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最後までごゆっくりお楽しみください……

感想・評価・ブックマーク有難うございます。

 約束の日。深夜。

 今日は昼間から雪が降り続いている。

 夜の街は真っ暗。何しろ街灯も無いし透明なガラスが存在しないから家から漏れ出る光もない。そして今日は分厚い雪雲のせいで星明りもない。

 とても都合がいい。


 暗闇の中例の空き屋敷へと向かう。

 監視チームもきっちりついて来ている。

 それにしても監視チームの人達、私より暗視が出来ないらしい。それとも変調放射を出さずに暗視魔法を使おうとすると性能が落ちるのかな? とにかく薄ぼんやりした灯りで足元を照らしているみたいだ。前回は使っていなかったはずだから足元を確認するのに星明り程度は必要なんだろう。

 私を一度も照らさなかったから追跡自体は足音か足跡でやっているのかな。


 空き屋敷の門の前に来た。


 前回同様ここから霊視で中を探る。

 前庭の反対側、玄関前にシュテファンを初め十六人。前回は五人だったから随分増えた。前庭の両端に合計四人潜んでいる。屋敷の中、玄関の真上の部屋にオーレイを含め五人。そして私に付いてきた今日の監視チームが敷地の四隅に陣取った。総勢二十九人でお出迎えだ。


 魔力感知で魔力の流れも見る。

 玄関前の十六人以外は魔力が異様に弱い。これは予想通り。オーレイの魔力も弱いけどちゃんと確認できる。つまりオーレイ達がいる部屋に魔力遮蔽は施されていないようだ。これも好都合。

 屋敷の中に引き込まれている送魔線は全部で二本。増設したんだね。その他に大型の魔力バッテリーが運び込まれているみたいだ。撮像機も合計六台。絶対いい画を撮ってやるという意気込みが感じられるね。でも残念、今日の撮れ高は0の予定です。

 今日は庭に淡い灯りが点いてる。音だけ採録する分には真っ暗でも大丈夫かもしれないけど、やっぱり画を撮るには最低限の明るさは必要なんだろう。




 昨日の晩、私はリースに相談した。どうしたらオーレイに二度と私と関わる気を起こさせないように出来るかと。

『それなら簡単よ。要はフレンに関わったらどうなるか分からないと思わせればいいのよ』

「でもどうやって?」

『次の密会を怪談にしてしまうのがいいと思うわ。これ以上関わったら怪奇現象に巻き込まれる、止めるなら今しかないと思わせればいいのよ。精々怖がらせてやりましょう。仕返しにもなるし一石二鳥よ。ふふふふふ……』

「うーん、アイディアはいいと思うんだけど。私、演技は上手く出来ないと思う。前に嘘で誤魔化そうとしたとき『これは分かりやすい』とか言われちゃったし」

『難しく考える必要はないわ。あなたも猫を被るのは普通に出来るでしょう? あれは演技と同じよ。それに嘘もつかなくていいと思うわ。淡々と事実だけ言って相手に勝手に誤解してもらえばいいの。幸い良い材料が沢山ある。後は他人には感知できないあなたの魔力でちょっとイタズラして、ボロが出ないよう余計な事は言わずに立ち去る。それだけでいいはずよ』

「なるほど」


 そして二人で具体案を練り上げたのだ。




 深更の鐘が鳴り始めた。ショーの時間だ。ではオーレイ君と密偵の皆さん、最後までごゆっくりお楽しみください……




 まず敷地全体をぐるりと光学迷彩の壁で囲む。遠くから撮影されていないとも限らないからね。大丈夫だとは思うけど念のためだ。

 同時に送魔線と魔力バッテリーに干渉して魔力の供給を止める。庭の灯りが消えた。こっちも送魔線からの魔力で光っていたらしい。敷地内の撮像機もストップしたはず。

 いきなり光が消えて全員戸惑っているようだ。特にオーレイ達室内組は慌てている。


 そこまで見届けてから私は門をくぐって前庭に足を踏み入れた。


 ギュッ、ギュッと雪を踏みながら玄関の前に進む。

 前庭にいる全員がギョッとしたように私の方に(厳密には足音の方に)視線を向けた。


 室内にいるオーレイの部下たちは部屋から出ようとしているけど……残念。扉は開きません。

 直接部屋の中を見ることは出来ないけど魔力の髭で探って扉も窓も全部把握済み。巨木の重みにも耐える魔力の板できっちり固定してあります。定番の『出られない部屋』だね。




「こんばんは」


 シュテファンの目の前まで来て声をかけると半月党(偽)の皆さんは役割を思い出したのか一斉に跪いた。


「これは月ノ巫女殿。斯様な悪天候の中よくぞお越し下さいました」


 シュテファンが(しゃが)れ声で返事をし、携帯式の灯りの魔導具を点灯した。松明のような形で光量はあまりない代わりに全方位を照らし出すタイプだ。


「お一人……で御座りまするか?」

「はい、一人で来ました」

「左様で御座りまするか……」


 シュテファンがキョロキョロしながら聞いてきたところを見ると上手くいったみたいだ。

 もちろん一人で来たというのは嘘じゃない。実はリースも付いて来ようとしたんだけど霊廟からは出られなかったのだ。昔、祟る相手の所には移動できたというから全く出られないわけではないはずなんだけど、何か条件があるんだろう。


 リースが来られない代わりに私が彼女の分まで脅かし役をやる。


 実は歩いている最中、雪の上に魔力で小さな足跡を付けていたのだ。そのせいで私の足音に重なって別の足音っぽいものが小さく聞こえたはず。私が立ち止まった後も少し「歩かせた」し。

 でも私以外の姿が見えないのだ。今何の音か必死に考えているはず。導入部分としては丁度いいだろう。


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