転生後の初入浴
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王家御一行を見送り街道を逆に進んで屋敷に帰ってきた。随分久しぶりだ。
まず持ち帰った植木鉢を離れの外側に置く。中には日光が入らないからね。夜になったら寒いから中に取り込もう。
十本の枝の内五本は完全に枯れ、四本は少し萎れている。元気なのは一本だけだ。頑張れ。
夕飯を済ませ離れに戻る頃には日はもう夜更け。
昼過ぎに降り出したみぞれ混じりの雨は夜になっても降りやむどころかべっとりとした雪に変わっていた。
急いで植木鉢を取り込む。
風も強くなってきたのでちょっとした吹雪だ。勿論視界もほぼゼロ。
こんな晩に出歩くのは自殺行為。私も普段は出かけないのだけど今日はクマオの所に行くことにした。
王太子達の嫌がらせでストレスが溜まりまくっているのだ。昼間両親相手に散々愚痴ったのだけど全然足りないのだ。
幸い私の魔力纏いは完全防水の上に保温も完璧。魔力かんじきで歩行にも問題は無いし視界だって魔力感知で大丈夫。
手早くいつもの赤ずきんちゃんスタイルになって離れを抜け出した。
「グウォアァァ(そんな奴らに食いもんをやるなよ)」
そう言ったのはホカホカの湯気を纏っているクマオ。
「クォグクゥオ(イヤだけど仕方ないの)」
答えるのはだらしなく座り込んで肩までお湯につかっている私。
「グウォウ……(メンドくさいんだな……)」
私たちは何故か一緒にお風呂に入っている。
転生後の初入浴はクマと一緒でした。
とはいっても服は着たまま、纏った魔力を調節して濡れずに温度だけを感じられるようにしている。
クマオは探すまでもなくすぐに見つかった。魔法を使っていたからだ。
クマオに限らずクマ姐さん達冬場はよく魔法を使う。体を温めるためだ。それも火を焚いたりするのではなく自分の体の周りを直接温めるのだ。雨や雪の時なんかは体から湯気が上がっていたりしてちょっと面白い。
ちなみに似たような魔法は人間も使う。今日も街道で雨に降られたとき護衛の領兵さん達が皆で湯気を上げていた。きっと王家を守る近衛騎士の皆さんも湯気を上げながら次の町に向かっていたに違いない。結構ポピュラーかつ重要な魔法なのだ。因みに名前は温熱魔法。分類は放出魔法だ。
クマオも普段は湯気を纏っている程度なのだけど今日は違った。
私が会いに行くと突然穴を掘り始め、雪を詰め込み溶かしてお風呂にしてしまったのだ。
もしかして気遣われた? そんなに顔に出てた?
なんにせよ今生初めてのお風呂。有難くいただくことにした。クマオの前で脱ぐのもどうかと思うので服は着たままだ。元日本人としてはちょっと抵抗があるけどしょうがない。
お風呂の熱源はクマオ自身だ。普段より体を熱くしているのか流れ出す魔力の量が多い。吹き付ける雪も当たる端から湯気に変わっていく。
おかげでお湯はすぐに適温になった。
掘ったばかりの穴にぬかるみに降った雪を入れて作ったお風呂。水は不透明で強い土のにおいがするけどそれもワイルドで良い。どうせ体を洗う訳じゃないんだし。何より気持ちが嬉しい。
私は肩まで、体格の違いからクマオは腰だけ浸かってしばしリラックス。
そしてクマオに愚痴を聞いてもらったのだ。
しかしクマオはどうやって風呂なんて考え付いたんだろう。
もしかして転生者? 日本人の転生者の70%はお風呂や温泉にこだわる(当社調べ)みたいだけど、人外転生の日本人ですか?
「転生者」なんて概念をクマ語でどう言えばいいか分からなかったから取り敢えずどうやって思いついたか聞いてみた。
「グウォォグウ(前に自分で言っていただろう)」
そういえばお風呂について話したことがあるような気もする。じゃあそれを覚えていて!?
おおう、それは嬉しい。ちょっとクラっと来た。顔も熱い。これは……
あ、ホントにクラクラする。のぼせちゃったみたいだ。そんなオチかっ……ってちょっとマズいかも。
転がるように湯から出て体を冷やす。冷たい地面が気持ちいい。
ゴメン、クマオが悪いわけじゃないの。今の体がお風呂に慣れていないせい。だから心配しないで。
自責の念に駆られてオロオロしているクマオを落ち着かせ、感謝の気持ちを伝えるのに結構時間がかかった。
でもそうこうしているうちに王太子達にネチネチやられた嫌な気分はどこかへと消え去ったのだった。




