところでガンネー様とはどういう方なのですか? うちにある通り一遍の歴史書には載っていなくて」

「まあ、それはいけませんわ! この木を育てるのでしたらそこはきちんと把握なさいませんと!」


 アトーデ様は勢いよく立ち上がるとこちらに詰め寄ってきた。


 目が怖いよ! ただでさえ釣り目気味で目力が強いのにその顔をぐうわっと近づけてきたのだ。

 狂気的な何かを感じて思わず後退(あとずさ)ったのだけどアトーデ様がその分詰め寄ってきて、遂には壁際に追い詰められてしまった。丁度『恐怖 呪いの少女と怨念の屋敷』のポスターが貼ってあるところだ。

 アトーデ様はそのポスターにドン!と手を突くと、反対側の手に持った扇子を私の喉元(のどもと)に突きつけ私の顔を見上げて(私の方がちょっとだけ背が高いのだ)こう宣告した。


「私が、教えて差し上げますわ」


 私は体をこわばらせて頷くことしか出来なかった。だって怖いから。ついでにいうと下手に動くとケガさせてしまいそうだったから。生存本能から身体強化が暴発してしまったのだ。恐るべし悪役令嬢の迫力。


 その後、日が傾くまで『獅子のガンネー』のエピソード、その主であるクリクソン将軍の話、更には聖地巡礼(もちろん歴女的な意味)の話を散々聞かされたのだった。


 でもおかげでガンネー様については結構知ることが出来た。

 ガンネー様が活躍していたのは約三百年前、リースが生きていた頃と重なる。当時は『Z』の脅威など遠い東の国の話。王国は近隣諸国と人同士の戦争を繰り返していた、そんな時代だ。

 『獅子のガンネー』という武将はその二つ名の通り豪放磊落な人だったらしい。

 クリクソン将軍が若い頃に見出し部下にした豪傑で、戦場では常に先頭に立ちクリクソン将軍の不敗神話を支えていたとか。国の臣というより将軍の部下という意識が強く、クリクソン将軍が暗殺されるとすぐに退役しそのまま行方不明になったそうだ。

 聞いていて思ったのだけど、アトーデ様が描写するガンネー様はあの廃村で聞いた声の主とはイメージが合わない。あの声の主は飄々とした感じだったからどちらかというとクリクソン将軍に近い。やっぱりあのお墓はクリクソン将軍のものなのだろうか。完全に別の人の可能性もあるけど。


 アトーデ様の為人についても多少分かった。

 まず彼女はクリクソン将軍の熱狂的な信者だ。決して「でも結局暗殺されちゃったんですよね」とか言ってはいけない。酷い目を見るから。

 もう一つ。彼女は最後まで木を譲れとは言って来なかった。ワガママ令嬢タイプではなさそうだ。これなら近づいても問題ないだろう。歴女スイッチさえ押さなければ、多分。




 後日。

 お姉様経由でクリクソン将軍の伝記と長編歴史小説が送られてきた。小説の方はアトーデ様がクリクソン将軍にハマるきっかけと言っていたやつだ。読めってことね。

 アトーデ様と接触するの、ちょっと早まったかもしれない。


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― 新着の感想 ―
[一言] やはりアトーデさまは歴史オタク……心が洗われるようですね。
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