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兄をご存じなのですか?

感想・評価・ブックマーク有難うございます。

 年が明け、例年通り王宮で新年パーティーが開催された。


 国王陛下は相変わらず顔色が悪く王妃殿下に付き添われているよう。王太子はいつもの通り悪役令嬢に興味なさげで、悪役令嬢の方はもう諦めたのか笑顔を張り付けて佇んでいる。残念ながら天使な第二王子殿下はまだ幼いので出席していない。


 何時ものように最初は挨拶回りだ。

 国王陛下の所へは行かない。この国では慣例として伯爵家以上しか行かないことになっているのだ。その昔、国土が今の何倍もあって今よりもっと大勢の貴族がいた時代に出来た決まりなんだそうだ。王太子や悪役令嬢と距離を置きたい私としては有難い。

 うちが挨拶に行くのは侯爵家以下の親交の深い家や世話になっている家等、要するに第二王子派の身内だけだ。

 ここまでは毎年の流れだ。

 今年も大勢の人に会った。毎年会う人たちだ。だけど誰もお兄様達の話をしない。お父様はお姉様を跡継ぎ候補として紹介して回っていた。こちらもお兄様の事はまるで口にしない。

 まるでお兄様なんて最初から居なかったかのようだ。

 それがたまらなく嫌で軽食コーナーに避難した。


 始まってからまだあまり時間が経っていないせいか私が一番乗りのようだ。会場がやたらと広いため軽食コーナーの周りも無駄に広く、そこにポツンと一人やってきた私は妙に目立っている気がする。

 ユージン君辺りが来ないかと思って見まわしたけど居ないようだ。考えてみれば彼はビータ家の跡取りのはずだから簡単には抜け出せないのだろう。

 あ、オーレイと目が合った。なんか腹に一物ありそうな妙な視線を送ってきているので視線を逸らし、そそくさと料理の前に移動する。どうか絡まれませんように!


 給仕の人にザッハトルテっぽいケーキを取り分けてもらっていると他の人が来た。

「その泥の塊みたいなの、美味いの~?」

 泥って……そんなに酷い見た目じゃないと思うんだけど。言われて振り向くと白い犬の顔があった。獣人だ。珍しい。

 この国の貴族は全員が普人、つまり前世の人間と同じ見た目の人達だ。獣人は一人も居ないので今まで新年パーティーで獣人に会ったことは無い。だからこの人は国外からのお客様ということになる。

 年齢はよく分からない。ネット小説に出てくるコボルトのような外見。顔が犬なので子供か大人かすら分からない。身長は私達普人基準なら十才くらいだけど獣人の場合種族によって千差万別だから手がかりにならない。服装は前世で見たモンゴルの民族衣装みたいな感じ。紺地にきれいな刺繍が沢山入っている豪華な物だ。

 そう言えば聞いたことがある。獣人の国ジョアンナ女王国からきた留学生が魔法学園の一年にいると。その人は王族で白狼獣人。つまり目の前の……

「食べ物になんて例えを使うのよこのスカタン!!」

 突然駆け寄ってきた別の獣人が話しかけて来た方を張り倒した。同じ白狼獣人だ。体格は一人目と同じぐらいでよく似た服装。但しこちらは赤い生地だ。

「なにするんだよ~姉ちゃん」

「『なにするんだよ~』じゃないわよ! あ、ごめんなさいね。弟も悪気があった訳じゃないの。あとでしっかりしつけておくから許してね。

 あたしはジョアンナ女王国、コノワンコ家のホエルワ。こっちは弟のカガミーミル。お名前を伺ってもいいかしら?」

 コノワンコ家といえば王家。やっぱり王族だったようだ。ケーキを給仕に一旦返しつつ淑女の礼を執って答える。

「エーコ家のフレンと申します。お目に掛かれて光栄に存じます」

「はいよろしく。エーコ家ってことはブラインの妹さん?」

「はい。ブラインは私の兄です。兄をご存じなのですか?」

「クラスメートだったのよ、魔法学園でね。そこそこ仲が良かったのよ。聞いたことない?」

 クラスメートってことは今16~17才ぐらいってことか。見た目ではさっぱり分からなかった。

「申し訳ありません。生憎兄は魔法学園の話は殆どしてくれなかったもので……」

「まあそういうヤツよね。特に三年になってからは学園の話は一切しないように気を付けてるって言ってたっけ。迂闊に口を滑らせて家を出る事を漏らさないように……ってそう言えばこれ口止めされてたんだよね。でももう決行後だしいいよね」

 家を出る事を教えておけるような友達も居たんだ。なんかちょっと安心した。

 ホエルワ様は学園での兄様の様子を教えてくれた。はっきりとは口にしなかったけどお兄様がこれからどうするつもりかも知っているみたいだ。

「さすがにあたしにも立場ってものがあるから助太刀は出来ないんだけどね。もちろん友達だから遊びに来たら泊めてやるぐらいはするけど、友達だから巻き込まないように気を使って来ないんだろうなあ、全部終わるまで」

「ホエルワ様は兄の……ええと、しようとしている事には反対ではないんですか」

「反対どころか。あたしらの国ではブラインやクララみたいに突っ走るのが当たり前。大きな声じゃ言えないけど陰ながら応援してるわよ」

 どうも大分荒っぽいお国柄らしい。


 それからホエルワ様と色々話をした。

 それとなくお兄様の計画を聞き出そうともしたけどガードが固くて上手く行かなかった。さっき口を滑らせたのはわざとだったみたいだ。

 それでも、それを差し引いてもお兄様の話が出来て嬉しかった。

 なお、弟のカガミーミル先輩(同い年だけど現在学園の一年だそうだ)は私達の方を一切気にすることなくチョコケーキを黙々と食べていた。謎のポージングをしながら……チョコが気に入ったってことかな?

 あれ? 犬にチョコって駄目だったよね。獣人ってどうなんだろう。種族の違いで食べられないものがあるなんて聞いたことないしプロの給仕が止めないところを見ると問題ないのかな。

「食べられるものに獣人も普人もないわよ」

 そうですか、一安心です。


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