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10才になった

評価・ブックマーク有難うございます。

 この国の平民は10才になるとみんな神殿で検査を受ける。

 と言ってもジョブやスキルが貰える訳でもステータスカードが発行される訳でもない。この世界にそんなものは無い。

 魔力の質と量を調べるのだ。


 もし魔術に適性ありと認められれば魔法学園に入れる。

 そんな子供は全国でも年に百人居るか居ないか位だそうだけど、その場合学費無料どころか給付金まで付き卒業後は必ず魔法騎士団に入団できる。家を継げない次男以降にとってはチャンスだ。

 一方で付いていけずに中退したり卒業しても魔法騎士団に入らなかったりするとそれまでの学費と給付金の返納を求められる。平民は貴族より2年余計に通って読み書きや計算の基礎から教えてもらえるそうだけど結構リスキーに思える。実際、ボブとトニーはそれで借金を背負ったのだ。

 でも入学資格が得られた人はかなりの割合で魔法学園に行くらしい。行かなかったスージーは少数派なのだ。


 貴族も10才で検査を受けるけどこっちは国の役人が屋敷に来て測定する。実は検査は国の事業なのだ。神殿も国の委託で検査している。検査場所が神殿なのは「どの村にもあるから」らしい。

 受ける検査内容は平民と変わらない。

 一つだけ違うのは貴族は検査結果の如何に係わらず魔法学園に入らなくてはならないということだ。

 魔法学園を卒業しなければ一人前の貴族としては扱われない。爵位も継げないしまともな結婚も出来ない。貴族は魔術師でなくてはならないのだ。この国が魔法王国と呼ばれる所以だ。


 今年10才になった私も検査を受ける。

 ただし検査場所は王都の医学所だ。なにしろ私の魔力は特殊なので普通の器具では測定できないのだ。


 検査の為だけに王都まで往復するのは大変なので晩秋に出発。検査を受けた後そのまま冬を王都で過ごし春先に帰ってくる予定だ。

 この国では貴族は冬王都に集まる。社交のシーズンは冬だ。

 そして10才検査を済ませた貴族の子女は王宮で催される新年パーティーに参加を許される。

 だから今年の冬から私も新年パーティーに参加することになる。

 目標はごく在り来りな目立たない令嬢。結婚相手を探すわけでもなし、私みたいな身体強化暴走癖のある女が目立ってもいい事なんかないからね。チヤホヤもされず、迷惑もかけず、サウイフモノニ ワタシハナリタイ。

 3年前にちょっと何かやったような気もするけどノーカン。みんな忘れてください。テーブルを振り回す人なんて居なかったのです。今年が初参加なのだ。昔の事なんか知らないのだ。


 今は晩秋に入ったところ。移動に二十日ほどかかる事を考えるともうそろそろ出発しなければならない。

 今屋敷に居るのは私とお父様お母様。三人一緒に移動する予定だ。

 お兄様とお姉様は今魔法学園の寮にいる。お兄様は去年、お姉様は今年入学したのだ。魔法学園は王都に近いため二人は直接王都屋敷に向かうことになっている。

 なお、魔法学園は日本と違い秋入学なのでお姉様が出立してからまだ一季(三ヶ月)も経っていない。経っていないのだけどもう2回も手紙のやり取りをした。一往復で最低40日かかることを考えると結構な頻度だ。


 兎も角出発の日はもう直ぐそこ。今はお父様の仕事が片付くのを待っている状態で、それが終わり次第王都へと発つのだ。


「グゥオゥグゥゥゥ(だから春までは会えません)」

「グォッ、グオグォッ(そうか。寂しくなるな)」

 クマオは木の実を口に運ぶ手を止め、こちらを向いてそう答えた。

 私は魔力で作った台の上に立っていて、お陰で座っているクマオと目線が合っている。傍目からは宙に浮いているように見えるだろう。

「グォッグォッグオグォッ(最後にクルミでも食ってけ)」

 指し示された平たい石の上には剥いた上にローストまでされたクルミがいくつも載っていた。

 何故かクマオは木の実をローストしてから食べる。炎で石を加熱してその上で炒るのだ。クマ姐さんがやっている所は見たことがないのでブレイズベアの習性ではなくクマオだけの習慣みたいだ。

「グォッ、グォッ(ありがとう。頂きます)」

 クマオの横に降りてカリッと香ばしいクルミを頂く。

 その横でクマオはドングリなんかをのんびり食べている。クマオは平気で食べてるんだけど私は渋くて食べられないんだよね。前世ではドングリクッキーとかがあったから食べる方法はあるんだろうけど……クマオはそれを知ってからはクルミだけを勧めてくる。

 発情期じゃないクマオはとてもさっぱりしてる。でも戦いたいときはとことん付き合ってくれる、気のいい友達だ。

 発情期に会うとグイグイ来てちょっと困っちゃうんだけどね。

 とにかくクルトさんたちから上手く救出できて本当に良かった。


 クマオとの挨拶を済ませた私は魔力を紙飛行機に変形させ、その場から飛び去った。

 もうクマ姐さんには挨拶を済ませているし、後はオオトカゲ君かな。彼は冬眠するので冬場は会えないんだけど一応ね。




 夜の森を音もなく駆け抜ける。

 最近は隠密行動も大分上手く出来るようになってきた。

 何しろ二年前から時々森の中に人がいるのだ。多分魔法騎士団員が馬車担ぎを探しているのだろう。

 大きな音を立ててしまうと見つかりそうなので、常にこっそり移動することを心がけているのだ。

 空中歩行と滑空を組み合わせて移動する。地面や木に触れるのは必要最低限。どうしても触れなければならない時も軽く、弱く。梟の様に無音とまでは行かないまでもかなり静か、且つ高速に動けている。

 今日も人がいたのだけれど上手く躱してオオトカゲ君にも挨拶する事が出来た。

 オオトカゲ語は分からないんでちゃんと通じたかどうかはいまいち不安だけど。


 そういえばオオトカゲ君の種族ってなんだろう、と思ったので本で調べてみた……「フォレストドラゴン」だって。全長20mの茶色いトカゲにしか見えないんだけど、ドラゴン!? もしかしてブレス吐けるの? でも本にはそんなこと書いていない。じゃあどの辺がドラゴン……目撃例が少なすぎるのでとりあえずドラゴンに分類したと、成程。生態不明だって。オオトカゲ君は実は相当レアな生き物だったらしい。


 驚愕の新事実が判明したが、だからといって何かが変わるわけではない。

 父様の仕事がようやっと片付いたのでそのまま私達は王都へと旅立った。


 今回スージーは留守番だ。身重なので連れて行く訳にはいかないのだ。代わりにアリスが来ている。

 アリスはもう私を不必要に怖がることはなく、スージーと同じぐらいの距離感で接してくれるようになった。馬車に同乗しても緊張で縮こまったりしない。目出度い。

 後はトニーとボブ、輓馬はジーク君という前回と同じメンバーだ。その他にも両親の乗る大型馬車と護衛の人たちもいるんだけどね。


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― 新着の感想 ―
[一言] どちらかというと、「貝になりたい」のでは? 若しくは穴があったら入りたいのかも(笑)
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