怪しい手紙
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新年パーティーから何日か経った頃、怪しい手紙を受け取った。
例によっておばちゃんの屋台でホットチョコレートを頂いている時、小さな女の子が持ってきたのだ。
アリスが受け取り誰からか聞くも「知らないおじさん」としかわからない。飴玉一つで請け負ったらしい。なんてありがちなパターン。
差出人は書いてない。
ボブが開封して手紙を調べ、おかしな仕込みがないか確認した後私に手渡す。
見ると古風な言い回しでこんなことが書いてあった。
『汝の秘密は我等の知る所となれり』
秘密がバレた!? どれがバレたんだろう。夜中に出かけている事? 光学迷彩? まさかリースの霊廟に出入りしている事!?
監視の人たちが何の反応もしてなかったから油断してた。どうしよう。
手紙にはその他に今日の真夜中に指定した場所に一人で来いとだけ書いてあった。バラされたくなければ来いという事だろう。
本音を言えばパスしたい。でも行かなかったら何されるか分からないし何がバレたのか分からないと不安だ。だから行かないという選択肢は無い。無いのだけど。ああ気が重い。
場所は問題ない。うちの屋敷と同じ坊(区画)の分かりやすい場所なので例え私が普通の12才だったとしても問題なくたどり着けるだろう。問題は……
「お嬢、行くっすか?」
ボブが聞いてくる。
「行きませんよ。何のことだか分からないし差出人も分からない。取り合う必要はないでしょう」
取り敢えずそう答える。そう答えるしかない。一人で出かけるなんて許されるはずがないからね。実際には行くんだけど。
手紙はこれ以上誰にも読まれないように処分してしまおう。魔法で加熱し炭化させる。燃やしても良かったんだけどここは道の真ん中、炎が出たら迷惑だからね。魔力で覆って酸素が供給されないようにすれば炎を出さずに炭にすることが出来るのだ……ってこれも私の魔力が前提の特殊な魔法! 普通の魔法でも似たようなことは出来るけど魔力の動きやら変調放射やらが全然違う。見る人が見れば一目瞭然で異常だと分かってしまう。
うう、こういうのを見られてしまったのかも……
深夜。
屋敷の警戒は普段通りのようだ。だれもお父様達に報告はしなかったらしい。
指定の時間より早めに指定の場所、その上空に向かう。魔力感知と光学迷彩のお陰で監視の人たちを含め誰にも気づかれなかったはず。
呼び出されたのは私たちの住む坊の北西の外れにある古い屋敷だ。坊は全体が高い壁に囲まれているのだけど、その屋敷は北側の壁のすぐ傍にあるためとても日当たりが悪い。(南半球なので影は南側に出来るのだ) その所為か昔から空き家なんだそうだ。
光学迷彩を解除し魔力の紙飛行機でぐるぐる旋回しながら魔力感知と霊視で様子を探る。
ちなみに今の服装は生成りのワンピースの上にこげ茶のフード付きローブ。スカートだけど下から覗かれる心配はない。なぜなら紙飛行機に黒いコートを敷いてその上に座っているからだ。紙飛行機は透明だけど万一見られてもコートが見えるだけ、そもそも黒いから夜空に紛れて気付かれさえしないかもしれない。
屋敷に居るのは九人。全員玄関近くにいるようだ。その内四人の魂には視覚えがある。監視者の内の昨日来ていたチームだ。これで呼び出しを掛けたのが私を監視している勢力だと確定した。まあそりゃそうだろう。特に驚きはない。
一旦自分の屋敷に戻る。
呼び出したのが監視と無関係ならそのまま行くのも手だけど今回はそうじゃない。監視を出し抜けることはバレない方がいい。
だからわざと監視に見られるルートで屋敷を抜け出す。勿論光学迷彩を使わず歩いて移動だ。とは言え雪がちょっと積もっている。普通に歩くと離れから敷地を囲う塀まで足跡が付いてしまう。
久しぶりに魔力の紙飛行機だのかんじきだのを使わずに移動だ。離れのドアの所から塀の上までジャンプ、そしてそのまま向こう側に飛び降りる。外側の雪は轍や足跡で既にぐちゃぐちゃなので気を使わなくても大丈夫そうだ。
その後は立ち並ぶ屋敷の塀伝いにコソコソ移動する。監視の人たちは上手く隠れていて目には見えないけどしっかりついて来てるようだ。
空き屋敷に着くと門が開いていた。
中を覗いてみる。灯りは一切ついていない。
門からは20m程入った所、前庭を挟んだ玄関の前で新顔の五人が待ち構えている。全員黒のフード付きローブですっぽり体を覆っている。
最初からいた方の監視チームは前庭の端や屋敷内に潜んでいて姿が見えない。尤も魂はバッチリ見えてるから居場所は分かるんだけど。私を付けて来た方のチームは屋敷に入らず周囲を監視するようだ。
いよいよ相手とご対面だ。
こんな時間に呼び出す相手。きっと脅迫とか誘拐とかを企んでいるんだろう。そんな相手から何を知っているのかを聞きださなければならないのだ。場合によっては捕まったふりをして相手のアジトに乗り込むとかそういう事が必要になるかもしれない。
いけない、心臓がバクバクしてきた。
こういう時は深呼吸だ。深呼吸して気分を落ち着かせるのだ。
すー、はー、すー、はー。
うん、覚悟完了とはいかないけど多少はましになった。
剛体は発動しっぱなしだ。魔力もきっちり纏っている。不意打ちされても大丈夫なはず。
念のためもう一度暗視、霊視、魔力感知を総動員して周囲を調べる。おかしな点は……あれ、魔力が流れている。地下の送魔線から玄関先の庇と玄関ホールの天井に流れている。魔導具が動いているんだ。何の魔導具かは分からないけど消費量が多めだ。単なる灯りなんかでは説明できない程だ。そもそも玄関先に灯りなんかついてないし。
よからぬ仕掛けがあるのかもしれない。いっそのこと魔力を止めてしまおう。
無回転状態にした自分の魔力を地面の下から魔力の流れへと伸ばしていく。回転状態だと物質だの光だのに干渉できるんだけど、逆に無回転状態にすると大抵の物を素通りして伸ばすことが出来るのだ。
遠くで鐘が鳴り始めた。日付が変わったことを知らせる深更の鐘。約束の時間だ。
もう行かなければならない。とっとと終えないと。少し強引だけど魔力の流れに自分の魔力を突っ込み、その部分だけを回転状態にして流れを塞き止めておく。これで魔導具への魔力の供給は止まったはず。
準備完了だ。被っていたフードを跳ね上げ背筋を伸ばし、鐘が鳴り終わる前に門をくぐって前庭に積もった雪に足を踏み出した。
黒フードの五人は私の姿を認めると……
一斉に跪いた。
……あれぇ?




