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酷いマッチポンプだ

感想・評価・ブックマーク有難うございます。

 人数が一人増えて五人になった彼らは「坊ちゃん」に対する愚痴を言い続けていた。


「そもそも坊ちゃんは人の心とか持ってるんですかね?」

「しっ……! 声が大きい」

「ま、気持ちは分かるけどよ。ちょっと前まではもう少し真面だと思ってたんだけどなあ。なんか最近はタガが外れたっていうかなんというか……

 知ってるか? 標的のあの子って坊ちゃんの実母の命の恩人なんだぜ」

「知ってますよ。王宮事件でしょう? 奥様が『Z』に捕まった所をあの子に助けてもらったんですよね」

「そうそう。それなのにあの子を嵌める計画を立てるなんてよ。人としてどうなのかと言いたいね!」


 王宮事件で私を命の恩人って言ってくれてる人は沢山いるけど、『Z』に捕まった所を助けたのは唯一人、カイケー伯爵夫人だけだ。その実子と言えば…………オーレイ!

 罠を仕掛けたのは悪役令嬢じゃなくカイケー伯爵子息のオーレイだったのか。学年的には一つ上になるけど入学を遅らせているから年齢は二つ上の14才。この国の貴族ならある程度の仕事を任されていてもおかしくはない年齢だ。さすがに密偵組織を任せるには早い気もするけど、それだけ親の評価が高いってことなんだろう。


「だから声が大きいっ……! 万が一にも聞かれたらどうする気だ」

「大丈夫、坊ちゃんは今頃母屋でおねんねですよ。取り巻き連中だってこんな時間に起きてやしません。あいつら揃いも揃って昼間の楽なシフトにしか入りませんからね。まったく、一度は監視任務をやってみろってんだ。雪の中トイレにすら自由にいけない不幸を味わいやがれ」


 そういやこの人達一日中昼も夜も私に張り付いてるよね。何時どうやって用を足してるんだろう。なんとなく後悔しそうだから深くは追及しないけど。


「それなんだが、さっき渡された作戦計画によると二日後は坊ちゃん達も来るそうだ。詳しくは明日説明するが直々に現場の指揮を執るんだと。クビになりたくなかったら受信機からの指示を聞き落とすなよ」


 受信機で指示を受けるのか。この世界にも無線みたいなのがあるんだね。知らなかった。四人チームの連携がいつも完璧だったのはそういうのを使っていたからだったんだ。私もちょっと使ってみたい。


「へえ、真夜中に出てくるなんて珍しいですね。出来れば邪魔せず大人しくしていてほしいもんです。ていうか坊ちゃんの指揮が必要な局面って何ですかね」

「王太子殿下の婚約者を黒幕に仕立て上げる事になってるだろ? 現場でそれとなく匂わせて、映像に残しておきたいらしい。あの子の様子を見て臨機応変(フレキシブル)に指示を出すそうだ」

「うわあ、それほぼ確実に無茶振りが来るってことじゃないですか。勘弁して下さいよ」

「ふむ。確かに今回の作戦ではかなり高度なアドリブを求められるだろう。だから各自いつも以上に完璧に設定を自分のものにしておけ、どんな指示が出ても芝居を破綻させることなく目的を達成するために。大変なことは確かだがお前達なら出来ると俺は信じている」

「坊ちゃんの下だと余計な心労が溜まって辛い……俺、この作戦が終わったら舞台俳優になるんだ……」

「やめとけ。お前の地味な顔じゃ絶対売れない」

「そこは舞台化粧の技でなんとか」

「ちょっと待ってください。今回言ってきたのって詰まる所設定の変更ですよね。我々が演じるのは元々『半月党の月魔法使い』の筈だったのに、今求められているのは『半月党の月魔法使いを演じる公爵令嬢の部下』の演技ってことですよね」

「厳密に言えばその通りだ」

「役作りが結構変わってきませんか」

「そのままで大丈夫だ。新しい作戦計画では公爵家の密偵部隊は組織その他が我々と全く同じであるとの設定らしい。つまり俺達の現実がそのまま使える。雇い主がカイケー伯爵家ではなくヘルツァーエ公爵家、トップが坊ちゃんではなくアトーデ公爵令嬢という点だけ押さえておけばいい」


 つまりなんですか? 筋書き通りに話が進んだ場合、私は悪役令嬢に弱みを握られたと思い込まされるんだけど、実は弱みを握っているのはオーレイだと、そうなる予定だったんですか。


 もしそうなったとしたら次の展開はどうなるんだろうか。

 多分私は学園でヒロインちゃん(会ったことないけどきっといる)と王太子をくっつけるための陰謀に使われるんだ。こんな風に……


――――――――――――――――――――――――――――――

オーレイの手下: 私は悪役令嬢の部下です(偽だけど)。例の映像を曝されたくなければヒロインちゃんを虐めなさい。

私: ……ハイ、ワカリマシタ……


ヒロインちゃん: きゃあっ! 私の教科書が刳(く)り貫(ぬ)かれて中にイモムシが!! 酷いですぅ……


オーレイ: 例の映像は取り返してあげましたよ。虐めについて証言してくれますね?

私: 有難うございますオーレイ様! 御恩は一生忘れません! 証言ですか? 勿論です!!


王太子: 悪役令嬢ッ! キサマとの婚約を破棄するッ! ついでに国外追放だッ!!

オーレイ: 婚約破棄の理由はヒロインちゃんへの虐めです。

私: 悪役令嬢の命令でヒロインちゃんを虐めました。弱みを握られていて逆らえなかったのです。

悪役令嬢: 私は何もしていませんわ! ああっ、何をなさるのです。放してくださいまし! 話を聞いてくださいまし!!

ヒロインちゃん: 殿下ぁ、助けてくださって有難うございますぅ!

――――――――――――――――――――――――――――――


 こうして悪役令嬢は婚約破棄され、ヒロインちゃんは王太子と結ばれる。もしかしたら逆ハールートでオーレイとも結ばれるかもしれない。虐めさせた張本人だというのに。

 しかもオーレイはエーコ家を手に入れるのだ。それも嵌められて恨んでいる状態ではなく助けられて感謝している状態でだ。

 酷いマッチポンプだ。

 暗躍しているのがヒロインちゃん自身ではなく攻略対象ポジ(陰険メガネ枠――メガネはしてないけど)だろうオーレイなのとか色々ディテールは違うけど、大筋ではネット小説でよく見た展開だ。

 この場合悪役令嬢は無実だからざまぁ展開になるかもしれない。そしたら証言した私は悪役令嬢に恨まれてオーレイをざまぁするついでに酷い目にあわされてしまうだろう。


 本当に危ない所だった。

 罠の可能性を指摘してくれたリースには感謝を。そしてオーレイは……きっとざまぁしてやる。


 悪役令嬢は罪を擦(なす)り付けられそうになった被害者、そしてオーレイの真のターゲットはそっちだろう。色々タイミングが怪しかったのはオーレイの仕込み。悪役令嬢本人は悪意のないただの歴女……かも知れない。よく分からないな。

 思い返してみれば今年の新年パーティーでは悪役令嬢は王太子に話しかけもせずぼーっとしてた。今から思えば義務だから仕方なく来ている感じだった。去年はどうだったっけ。昔は一生懸命コミュニケーションを取ろうとしてたはずだけど、もう諦めたんだろうな。つまり私を罠にかける理由はなさそうだ。

 敵対派閥だってことでちょっと色眼鏡で見過ぎていたかも。派閥争いは嫌いだと思っていたはずなのにいつの間にか思考回路が派閥争いに毒されてしまっていたみたいだ。マズいね、反省しないと。




 その後も立ち聞きを続けたけど、演技論が白熱してきて延々とそればかり話し続け、結局目新しい情報は何も出て来なかった。君達密偵なんてやってないで劇団でも立ち上げたらいいと思うよ?


 帰り際、母屋を霊視で確認してオーレイがいるのを確認した。やっぱりここはカイケー伯爵家の屋敷だったようだ。


漸く立ち聞きが終わりました。次回、反撃に出ます。

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― 新着の感想 ―
[一言] やっぱりアトーデさまはただの歴史オタクだったんですね……! よかった。
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