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ん? 坊ちゃん?

感想・評価・ブックマーク有難うございます。

 立ち聞きを続けていると別の人物が入ってきた。別の監視チームの人だ。

「おう、もう戻っていたんだな。お疲れ。

 それでよ、お前らが出ている間に決まったんだが、オーギュストさんやっぱり首だってよ」

「ああ、やっぱりそうなったか」

「え? オーギュストさんってF班の班長さんですよね。何かやらかしたんですか?」

「やらかしたっていうか、任務に失敗したんだよ。ほら、あの子の兄のブラインとその妻のクララが出奔しただろ? その身柄をF班を筆頭に合計四班で確保するはずだったんだが、しくじった。それの総指揮がオーギュストだったんだ」


 お兄様達を捕まえるつもりだった!? なんてこと! でも失敗ってことは上手く逃げられたんだね。


「たった二人相手にそれだけ動員して失敗したんですか?」

「従者も一人いたから三人な。馬車で西に行くつもりっていうところまでは掴んでたから待ち伏せ班と尾行班に分かれて挟み撃ちにする計画だったんだが、まんまと逃げられた。想定外の魔法を使われてな」

「想定外の魔法?」

「『魔力体』だ。獣人が得意なやつだな。それを使えるって情報が全くなかったんでよ、してやられたそうだ」


 魔法の分類としての『魔力体』もあるけど、魔力体魔法というのもある。獣人の国ジョアンナ女王国で生まれた魔法だ。魔法で馬だの牛だのを作り、動かす魔法。

 そう言うと私が魔力でやっているのと大して変わらないように聞こえるけど、実は原理からして全くの別物だ。

 まず魔力体は必ず実体があり、重さもあり、目に見える。重さはある程度自由に設定できるし色も柔らかさも変更可能だ。一方私の魔力には重さはないし、見えるようにするとカチカチになるし色彩もない。透明か完全な鏡、もしくはその中間しか出来ない。

 もちろん同じ部分もある。自在に使いこなすためにはひたすら訓練し無意識レベルで動かせるようにする必要がある所なんかは同じだ。

 でも魔力体魔法は不思議な事に使い続けていると形や動き方が変え難くなっていき、最終的に独立した一個の生き物のようになっていくらしい。だからちゃんと『育て』ないとムーンフォークでしか歩けないクマとかそういう微妙な感じのものになってしまうんだとか。私の魔力はいくら訓練しても一向にそうなる気配はないからそこも違うんだろう。


「どんな魔力体だったんですか?」

「鳥だってよ。頭が二つあるでっかい鳥だったそうだ。それが標的を馬車ごと掴んで飛び去ったんだ。街道から直角に、南に向かってな」

「へえ、空飛ぶ魔力体と言えば獣人でも滅多に使い手がいない、難しい魔法って話ですよね。それが出て来たってことは実はジョアンナ女王国あたりが支援しているんですかね。南と言えば女王国の方角ですし」

「さあな。変調放射から見て魔力体は馬車の中から出したらしい。中に居たのはブラインとクララだけのはずだが街道でこっそり別の魔法使いと合流した可能性もあるしその辺りは分からん。飛び去った方角だって誤誘導かも知れん」

 

 多分だけど鳥の魔力体はお兄様のじゃないかな。あんまり他人に頼ろうとする人じゃないし。天才って訳じゃないけど努力を惜しまない人から難しい魔法だろうと最終的には身に着けちゃいそうだし。

 ホエルワ様も手助けできないって言ってたし女王国の支援はないはず。個人的に魔法の練習に付き合うぐらいはしたのかもしれないけど。

 魔力体を使えるなんて知らなかったけどその辺は隠してたんだろう。こういう時に備えて。


 そして魔力体と私の魔力の大きな違いをもう一つ思い出した。魔力体を出すと魔法使いからは当然変調放射が出るけど、魔力体自体も結構な魔力を放つのだ。両方とも遠くからでもそれなりに目立つから隠密行動にはあまり向かない。

 そもそもなんだって双頭の巨鳥なんて形の魔力体を使おうと思ったんだろう。魔力体は育ち切ると形が決まってしまう。つまりお兄様は双頭の巨鳥を使い続ける事になる。だけどその形は余りにも目立ち過ぎる。すぐ噂になって見つかってしまうんじゃないだろうか。


「距離があったんで撃ち落としにも失敗してな、見失ってしまったんだ。それで標的が立ち寄りそうなところに網を張ってたんだが全く引っ掛からず、完全に取り逃したんたそうだ」


 どうやら上手く隠れられたらしい。きっと人里離れた場所に降りて馬車の移動に切り替えたんだろう。それともまだ山の中や森の中に潜伏しているか。ともかく一安心だ。


「こっちは空を飛べませんから仕方ありませんよね。でもそれ誰のミスかと言えば現場の指揮官じゃなくて事前に魔力体の情報を掴めなかった情報担当ですよね」

「個人的には俺もその通りだと思うんだが坊ちゃんが現場指揮官の所為だって判断したんだ。『想定外(アクシデント)に的確に対応できない指揮官(コマンダー)は要らない』ってよ」


 ん? 坊ちゃん? 悪役令嬢の兄弟と言えば弟だけで、その弟はまだ10才にもなっていないはず。この組織はそんな子供が指揮を執っているの? そんなに天才なんだろうか。それとも転生者?


「想定外に対応って言っても限度があるでしょうに。それでクビって酷くないですか」

「あ~俺もそう思った。無茶苦茶だぜ、そんな理由でクビにするなんてよ。俺なんか駆け出しの頃はあの人によく面倒見てもらってたんだ。切ないぜ」

「クビと言っても部隊から外れて伯爵閣下預かりになるだけだ。心配するな。最終的には伯爵閣下が判断することだからな」

「そうはいっても坊ちゃんは未来の伯爵様じゃないですか。こうも気軽に人を切る方がトップに来るかと思うと将来が不安です」

「そう気に病むな。どうせ成るようにしか成らん」


 伯爵? ここって伯爵家? 悪役令嬢のヘルツァーエ公爵家じゃないの?


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