同志がいる!
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数日後、改めてビータ家との顔合わせのお茶会が我が家で開かれた。
雪がちらつく中やってきたビータ家の皆さんを暖かい室内へと迎え入れ、席に案内する。
ビータ家から来たのは男爵夫妻、未来のお義姉様であるクララ様、そして転移者かも知れないユージン君の4人だ。王都に来ているのはこの4人だけで、幼い弟とお婆さんが領地に残っているらしい。
こちらも両親、お兄様、お姉様と私の5人全員が出席だ。
全員が席に着くとお茶と食べ物が運ばれてきた。
この国でお茶といえばもちろん温かい紅茶だ。少なくとも紅茶のようなものだ。カフェインがないっぽいけど味も香りも見た目も紅茶っぽいから紅茶なのだろう、多分。
テーブルはあまり距離が離れないように小さめ。白いテーブルクロスが掛けられていて、そこに運ばれてきたのは何故かこの世界に存在する三段トレイだ。それぞれの段にサンドイッチだのケーキだのが乗っている。それが2セット。大人チーム用と子供チーム用らしい。
その他にもスコーンの籠だのクリームの壺だのが所狭しと並べられた。
銘々の前には取り皿やお菓子の乗った小皿、そして空のティーカップが用意されている。
そこにティーポットからお茶が注がれていく。お客様の分はお母様が手ずから、私達の分は執事さん達が注いでいく。絵面は前世のアフタヌーンティーそのものだ。いえ本物は見たことありませんのでイメージだけで言ってますが。
前世のアフタヌーンティーでの正式なマナーなんて知らないけどこの国にはこの国なりのマナーが存在する。三段トレイは下から上へとか結構細かい。マナーは貴族令嬢として叩き込まれているから迷うことは無いんだけどね。
ナイフとフォークが基本だったりする所なんかは前世の西洋のマナーと同じだ。
でも前世と決定的に違う点が一つ。
パン系の食べ物もナイフとフォークで食べなければならないのだ。千切ったりせずナイフで切ってフォークで口に運ばなくてはいけない。
なんでそうなってるんだろう。というか何故前世ではパンだけ手づかみで食べるのがマナーだったんだろう。
よく分からないけど前世の習慣でついサンドイッチやスコーンを手づかみしそうになるんだよね。気を付けないと。
でもこのマナーの違い、転生者や転移者を見分けるのに使えるような気がする。
もしユージン君がスコーンを手づかみで食べるようなら転移者である可能性大。でも手づかみしなくてもこの国のマナーを身に着けた転移者という疑いは残るんだけどね。
よし、お茶会の間きっちり観察しよう。
できればポテチも出して反応を見たかったんだけど、あれはナイフとフォークでは食べづらいのでちゃんとした席には出せなかったのだ。
クララお義姉様はお兄様と同じ14才で魔法学園ではクラスメート。今回の婚約は二人が良い仲になって家に認めてもらったものなんだって。
なんと恋愛結婚ですか。(まだ結婚してないけど)
「どのような馴れ初めだったのですか」
取り敢えず聞いてみる。
「以前マリアに…」
「悪いけどそれは二人だけの秘密なんだ。ゴメンね」
クララお義姉様が話始めたのをお兄様が遮った。何なんだろう。マリアってきっと人名だよね。何者なんだろう。
でもお兄様には聞ける雰囲気じゃないしお義姉様も黙ってしまった。ここは大人しく引きさがっておこう。後で要確認だね。
「そういえばユージン君は何才なの?」
お姉様が露骨に話題を変える。
「はい、10才です」
「じゃあフレンちゃんと同い年ね」
なんか頼りなげで年下っぽい感じだけど同い年だったのか。考えてみれば新年パーティーに参加していた時点で10才以上は確定、年下のはずはなかったんだけどね。
「それで前から気になってたんだけど、なんでレプリカメガネを掛けてるの?」
「目を保護するためです。えと、僕の魔力は特殊でして、近くにある魔導具が時々暴走するんです。そうなると何が起こるか分からないので安全のために掛けてます」
そう言うユージン君の魔力は黄色い。でも所々に黒点のように黒い部分がありゆっくりと動いている。確かにとっても変わっている。
「まあ! フレンちゃんも時々身体強化を暴走させちゃうのよ。ねえフレンちゃん」
「そうなんです。ほんの稀に、ですけどいきなり身体強化が発動してしまって。実は朝起きた時最初にするのはベッドの確認なんです。どこか壊してしまってないかって」
「僕は出来る限り魔導具に近づかないようにしてるんです。でないと危ないので。
いつでもそうなるわけではないんですけど時々魔導具の働きが逆になるんです。灯りの魔導具が光の代わりに闇を放つ程度ならまだいいんですけど、水を流す魔導具が水を逆流させてしまったり、冷蔵庫が真っ赤になって溶け出したりと物によっては大変なことになってしまいます。あと滅多にないんですけど魔導具が爆発してしまうこともあります」
おおう同志だ! 同志がいる!
私とはベクトルが違うけど自分の魔力の質で苦労している点では同じだ。というか向こうの方が生活は不便そう。
でも私と違って結婚は可能なのか、周りに魔導具さえ置かなければ。そうなるとどっちもどっちかな。
まあそれはそれとして闇を放つ灯りの魔導具ってのがちょっと気になる。
闇を放つ!
なんかカッコいいと思ってしまうのはまだ(あるいは既に)中二な心があるためだろうか。
一度見てみたい。でもさすがに頼むのは不謹慎だよね。爆発するかもしれないんだし。
それからユージン君とは結構話が弾んだ。
お互い似たような悩みを抱えているので共感できる部分が大きかったのだ。
あと、ずっと観察していたけどユージン君は一度もパンを手づかみしなかった。やるな。