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長居する場所じゃない

評価・ブックマーク有難うございます。

 慌てて体を起こす。

 目を凝らしても何も見えない。真の闇だ。暗視も役に立たない。

 感覚を研ぎ澄ましても魔力が感じられない。魔素もない。

 耳に神経を集中。自分の呼吸音と心臓の音がうるさい。あとは……風の音だろうか。それ以外には何も聞こえない。


 やってしまった。

 ここは『Z』の領域のど真ん中。何も見えないし感じないからどうなっているのか分からない。しかも転げてしまったから方向すら分からない。


 取り敢えず少し離れた所に小光球の魔法を発動する。

 魔法は『Z』を呼び寄せてしまう危険があるけど何も見えない、感じないのは耐えられない。


 小光球が辺りを照らし、ようやく辺りを見渡せるようになった。

 どちらを向いても白い枯れ木のような石樹。下から照らされた眺めは本当に不気味だ。地面には雪。その他には本当に何もない。森はどこまでも続いているんだろうけど降る雪のせいで遠くは見えない。


 『Z』もいない。動くものは一切無い。


 もしこれがネット小説で私が主人公だったなら、こういう場面では謎の美形が現れて「何故こんなところに人の子が?」なんて発言をしつつ世界の秘密の一端を明かしてくれたりするのだろう。

 でも私は主人公って柄じゃないし現実はそう都合よくはいかない。

 まあ何にせよ何もいないならすぐに襲われることはなさそうだ。


 と思ったら石樹の根元から腕が出て来た! 続いて頭や胴体が出てくる。

 『Z』だ! 地面に埋まっていたんだ!!

 周り中の石樹の根元から『Z』うぞうぞが這い出して来る。

 そのまま集(たか)られる!……と思ったらは私の事はスルーして小光球に群がっていく。


「うひゃあ!!」

 目の前の地面からも『Z』が出て来たので思わず悲鳴と共に蹴りを入れてしまった。

 千切れた『Z』の上半身が他の『Z』を巻き込みながら飛んでいいく。『Z』たちは慌てるでもなく再生が終わるまでじっとしている。なんかバラバラになった分だけ数が増えてる気がする。

 足元の『Z』もゆっくり上半身を再生すると立ち上がって歩き出した。

 やっぱり私には目もくれず小光球の方へ。


 小光球の下には『Z』がうぞうぞと集まっていてかなりおぞましい。どの個体も光に向かって手を伸ばしている。

 やがて届かないと分かったのか自分の腕や頭を引き千切って投げつけ始めた。


 やっぱり『Z』は魔力に寄っていくみたいだ。私は魔力を出さない体質だから『Z』も無視するのだろう。こんな体質でよかった。

 しかしもし普通の人がここに来たらあっと言う間に『Z』に集(たか)られてしまうに違いない。

 何十年か前に一回だけ石樹の森を切り開くのに成功した人達がいたって習ったけど、一体どうやったんだろう。


 腕や頭が次々命中して小光球はあっという間に光を失った。また周囲は闇に沈む。但し今度はすぐそばに『Z』の団体さんがいるのだ。

 『Z』は動きを止めたのか物音一つしない。

 襲われないとは分かっていても気味が悪い。いや、何かの拍子に私に気付いて集られてしまうかもしれないのだ。

 ここは意味もなく長居する場所じゃない。


 取り敢えず離れよう。どっち向きに行けばいいか分からないから取り敢えず全力で垂直ジャンプ!


 ドン!!!


 という大きな音と共に森を飛び出して上空へ。

 上空も真っ暗だ。まだ雪雲の下だろうか、それとも雲の中か。

 魔力纏いと身体強化が優秀過ぎて寒さも感じないし雪や何かがぶつかっていても分からないのだ。

 そこで気付いた。雪雲の上に出れば星空が見えるんじゃないだろうか。空に輝く光道と星が見えればどちらが西か、つまり来た方角が分かる。分かったら魔素が感じられる所まで移動するだけでいいのだ。


 風魔法で作った上昇気流を作る。それを両腕に展開した特大の魔力の翼で受けて上へ、上へ。


 あるところまで来ると急に星空が見えるようになった。雲を抜けたんだ!

 上はもちろん前後左右どちらを向いても煌めく星に埋め尽くされた空。それを眩しいくらいの光道が東西に横切る。

 こんなに夜空が綺麗だと思ったことはなかった。

 いつかリースやクマオ達にも見せてあげたいな。


 もう少し絶景を堪能してたいけどそうも行かないだろう。『Z』の領域で魔法を使い続けるとマズそうだからね。水上歩行をしたとき程じゃないけど風魔法を使ったせいで周囲に魔素が広がっているはず。まだ私の感知能力でもほとんど感知できない程の薄さだけど、濃くなってくるときっと石樹の森を刺激してしまう。


 風魔法を止めよう。横風なのは変わらないけど最初から分かっていれば問題ない。

 魔力の翼による滑空で雲上を西へ。魔素を感じられるところで降下し無事に元の森に戻ることが出来た。


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