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『紅い鳥』

本日二話更新。

こちらは一話目です。

 文芸部が正式な部に昇格してから初の作品集が無事発行された。

 図書館の受付横で絶賛配布中だ。もちろんダダ。


 実は今までもタダで配ってたんだけど、その費用は全額私の持ち出しだった。でも、今回からは違う。生徒会から出る部費が使える。それで全部賄える。

 なにしろ製本は基本的に部員の手作業。印刷所的なものを使う訳じゃない。道具類は生徒会の備品を使えるから、買う必要があるのは紙と製本用のノリだけ。前世と違ってインク代やトナー代もかからない。印刷には転写の魔導具を使うんだけど、魔力で紙に焼き付ける仕組みだからね。自前の魔力で十分。


 これで将来部員が平民ばかりになっても、お金が無くて発行できないなんて事にはならない。というか、今までのイビツなやり方が正常になったって事かな。

 これで文芸部が存続できる基盤が整った。すこし感慨深いものがある。

 不思議なものだ。最初は自然消滅させるつもりだったのにね。今では続いてほしいと願ってる。


 ちなみに作品集にはちゃんとした名前を付けた。部活昇格を記念してだ。

 その名も『紅い鳥』。

 こう日本語に訳すと、なんか近代文学史で習った大正時代の児童文学雑誌と読みが同じになっちゃう。でも、こっちの共通語でつけた名前だから問題なし。

 今後、文芸部が出す作品集はこの名前になる。


 ちなみに『紅い鳥』の『紅』は、私のイメージカラーだそうだ。部員の皆が、初代部長である私にちなんだ名前にしたいと言ってくれたので、そうなった。ちょっとくすぐったい。


 さらに言うと、ターニャは最初『紅いオーグレス』という案を主張してた。悪意のひとかけらも無い感じだったから、純然たる好意からだろう。

 客観的に考えるとその名前、とんでもなくヘンって訳ではない。なにしろこの国でもオーガやオーグレスは架空の存在。ファンタジーの国の住人で、実在しないのです。ええ、実在しません。(これ重要)

 だから、かなりとんがった名前だけど『紅いオーグレス』は文学誌としてヘン過ぎるって訳じゃない。訳じゃないんだけど、全力で拒否させてもらった。そして無難な『紅い鳥』を勝ち取った。いつまでもオーグレスの名前を残しておきたくはないのだ。


 でも、今回はなぜかオーグレス関連の話が多い。


 私達の文芸部はお話を創作する部活。『紅い鳥』のために全員が短編を一話ずつ、人によってはそれ以上を書いてきた。

 現在の部員数は、(文字通り)幽霊部員の彩香を入れても十人。ちなみに全員女子。

 その内の五人がオーグレス譚を書いてきたのだ。内訳は二年生のターニャと、一年生が四人。


 ターニャを始め、オーグレスのベラ・ケイが出てくる「クリス・ゲンジーとベラ・ケイ外伝」を書いたのが四人。

 残りの一人は、完全オリジナルの「笑った赤オーグレス」という話を書いてきた。

 ちなみにその内容、タイトルからサイコホラーかと一瞬身構えたけど、読んでみるとほほえましいメルヘンだった。

 内容は赤オーグレスが、たくさんの障害を全部物理でフンサイして、好きな青オーガと結ばれるというもの。それがほのぼのとしたメルヘンテイストで書かれてた。この国には「泣いた赤オーガ」というどこかで聞いたような童話がある。それを下敷きにしたんだろう。

 個人的には、結ばれた後で青オーガをフンサイしてしまわないかちょっと心配。でも、それを言うのはヤボってものだろう。


 そんな感じで、妙にオーグレス物が多かったのだ。

 特に一年生は六人中四人がオーグレス物を書いた。なんでそんなに偏ってるの?


『ねえ、サイコホラーの“(わら)うオーグレス”というネタを思いついたんだけど、需要あるかな』


 彩香がろくでもない事を言い出した。需要なんてありません。というかやめて。




 そう、彩香はまた、私に憑いてる。


 最近は霊廟に忍び込みやすくなってるのだ。

 周りの建物が撤去されてから、学園警備隊は霊廟から距離を置いて巡回するようになった。そのおかげだ。しかも怪談「赤い目」を気にしてか霊廟の方をしっかり見ないから、見つかる危険はほとんどない。タイミングさえ間違えなければ出入りし放題だ。

 おかげで彩香から原稿をもらったり、リースと三人で演劇の記録映像を観賞したり出来た。そして、また彩香を連れ出せるようにもなったのだ。

 今日はこれから文芸部の集まりがある。それに彩香も(こっそり)参加するのだ。


 代わりにリースがまた一人になってる。本人は平気だと言ってたし、元々三百年間そうだったから大丈夫なんだろうけど、今はちょっとだけ心配だ。

 なにしろ最近ずっと彩香と一緒だったのだ。

 彩香はリースとは性質の違う別の幽霊。しかも霊としては強力な部類らしい。そんな彩香と一緒にいたせいでリースの体質(霊質?)が変わっちゃって、一人が平気じゃなくなってたりしないだろうか。

 とりあえず後で様子を見に行こう。


 ちなみにリースの所にも『紅い鳥』は差し入れてある。学園じゃなくて王宮にある方の霊廟にね。学園の霊廟にはまだ侵入者が来るかもしれないから、あまり物は置きたくないのだ。だからリースへのプレゼントは誰も来ない王宮の方に届ける。以前リースにプレゼントした、私の魔力体ミミの等身大ぬいぐるみもそっちに置いてある。


 彩香の話に戻すと、彼女が今回書いたのは二作品。一つは明らかにリース向けの、少女の幽霊と老人との交流を描いた話。もう一方は異世界転生ものだ。転生先は魔法も魔道具もなくて、代わりに人工的に造った雷の力――それ、明らかに電力だよね――で、いろんな道具を動かしてる。そして舞台は露骨に近未来の日本、サンタ・マー市。いや、たしかにこっちから見れば異世界なんだけど。


 え、私の作品? どこかで見たような追放ざまあですが何か?


『冗談はともかく今回の作品集、フレンがモチーフの人物があちこちに登場しているよね。フレンと私以外の全員の作品に』


 ええーっ! そうなの?


『そうだよ、気づかなかった? まず、オーグレスは言うまでもないでしょう?』


 不本意だけどね。


『あ、ターニャちゃんは二作目にも出しているよね。あのオカルト研究会の会長』


 それは、そんな気がしてた。


『他の人ので一番分かり易いのはサーシャちゃんのかな。女子寮を舞台にした学園もの。あれに出てくる副寮長のエカチェリーナ』


 私、あんな王子様キャラじゃないよ。


『そう? 結構近いと思うけど。後はあの安楽椅子探偵ならぬお風呂探偵のグレーテ叔母さんとか』


 もはやお風呂好き(この国基準で)以外に共通点が見つからないんだけど。


『そんな事ないよ。確かに表面的なキャラ設定は違うけど、言動の端々にフレンっぽさがにじみ出ているよ。例えば無意識に相手から体を離そうとする癖なんか、とってもフレンっぽい』


 あれ、私のクセだったの!?


『うん、そう。他にも色々あったよ。書いた人、よく見ている』


 自分ではよく分からないな。たしかにあれを書いたゾフィーは同じ寮の子だから、そうなのかも知れないけど。

 ちなみにこの国では“ゾフィー”はごく普通の女性名だ。本人も黒っぽい赤髪の、ごく普通の男爵令嬢。ウルトラな長兄とは無関係です、たぶん。


『地球でもドイツ語圏では普通の女性名だよね』


 ふーん、そうだったんだ。


『あと一人のはちょっと分かり難いけど、たぶん森の中を冒険する話に出て来た魔人だね。見た目は怖いけど実は親切な所でフレンを表現しているんだと思う』


 ええっ、あの西遊記の沙悟浄的な魔人が、私!?


『ええっ? 沙悟浄要素なんてほとんど無かったと思うんだけど。共通点なんて、髑髏(どくろ)を連ねた首飾り位でしょう? それだって多分、恐ろしさと巨大さを表現するための小道具じゃない? それに、例の刺股(さすまた)に刃がついたような武器も持ってないし、そもそも河童的な存在でもないし』


 でも泉の中から登場したでしょう? 水から出てきてドクロの首飾りをしてたら、それはもう沙悟浄じゃない?


『そういう解釈かあ、なるほど。私はイソップ物語の“金の斧と銀の斧”を連想したよ。泉にナイフを落とした所で出て来たから』


 あの魔人が泉の女神ポジ? ちょっと違うんじゃない。たしかにナイフを拾ってたけど何のひねりもなくそのまま渡してたし、それにあの人、明らかに男だったよね。


『確かに男性だったけど、イソップ物語でも元々は男神だからね』


 え!? オリジナルは男神なの?

 この国にも“正直な木こり”というそっくりそのままな昔話がある。でもそれは私が日本で聞いたのと同じ女神バージョン。男神版は初耳だ。


『うん、元はたしかヘルメス。オリンポス十二神の』


 うわ、思わぬ名前が出て来た。名もなき泉の女神様が、元々は十二神の一柱だったとは。そんな大物が水中で待機してるの?  オノが落ちてきた時に備えて?


『ううん、イソップ版では若者に化けて通りかかったふりをして、水に潜って金の斧を拾ったり銀の斧を拾ったりって流れだったはずだよ』


 ああ~、それだと少しテンポが悪いよね。だから私の知ってる話だと改変されてるのか、最初から金と銀のオノを持った神様が出てくるように。そのついでに別人(別神?)になっちゃったのかな。


『そう言えば、さっきの沙悟浄で気になったんだけど、こっちにも西遊記ってあるの?』


 いや、聞いた事ないけど……


 そんな話をしてる間に部室(NEW!)に着いた。

 図書館にも程近い、そこそこ便利な場所にある建物。その中の一室だ。しかも結構広い。


 入ると、中ではもう全員揃ってた。


「遅くなってごめん、生徒会の仕事が長引いちゃって」

「いえいえ、そんなに待ってないっす。それであの、アヤカ先輩は……・」


 実はターニャから、出来れば彩香を連れてきてほしいとたのまれてたのだ。彩香は私と二人で初期メンバーだった訳だし、一度でいいから会ってみたいと。


「やっぱり身元を明かせないからダメだって。ゴメンね」

『余計な騒ぎは起こしたくないからね』


 本当は来てるんだけど、それはナイショだ。


「そうっすか。残念っす」


 部員達は、みんな残念そうだ。

 彩香の作品はどれも面白いからね、一度会ってみたかったんだろう。ファンを公言してる子もいるし。


 そして、「視える」子もいなさそうだ。誰も彩香に気付いてない。

 一年生部員の中にはあの霊廟の落成式の時、最後まで残ってた二人もいる。でも霊能力者じゃなくて、単なる好奇心旺盛か、オカルト好きかだったみたいだ。まあ、本人たちにとってもその方がいいだろう。見たくないものまで見えちゃうからね。特に処刑が行われる東大市場の大広場とかで。


 さて、今日はなんの集まりかと言うと、『紅い鳥』刊行記念のお疲れ様会&部長の引き継ぎ式だ。

 もうすぐ前期の授業が終わって冬休みに入る。生徒会執行部や寮の役職は前期の最終日に引き継ぐし、どの部活もだいたいこの時期に世代交代する。それに倣って、うちもそうするのだ。


 打ち上げを兼ねてるので、お菓子や飲み物を持ち寄ることになってて、大きなテーブルの上にはもうそれらが広げられてる。

 私も寮のキッチンを借りて、ゾフィーと一緒にパウンドケーキ(チョコ味)を焼いてきた。それももう並んでる。ゾフィーが先に持ってきてくれてたのだ。

 生徒会から借りてきた錫のコップも並んでる。見た感じ、準備はもう整ってるみたいだ。始まってないのは私を待ってくれてたからだろう。


 さっそくコップに飲み物――薄めたワインにスパイスを加えたもの――を注いで、乾杯。


 そして歓談タイム。

 そのタイミングで気になってたことを聞いてみた。


「彩香がこんなことを言ってたんだけど……」


 そう、全員が私をモデルにした人物を出したんじゃないかって話だ。

 そして、それは正解だった。


「文芸部を一から作り上げた初代部長に何か贈ろうって1、2年のみんなで話したんっす。で、どうせなら文芸部らしくって事で……」


 という経緯らしい。嬉しい事を言ってくれます。感動しちゃうよ。

 ……これでオーグレスを使わなかったら完璧だったんだけど。まあ、それはいいか。今回だけだろうし。


 ターニャによると、できればもう一人の創設メンバーである彩香も出したかったのだそうだ。でもそれは諦めた。正体不明だから。

 却ってそれで良かったかもしれない。幽霊の彩香を出したら強制的に怪談になっちゃうからね。


『失礼な。そこはファンタジーでしょう』


 あ、そういう方向もあるか。そう言えば彩香の作品の幽霊が出てくる方も、ホラーじゃなくてファンタジーだったよね。


『そうそう。それをベースにラブロマンスや青春もの、他にもいろんなジャンルに広げていけるんだよ』


 そんなふうに脳内で彩香を会話をしながらも、部員たちと話をする。

 一年生達とも普通に会話出来てる。入学当初にヘンな噂を聞かされてたらしく、最初はビビッてた子も多かった。でも今ではもう問題ない。

 ちなみに、無意識に体をよけちゃうのは、たしかに私のクセでした。


 そんな感じで和やかに会は進み、最後にターニャ部長とサーシャ副部長の新体制にバトンタッチして、無事お開きとなったのだった。


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― 新着の感想 ―
>完全オリジナルの「笑った赤オーグレス」という話を書いてきた。 >ちなみにその内容、タイトルからサイコホラーかと一瞬身構えたけど、読んでみるとほほえましいメルヘンだった。 >内容は赤オーグレスが、たく…
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