寄り道
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さて、そろそろ屋敷に戻るタイミングなのだけど、今日はちょっとだけ寄り道しようと思う。
目的地は川の対岸、『Z』の領域である石樹の森だ。
あの廃村の謎の誰かの依頼を果たすべく夕食前に書庫で古地図を調べたのだ。そうしたら割合簡単に「リョーザン」という地名、つまり挿し木を最終的に植えるべき場所は見つかった。しかし現在の地図と突き合わせてみた所、そこは既に石樹の森に飲み込まれてしまっていると分かったのだ。石樹の森の中では通常の動植物は生存不能。つまり石樹の森を何とかしなければ依頼達成は不可能だ。
今の所石樹の森をどうこうできる見通しは無いんだけど、一先ず実際の様子を感じてみたい。
もちろん上空を飛ぶだけにするつもり。
実は空を飛べるようになってから一度も石樹の森の上を飛んだことがない。
用がなかったというのもあるけど、見られてしまう危険があるからだ。森と川を挟んだこちら側には一定間隔で魔法騎士団の砦があり、昼夜問わず石樹の森を見張っている。砦と砦の間はしょっちゅう巡回部隊が行ったり来たりしている。そんな状態では上空を飛んでいようと見られてしまう可能性が高いのだ。
今なら光学迷彩を使うという選択肢もある。でもあれは視界や魔力を感知できる方向が狭まってしまうからこんな場合にはあまり使いたくない。
幸い今夜は雪。視界が非常に悪い。おまけに風の音もすごい。こういうコンディションなら見つかってしまう可能性は限りなく低い。魔法でも使わない限りばれないだろう。
勿論私も肉眼では何も見えないだろうけど、魔力感知でどんな感じなのかを知ることは出来るだろう。
強い向い風なので森の上は飛ばず森の中を移動して川に近づく。
あれ、こんな天候なのに魔法騎士団の巡回が出てる。ご苦労様です。
騎士団の人達から離れた場所で川に出てそのままジャンプ!
踏切音を聞かれてしまったのか騎士団の人達の動きが止まったけど見えてないはずだしまあ大丈夫だろう。
問題は行先だ。
現在私はジャンプしたときの勢いだけで飛んでいる。
紙飛行機は展開していない。向い風が強くて押し戻されそうだからだ。
変に風を受けると押し戻されたり失速したりしそうなので卵のように丸まった体勢をとった。そのまま山なりの軌道を描く。
この分なら川を越え岸辺も飛びすぎ石樹の森の上空で頂点に達するはず。その後は森のさらに奥へと自由落下していくだろう。
もちろんほどほどの所で魔力の紙飛行機を出すつもり。そうすれば風が勝手に送り返してくれるので楽ちんだ。
川を越えたところで空気が変わったのがはっきりわかった。
何というか薄い。周囲の魔素が感じられなくなっている。魔素は風に吹き散らされるようなものではないから普段からこんな感じなのだろう。石樹は魔法を吸収するというけど魔素も吸い取っているのかもしれない。
真下は真っ暗。視覚的にもだけど、魔法的にも真っ暗だ。魔力が微塵も感じられない。『Z』を見た時と同じだ。それが見渡す限り広がっている。きっとネコジャラシ一本生えていないんだろう。
しかしこれでは下がどうなっているのかさっぱり分からない。
あの真っ暗な中に『Z』がぎっしり詰まっていたらどうしよう。
ちょっとイヤな想像をしてしまった。よし、魔力探知を使ってみよう。なにか分かるかもしれない。盛大に使うと問題ありそうだけどちょっとだけやってみよう。
範囲を絞って一瞬だけ魔力を放ち反射を感じとる。
まだらに地面がある。良かった、少なくとも『Z』がすし詰めになっている訳ではないみたいだ。
地面以外の所は魔力が全く反射してこない。きっと石樹だ。枝が魔力を吸い取っているんだ。だから枝の隙間からしか地面が見えないんだろう。
『Z』はいるのかな。『Z』も魔力を反射しないだろうからちょっと分からないな。
そろそろ下に落ちそうだから引き返そうと魔力の紙飛行機を出したところで気付いた。
いつの間にか風向きが変わってる! 横風になってる!
横風に煽られてしまいバランスを崩してしまった。お、落ちる―――!!
ベキバキボキッ!! ドシーン!!
物凄い音がして地面に叩きつけられた。




